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恋のキューピットは胃が痛い

 風がない所為で、昼の暑さが残っている。温くなった夜気が不快だ。

 でも、今の僕には通じない。今は秋吉さんと二人っきりの時間なのだ。


「皆で海に行くの楽しみだね」

 僕の中では秋吉さんがメインです。しかも水着が見れるんだぞ。アルバイトを頑張らなきゃ。


「うん。でも、あんな高そうなホテルにただで泊まって良いのかな?」

 言えないけど、経営者の息子が金を出してくれるんですよ。しかも、下心ありありありだし。


「大丈夫だと思うよ。徹のお父さんの知り合いが、経営者と仲が良いんだって」

 知り合いって書いて部下って読むんですけどね。


「マーチャントグループのホテルか……祭、大丈夫かな?」

 秋吉さんが切なそうに呟く……なんかあったんだろうか?


「な、なにかあるの?」

 ホテル以外もマーチャントグループが、がっつり関係しているんですけど。


「誰にも言わないでね。祭の家ってお肉屋さんでしょ?マーチャントグループの関連会社から、嫌がらせをされていて経営不振なんだ」

 それなら大丈夫。徹にチクれば直ぐに解決するから。あいつ、絶対に全力で解決するだろうし。


「平気だと思うよ。泊まるのは都外のホテルだから、そいつも手だし出来ないでしょ」

 徹は代表取締役の息子。しかも、自分でも利益を上げている現役ビジネスマン。いくら勘違いボンボンでも手は出してこない筈。


「そうだよね。そういう事があったから、祭はお金持ちの人が苦手なんだ。特にマーチャントグループの事を怖がっているの」

背筋を嫌な汗が伝っていく。

 そう言えば夏空さんは、林間合宿に百合崎さんのお父さんが来たら『マーチャントグループ会社……やばいって。皆して謝ろう!』顔を真っ青にしながら、震えていたもんな。

徹が出れば万事解決する訳で……でも、そうしたら徹は夏空さんに嫌われてしまうと。

あいつの恋、告白する前から詰んでいない?


「信吾君も気を付けてね。名前は名納光って言うんだ」

 名納?どこかで聞いた様な……恋路が捨て台詞で言っていた名前じゃないか。


「う、うちの取引先はマーチャントグループじゃないから。大丈夫だよ」

 徹は親友だし、夏空さんも大事な友達だ。何より二人は惹かれあっている。何とかしてあげたいけど、僕の手には負えません。


 僕は料理人を目指しているモブ高校生だ。料理が少し得意で……現役アイドルや高校生ビジネスマンが親友だけど、僕自身はランクNなパンピーな訳で……。

 素直に言います。もう、僕の手には負えません。


「恋路がつるんでる奴……気を付けろ。名納光って言ってな、親は、マーチャントグループ傘下の会社で社長をやっているんだ」

 中学時代の友達に恋路の話を聞いたら、とんでもない事をぶっちゃけてくれた。なんでも名納は親の金で使って好き勝手しているらしい。

 不良仲間のボスを気取ったり、肉屋の娘に気に入った子がいると、圧力を掛けて物にしたり……なんか点と線が繋がっちゃったんですけど。


「それで武田さんに愛想をつかされたと……ありがとう。気を付けるよ」

 気を付けるって言っても、思いっきり巻き込まれているんですけどね。

 理想の形としては、これ以上恋路や名納と関わらない事。そして徹の身分を隠しつつ、恋を成就させる事だ。


「その武田さんも、お前の陰口言い過ぎて孤立気味だけどな。なんかあったのか?」

 高校には僕と同じ中学校だった人もいる訳で。元カレが周囲に迷惑を掛けている上に、そこにいない僕の陰口を言っていたら距離を置かれるのは当たり前だ。


「前に女友達と歩いている時に武田さんに会ったんだ。その人前にバドミントンの試合で、武田さんに完勝した事があるんだって」

 その原因は僕にあったのは、意外だったけど。


「恋路も武田さんも中学時代は調子に乗っていて、俺達陰キャを小馬鹿にしていたからな。高校で同じノリをしたら、周囲から引かれて当たり前だっての」

 中学時代、僕は二人の引き立て役だったと思う。でも、高校に入って便利な踏み台がいなくなって、馬脚を露したと。

 ブロッサム入学を勧めてくれた、爺ちゃんに感謝です。


 友達とおるを誘う。それだけなのに、プレッシャーと後ろめたさが凄いです。

(徹に名納の事は言えないし、夏空さんにも徹の事は言えない)

 徹の性格上、名納の事を知ったら、本気で潰すと思う。そして夏空さんと距離を置く筈。

 

「信吾、どうした?悪い物でも食ったのか?」

 確かに、僕の表情は暗い。でも、その原因はお前にもあるんだからな。後、飲食業にそのいじりはアウトだぞ。


「徹は来週の日曜日は何か用事ある?」

 僕がそう言うと徹は手帳に目を落とした。チラ見してみると、会議や視察のオンパレード。土日もビジネス関係に予定でびっちりです。

 下手に誘ったら、周囲から怒られそうだ。


「その日は暇だぞ。何かあるのか?」

 どうする。全部、打ち明けるか。いや、それは悪手だ。あくまで何も知らない振りを装おう。


「秋吉さん、夏空さんと一緒に水着を買いに行く事になったんだ。条件はお前を連れてくる事。頼む、一緒に来て」

 名納抜きにしても、女の子と水着選びなんて僕には重過ぎる。でも、現役ビジネスマンの徹がいれば、上手くエスコートしてくれる筈。


「ま、祭も来るのか?学生の予算だと……あそこだな。分かった、むしろ頼む。連れて行ってくれ」

 徹が頭を下げてきた。マーチャントグループの御曹司である徹がだ。プレッシャーで、更に胃が痛くなりました。

 さっそく秋吉さんにライソ。そして夏空さんに耳打ち……小さくガッツポーズする夏空さん。それを見て喜ぶ徹……この恋は叶えてあげたい。


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