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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
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気功術の使い手にて②

* * *


「隊長さんごめんなさい……全然ダメージを与えられなかったわ……」


 ガルにおんぶをされているセレンが、そう言った。


「いやいや、あのデタラメな中堅を倒してくれただけで十分だよ。ゆっくり休みたまえ」


 そうして、まるで二日酔いでまともに動く事も出来ないといった様子のセレンは連れて行かれ、その場にはアレフとジャックだけが残った。


「いやはや、それにしてもキミが使ったのは『気功術』だね? 魔法で操作しているにしても珍しいものを見せてもらった」


 アレフが感心しながらそう言うと、ジャックは少し驚いた表情を見せた。


「気功術を知っているんスか!?」

「もちろんさ。実はこれでも格闘技が好きでね、色んな試合を観戦するのが趣味でもあるんだ。その気功術は独学で作り出したのかい?」

「まさか。自分が通っている道場の師範が使えるので、無理を言って教わったんス」


 気功術。それは、生物の体内に流れる生命エネルギーを具現化させて操る技である。

 度々気功術を使えるという人物が出ては取材を受けて話題になるが、そのほとんどはデタラメでインチキだったりする。

 また、本当に気功術を使えたとしてもその恩恵は決して大きいものではない。精々体中に気を流して血流を良くしたり、僅かに身体能力を上げる程度である。

 したがって、あからさまに人間離れした気功術の使い手はそれだけでインチキだと言えた。


「気功術って、胡散臭いってイメージもあったりするッスけど、ウチの師範は本物ッス。自分は師範から教わった気功術を魔法で増幅させる事で、より練度が高くて戦いにも実用できるレベルにまで引き上げたんス」

「なるほどね。本物の気功術の使い手がいるとは驚きだ。どうかな。セレン君と同じように、その技を駆使して私とも格闘技で勝負してくれないだろうか?」


 そんなアレフの提案に、ジャックは目をパチクリとさせていた。


「お兄さん……アレフさんも格闘技が使えるんスか?」

「得意と言えるほどの腕ではないがね。下手の横好きというやつかな。けど、目の前に使い手がいるのならぜひこの身で体験してみたい」


 そう言って、アレフは拳を握り構えを取る。


「分かったッス。自分もまだまだ未熟ッスけど、お相手するッスよ」


 釣られるように、ジャックも似たようなファイティングポーズを取った。


「使う技はなんでもいいんスか?」

「ああ、得意なものを使ってくれて構わない」

「そッスか。なら自分は師範に教わっている『天地流』を使うッスよ。まだまだ知名度は低いッスけど、護身術から拘束技。空中技もこなす万能の武術ッス」


 そう言って、ジャックは一度取った構えを流れるように変えていく。


「おお! レアな流派を見れるとはありがたい。では、お手柔らかに頼むよ」


 二人の視線がぶつかりあい火花を散らす。そんな様子に、審判が勝負の合図を出そうと右手を振り上げた。


「それではこれより第六回戦を始めます! 中堅アレフ選手対、副将ジャック選手。試合ぃぃ始めぇぇ!!」


 ブン、と審判が腕を振り下ろすと同時に、二人は文字を刻み出す。


「オーラエンハンス!」

「ストレングス!」


 二人の体は魔法によって強化される。そして互いに睨み合ってから、ほぼ同時に走り出した!

 相手に向かって走る勢いをそのまま乗せて、ジャックが飛び蹴りを放つ。アレフはその蹴りを滑り込むようにして回避した。

 ジャックが着地する瞬間を逃さずに、今度はアレフが回し蹴りを放つ。その蹴りは見事にジャックの腹部へとヒットした!

 ……だが、ジャックは顔色一つ変えない。蹴りの勢いで後ずさるものの、平然とした顔をしていた。

 そんなジャックがお返しと言わんばかりにハイキックを放つ。アレフは腕を盾にしてガードするが、その攻撃力にアレフの体は弾き飛ばされていた。

 なんとか地面を踏ん張り堪えるが、ガードした腕は大きな衝撃でジンジンと痺れていた。


「くぅ……攻撃がとても重いな……」

「オーラエンハンスは体内の気を増幅させて、全身を覆う魔法っス。今自分の体は気という法衣を纏っているせいで、攻撃、防御、速さ、全てが上昇している状態ッス。いわば『ストレングス』の上位互換。単純に殴り合うだけならアレフさんに勝ち目はないッスよ!」


 そう言って、ジャックは一気に突撃してくる。そしてその勢いを乗せた右ストレートを振るうが、その時アレフは身を屈ませてジャックの腰へとタックルをかました!

