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百合色の鍵姫~転生した元魔王の甘々百合生活  作者: 恋する子犬
第三章 尊い姉妹と幸せを得た少女

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第82話 わがまま

 ――アリア…!


 そう呼びかけてくるユィリスの声が聞こえてきたのは、私たちがグランツェル家の拠点らしき建物へ、丁度辿り着いた時であった。

 

「ユィリス…!?どこ…!」


 声というよりも、どちらかと言えば思念に近い。ただ聞こえてくるだけでなく、まるでユィリスの元へ導いてくれてるかのように、私の心の奥底まで響いてきたのだ。


「今の、聞こえた!?」

「はい。ユィリスさんの声が…」


 どうやら、その思いは私だけでなく、他のみんなにも届いているみたい。

 魔法を介して、私たちに思念を伝えているのだろうか。それにしては、何処かへ近づく度に思いの声が強くなっているように感じるし、何かを祈っているようにも思える。

 これ、精霊が言葉を発した時と同じような感覚…。


「そうか…!!」


 そこまで考えて、すぐにピンときた。そのまま、私は確信をもって、ユィリスの声がする方へ駆け出す。

 みんなが疑問を呈する中、レッドが代わりに説明してくれた。


《これは、もしかしたらシロの加護の影響かもしれないでやがります!》


「シロの??それって、前に言ってた『思いやりの加護』のこと?」


 ルナの質問に、今度はティセルが答える。


「そうよ、それだわ!シロの力!……いやでも、あの子がここまで精巧に他者の思いを伝えられるかしら。加護同士の〝共鳴〟なら分かるけど…」


 理屈なんて二の次だ。閉鎖空間のような敵の本拠地に堂々と乗り込んだ私は、広々とした玄関ホールに入り込んだ直後、上階左の壁の奥から、途轍もない魔力を感じ取る。

 キロに似た闇のオーラ。だが、少しばかり魔力の質は劣っている。


「あそこだね…」


 そちらに焦点を当てた私は、すぐさまユィリスの存在に気づいた。

 慣れ親しんだ者の、それも友達が常に放っている生気を感じ取るなど、私にとっては造作もない。しかしながら、そのエネルギーが大分弱り果ててしまっていることに、胸騒ぎを覚える。

 明らかに、穏やかではない空気感。私は一瞬でそこまで悟り、大げさに魔力を込め、物質を無視して〝コンバート〟を行う。


 ――シローーーーー!!!!


 と同時に、施設内に轟くユィリスの叫び声。彼女が居た部屋に立ち替わるや否や、今にも灼熱の黒炎に巻き込まれる寸前のシロが、眼前に飛び込んできた。

 嘘でしょっ!!?

 敵を叩きのめそうかと考えていた私は、時を移さずプランを変更。咄嗟の判断で、シロを魔力で保護しつつ、何者かの闇魔法を受ける。

 消えぬ炎の強襲が部屋の外壁を破壊し、玄関ホールまで熱風が拡散した。

 体力が尽きたのか、シロはぐったりと卒倒している。

 あと一歩遅れていたら、どうなっていたか。本当、間に合って良かった。

 一先ずシロを懐に抱えた私は、大破した壁からユィリスの元へ。満身創痍の彼女を見て、更に胸が締め付けられる。


「ユィリス!!ユィリス!!」


 こんな状態になるまで…。私が単独行動を起こさなければ…!

 いや、感傷に浸ってる場合ではない。閉じかけているユィリスの瞳に訴えるように声をかけつつ、回復を施す。


「あり…あ…」


 私に気づき、ユィリスの口が動いた。どうしようどうしようと軽く悩乱していた私は、胸を撫で下ろし、そっとユィリスの身体を抱き寄せる。

 激しく脈打つ彼女の心臓を落ち着かせるように、頭を撫でてあげながら、ぎゅっと優しく包み込んだ。その行動こそが、鼓動の高鳴りを加速させていることなど露いささかも知らずに…。




