トーナメントの開催にて
念のためですが、後から見た人がタイトルを見ただけでどこまで勝ち抜いているのか、
ネタバレにならないようにしたいと思います。
年が明けて一月になった。
ガル達はトーナメントに向けて、時間を見つけては訓練を行う。翻訳魔法を完成させたセレンも、遅れながらも訓練を開始していた。
三月になり卒業シーズンになった。この時、チカが入隊して正規のメンバーとして登録されたが、それ以外に入ろうという人物は誰もいない。それは必然的にアレフが五人目になることが確定することを意味していた。
アレフは過去に縛られて戦うことはできない。なので、アレフの代わりにライザー副隊長を五人目にしようかという話もあった。だが、アレフが直接その場で指揮を取り、作戦を練ることも考慮して、最終的にアレフが出ることになった。
四月になったある日、ガルは一度故郷に戻り、両親の墓参りに来ていた。
これまでの出来事で仲間が増えたことや、トーナメントに参加することを手を合わせて報告する。
墓参りが済んで街のみんなに挨拶をした。ノードの街よりももっと小さい、そんなガルの故郷。顔なじみのみんなと話せば、「頑張ってね」とか、「応援に行くよ」と言われた。
そんな街のみんなから勇気や元気をもらい、ガルは再び仲間のいる『今の居場所』へと戻っていく。
こうして、新たな魔法の可能性を探す者。
自分の限界を見つめ、超えようとする者。
そして、過去に囚われたままの者。
――それぞれが、それぞれの想いを胸に、ついにトーナメントが開催された。
* * *
「ワイルドファング、六番です」
アレフが番号札を掲げて見せた。
トーナメント表に自分のチーム名が書き込まれる。
「一回戦目は、クロガネ支部か……」
アレフはクロガネ支部のメンバーが集う、その場所を横目で見た。何やらやたらはしゃいでいるように見える。
――どうやら、ウチと当たったことが相当嬉しいようだ。それも当然か、とアレフは思った。
ウチは今まで最弱と言われるほどの、ある意味では有名なチームだ。当たれば必勝とでも思われているのだろう。
「果たして今回は、どうなることか……」
小さく呟いて、アレフは仲間の元へと戻っていった。
* * *
「ねぇ隊長、クロガネ支部ってどんなチームなの? 強い?」
二日後の試合を前に、街に戻って作戦会議を開いたところで、開口一番にアイリスが質問をしてくる。
「クロガネの街は、主に鉄を多く生産している街だ。街の至る所に鉄工場や製鉄所があって、ここで加工される鉄は質がよく、高値で取引されている。そして、この鉄を狙う事件をよく聞くが、ここの特殊部隊がそれを許さない。検挙率が高く、自分達の街で起こる事件に対しての熱意は凄いらしい」
「へぇ~、じゃあ強いんだ?」
「しかし、四年前の大会の時は派手な活躍はなかったと思うよ。弱い選手はいないが、目立った選手もいない、そんな印象だったかな」
するとセレンが後付けするように口を開いた。
「その街には『ここの平和は我らが守る!』みたいなポスターが多く張られていると聞いたことがあるわ。私から言わせれば、犯罪を抑制するためなのか、自分達の宣伝のためなのか、よくわからないわね」
「何それ、もしかして意識高い系のチーム?」
「まぁなんにせよ、まとまりがあって団結力の高いチームだ。油断はできない」
アレフはいつにもまして、真剣な様子で話を進めていく。
「どうせやるなら、狙うは優勝よね! 何回勝てば優勝だっけ?」
「全部で六回だな」
ガルがアレフの代わりに答えた。すると、セレンが難しい顔つきでアレフを見つめる。
「……隊長、正直な話、私達が優勝できる可能性はどれくらいあると思ってる?」