 ドン! という衝撃でジャックの足が地面を離れ、アレフはそのままジャックを地面に押し倒した。そして素早くジャックの足に自分の足を絡ませて、関節技へと持ち込んだ。


「なにも殴り合うだけが格闘技ではない。これでどうかな!?」


 ガッチリと絡み合わせた足に力を込める。

 ジャックの気功術で強化された体は、まるで丸太のような固さであったため、どれだけ力を込めても効いているのかよくわからなかったりする。


「やるッスね。けど……」


 ジャックが動き出した。絡めた足を力で強引に振りほどこうとする。

 アレフは負けじと抑え込もうとするが、それでも強化されたジャックの力や、硬くなった体に関節技が通じにくい事も重なり、ついに技を解かれてしまう。さらにジャックは抑え込もうとするアレフを、なんと片足で持ち上げてしまった。

 木にすがり付く猿の如く、ジャックが振り上げた片足にしがみ付くアレフを、そのまま地面へと叩きつける!


「がはっ!?」


 衝撃でうずくまるアレフに、今度はジャックが素早く技をかける。

 アレフの腕を取り、両足で体と首を押さえつけ、ガッチリと固定させていた。


「さぁ降参するッス。オーラエンハンスで強化した技から逃れるのは至難の業ッスよ!」

「ふっ! それは……どうかな!」


 アレフは体をよじって体勢を崩す。柔軟に体を捻り、腕をしならせて、ジャックの拘束から少しずつ抜け出していった。


「ちょ……そんなんで抜けられるはずが……あ、あれ!?」


 見事に抜け出したアレフが流れるように同じ固め技をジャックにかけており、その事に彼は驚嘆していた。


「ふふふ。伊達に格闘技好きを名乗っていはいないという事さ。今の技は抜けるにのコツがあるんだ。さぁ、キミは同じように抜けられるかな?」


 アレフは体を固定してジャックの動きを封じる。

 さすがのジャックも、体勢が悪くてうまく力を出せずにいた。


「こ……このぉ!!」


 なんとジャックは仰向けで拘束されている状態から、地面に向かって肘鉄を放った! 強化されたジャックの肘で突かれた地面は抉られ、小規模の窪みが出来る。

 するとジャックは、アレフの抑え込みからスルリと抜け出した。窪みを利用する事で、自分の体勢にゆとりを生ませたからだ。

 拘束を抜けたジャックは、反撃のためにスルリとアレフの背後に回り、そのまま後ろか抱き付いた。

 両足でアレフの体にしがみ付き、腕を首に回し締め上げる。完全に呼吸を遮断するような締め技だった。

 強化されたジャックの拘束はすさまじく、背後から首を絞められているために逃れる事も出来ない。アレフは振りほどけずにただもがくだけであった……


「ぐぅ……どうやら……ここまでか……」


 アレフの動きが止まる。

 観念したように思えたその瞬間、アレフはいつの間にか刻んでいた魔法を発現させた!


「マジック……セイバー!!」


 ズンッ!!

 地面から伸びた魔法の刃が、アレフもろともジャックの体を貫通していた。


「なっ!? どう……して!?」


 困惑しながら、ズルリと力の抜けたジャックからアレフは解放される。


「ははは……別に格闘技と関係ない魔法を使ってはダメだというルールにはしていないだろう?」


 二人を貫通する刃が消えていき、二人はゴロリとその場に転がった。


「そん……な。卑怯ッスよ……」


 恨めしそうに見つめるジャックの視線をものともせずに、アレフは堂々と答えた。


「卑怯な手を使い合併を持ち掛けてきたのはそっちが先だろう? 悪いとは思うが、私達は決して負けるわけにはいかないんだ。どんな手段を使ってもね」


 迷いなくそう答えるアレフに、ジャックは戦慄して言葉を失う。

 そんな二人に審判が駆け寄って状況を見定めていた。


「こ、これは意外な展開です!! なんとアレフ選手、ルールの盲点をついての奇襲を行いました!! これによって両者戦闘不能。よってこの勝負は……引き分けとします!!」


 ブーブー!!

 客席からはブーイングが飛び交う。しかし、それでもアレフは悔いのない表情をしていた。


「ジャック君。勝負の流れはこのような形になってしまったが、キミとの格闘技対決は楽しかったよ。信じてくれとしか言いようがないが、それだけは本当だ」


 二人で大の字になって倒れる中、最後の最後にアレフはそんな言葉を残すのであった……

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