魔法使いの茶番にて ~杖の考察
やっと主人公、ヒロイン、ムードメーカーが揃いました。
隙あらば息抜きの茶番を入れたくなる……
「ガルって特殊部隊だったのね。驚いちゃった」
「まだ新人だけどな」
バージス攻略への役割があらかた決まった後、一同が持ち場に戻る中、Sランク組のメンツは少しの間雑談を始めた。
「セレンさん、その杖……あなたも適合者ですね?」
「……はい」
カインの問いにセレンがおずおずと頷いた。
「そうだったのか。通りでその杖を使うと動きが変わるわけだ」
「これで適合者が三人。こうも近くに集まるなんて聞いた事がありませんよ。これも運命かもしれませんね」
興味深そうにカインがマジマジと見てくる。
「……三人って事は、アイリス……さんも?」
「ああ、アイリスでいいわよ。もっと気安い仲でいきましょうセレン」
「……う、うん」
なにやらアイリスとは気まずそうにビクビクしている。そんなセレンが思い切ったようにアイリスの正面に立ち、突然頭を下げた。
「あの……前にケガをさせてごめんなさい!」
「え……? あぁ~、ガルと戦ってた時に、あたしが庇って川に流された事ね。大丈夫! もう気にしてないわよ」
「それでも、ずっと謝りたいって思ってたから……言えてよかった」
セレンは胸に手を当てて、ホッと一息ついた。
そんな仕草をアイリスはじっと見つめ、
「この子、可愛いわね……」 と呟いた。
「あたし、ガルってロリコンなんじゃないかって心配してたけど、これは確かに手元に置いておきたくなる可愛さだわ」
「おい……」
「ガルってロリコンなの?」
納得いかないという表情のガルに、セレンが追い打ちをかける。
「そんな訳あるか! 前にも言ったが俺は素直な奴と友達になりたいだけだ!」
「ま、ガルのロリコン疑惑はどうでもいいんだけど」
「おい……」
「セレンの杖は何て名前なの? あたしの杖は……何て言ったっけ? ど忘れの杖!」
「忘却の杖です」
カインが手慣れた感じで訂正する。
「私のは、『不可視の杖』って名前よ」
「ふ~む、やっぱり変な名前ね。不可視とか忘却とか、何か意味あり気よね」
「確かにそうね……」
一同が気になり始めて、少しの間考え込んだ。
「装備者と何か関連があるかもしれないわ。セレン、不可視っぽい事で心当たりはない?」
「ふ、不可視っぽい事……?」
アイリスの問いにセレンが戸惑っている。
「ん~、特に思いつかないわ」
「そう……でもセレンって、家族の事になると周りが見えなくなって手が付けられないわよね?」
「ご、ごめんなさい……」
アイリスの直球をまともに受けたセレンは青ざめ、ガタガタと震え出した。
「おい、セレン苛めんなよ」 と、ガルがジト目で言った。
「そもそも不可視は周りが見えなくなるという意味ではありませんから」 そうカインが付け加える。
「そうなの? ごめんねセレン、そんなに小動物みたいに震えないで」
男組の非難の声を浴びてアイリスがたじろぐ。
「……アイリスは? ……忘却っぽい事、ない?」
「ん~、あたしも特には思い当たらないわねぇ」
「いや、あなたさっき杖の名前さえ忘れてたじゃないですか」 と、カインがジト目で言った。
「学園でも宿題は大体忘れてたな。杖の名前が一番しっくり来るのはアイリスじゃないか?」 そうガルが付け加える。
男組の容赦ないツッコミに、アイリスが口を尖らせた。
「ちょっ! セレンの前で印象悪くなるような事言わないでよ!! そう言うガルはどうなの? 回帰っぽい事ない?」
「ん……この前落とした財布が届けられて戻ってきた事くらいか」
「アンタねぇ、役人がお金届けてもらってんじゃないわよ」
「いやいや、それは仕方ないだろ!? 医者が病気になる。火消しの家が火事になる。検察官がお金を落とす事だってある」
「まぁそれもそうね、犯罪者が犯罪に巻き込まれる事もあるし……あ」
「ご、ごめんなさい……」
アイリスがいらない事を口にしたと気付いた時にはすでに遅く、セレンは再びプルプルと震え出してガルの後ろに身を隠した。顔だけを半分出してアイリスの様子を伺っている。
「おい、セレン苛めんなよ」
「ああ! セレンごめんね! あたし思った事ポンと口に出ちゃうだけだから気にしないで。責めてる訳じゃないから!」
アイリスが身を屈ませ、小動物の気を引くように指をクイクイと動かしてあやそうとするが、セレンはジト目で警戒したままガルの後ろから出てこない。
「……アイリスは絶対怒ってる! 私の事が嫌いなんだわ」
「いや、そんな事ないから」
「俺が学園で人間関係に苦労した気持ちが分かるだろ?」
「ガル大変だったのね。でもこれからは私がついてるわ」
しみじみと分かり合う二人だったが、ここでガルが話を元に戻そうとした。
