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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
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巧みな魔法の戦術にて②

* * *


「むむ!? なんだかあの二人、言い争ってないかい?」


 控室の窓から観戦しているアレフが首を傾げた。


「そうですね、しきりに何かを言い合ってます。師匠どうかしたんでしょうか?」

「……いや、あれは――」


 みんなの疑問をまとめるようにセレンが口を挟む。


「ガルの悪い癖が出たんだと思う……」

「あー……」


 一同が納得したように肩を落とした。


* * *


「オラー! いつまでしゃべってんだー!」

「ちゃんと戦えコラー!」


 観客から野次を飛ばされ、二人は我に返った。

 魔法のことで熱く語り過ぎていたようだ。

 二人はバッと構えを取り、戦闘を開始するような雰囲気を出す。


「ガルと言ったね。君の魔法に対する熱意、意欲、そして実力。しかと見届けた。決着をつけよう!」

「わかりました。受けて立ちます」


 そして互いに文字を刻んだ。


『マジックセイバー!』


 ビレッドが解除したセイバーを再び付与した。

 そのまま二人は警戒しながら旋回をする。

 不意にビレッドが空中で静止して――


『……!』


 何かの魔法を発現させた。

 ガルは身を強張らせて警戒するが、何も起こらない。

 ビレッドは何もせずに、こちらを睨むようにその場に佇んでいる。

 ガルは迷った。自分から攻めるべきかどうか。しかし何もしてこないという事は、何かカウンター型の魔法かもしれないと判断して、相手の出方を見ることにした。

 ガルはビレッドの周囲を旋回するようにゆっくりと飛び続ける。攻めはしない。むしろ、距離を少しずつ開けるように飛んだ。

 すると、耐えかねたビレッドがついに行動を起こした。

 彼は一瞬、前かがみになると――

 フッ!

 その姿が消えた。いや高速で移動したのだ。

 一瞬でガルの右側部に寄った彼は、武器を思い切り振り下ろす。


 ――だが、ガルはその動きをしっかりと目で追っていた。


 ガギィィン!

 間一髪、ガルはその攻撃を受け止めることに成功した。


「そんな!?」


 ビレッドが驚愕の眼差しで、動揺しながらガルから離れた。

 だがガルは動かずに、何かを考えている。

 ふと思いついたように顔を上げたガルが、口を開いた。


「そうか!『サイレンス』の魔法だ! そうですよね?」

「……」


 ビレッドは答えない。だが、その余裕のない表情は彼が窮地であることを物語っていた。


「あなたは自分の周囲に『サイレンス』、つまり、音を遮断する空間を作り上げた。外部に音を漏らさないだけだから重ね掛けにはならない。そして、その中でブーストを使用した。ブーストは使うと独特な音を鳴らすので、動体視力の悪い人は音で判断することもある。面白い発想です!」

「……なんなんだ」

「タネはわかりました。そしてブーストは一度使うと再度使うまでに魔力を収縮しなければならない」


 ガルは武器を構え、ビレッドを真っすぐに見据えた。

 ビレッドは信じられないといった表情で後ずさる。


「君達は一体なんなんだ!?」

「先ほども言ったように、ウチには近接戦闘にやたら強い奴がいます。そいつは、さっきのあなたよりも速く動きますよ。さぁ、次はこっちの番です!」


 そう言って、一気に迫っていった。

「ビレッド選手、戦闘不能! よって勝者は~、ガル選手ぅぅ~!!」


 ワァァァァ!

 大歓声を浴びて、ガルは立っていた。

 あの後、ブーストを使い切ったビレッドに猛攻を仕掛け、バランスを崩したところにガルはブーストで追い打ちをかけた。

 それが決定打となり、彼は地に倒れ伏せることになった。


「これによって、ワイルドファングが三勝を取りましたので、二回戦進出です!」


 審判の宣言に、場内は再び騒めきたった。


「マジかよ! ワイルドファングって大穴だと思ってた!」

「三人で終わっちまったぜ? 結構強いんじゃね?」

「いやいや、まぐれだろ?」


 観客の戸惑いを余所に、両チームが中央に集まり礼で締める。

 クロガネのリーダー、アインはショックのあまり、すでに放心状態だった。

 そうして、ワイルドファング一同は帰路に着く。勝ち残ったチームはこの近くに宿を用意されていた。


「一回戦突破はめでたいんですが、私の出番がありませんでした。せっかく両親や侍愛好会のみんなが応援に来てくれたのに……」

「だが、ここでチカ君を温存できたのは大きい。これによって二回戦を勝ち抜く確率が格段に上がった」


 歩きながら宿に向かう途中で、勝利の余韻に浸るメンバー達。もちろんアレフの表情にも笑みがこぼれている。

 ここが最弱だと言われ続けた部隊を立派に立て直す。その夢を一歩踏み出したことの喜びなのだろう。


「……応援と言えば、お母さんやナックル達も応援に来てくれていたわ」

「あ~、あたしんとこの両親も来てた! ガルんところも来てくれてたでしょ?」


 アイリスが話を振ると、セレンは慌てた様子でマントを引っ張り止めようとした。


「アイリス! ガルは両親を幼い時に亡くしてるのよ。忘れたの!?」

「あ、あれ? そうだっけ? そう言えばそんな話を聞いたような気もするわ」


 アイリスが気まずそうに謝ると、ガルはいたって平気な様子で答えた。


「別に構わないさ。それに故郷のみんなが応援に来てくれていた。それだけでもありがたい。隊長のところはどうなんですか?」

「はは、私の両親はそこまでアクティブじゃなくてね。だけど結果を心待ちにしているだろうから、きっと喜んでくれるだろう」


 ガルとアレフが話し込んでいるのを見計らい、女性陣はノタノタと歩みを遅めて後方に下がる。


「ガルってさ、学園にいた時にアホみたいに魔法に打ち込んでいたのよ。それってもしかすると、両親がいない寂しさを紛らわせるためだったんじゃないかしら……」

「そうなんですか!? 師匠、可哀そうです……」


 三人は憐みの目でガルの背中を見つめる。すると唐突にガルが振り向いた。


「そうだ! ウチのチームは女性が多いことでナメられがちだ。ならば、性別を逆転させる魔法を作れば凄みが増すかもしれない!」


 爆弾が爆発したかのような衝撃がその場に走った。


「よし! さっそく術式を考えてみよう。チカ、実験台になってくれ!」

「え……! 流石に師匠の頼みでも、それはちょっと……」


 青ざめながらイヤイヤと首を振るチカに、曇りのない目でガルが語りかけている。

 そんな様子をセレンとアイリスが影を漂わせながら見つめていた。


「……私、ガルが魔法に打ち込んでいたのは純粋に、魔法が好きだからだと思うわ」

「うん……あたしの考えすぎだったみたい……」


 こうしてガル達は、次の戦いに進んでいく。


 ――ノード支部、チーム名ワイルドファング。クロガネ支部を破り二回戦へと進出。

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