「……かなり難しいと思う。この大会は年齢制限がない。キミ達以上に経験を積んだ、熟練の魔法使いも多く出場している。おまけに私は戦えないので、実質四人で戦うことになるのが致命的だ。一回戦、二回戦はなんとか勝ち抜けるかもしれないが、三回戦、四回戦あたりはもうマークされ、対策を取られるだろう。まぁ、準決勝に進めれば御の字だと思っているよ」
アレフの見解に一同が「う~ん」と唸り声を上げた。
「ま、ちょっと厳しい方が逆に燃えるってものよ! チカ、アンタもそう思うでしょ?」
「そうですね。誰が相手でも全力で挑むのみです!」
闘志を燃え上がらせる二人を見て、ガルは笑みを浮かべた。結構面白いチームになったんじゃないかと思ったからだ。
「よし、まずは一回戦。必ず勝つぞ!」
メンバーは意思を固めて、大会に臨む。
――そして、試合当日。
「それでは今から、『クロガネ支部』対『ワイルドファング』の試合を始めます!」
女性審判が高らかに宣言した。その瞬間、観客からの声援が場内に響き渡る。
この闘技場は円形のドーム状になっている。選手が戦う中央には何もなく、地面は土でならされているだけだ。その直径は五十メートルほどあり、かなり広く感じる。
まぁ、魔法使い同士の戦いは飛び回ったりもするので、このくらいの広さが必要なのだろう。
「おい見ろよ。ワイルドファングってチーム、五人中、四人が子供だぜ?」
「しかもその内、三人が女だ。どんだけメンツが足りないんだよ」
「ワイルドファングってどこの街の特殊部隊だ? ノードの街? あ~、あのいつも初戦負けする田舎街の最弱部隊かぁ」
観客の声が聞こえてくる。散々な言われようだ。
チームのリーダーであるアレフが前に出て、少し後ろの離れた位置にガル達が並んだ。相手チームも同じようにしている。
「ワイルドファング、リーダーのアレフだ。よろしく頼むよ」
「クロガネ支部、リーダーのアインだ。よろしく」
お互いが挨拶を交わした。
アインと名乗った三十代くらいの男性。いかにもリーダーとしての風格がにじみ出るかのような堂々とした態度だ。
「それでは始めに、対戦形式を決めて下さい」
露出度の高い、審判の女性が指示を出した。それに対してアレフが真っ先に提案をする。
「まだ始まったばかりの一回戦。お互いに手の内を見せたくないだろう? 私は三ポイント先取を要求する」
すると相手リーダーのアインは、ムッとした顔つきで答える。
「ま、三人戦って終わるのであれば、ウチとしてもありがたい。その提案をのもう」
「では決まりだ。お互いに良い戦いをしよう」
そう言ってアレフは握手を求めるように手を差し出した。
しかしアインは不機嫌そうな顔で、その手を取ろうとはしない。
「それはこちらをバカにしているのか?」
「は? そんなつもりはないが、何か気に障ったかね?」
アレフは少し戸惑った様子で相手を伺った。
「キミ達は少し、自分の立場を理解すべきじゃないか? 女子供しか集められない最弱部隊が、手の内を見せたくないから三ポイント先取? 笑わせてくれるわ。おまけに良い戦いをしましょうだと? それはキミ達のチームとウチ等が同等みたいではないか」
「いや、そういうつもりではなく、お互いに全力を出そうという意味だったんだがね」
「ふん! まぁいい」
そう言うとアインは自分の陣地に戻って行く。アレフは差し出した手をそのまま自分の頭に持っていき、やれやれといった具合に後頭部を撫でた。
「何アイツ。感じ悪いわねぇ」
「まぁ、ウチが世間からそういう認識なのは間違いじゃないからね。仕方ないさ」
アイリスをなだめながら、アレフもまた自分の陣地に戻るように促している。
「なに、今後最弱と呼ばせないだけの戦いを見せればいい」
ガルの一言に、全員が笑みを浮かべて頷いた。




