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穏やかに和らげるブラウン

作者: 杜山 栞
掲載日:2018/07/26


「ごめんなさい。

 ありがとう。

 幸せになって……」



 だから、愛しているは言わなかった。



 そうして私は……。








 目を開ける。


 茶色。渇いた土の匂い。


 目の前には白いライオンがいた。死後の世界。そう納得できた。


 けれど口から出たのは、なんで? という疑問の言葉だった。


「何を疑問に思う?」


 背後から声がした。


 やっぱり。


「どうしてライオンなの?」


 やっぱり黒いライオンもいるのね。


「ライオンは嫌い?」


 白いライオン……サムは言った。


「おしゃべりはいい。行くぞ」


 そう、私は行かなくてはならない。何処へ? わからない。けれど、ここにいても意味がない。


 ディーの声に振り返って見たのもまた、広大な茶色だった。


 サバンナ。


 見る前からわかっていた。


 ここには何もない。入口も出口も、目印も……。


 一歩踏み出せば二度と同じ場所には立てないだろう。


 けれどここに踏みとどまっていても、もう二度とあのこには逢えないのだ。


 それは目を閉じた瞬間にした覚悟だった。


 けれどやはり、死後というものは。幽霊になってあのこの生を見守ることも、あのこの死を待って共に川を渡ることもできないのだと、そんなわかり切っていたことに改めて落胆した。


「ディーはここに来る前のこと、何か知っている?」


「いや。俺がライオンと呼ばれる存在で、黒い色は珍しいってことくらいだ。普通のライオンは話さないこともな。お前が俺を認識した瞬間以前の俺は存在していたのかもわからん」


「わからないことだらけね……。それでも、独りでなくてよかった。話ができるのもね。サムは何か知っている?」


「進む方向くらいはね。というかそれしかわからない。差し詰めこれは、それを見付ける旅といったところかな? 僕の名前を教えてくれてありがとう。改めて自己紹介するね。僕はサム、よろしくね」


「ディーだ」


「よろしくね、サムとディー。私は……シーって呼んで?」


「シー、どうして僕らはサムとディーなの?」


「うーん。どうしてかな? でも考えたんじゃなくてわかったの。サム達が行き先を知っているみたいなことなのかも」


「わかるのは進む方向だ。行き着く先は知らん」


「そっか。そーよね。何があるのかな? ……少し楽しみに思えてきた」


「それは良かった。旅は楽しい方がいいもの」


「そうね。楽しい旅……。それじゃあ、そろそろ。自分探しの旅へ出かけましょうか? 長い旅になりそうだし!!」








 一歩踏み出す。


 ……もう元には戻れない。




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