表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
69/108

隻眼の魔法使いにて① 

* * *


「それでは、次鋒戦の選手は入場してくださいっ!」


 審判の呼び声が響くと、座っていたアイリスはバッと跳ね起きる。


「よ~し! ガルに続いて勝つわよ~!」


 元気いっぱいに部屋を飛び出して行った。

 フィールドに出てからアイリスは胸を張って歩く。

 というのも、ガルにファンが出来たのだ。自分にも同じようにファンが出来ているに違いない!

 そう思い、今か今かと心待ちにしていた。だが……

 ガヤガヤと、観客の騒めきばかりで、特に自分の名前を呼ぶ声は聞こえない。

 周りをキョロキョロと見渡してみても、アイリスに手を振る者は誰もいなかった。


(むぅ……つまんない……イケメンの親衛隊とか出来てると思ったのに……)


 アイリスは口を尖らせてダラダラと歩く。完全にモチベーションが下がっていた。

 だが、モソモソと移動するアイリスの目に、見知った顔が映った。


(あ、カイン……)


 アイリスの師匠であるカインが、客席の最前列に座っていた。

 アイリスと目が合うと、いつものようにニコニコと手を振ってくる。

 釣られてアイリスも手を振り返す。


(カイン、応援に来てくれたんだ……まぁ、アイツが見てるなら頑張んないと……)


 なんだか心がポカポカと温かくなるような気持ちになりながら、ハッと我に返った。


「って、なんであたしは浮かれてんの~!! 別にアイツはそんなんじゃないから!! 下手な戦いをしたら、後でネチネチ言われるのが嫌なだけだから~!!」


 頭をワシャワシャと搔きながら、声に出して自分に言い聞かせる。


「ははは。なかなか元気で、面白いお嬢さんだ」


 ハッとして前を見ると、相手の選手はすでに待機していた。

 サラサラの茶髪を右手てでかき上げるその青年は、かなりのイケメンだ。

 流行りのシャツとジャケットを着こなしている彼は、魔法使いというより、モデルと言った印象を受ける。

 だが残念なことに、左目は眼帯で覆われていた。


「面白いだけじゃないわよ。それなりに強いつもりだから、戦いに入ったら存分に楽しませてあげるわ」

「ほう~、そいつは素敵なデートになりそうだ」


 二人は軽口を叩きながら、バチバチと火花を散らす。


「二人ともよろしいでしょうか? それではこれより次鋒戦、アイリス選手対、リッツ選手。試合ぃ~開始ぃ~!!」


 審判が勢いよく右手を振り下ろすのを合図として、二人は文字を刻みだす。


「そう言えば、まだ自己紹介をしていなかったな」


 リッツがフッと笑みを浮かべながら、左手を地面に密着させた。


――ビキビキビキ!!


 その瞬間に地面は凍てつき、アイリスの足は地面と一緒に氷漬けになった。


「俺はリッツ。人は俺のことを、『氷結の魔術師』と呼ぶ」


 片手を地面に置き、相手を見上げる姿勢はとても様になっている。

 だがアイリスは、平然とした顔のまま、杖をクルクルと回して遊んでいた。


「そんじゃ、あたしも名乗らないといけないわね~」


 右手に持つ杖を左手に持ち替えると、右の拳で凍り付いた地面を殴りつけた。


――ジュウウウゥゥー……


 一瞬で地面に張った氷が蒸発し、水蒸気となる。


「あたしはアイリス。言っとくけど、半端な冷気じゃあたしの炎は消せないわよ?」


 お返しと言わんばかりのパフォーマンスに、リッツは苦笑いを浮かべていた。


* * *


「マジックアクティベーション!」

「うおおおおっ!?」


 リッツは空中を、最速のスピードで必死に逃げ回る。

 後ろからは鬼神の如く、バンバン攻撃魔法を乱射するアイリスがいた。

 また一発、逃げる背中を狙って打ち込んで来た。

 それを紙一重で避けると、客席の結界にぶつかり、火花を散らして消滅する。

 威力は推定Sランク。


「Sランク級を、下級魔法のようにバカスカ撃ってくんじゃねぇよ!!」


 泣き言を言いながら、両手で文字を刻む。


『アイシクル!』


 壁ぎわを高速で移動しながら仕掛けを仕込む。

 後ろから追って来るアイリスがその場所を通った瞬間、勢いよくつららが伸びた!


『フレイムバリア!』


 来ると分かっていたのか、同時に張られた結界によって、つららはチョコレートのように溶ける。


『メガフレアアロ―!!』


 アイリスのダブルマジックで、紅蓮の矢が雨のように降り注ぐ。


「くそ、避けきれない!『アブソリュートゼロ!!』」


 絶対零度の冷気が、リッツに迫る紅蓮の矢を凍てつかせた。

 それでも全てではない。何本かはリッツをかすめて地面へ落ちる。

 落ちた矢は、地面を抉り、溶かし、バチバチと火の粉が舞っていた。


「一発一発がSランク級じゃねぇか! やっぱこういう、バ火力はフランの専門なんだが……」


 防戦一方のリッツは、今の攻撃で足が止まった。そこにアイリスが回り込んでくる。

 ジリジリと後退すると、背中が壁にぶつかった。


「ふっふっふ! 追いつめたわよ~。観念しなさい!」


 アイリスはまるで悪人のようなセリフで、黒い笑みを浮かべている。


「観念するのはどっちかな? あいにく、俺は追いつめられてからが本番でね。切り札を使わせてもらう」

「いや、宣言してから使うって、切り札としてどうなのよ……」


 アイリスが呆れた口調で返すのを、リッツは軽く笑って流していた。


「俺の左目には魔獣が封印されている。その力を今、解放する!」


 そう言って、リッツは眼帯に指を滑り込ませる。


「マジュウ~? そんなのいる訳ないじゃん。合成獣キメラなら見たことあるけどね。どうせでっかい猿でも見て、化け物と勘違いしたんじゃないの? あたしこの前、潰れたように寝そべってる猫を見て、ツチノコかと思ったもの」


 ケラケラと思い出し笑いをするアイリスに、リッツはあくまでも冷静に語る。


「信じられないのも無理はない。だが、この力を見たあとも同じことが言えるかな?」


 そう言って、リッツは勢いよく眼帯を外した。

 眼帯の下から現れたのは琥珀色の瞳。その瞳が微かに光った。


『ルナティックアイ!!』


――ビキビキビキ……


 一瞬だった。

 迫ることも、押し寄せることもなく、一瞬のうちにアイリスの体は凍てつき、霜に覆われた。


「……え? ちょ……嘘!?」


 流石のアイリスも、これには驚きを隠せない。

 動けなくなった体を必死に戻そうと足掻くばかりだ。


「この……『フレイムサークル!』」


 アイリスの周囲に炎が現れ、それによって凍てついた体が戻っていく。


「危な~! 左手に炎属性の魔法待機させといてよかった~!!」

「ふっ、これが俺の左目に封じられた魔獣の力だ。この瞳に写る全ての物を一瞬で凍り付かせることができる」


 バッと、アイリスは警戒してかリッツとの距離を取った。

 左目を恐れたか……そう思うリッツだったが――


「まさか本当にこんな力があるなんて……ちょっとアンタ! ずるいわよ! あたしもそんな魔獣の力が欲しい!」

「……は?」


 思いがけない言葉に、リッツは戸惑うばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