穏やかに和らげるブラウン
「ごめんなさい。
ありがとう。
幸せになって……」
だから、愛しているは言わなかった。
そうして私は……。
目を開ける。
茶色。渇いた土の匂い。
目の前には白いライオンがいた。死後の世界。そう納得できた。
けれど口から出たのは、なんで? という疑問の言葉だった。
「何を疑問に思う?」
背後から声がした。
やっぱり。
「どうしてライオンなの?」
やっぱり黒いライオンもいるのね。
「ライオンは嫌い?」
白いライオン……サムは言った。
「おしゃべりはいい。行くぞ」
そう、私は行かなくてはならない。何処へ? わからない。けれど、ここにいても意味がない。
ディーの声に振り返って見たのもまた、広大な茶色だった。
サバンナ。
見る前からわかっていた。
ここには何もない。入口も出口も、目印も……。
一歩踏み出せば二度と同じ場所には立てないだろう。
けれどここに踏みとどまっていても、もう二度とあのこには逢えないのだ。
それは目を閉じた瞬間にした覚悟だった。
けれどやはり、死後というものは。幽霊になってあのこの生を見守ることも、あのこの死を待って共に川を渡ることもできないのだと、そんなわかり切っていたことに改めて落胆した。
「ディーはここに来る前のこと、何か知っている?」
「いや。俺がライオンと呼ばれる存在で、黒い色は珍しいってことくらいだ。普通のライオンは話さないこともな。お前が俺を認識した瞬間以前の俺は存在していたのかもわからん」
「わからないことだらけね……。それでも、独りでなくてよかった。話ができるのもね。サムは何か知っている?」
「進む方向くらいはね。というかそれしかわからない。差し詰めこれは、それを見付ける旅といったところかな? 僕の名前を教えてくれてありがとう。改めて自己紹介するね。僕はサム、よろしくね」
「ディーだ」
「よろしくね、サムとディー。私は……シーって呼んで?」
「シー、どうして僕らはサムとディーなの?」
「うーん。どうしてかな? でも考えたんじゃなくてわかったの。サム達が行き先を知っているみたいなことなのかも」
「わかるのは進む方向だ。行き着く先は知らん」
「そっか。そーよね。何があるのかな? ……少し楽しみに思えてきた」
「それは良かった。旅は楽しい方がいいもの」
「そうね。楽しい旅……。それじゃあ、そろそろ。自分探しの旅へ出かけましょうか? 長い旅になりそうだし!!」
一歩踏み出す。
……もう元には戻れない。




