リチルとプアール(2)
「アンタはリチル!」
プアールが、その女を見るやいなや叫んだ。
優子の髪を掴んでいた手を放し、リチルと呼ばれたその女に体を向けた。
敵意丸出しのプアールの体は、今にもとびかからんばかりに身構えていた。
「そういうあなたは、プアール。相変わらず無様ね」
リチルは紫のグローブに包まれた手を口に当て、目の前のプアールをバカにするように笑った。
しかし、そのグローブは何かを隠すかのように深く大きく両の手を覆っていた。
「あんたなんかに無様って言われる筋合いはないわよ」
「そろそろ、私の犬になりなさいよ。三食、用意してあげるわよ」
扇子でプアールを差しながら大笑いするリチル。
「なんで、あんたなんかの犬になるのよ。大体、私の方が可愛いんだから。その内、そこに立っているのは私になるのよ!」
プアールとリチルの間で火花が飛び散っていた。
しかし、一昔前、まぁ、この『女神と転生』のゲームに参加する以前と言った方が分かりやすいか。それまでのプアールとリチルの関係は、このような仲の悪いものではなかった。それどころか、誰が見ても姉妹と見間違うような仲のいい二人であったのだ。
では、なぜ、二人はこんなに互いを見下し、憎むようになったのであろう。
それを語るには少々時間をさかのぼらなければならない。
…………
……
今度は大丈夫だって!
ちゃんとそのあたりの時間から、お話を始めるから!
幼いリチルと幼いプアールは、街はずれで一緒に遊んでいた。二人は大体5歳ぐらい。年恰好が同じぐらいだった二人は、すぐに意気投合。パン屋さんの奥さんに、幼女のあどけない瞳を潤ませながらパンの耳をせびる日々をすごしていた。でも、このパンの耳が今日一日の二人のごちそうなのだ。そう、プアールは、もう、この時点から貧乏だったのである。
「おいしいね」
リチルはパンの耳を嬉しそうにほお張る。ほっぺにはパン屑がついているが、そんなことは気にしない。
プアールもまた、袋に入ったパンの耳を取り出した。そのパンの耳には、かすかにジャムが残っていた。
パンの耳にジャムがつくなんてめったにない。これは貴重品である。
「これジャムついているからリチルにあげるよ」
パンを差し出すプアールの手は泥だらけ、そのうえ、ごみをあさって傷だらけである。ここまで傷が深いと、大人になっても消えることはないだろう。年頃の女の子になった時に自分の手を見てどう思う事だろう。
プアールは、そのパンの耳を嬉しそうにリチルへと差し出した。
リチルは一瞬躊躇するも、嬉しそうに受け取った。パンを受け取るリチルの手もまた、泥と傷でまみれていた。
「ありがとう」
ゴミ箱の上に並んで座る二人は、一緒にパンの耳をほお張った。本当に仲のいい二人。この時は、どちらかと言うとプアールの方がお姉さんであった。
一応言っておくが、幼いプアールもリチルも神である。だが、その身分は、二人ともやはり下級神であった。
しかし、プアールとリチルでは決定的な違いがあったのだ。それは、生まれたおちた家である。




