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5話 八歳になる隠し子の魔法の先生

申し訳ありません。投稿する話の順番を間違えてしまいました。このエピソードは5話で、4話は「隠し子は魔法が大好き」でした。修正しましたが、混乱させてしまい重ね重ね申し訳ありません。

 平民の自分に何故淑女教育を施すのか? 帰って来たアルベルトにそう尋ねると、彼はレオディーナの手を取って答えた。

「レオディーナ、それはもちろん君のためだ。君の学力、そして何より魔法があれば、きっと王立学校に入れる」

「王立学校って、王侯貴族しか入学できないんじゃないの?」


「基本的にはそうだ。ただ、試験に受かれば例外的に平民でも入学を許可される。かなりの難関だが」

 女性の就職口が限られるラドグリン王国でも、王立学校を卒業すれば将来は大きく開ける。過去には貴族の家臣に迎えられ代官として領地の管理を任された才女や、騎士団に加わり戦争を勝利に導いた女傑も存在した。


「そんな時に必要になるのが淑女教育。作法や社交界でのマナーだ。どんなに才覚があっても、礼儀知らずは嫌厭されるものだから」

「なるほど」


 その通りだとレオディーナは思った。

 礼儀知らずでも他人に認められる天才やカリスマ性を持つ人もいる。他の何よりも能力を重視し、評価する上司も。だが、レオディーナは自分がそんな天才だと己惚れることは出来なかったし、能力至上主義の上司との出会いに人生を賭ける気もない。


 前世の記憶でも、敬語が使えず挨拶が出来ない者は避けられていた。そんなものだ。


「分かったわ、パパ。他の勉強と同じくらい淑女教育も頑張る!」

 こうしてレオディーナは初日以降も真面目に淑女教育に打ち込んだ。しかし、すぐにまた疑問を抱くことになる。

「お嬢様、奥様、今日は基本に戻って初歩的な刺繍から始めましょう」

 次に決まった家庭教師が、刺繍の先生だったからだ。


(何故に刺繍?)

 真面目に取り組みつつも、疑問が過る。スラムでも刺繍を習っていたレオディーナだったが、それは役立つ技術を身につけるため。自力で布から服を仕立て、古着を修繕して出費を抑えられる。仕事を探す際に選択肢が広がると考えたからだ。

 しかし、王立学校への入学を勧めるアルベルトが同じ理由で彼女に刺繍を習わせるとは考えにくい。それに、刺繍の授業を受ける頻度も職業訓練と評せるほどほど高くない。


 あくまでも習い事、趣味の範疇に収まる程度だ。


(これも淑女教育の一環なのかな?)

 刺繍は良家の奥様や令嬢にとってポピュラーな趣味、貴婦人としての嗜みだ。王立学校にはクラブ活動もあるそうだし、他の生徒との話題作りにも役立つだろう。


(そう言うことなら、習っておいたほうがいいか)

 とりあえず習っておこう。刺繍は必要に駆られて始めた事だけど、嫌いじゃない。ママも楽しそうだし。そう勝手に納得したレオディーナは、刺繍の授業にも打ち込み続けた。


 そして三人目の家庭教師の担当は、待ちに待った魔法だった。

「我が名はバンクレット・ギュスタン。王立学校で学んだ私が、君に魔法の深淵について教えよう!」

 父より若干年上に見えるバンクレットは、見るからに魔法使らしい恰好をしていた。奇妙な杖を携え、フード付きのローブを纏い、印象的な銀細工の装飾品を身に着けている。

 彫りの深い顔立ちや尊大な口調、そして大仰な立ち回りが如何にも腕利きの魔法使いっぽいとレオディーナとナタリーは瞳を輝かせた。


「まず奥方。魔力はあるが魔法は使えない。基礎の基礎からだと伺っているが、相違ないかな?」

「はい、お願いしますね」

 魔力は基本的に遺伝する。祖母もナタリーも魔法は使えなかったが、娘のレオディーナが使えるのだから彼女ほどではないにしろ素質はある可能性が高い。


「お任せください、奥方。

 それで、レオディーナ嬢は既にいくつもの魔法を独学で唱えることが出来ると夫君から聞き及んでいる。君に魔法を享受するためにも、まずは腕前を見せてもらってもいいかね?」


