巧みな魔法の戦術にて②
* * *
「むむ!? なんだかあの二人、言い争ってないかい?」
控室の窓から観戦しているアレフが首を傾げた。
「そうですね、しきりに何かを言い合ってます。師匠どうかしたんでしょうか?」
「……いや、あれは――」
みんなの疑問をまとめるようにセレンが口を挟む。
「ガルの悪い癖が出たんだと思う……」
「あー……」
一同が納得したように肩を落とした。
* * *
「オラー! いつまでしゃべってんだー!」
「ちゃんと戦えコラー!」
観客から野次を飛ばされ、二人は我に返った。
魔法のことで熱く語り過ぎていたようだ。
二人はバッと構えを取り、戦闘を開始するような雰囲気を出す。
「ガルと言ったね。君の魔法に対する熱意、意欲、そして実力。しかと見届けた。決着をつけよう!」
「わかりました。受けて立ちます」
そして互いに文字を刻んだ。
『マジックセイバー!』
ビレッドが解除したセイバーを再び付与した。
そのまま二人は警戒しながら旋回をする。
不意にビレッドが空中で静止して――
『……!』
何かの魔法を発現させた。
ガルは身を強張らせて警戒するが、何も起こらない。
ビレッドは何もせずに、こちらを睨むようにその場に佇んでいる。
ガルは迷った。自分から攻めるべきかどうか。しかし何もしてこないという事は、何かカウンター型の魔法かもしれないと判断して、相手の出方を見ることにした。
ガルはビレッドの周囲を旋回するようにゆっくりと飛び続ける。攻めはしない。むしろ、距離を少しずつ開けるように飛んだ。
すると、耐えかねたビレッドがついに行動を起こした。
彼は一瞬、前かがみになると――
フッ!
その姿が消えた。いや高速で移動したのだ。
一瞬でガルの右側部に寄った彼は、武器を思い切り振り下ろす。
――だが、ガルはその動きをしっかりと目で追っていた。
ガギィィン!
間一髪、ガルはその攻撃を受け止めることに成功した。
「そんな!?」
ビレッドが驚愕の眼差しで、動揺しながらガルから離れた。
だがガルは動かずに、何かを考えている。
ふと思いついたように顔を上げたガルが、口を開いた。
「そうか!『サイレンス』の魔法だ! そうですよね?」
「……」
ビレッドは答えない。だが、その余裕のない表情は彼が窮地であることを物語っていた。
「あなたは自分の周囲に『サイレンス』、つまり、音を遮断する空間を作り上げた。外部に音を漏らさないだけだから重ね掛けにはならない。そして、その中でブーストを使用した。ブーストは使うと独特な音を鳴らすので、動体視力の悪い人は音で判断することもある。面白い発想です!」
「……なんなんだ」
「タネはわかりました。そしてブーストは一度使うと再度使うまでに魔力を収縮しなければならない」
ガルは武器を構え、ビレッドを真っすぐに見据えた。
ビレッドは信じられないといった表情で後ずさる。
「君達は一体なんなんだ!?」
「先ほども言ったように、ウチには近接戦闘にやたら強い奴がいます。そいつは、さっきのあなたよりも速く動きますよ。さぁ、次はこっちの番です!」
そう言って、一気に迫っていった。
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・
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「ビレッド選手、戦闘不能! よって勝者は~、ガル選手ぅぅ~!!」
ワァァァァ!
大歓声を浴びて、ガルは立っていた。
あの後、ブーストを使い切ったビレッドに猛攻を仕掛け、バランスを崩したところにガルはブーストで追い打ちをかけた。
それが決定打となり、彼は地に倒れ伏せることになった。
「これによって、ワイルドファングが三勝を取りましたので、二回戦進出です!」
審判の宣言に、場内は再び騒めきたった。
「マジかよ! ワイルドファングって大穴だと思ってた!」
「三人で終わっちまったぜ? 結構強いんじゃね?」
「いやいや、まぐれだろ?」
観客の戸惑いを余所に、両チームが中央に集まり礼で締める。
クロガネのリーダー、アインはショックのあまり、すでに放心状態だった。
そうして、ワイルドファング一同は帰路に着く。勝ち残ったチームはこの近くに宿を用意されていた。
「一回戦突破はめでたいんですが、私の出番がありませんでした。せっかく両親や侍愛好会のみんなが応援に来てくれたのに……」
「だが、ここでチカ君を温存できたのは大きい。これによって二回戦を勝ち抜く確率が格段に上がった」
歩きながら宿に向かう途中で、勝利の余韻に浸るメンバー達。もちろんアレフの表情にも笑みがこぼれている。
ここが最弱だと言われ続けた部隊を立派に立て直す。その夢を一歩踏み出したことの喜びなのだろう。
「……応援と言えば、お母さんやナックル達も応援に来てくれていたわ」
「あ~、あたしんとこの両親も来てた! ガルんところも来てくれてたでしょ?」
アイリスが話を振ると、セレンは慌てた様子でマントを引っ張り止めようとした。
「アイリス! ガルは両親を幼い時に亡くしてるのよ。忘れたの!?」
「あ、あれ? そうだっけ? そう言えばそんな話を聞いたような気もするわ」
アイリスが気まずそうに謝ると、ガルはいたって平気な様子で答えた。
「別に構わないさ。それに故郷のみんなが応援に来てくれていた。それだけでもありがたい。隊長のところはどうなんですか?」
「はは、私の両親はそこまでアクティブじゃなくてね。だけど結果を心待ちにしているだろうから、きっと喜んでくれるだろう」
ガルとアレフが話し込んでいるのを見計らい、女性陣はノタノタと歩みを遅めて後方に下がる。
「ガルってさ、学園にいた時にアホみたいに魔法に打ち込んでいたのよ。それってもしかすると、両親がいない寂しさを紛らわせるためだったんじゃないかしら……」
「そうなんですか!? 師匠、可哀そうです……」
三人は憐みの目でガルの背中を見つめる。すると唐突にガルが振り向いた。
「そうだ! ウチのチームは女性が多いことでナメられがちだ。ならば、性別を逆転させる魔法を作れば凄みが増すかもしれない!」
爆弾が爆発したかのような衝撃がその場に走った。
「よし! さっそく術式を考えてみよう。チカ、実験台になってくれ!」
「え……! 流石に師匠の頼みでも、それはちょっと……」
青ざめながらイヤイヤと首を振るチカに、曇りのない目でガルが語りかけている。
そんな様子をセレンとアイリスが影を漂わせながら見つめていた。
「……私、ガルが魔法に打ち込んでいたのは純粋に、魔法が好きだからだと思うわ」
「うん……あたしの考えすぎだったみたい……」
こうしてガル達は、次の戦いに進んでいく。
――ノード支部、チーム名ワイルドファング。クロガネ支部を破り二回戦へと進出。




