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魔法使いの世界にて  作者:
一章 黒不石にて
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長き戦いの終結にて

ここまで読んでくれた方。

本当にありがとうございました。


 後日、ついにエルシオン一味の法的裁きが下された。

 セレン、ナックル、ヴァン、ストルコの四名は、首領であるエルシオンの命令に従ったという判決にて、執行猶予、つまり、特殊部隊の監視付きではあるが、牢に入る事はまぬがれた。

 しかし、当のエルシオンだけは禁錮刑三年が言い渡された。その時の彼は、自分の妻を生き返らせるという奇跡を達成させた事からか、驚くほどにいさぎよかった。


 その後、彼らがどうなったかと言うと、ナックルとヴァンはあの洞窟に住んでいた。セレンの母親であるアルメリアが、今まで寝込んでいた事によるリハビリも兼ねて面倒を見る事になった。仕事もそこから向かっているようだ。

 ちなみに、イルックスの死者蘇生リヴァイブによって、蘇生前の難病は消えており、ただ足腰が弱っているだけだと言う。


 ストルコはガルやアイリスの出身校でもある『ガルノフ学園』の周辺の森林にて、キメラと共に住み込みの土木作業にたずさわっていた。キメラの存在は非合法だが、今いる分には仕方なく、まかなえない分は森に返し、土木作業に必要であれば力を借りているようだった。


 ――そしてセレンは。


「では、我ら対魔法犯罪特殊部隊の新メンバーを祝して、カンパーイ!」


 キン! とグラスを鳴らし、隊員達は酒やらジュースやらを一気に口から流し込む。

 そう、セレンは特殊部隊の一員になっていた。


「ねぇ、セレンって何歳なの? この子、働かせて本当に大丈夫なの……?」

「十五歳だし、法的には問題ないんじゃないか……? 多分……」


 アイリスとガルは一種のサプライズに戸惑いを隠せない。この瞬間までセレンが入隊する事は知らなかったのだ。そんな、別の理由で不安を感じている二人にセレンが満面の笑みで隣に座った。


「二人とも、これからよろしくお願いします。私、早く借金返せるように頑張るから!」


 セレンは両の拳を握りしめて意気込んでいる。それもそのはず、彼女には借金がある。以前、学園を襲った時に設備を壊した時のものだ。

 執行猶予四人分の保釈金を出したエルシオンだが、それで金の底がついたために、セレンは借金返済のために仕事を探していた。そこへ例によってアレフの勧誘が始まり、セレンは迷うことなく二つ返事で承諾したのだった。


「セレン君、ちょっといいかな」

「あ、はい!」


 アレフ隊長のお呼びに少し緊張した面持ちでトコトコと駆け寄っていく。


「黒不石を集めた事で、願いが叶い、お母さんが生き返ったという事だが、他にも黒不石は存在するのだろうか?」

「え、え~と、多分もう無いと思います……」

「そうか……君は運が良いな。羨ましいよ……」

「えっ……?」


 セレンにはアレフの言っている事が理解できなかった。だが、一瞬見えた寂しそうな表情を再度確認しようと思った時、すでに彼は爽やかな笑顔に戻っていた。 


「いや、何でもないさ。さぁこれでSランク以上の魔法使いが三人。うちも段々と立派になってきたじゃないか!」


 そう言って、アレフはグイっと酒を飲みほした。


* * *


 そんなドンチャン騒ぎを遠目で見ている二人組がいた。フワフワを夜空を飛び、二人は空中で会話を始めた。


「思ったより刑が軽くてよかったですね」

「へっ! まぁ、甘ちゃん共にはお似合いの結果なんじゃねぇの?」


 カインのセリフにバージスが悪態で答えた。そんな彼が、カインに向かって真面目な声を出した。


「そんで、どういうつもりだよ……」

「何が、ですか?」

「とぼけんな! ガルは色々あったせいもあって見落としてるが、俺は忘れちゃいねぇぜ? お前は肝心な事を一つ説明していない。しかも、ツッコまれなきゃずっと黙っているつもりみてぇに見えるな」

「……」


 カインが押し黙る代わりに、バージスが言葉を続けた。


「お前は、俺があのチビッ子……セレンに殺された時に時間を巻き戻してこう言ったな?『その男に死なれては困る』ってよ。って事は、俺にも何か役割があるって事だろ? それは何だ? 別に今更、不老不死イモータルの維持って訳じゃねぇだろ」

「……未来予知フォーサイトの魔法を使う、エルネスさんは知っていますね?」

「当たり前だ。二百年前からの同じ賢者だ。あの女がどうかしたか?」


 カインは一呼吸置いてから、ゆっくりと話し始めた。


「バージスさんが封印されている間に、彼女が魔法を進化させて、遠い未来まで見えるようになりました。しかし、ある時を境に、一切の未来が見えなくなるらしいのです」

「未来が見えない……? なるほど、お前の言いたい事は大体わかったぜ……」


 バージスの早い反応に流石と思いながらも、カインは続けた。


「未来が見えない。それはつまり、その時間に彼女が死ぬ事を意味しています。死んでしまえばその時以降の未来を確認する事は出来なくなりますからね」

「だが、あいつも俺の不老不死イモータルがかけてある。絶対に死ぬ事はねぇ」

「はい。だから私は、こう解釈しています。その時に『この世界が崩壊する』、とね」


 ごくり、とバージスが生唾を飲み込む音が聞こえた気がした。


「まぁ確かに、この世界が無くなってちまえば、不死身だろうと意味はねぇからな。俺も諦めて全てのイモータルを解除するだろうぜ。だけどよ、本当にそんな事が起こるのか? 俺達SSSランクの魔法使いがいる、この世界が滅ぶなんてよ」

「それはわかりません。私の杞憂きゆうであればよいのですが、他の皆さんは出来る限りの準備を進めています」

「じゃあ、何でその事をガルに言わなかった? あいつの無敵魔法インビシビリティが完成すれば……って、言える訳ねぇか」


 バージスは悟ったように後頭部をボリボリと掻きむしっている。


「えぇ。世界崩壊の危険があるので、それまでにSSSランクの魔法を完成させておいて下さい。なんて言えませんよ。それを背負わせるには、あの子達はまだ若すぎる。できる事なら、このまま自由に人生を歩んでほしい」

「だな。で、その未来が見えなくなるってのはいつなんだ?」

「今から約二年と四か月後です」


 それを聞いたバージスは突然笑い出した。カインはバージスが気が触れたのかと一瞬考えるも、彼はそんなタマじゃない事を思い出す。


「いいねぇ。面白れぇじゃねぇか! 少なくとも、今までのようなダラダラした生き方よりもよっぽど面白れぇよ! この世界を消滅させられるもんならやってみろってんだ!」

「はは……今は、あなたのその強気な性格が頼もしいですよ」

「よし! だったらよ、適合者の杖をもっと量産して、SSSランクの魔法使いをスカウトしようぜ!」

「そう簡単に作れませんよ」


 二人はそんな会話をしながら飛び去って行く。空には今の話が嘘のような、美しい満点の星空が広がっていた。



 ――世界崩壊まで、あと二年、四か月。

これにて一章完結です。

これで終わりにしようかとも考えたのですが、

そうすると自分の妄想を吐き出す事が出来なくなる事や、

まだまだこの「なろう」で活動していきたい気持ちがある事。

それらを踏まえて続けて行こうと思います。

今まで以上に不定期になるかもしれませんが、どうかご了承下さい。


こんな自分ですが、なにとぞよろしくお願いします。

もしよろしければ、感想、評価を頂ければ幸いです。

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