「もちろんです」

 王立学園で学んだプロの魔法使いの目に、全て我流独学の自分の魔法がどう映るのか。レオディーナは緊張と高揚に胸を高鳴らせて、バンクレットに魔法を次々に披露した。


「ほう」

 『灯り』、『虫除け』、『浄水』、『修理』等のスラムでの生活で役立った簡単な魔法。


「ほ、ほほぅ」

 メアリー婆さんに頼んで回復魔法の『ケア』や『消炎』。料理に使っていた『焚火』、防犯に役立つ『施錠』に、結界での『防音』や『目隠し』、『幻覚』。物を動かすのに使っていた『念動』


「なっ……む、むむむっ」

 裏庭の菜園を見せて、この魔法を使いましたと小規模な『大地操作』を実演。作物の栽培にも魔法を一部使っていますと、種を『成長促進』させて見せ実った野イチゴを食べてもらった。


 そうしてレオディーナが魔法を実演して見せるたびに、バンクレットの顔は険しくなり声もどんどん低くなっていく。野イチゴを食べた時だけは、「あ、美味い」と頬を緩ませていた。だが、すぐに苦虫を口いっぱいに頬張ったような顔つきに戻ってしまう。


「ど、どうですか?」

「……今、君に教える魔法はない」

「そ、そんなぁ~っ! 先生、いきなり見捨てないでくださいっ!」

「そうです、先生っ! この子には才能があるんですっ!」


「落ち着きなさいっ! ご婦人っ! レオディーナ嬢に才能があるのは分かっています! ただ、魔道士ギルドの規定でこれ以上教えることが出来ないのだ!」

 ラドグリン王国を含めた複数の国に跨る互助組織、ギルド。彼らは支部が存在する国の法律とは別に規則を定め、組合員に遵守することを求めている。


 バンクレットを含めた魔法使いが所属する魔道士ギルドも例外ではない。その規則の一つが、十歳未満の児童に生活魔法と防御魔法以外の魔法を教えてはならないというものだ。

 これは魔力が十分成長する前に消費量の大きい魔法を乱発すると、心身を害し障害が残る可能性が高いため。そして、人格が未熟なうちに危険な魔法を覚え事件に発展するのを防ぐために定められている。


「レオディーナ嬢はまだ七歳、もうすぐ八歳だと聞いている。勉強もできかなり優秀なようだが、規定は規定。あと二年は教えることは出来ない」

「そっかー。それじゃあ仕方ないですね。でも、あたしもう回復魔法が使えますけど?」


「それは別に構わない。私は教えてないから」

「えっ? 構わないんですか?」

「うむ。規定はあくまでも『教えてはならない』というだけなのだよ。……君のように独学で攻撃魔法や回復魔法を編み出してしまう子供が、稀に出るのでね」


 才能ある子供が、組合員に関わりなく独学で魔法を習得してしまう分にはギルドもどうしようもない。そのため、レオディーナは既に習得している魔法に関しては、今後も使って構わないようだ。


「私の授業を受ける以上は私の監督に従ってもらう。今後は独学であっても危険な魔法は編み出さない、習得しても使わないように。

 ただし、先ほど実演した魔法に関しては使っても構わない」


「はーい。ところで、生活魔法とか防御魔法って具体的にどう分けるんですか?」

「そのあたりはざっくりと、『工夫しなければそれ以外の用途に使えない魔法』が分類される。君が唱えて見せた魔法で例に挙げると、『焚火』だ」


 『焚火』で起こした火を人に当てれば、火傷させることで攻撃することが出来る。だが、工夫をしなければ狙った場所に調理の役に立つ程度の火を熾し、燃やし続けるだけの生活に役立つ魔法。なので、生活魔法に分類される。