「それはそうと、杖と使い手に関連性は無いんじゃないか? アイリス、俺の杖を持ってみてくれ」
ガルが回帰の杖をアイリスに渡した。
「うん、魔力の恩恵を感じる。……って事は」
「やはり適合者はそのシリーズの杖ならどれでも使えるという事だ。すなわち杖の名前と、使い手に関連性はない」
振り出しに戻り、一同が考えを見直そうとしたとき、「そういえば」、とセレンが何かを思うように呟いた。
「回帰といえば、私達はお母さんを生き返そうと、つまり戻そうとしてたわ……あ、でも杖と関係あるか分からないけど……」
そのセリフにガルは、何かが引っ掛かったという感じに考え込む。
「それなら忘却と言えば、あのバージスという男、昔の事を忘れたような感じだったな……」
「……あっ! あたしわかっちゃったかも!」
アイリスがピンと来たという表情で一同を見渡すも、男連中は渋い顔をしていた。
「アイリス……あなたは少し黙ってた方がいいですよ。ロクでもない事を言いそうな気がしてなりません」
「少しは乗っかってきてよ! いい? この杖にはとてつもない力が眠っていて、その力を名前で表しているんじゃないかしら?」
「と、言いますと?」
カインが聞くと、アイリスは一度息を整えて、雰囲気のある口調で語り出した。
「物語風に説明するわね。その昔、バージスはついに不老不死の魔法を完成させた。その魔法を過信して、彼は世界を自分の物にしようと暴君に出たの。それに立ち向かったのが当時の適合者! 適合者達は杖に秘められた力を解放しながら、バージスと戦った。回帰の杖で仲間を蘇らせて、忘却の杖でバージスの記憶を奪った! そうしてついに彼を黒不石に封印する事に成功したの! もしかしたらその封印も、適合者が杖の力を借りて行ったものかもしれないわ!」
ノリノリで語る、アイリスという語部に、セレンだけは目を輝かせて聞いていた。
「ガル! 杖の力を解放して! お母さんを生き返らせて!」
「い、いや、そう言われても……そもそも根拠のない話だしな……」
後ろから興奮して服を引っ張るセレンに体を揺らされながら、ガルは戸惑っていた。
「根拠は他の杖の情報を調べればわかるんじゃないかしら? カイン、このシリーズの杖に『封印の杖』みたいな名前の杖は無いの?」
「えっと……すいません、そこまで詳しくないので分かりませんね」
「封印の杖なら実在するよ?」
答えたのはアレフだ。せわしなく歩き回っていた彼がタイミングよく今の話を聞いて、話に混ざってきた。
「ここより南の大陸で、未だ適合者が現れない杖が展示されていたはずだ。その杖の名前が確か、封印の杖だったような……」
アレフの言葉にアイリスがいきり立った。
「ほら、ほらほらほら! あたしの推理、当たってるんじゃないの!?」
「ガル! 杖を使いこなして力を解放するのよ! そしてお母さんを生き返らせて!!」
二人の勢いに押されながら、ガルは疑問を口にする。
「待て待て! バージスの記憶を封印したにしても、中途半端すぎるだろ、あいつは封印された事以外の記憶は持ってたぞ。そもそも人の記憶を消すなんて、それこそSSSランクじゃないか。そんな効果を道具に込められるものか?」
その場は期待と興奮、疑惑と困惑で混乱しつつあった。その状況で、
――パンッ!
と手を叩き、カインは一同を沈黙させた。
「はい、もうこの話はここまでにしましょう。それが事実であれ、今のあなた達では使いこなせない。今は先ほど決めた作戦に集中して、自分の出来る事を精一杯こなす事が重要じゃないですか?」
カインのこの一言によってその場はお開きとなった。
ガル達は魔法の組み換えのために部屋に戻ろうとしたが、アイリスは途中で立ち止まり、カインに向き直った。
「ねぇカイン。さっきはどうして封印の杖の事を隠そうとしたの?」
アイリスはカインの糸目の奥を射抜くような視線を送る。
カインは目を逸らさずに、ため息を小さく吐いた。
「アイリス、確かに私は旅先で情報を集めているので色々と情報通かもしれませんが、知らない事が何もない訳じゃありません。むしろ物を忘れる事だってあります。杖の事も本当に知らなかっただけで、隠そうとした訳ではありませんよ」
「……そう、そうね、変な事言ってごめんなさい。じゃああたしも部屋に戻るわね」
そういってアイリスは足早に去っていく。
「やれやれ、あの子はたまに鋭い時がありますね……」
一人残されたカインは誰にも聞こえないような小声でそう呟いていた。
誰かが言いました。作者はあらすじにこそ全力を注ぐべきだと。
と、いうことであらすじを変えてみました。
ほんとに、これあらすじ詐欺じゃないの? ってくらいカッコつけてみました(笑)




