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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
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切り札の魔法にて

 入場口から一度戻ると、すぐ隣に選手の控室がある。そこでチームの編成を組んだアレフが、待機している女性審判に編成表を手渡した。

 彼女はペコリとお辞儀をすると部屋を出て、再びフィールドへ向かった。


「お互いの編成が決まったようなので発表します!」


 それぞれの編成表を持った二人と、常にフィールドで待機している、計三名の審判が手を振りかざす。すると、観客から見える位置にある巨大な掲示板に文字が浮かび上がった。


   クロガネ支部     ワイルドファング

先鋒 スケイル   ―   セレン

次鋒 ブルーム   ―   アイリス

中堅 ビレッド   ―   ガル

副将 スティール  ―   チカ

大将 アイン    ―   アレフ


 多くの観客から興奮に満ちた声が混じり合う中、控え室ではアレフが落ち着いた声でセレンと最終確認をしていた。


「セレン君、わかっているね?」

「大丈夫よ。『レリース』は使わない……」


 レリースの魔法は前方に広がり、結界に触れれば瞬時に打ち砕いてしまうだろう。すると審判から警告を受け、それを二度行ってしまうと退場となり、今大会は出場停止になってしまう。


「だが逆に考えれば、一回は使えるということだ。その一回を温存して、強敵と当たった時に使うことができれば、我々が勝ち上がる可能性は大きくなる! 恐らくクロガネ支部はウチ等を見下しているだろう。一回戦ということもあって、先鋒から弱い順に選手を並べているはずだ。レリースを使わないセレン君でも、十分に勝機はある!」


 すると外にいる審判が高らかに叫ぶ声が聞こえた。


「それでは先鋒戦、選手の入場です!」

「呼ばれたから行ってくるわ……」


 いつものように静かな口調でそう告げると、セレンは部屋を出て行った。


「セレンちゃん、大丈夫ですかね?」

「セレンは天才だ。そうそう遅れをとることはないと思う」

「セレンちゃんって天才なんですか!?」


 チカが目をパチクリさせている。


「あの歳で多くの魔法を扱い、前代未聞の動物翻訳魔法まで完成させたんだ。俺なんかよりよっぽど天才さ」


 そう言ってガルは、フィールドに出ていくセレンの姿を控室から見守った。


* * *


 セレンがフィールドに出ると自分を呼ぶ声が聞こえた。キョロキョロと辺りを見渡すと、母親であるアルメリアの姿が見えた。仲間のナックル、ヴァン、ストルコの姿も確認でき、セレンはパタパタと手を振った。


(お父さんにも見せたかったな……)


 そんなことを考えながら中央で立ち止まる。相手はもう佇んでいた。

 クロガネ支部、先鋒はスケイル。彼はアレフと同じくらいの歳に見えた。三十歳までいくだろうか? 細身で身長はそれなりにある。そんな彼が、セレンを見るなりため息を吐いた。


「よりによって君が相手か……女の子を攻撃するのは気が引けるな。もしかしてそれが作戦なのか?」

「……気にしないで。全力を出して構わないわ」


 二人が定位置についたことで、審判が腕を振り上げた。


「それでは、先鋒戦、スケイル対セレン。試合開始!」


 合図で二人が同時に文字を刻む。


『マジックセイバー!』


 二人は全く同時に、同じ魔法を発現させた。


「うおおおお~~~!」


 スケイルがすぐさま距離を詰めてきた。

 ガキィィン!

 セレンは少し戸惑いながらも、冷静に受け止めた。


「……せっかちね。もう攻めてくるなんて」

「悪いがこれ一本で十分だ。最速で終わらせて、その勢いのまま次に繋げたい」


 そう語ったスケイルが、次々と武器を振りかざしてくる。

 しかし、セレンはそれらの攻撃を顔色一つ変えずに全て捌いていく。


「くっ! やるな! このぉ!!」


 スケイルが力任せに武器を振り下ろす。

 ヒョイっと軽くかわしたセレンが、隙を突いて反撃に出た。

 ザシュッ!