 逆に、何かに当たると爆発炎上させる火の玉を出す『火球』の魔法は、極度に威力を落とせば薪に火をつけるのに使える。だが、工夫せずに唱えれば攻撃にしか使えない魔法。なので、攻撃魔法に分類されるのだ。


「魔法使いの数だけ、魔法は存在すると言っても過言ではない。先人はこれを料理に例えた。同じ芋のスープでも土地ごとに、家庭ごとに具材や味付けが異なる。それと同じだと。

 魔法は奥深く、幅広い。魔道士ギルドでも細かく正確な分類をするのは不可能なのだよ」


「分かりました。それでバンクレット先生、あたしもその魔道士ギルドに所属したほうがいいんでしょうか?」

「レオディーナ嬢、ギルドに登録できるのは十二歳から。そして、生活魔法と防御魔法しか使えない者に登録義務はないので奥方もまだ登録する必要はない。

 君が私の正式な弟子となって魔道士を目指すなら、話は変わるが」


 そうした説明の後、バンクレットが用意した魔道具を使って魔力の測定や属性の適性を調べることになった。

「奥方の魔力は小の下か」

 この世界では魔力の計測はざっくりと大中小、そしてそれぞれ上中下で分けられている。そして多くの人は計測不能……小の下未満に分類される。


「少しだけでもあってよかった」

「魔道士を本業にするのを目指すのでなければ、小の下で十分。今からでも努力すれば、確実に小の上まで増やせるだろう」

 そして、魔力は後天的に増やすことが出来る。ただ増やすことが出来る量は素質にもよるが、基本的には生まれ持った魔力量に比例する。

 そのため、魔法使いを目指すのなら先天的な魔力量が多いに越したことはない。


(なんだか、投資みたい)

 大きな利益を得るには、投資対象や経済情勢にもよるが初期投資の額が多いに越したことはない。それと似ているとレオディーナは思った。


「先生、次はあたしですね」

「レオディーナ嬢、君の魔力は中の上以上だ」

「えっ? 分かるんですか?」

「あれだけ魔法を唱え続けて魔力の勢いに衰えが見られないから、確実だ。この携帯用の計測器では、中の上以上は計測できないから、やるまでもない」


 そう言って、バンクレットは温度計に似た魔道具を引っ込め、代わりに握りこぶし大の水晶玉を取り出した。

「次は属性の適性を調べるとしよう。こちらの方が魔法を学ぶ上では重要だ」

 結果、ナタリーは土と水、風が少々。レオディーナはなんと全属性に適性在りとなった。


「魔法を見せてもらった時に得意不得意がある様子がなかったから、そうではないかと思っていた。

 さて、肝心の授業だが……魔力の増強と制御法を教えよう」

 レオディーナはギルドの規定上、他に魔法を教えられない。そしてナタリーは魔法を教えるには魔力量が足りない。そのため、母娘揃って同じ授業を受けることになった。


「レオディーナ嬢は今まで我流で行っていたようだが、私が教えるのは魔道士ギルドが誇るプロなら必須の訓練法。魔力増強と制御を同時に鍛える通称『螺旋訓練法』だ」

 バンクレットのいう『螺旋訓練法』とは体内の魔力の流れを操作して、渦を巻くように循環させ続ける方法だ。それなら『魔力循環術』ではないのかとレオディーナは思ったが、魔力量と操作技術の向上を願って『螺旋』と開発者が名付けたそうだ。


「どう、レオディーナ?」

「ママ、これかなり効きそう。流石プロ必須って感じ」

 これまでレオディーナが独自にしていた修行がウォーキングなら、『螺旋訓練法』はフルマラソンといった感じだ。この方法で魔力を鍛えているなんて、プロの魔法使いは凄い。そう改めてバンクレットを尊敬のまなざしを向ける。


