切なくて守りたくなる幸せ
喫茶店を出てデパートへ……来たのは良いけど、僕の場違い感が凄いです。
僕達が来たのは、若者向けのテナントが多く入るデパート。ここはマーチャントグループの子会社が経営しているらしい。
若者向けと言っても。主な層は二十代のお姉様方。
大人でお洒落な雰囲気に飲まれそうになっています。
「都心のデパートなんて、久し振りに来たよ」
服は商店街で買う事が多いし、基本近くのデパートしか使わない。こんなお洒落なデパートなんて、僕の生活とは無縁なのです。
「地元優先も良いけど、たまに違う店に行くと良い刺激になるぞ」
刺激か……秋吉さんの水着が見られるかも知れないんだよね。
(秋吉さんの水着……駄目だ!今、想像したら歩けなくなる)
爺ちゃんに叱られている時を思い出して鎮静化をはかる。
「良里は、食品売り場とかに行ったら何時間でも居そうだもんな」
夏空さんが、からかう様な口調で笑う。さっきフロア案内を見たら輸入食料品店があった。あそこなら余裕で三時間はいれます。
「信吾君達は水着を買わなくて良いの?」
水着か。学校指定の物と、去年買ったやつがあるけど。
「男の水着って、種類が限られているから……今日は何軒でもお供するよ」
僕にあまり派手な柄は似合わないと思うし、セクシー系の水着なんて絶対に無理だ。どうしても消去法になるから、直ぐに決まると思う。
「おっ言ったな。その言葉もう取り消せないよ」
そう言って悪戯っぽく笑う秋吉さん。周りから見たら、僕達はどう見えるんだろうか?
友達、荷物持ち……それとも……。
「徹も覚悟しろよ。荷物持ちもしてもらうからなっ!」
夏空さんは、本当に眩しい笑顔で徹に話し掛ける。見ているだけで、切なくなるそんな笑顔だ。
素敵な光景なんだけど、色んな見方が出来る。
恋人になる前の切なくてじれったい二人。障害があって遠慮しあっている二人。
でも夏空さん。そこにいる男は、荷物持ちなんてさせちゃいけない御曹司なんですよ。マーチャントグループの社員が見たら、怒ると思う。
「お嬢様、喜んで付き合いますよ」
でも、徹は嬉しそうに笑った。幸せな光景なのに、胸が痛くなる。
「それじゃ、行こうか」
曇りそうになる表情を隠す為、僕は先頭をきって歩き出した。
◇
先頭をきって水着売り場に来たけど、身の置き所がないです。右を見ても、左を見ても女性の水着。秋吉さん達がいなかったら、僕は不審者扱いされていると思う。
後、男の水着売り場と違って物凄くカラフルです。
「なんか落ち着かないな。どこを見て良いか分からねえ」
徹も僕と同じらしく、体を縮こまらせていた。分かる―。こういう時って、意識する程視線が固まっちゃうんだよね。
(きゅ、休憩場に逃げたい)
秋吉さん達には悪いけど、一時避難させてもらおう。そう思っていた時だった。誰かに腕を掴まれたのだ。
(まさか不審者扱いで補導?)
僕の腕を掴んだ人を見ると、満面の笑みを浮かべた秋吉さんだった。
「信吾君、あっち見に行こう。祭、後から連絡するね」
笑顔のまま、僕を引っ張って行く秋吉さん。
「分かった。さあ、徹行こっ。こっち、こっち」
夏空さんも徹の腕を掴んで連行。
「分かったから、引っ張るなって」
いつもは僕等をリードしてくれている徹だけど、今日は夏空さんのなすがままだ。
頑張れ、親友よ。ちなみに今日の一部始終は竜也に報告する事になっているからな。
「信吾君はどんな水着が好き?」
上目遣いでそう聞いてくる秋吉さん。僕のキャパシティは限界をとっくに超えています。
「こ、好みって言われても、その人に似あっていれば良いと思うよ」
自分でも分かります。今の僕は耳まで赤くなっている。
「信吾君、可愛いー。やっぱりセクシーなのが好き?」
セクシーな水着……秋吉さんはスタイルも良いから似合うと思うけど。けども……。
「似合うと思うけど……他の男に見せたくないって言うか……い、今のなしで」
これじゃまるで彼氏だ。僕なんかが彼氏面したら、怒るに決まっている。
「もう、本当に嬉しい事ばっかり言ってくれるんだから。着替えてくるね」
そういって更衣室に向かう秋吉さん。僕のライフは持つんでしょうか?
◇
もし漫画だったら、辺り一面血の海になっていたと思う……僕の鼻血で。
秋吉さんの水着ファッションショー、夢の様な時間でした。
「信吾、無事か?」
徹もぐったりしている。でも、その表情は幸せそうだ。
「無事だけど、一休みしたいな」
興奮し過ぎて、喉がカラカラです。無事に水着は買えた……この後、どうしよう。
(徹の魅力を発揮出来る所か……)
竜也なら幾つも思いつくんだけど。しかも、一番のアドバンテージであるお金持ちを封印しなきゃいけない訳で。
「そろそろお昼にする?」
まずは店選び。僕も飲食店に詳しいけど、徹も色々知っている筈。問題は、その後だ。ご飯食べて解散は寂し過ぎる。
(水着は旅行の為だ。それなら、それに絡めて)
「そうだね。徹、どこか良い店知っている?」
昼は僕も出すので、あまり高い店は止めて下さい……普通の高校生ってデートで、どんなお店に行くんだろう?ファミレスやハンバーガーショップ?
「割引券を持っている店があるから、そこで良いか?丁度、このデパートに入っているし」
割引券を見てみると、マーチャントグループが経営しているファミレスでした。そりゃ、券持っているよね。
不幸中の幸いというか、店の名前にはマーチャントのマの字もない。飲食産業に詳しくなきゃ、どこが経営しているか分からないと思う。
「良いね。水着も割引してもらえたし、ご飯食べたら、服とか見に行こう」
夏空さんは、嬉しそうに笑っている。秋吉さんから聞いた話だと、夏空さんが新しい服を買うのは久し振りらしい。
今日初めて株主優待券なる物を見ました。夏空さんが着替えている間に徹が店員さんに渡していた。見た瞬間、店員さんの顔色が変わっていたもんな。親会社の御曹司が来たんだから当たり前だけど。
「今日はとことん付き合うよ」
それを見た徹も嬉しそうに笑う。この二人には幸せになって欲しい。
そろそろHJの発表です 諦めているけど、何回もアクセスしてしまう。