 慌てて身を引くスケイルだが、肩をかすめた一撃に表情が強張っている。


「……何なんだよ、こんなん想定外だぞ! さっさとやられちまえよぉ!!」


 バババッと文字を刻みだした。それを見てセレンも魔法を組む。


『マジックストライク!!』


 頭上に浮かんだ直径一メートルはある魔弾を、セレンに向かって投げ飛ばした。


『クラフトボム……』


 不気味に点滅する魔弾をそれに投げ込むと、大きな爆発が起き、魔法が相殺された。

 周りは煙で覆われ、お互いが見えない。

 セレンは居場所を特定されないように動き回りながら、ダブルマジックで組んだ魔法を発現させた。


『エリアルマイン……』


 スケイルがいると推測する空間に機雷をばら撒く。

 そしてそれらを爆発させた。


「ぐあぁぁ!!」


 叫び声が聞こえ、煙が晴れると片膝を付いたスケイルが苦悶の表情を浮かべていた。


* * *


 その様子を観客席から見る二人の人物がいた。


「おやおや、バージスさんの得意魔法じゃないですか。案外バージスさんって、パクられやすい魔法を使っていたんですね」

「んな訳あるか! あのチビッ子、完全に盗みやがった!」


 それはカインとバージスだった。二人は他の賢者と一緒に来ていたものの、人の多さにはぐれてしまったが、それを気にする様子はなく、その場で見物していた。


「まぁ、セレンさんはレリースが使えませんからねぇ。少し火力不足が否めない感じでしたから、これで補強できたんじゃないですか?」

「だが威力も俺のより劣るし、まぁ、及第点ってとこじゃねぇか?」


 そんな会話をしながら試合を見守っていた。


* * *


「ククッ、あっははははぁ」


 突然にスケイルが笑いだした。その豹変にセレンは不気味さを感じていた。


「わかったわかった、本当に本気を出さないとダメみたいだな。だったら見せてやんよぉ! 俺の本気をよぉ!!」


 口調が次第に荒々しくなり、見開いた目は血走っていた。

 再びお互いに文字を刻む。


『シャドウテイル!!』


 スケイルの杖から黒いムチのようなものが伸び、セレンに向かって襲い掛かった。


『マジックバリア……』


 周囲に結界を張ると、ムチは難なく弾かれ地面の落ちた。

 セレンはバリアを解除して、そのまま一気にスケイルに突っ込んだ。が――

 ギシッ!


「えっ!?」


 セレンは動けなくなっていた。

 体を何かに巻き付かれる感覚がある。確かめるべく自分の体を見るが、何も見えない。

 先ほどの魔法が怪しい。そう思い周りを確認すると、後ろに伸びた自分の影に、あの黒いムチが絡みついていた。


「あ~あ~こんなところで見せるつもりなんてなかったのによぉ! 一回戦目のザコチームに使うなんてとんだ計算違いだぜ!」


 スケイルは面白くなさそうな態度で、そのくせ余裕を見せてゆっくり歩き出す。


「お察しの通り、俺の切り札『シャドウテイル』は相手の影を攻撃する事ができる。影の持つ本体への情報を分析して、影から本体へと干渉するのがこの魔法さ」


 セレンの後ろに回り込み、影を足でバンバンと踏んづけながら解説を始める。


「くぅ……」


 セレンは身をよじり抜け出そうとするが、直接触れる事ができない触手を振り払うのは至難だった。


「まぁ、影から得られる情報なんてたかが知れてっから、大した力なんか出ないけどな……こんな風に」


 スケイルがクイっと合図を送ると、体に巻き付いた触手が強く締め上げてきた。


「あぁ……ぅ……」

「ほらな、絞め殺すこともできない。まぁ、この大会は殺しはご法度だし、動きを封じるだけでも十分だけどな」


 スケイルがゆっくりと、セイバーで強化した杖を構える。


「んじゃ、これで終わりだ!」


 武器を高く振り上げたその瞬間、セレンが目を見開いた。


『レリース!!』


 バリン!

 後ろに放った波は自分のセイバーを砕き、影に纏わりつく触手を砕き、スケイルのセイバーを砕いた。さらに広がる波が観客席にまで届く。

 ガシャーン!

 結界が、ガラスが砕かれた様に粉々に散り、ただの魔力となり空気中に霧散していく。


「はぁ!?」


 理解できないスケイルが、間抜けな声を出した。

 しかし自由に動けるようになったセレンを見て、先ほどの好機を逃すまいと掲げた武器を振り下ろした。

 ブオン!

 ただの杖は風を切るだけでセレンには当たらない。

 身を翻して回避したセレンは、その遠心力を活かしてスケイルを思い切り殴りつけた。

 ゴーン!

 思い切り頭に杖を叩きこまれ、地面に突っ伏すスケイル。

 審判が恐る恐る近寄ると、彼は目を回して気を失っていた。


「スケイル選手、戦闘不能。セレン選手のぉ~勝ぉ~利ぃ~」


 審判が高らかに宣告した。すると会場から異常な歓声が巻き起こる。


「うおぉ~~! あんな小さい子が年上を倒した!」

「ってか、結界がぶっ壊れてるぞ! これをあのチビがやったのか!? やべぇ~!」


 あちこちから戸惑いの声が聞こえてくる。


「セレン選手! 勝利宣告は出しますが、結界を壊したのはあなたの魔法ですね!? これによりペナルティを一つ与えます! もう一度結界を壊すと出場停止ですから、気を付けて下さい」

「はい、すいません……」


 そう言ってセレンはフィールドを出て控室に戻った。

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