「……いきなり出来るとは思わなかった」

 しかし、バンクレットからすると一度教えただけで『螺旋訓練法』を習得したレオディーナの方が凄く見えたようだ。


「でも、この分だと一時間続けられるかどうか……」

「それだけ続けられるなら十分だ。私の学友は、始めた当初は一分も続けられなかったのだからね。まあ、私は半日以上続けられたが」


「やっぱりバンクレット先生って凄い!」

「はっはっはっ! では、奥方は私が魔力を手から体に流すので、それで感覚を掴むことから始めよう。安心してほしい、ご主人の許可は頂いている」

「お願いしますね、先生」

 その後、バンクレットは授業が終わっても家に滞在し、帰宅したアルベルトと何か話し込んでいた。今後の授業方針について相談しているのだろうと、レオディーナは深くは気にしなかった。


 その後は順調に数学、歴史、外国語の家庭教師が決まり、一か月ほどでレオディーナは母と望んだ授業を始めることが出来た。

そして残暑が過ぎ去り、本格的に木々が色づく前のある日、レオディーナはいつもよりめかしこんでいた。


 買ってもらった中でもお気に入りのワンピースを着て、髪型もリボンでツインテールにしている。

「皆様、ケーキが焼きあがりましたよ。今日はお嬢様の大切な日なので、このメアリーが腕によりをかけた特製でございます」

「ありがとう、メアリー! とても美味しそうねっ」

「お嬢様が育てた果物のおかげですよ」

「じゃあ、種を提供してくれたパウルさんにも感謝だね」


 初対面時は慇懃ながら固い態度だったメアリーは、レオディーナの回復魔法の練習に付き合ううちにすっかり懐柔されていた。最初はお婆さんに見えたメアリーだったが、彼女の実年齢はなんと五十代だった。そして今では四十代に見える程肌と髪の状態がよくなっている。

 さらに、目のかすみや関節の痛みなども治っている。全てレオディーナのおかげだと、今では彼女を実の孫のように可愛がっている。


「ママもサラダを作るのを手伝ったのよ」

 ナタリーも引っ越してから、より健康的になった。彼女の場合はレオディーナの魔法によるものではなく、娼婦の仕事をしなくてよくなったことと食生活が改善されたことが大きい。


 レオディーナが日々回復魔法をかけ、スラムでの生活とは思えない程食生活も整えていたが、やはり昼夜逆転の生活は体に悪い。そして酒を飲む量を減らし、良質なたんぱく質を日々摂取できるようになった。何より、様々なストレスからも解放された。

 この家を用意して彼女を迎えに行った、アルベルトのおかげである。


「さ、ディーナ。席に座りなさい」

 そのアルベルトは、この一か月でレオディーナを愛称で呼ぶようになっていた。


「うん、パパっ」

(一か月でパパとここまで仲良くなれて良かった。もっと時間がかかるかと思っていたから)

 アルベルトにとって、自分は予想外の子供。瞳の色が同じこと以外に血が繋がっている証拠がないし、何より出会ったばかり。他人に等しい。だから仲良くなって、家族にならないといけない。


(今の生活って、パパ頼みだもの。もちろん、それだけが理由じゃないけど)

 自身と母の利益のため以外にも、レディーナはアルベルトに感謝していた。なので、彼女はアルベルトを父として尊敬しているし、愛したかった。そして娘として愛して欲しい。それが順調なのが、何よりうれしい。


「誕生日おめでとう、ディーナ」

「パパもママもありがとうっ! メアリー、このケーキとっても美味しいわっ」

 だから、八歳の誕生日パーティーは細やかながら思い出に残る一日になった。


(あたしたちの家族間は順調でも、パパと本妻さんとの間は問題だらけだろうけど。ママがパパの愛人で、あたしが隠し子なのは変わらない。将来幾つ悶着や騒動が起きるか分からないけど……まあ、仕方ないわよね!)


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