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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
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臆病者の戦いにて②

 合図と共に、ガルは文字を刻む。

 非常に戦いにくい相手だと思いながら彼女に目をやると、地面に落書きをするかのように、文字を刻んでいた。


(一応、試合を放棄しているわけではないんだな……って、結構早いな!)


 高速で術式を完成させたフランが、同じ体制のまま地面に手を着く。


「みんな、今回もお願いね。『ドール!!』」


 ボコり!

 地面の土が盛り上がると、人の形を成していく。

 あっという間に、フランの近くには二体の泥人形が形成された。


(ゴーレム使いのフラン。情報通りだが、だとすると……)


 シルベーヌの情報は、ワイルドファングもある程度調べていた。

 そんなガルも、負けずと両手の魔法を発現させる。


「『フライ!』、『ブレイクナックル!』」


 空中に飛び上がり、そこから左手を振りぬき、凶弾を放った。

 これでもSランクはある攻撃魔法だ。


「マーボー君、お願い……」


――ザッ!


 フランを庇うように、一体のゴーレムが立ちはだかる。

 マーボーと呼ばれた丸いパーツを組み合わせて出来たようなゴーレムは、飛んでくる魔弾に裏拳を放った。


――パァン!


 いとも簡単に、ガルの攻撃魔法は粉々に弾け飛んでしまう。


「テッぺー君も、私を守って……」


 四角いパーツを集めたようなゴーレムが、へたり込んでいるフランのそばに寄り添う。


(これが、魔法防御と物理防御を極限まで高めた守りのゴーレム。セレンと同じくらいの歳なのに、すごい形成力と完成度だ)


 ガルがほんの少しの間、ゴーレムの出来栄えに見とれていると、フランはさらに魔力を放出する。


「出番だよ。マッハ君。エース君!」


 さらに二体のゴーレムが土から生み出された。

 三角のパーツを組み合わせたような、鋭角なゴーレムが前のめりになる。


――ギュン!!


 驚くほどの速さで、ガルとの距離をゼロにした。

 剣のように鋭い腕をガルに振るう。


――ギイィィン!


 その一撃を、ガルはなんとか杖で凌いだ。

 その瞬間、スッと日の光が遮られる。

 上を見上げると、真上からもう一体のゴーレムがガルに向かって落下してきていた。

 そのゴーレムが叩きつけるように振るう拳を、ギリギリのところで回避する。

 他のよりも二倍は大きいそのゴーレムの拳は、落下の勢いを乗せて地面に突き刺さった。


――ドゴオオォォン!!


 地面が陥没して、巨大な窪みが出来上がる。


「ちょっと待て! こんなの頭にでも当たったら即死するんじゃないか!?」


 あまりの物理的な破壊力に青ざめながら、ガルは瞬時に文字を刻む。


『ウィンドブレス!』


 地面を陥没させるほどのエネルギーの反動で、土の下から大、小、様々な塊が宙に舞い上がっていた。

 ガルは魔法で突風を生み出し、それらをフランの方へと吹き飛ばした。


「テッぺー君!」


 フランの声と同時に、物理防御特化であろうゴーレムが前へ出る。

 飛んでくるいしつぶてをその身で受け止め、大きな岩石さえも弾き飛ばしてしまった。

 まさに鉄壁の防御を誇るそのゴーレムは、傷一つ付いていない。


「守りは万全か……なら!」


 ガルは大魔法を使うための文字を高速で刻む。

 かなりの速さで妨害しようとするゴーレムから逃げながら、ガルは術式を完成させた。


「とりあえず、攻めてくるゴーレムを破壊する!」


 ガルの後ろを追って来る高速のゴーレムに、振り向きざまで大魔法を解き放った。


『インフィニティブレイク!!』


 S+ランクの攻撃魔法を前にして、ゴーレムに避けるだけの時間はない。

 だが、スッと間に、攻撃力を特化したゴーレムが割って入った。

 攻撃型のゴーレムは体を捻り、勢いをつけて拳を振るう。


――ドパアアァン!!


 そのひと振りで、ガルの魔法は破裂した。

 魔力を放出し続け、尾を引く大魔法が、一瞬にして消し飛んだのだ。

 その衝撃波でガルは軽く吹き飛ばされる。


「うおおおっ!? こいつも魔力抵抗値が高いのか!?」


 体制を整え今のゴーレムをよく見てみると、魔法と激突した拳からシュウシュウと煙が上がっていた。


(……違う。単純に破壊力が高すぎて、威力負けしたんだ)


 緊張で、思わずゴクリと生唾を飲み込む。

 背後に高速のゴーレムが回り込んできて、ガルは二体に挟み撃ちにされる形となった。


(強い……集中しないと負ける……)


 カチッ! と、ガルは心の底でスイッチを切り替える。

 もはや怯え、震える少女を気遣う余裕はない。

 目を細め、その表情から色が消え、ついにガルが本気になった。


『ウィンドセイバー……』


 物理的に最も切れ味の高い魔法を付与して、ゴーレムの動きに集中する。

 高速のゴーレムが動き始めた。フェイントを入れながら、ガルに襲い掛かる。


――ザン!


 すれ違い様に振るったガルの刃は、正確にゴーレムの腕を切り落としていた。

 宙を舞い、フランの近くにその腕が落ちる。


「い、いやああああああああああぁぁぁーーーー!!」


 突然フランが叫び声を上げた。


「マッハ君の腕が! あああぁぁあぁぁ!!」


 悲痛な叫びに、ガルも何事かと戸惑いを隠せない。

 ゴゴゴゴと、大地が震え、低い唸り声をあげていた。


* * *


「やーいやーい! 弱虫フラン! 泣き虫フラン!」


 子供たちが、寄ってたかってバカにする。


「ひっく……うぅ……ぐすっ!」


 幼いフランは泣きながら、逃げるように子供達に背を向けた。


「いっつも人形に話しかけて変な奴! あっち行け!」


 ののしられながらもギュッと強く抱きしめるのは、子供たちに取り上げられ、砂まみれにされた大切な猫のぬいぐるみ。

 この頃のフランは、よく周りから虐められていた。

 虐められているフランに近寄ろうとする者なんて誰もおらず、友達なんて一人もいなかった。


 ある日、そんなフランに魔法使いの素質があることが分かり、魔法学園に通うことを薦められた。

 これで何が変わるのかはわからないが、フランは言われるがままに、魔法学園に入学をした。

 しかし、ここでもフランは周りと馴染むことができなかった。


「フランちゃん、まだ終わらないの……?」

「遅くない? 課題が終わらないの、ウチらのグループだけだよ?」


 ため息混じりの、呆れた声が向けられる。


「ご、ごめん、もうちょっと……あわわ」

「もう~! 私がやった方が早いじゃん! かして!」


 運が良いのか悪いのか、魔法学園に入学してから虐められることはなかったが、その代わりに自分と相手の大きく開いた能力差を痛感することになった。

 結局、周りのみんなに迷惑をかけるだけの日々。

 最初は明るく話しかけてくるクラスメイトも、次第にイライラとした口調に変わり、最後には幻滅した態度に変わっていく。その変化を感じ取るのが、もの凄く辛かった……


 フランは次第に学園を休むようになった。

 学園のみんなと向き合うのが怖くて、恥をかくのが怖くて、みんなを不快にさせるのが怖かった。

 フランは家族が心配する中、部屋に閉じこもり、ぬいぐるみとばかり過ごすようになっていた。


――人形だけが、私の友達。


――人形だけが、私をゆるしてくれる。


――人形だけが、私の全て……

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