     ◇




「もう、絶対一人にしないよ…」

「アリア…」


 涙を零しながらも、ユィリスは私の服の裾を強く握り締めて離さなかった。

 いつも強気で、一切の弱みを見せたことがない。そんなユィリスが、ここまで感情をさらけ出すなんてよっぽどだ。

 胸が張り裂けそうな思いに加え、強い憤りを覚える。

 こんなに可愛くて健気な子を悲しませた奴は、どこのどいつだよ…。

 今にも爆発しそうになる感情を抑えながら、ゆっくりと口を動かして私に伝えるユィリスの言葉に、耳を立てた。


「アリア…姉ちゃんは……姉ちゃんは、勇者の結界に閉じ込められてるのだ。姉ちゃんを救い出すには、キロ・グランツェルを倒さなきゃいけない。だから…だから――」

「倒すよ!!!」

「……っ!?」

「私が、必ず、絶対、何があっても…アイツを倒す!!」


 お願いなんて必要ない。その前に、私は強く、ハッキリと豪語した。

 溜まらず、私の肩に顔を埋めたユィリス。溢れ出てくるものを堪え切れず、むせび泣いてしまう。

 そんな中でも、彼女は確認するように、再度尋ね返した。


「で、でも…いいのか…?わ、私は……散々お前に意地悪したり…我がまま言ったりして。うぅ…そんな、生意気な……私の言う事を、聞いてくれるのか…」


 生意気な自覚あったのね…。

 なんて思いつつ、今度は私が、自分の気持ちをぶつけるように答える。


「まあたしかに、ユィリスには世話を焼かされることが多いけど……私は、そんなユィリスが好きだし、大切な友達だと思ってる」

「アリア…」

「当たり前だよ。こんなに可愛い女の子のお願いなんて、たとえ無茶ぶりでも我がままでも、全部受け入れたくなっちゃう。えへへ…これは、私の我がままかも。だから、もう安心して。いつもの、元気いっぱいなユィリスを、私に見せてよ」


 互いに顔を見合わせた後、私はユィリスの頬を伝う涙を優しく拭ってあげた。

 事情がどうとか、敵が強大だとか、理由がどうとか、そんなのは私にとっては些細な事に過ぎない。

 ただ、この子が悲しんでいるから。私が戦う理由は、それだけで十分だ。

 

「ズルい…のだ」

「ん?」

「ん~~~!」

 

 駄々をこねているのか、ユィリスは甘えるように、私の胸へ顔を擦り付けてくる。心なしか、私のシャツで涙を拭いているようにも思えるけど。

 にしても、ズルい…とはどういう意味だろうか。 

 少し落ち着き、泣き止んだユィリスは、顔を上げ、なぜかニヒッ…と意地悪に笑う。そして、私の胸を見て一言。


「アリアは()()()だから、抱き締められても全然窮屈じゃないし、嫉妬もしないのだ」

「……」


 うん、生意気だ。でも、この意地悪そうな表情が、私は溜まらなく好きなわけで…。

 悔しいけど、それ以上に可愛く思ってしまう。

 それでいい。元気なユィリスに戻ってくれたことが、私にとって何よりも嬉しいのだ。

 と、二人で和やかにお喋りしている時間すらも与えてくれないようで、遠くからこちらを眺めている二人の男女が水を差してくる。


「おい、そこの黒髪女!!そのガキをこっちに渡せ!ウチの錬金術師が困ってる」

「そ、そうよ!さ、さっさと渡しなさい、この…メス!!」


 ふむ、ただの()()か。

 さっきからギャンギャン喚いていたみたいだけど、そろそろ無視も止めにしてやろう。

 けど、奴らの秘めた魔力量だけで雑魚と一蹴するのも良くないか。一応、()()()()()()どうかだけ見極めておこう。

 女の方は、私の殺気にびびってるみたいだけど、男の方は精神力が強いのか、物怖じしていない。まあまあ強そうだし、こいつらが勇者パーティの面々と見てよさそうだ。


「さてと…」


 私はそう一呼吸置き、再度安心させるように、ユィリスの頭にポンと手を置く。私なりの「ちょっと待っててね」の合図だ。

 そして立ち上がった瞬間、私は奴らに向かって、強烈な殺気と共に重々しい言葉を投げかけた。


「で?私の大切な友達を傷つけた奴は、どっち?」


 この場の空気が一瞬にして、私の独壇場へと変わっていく。

 相手の恐怖心、精神、身体へ極限まで影響を及ぼす究極の殺気圧(オーバー・オーラ)。勿論、特定の人物に対してしか向けていないから、他に差し響くことはない。

 ここまで私を怒らせるとは、下衆も良い所だ。こいつらの内にある闇、そして外道なまでの思想だけで見れば、ルナの幸せを奪ったベルフェゴールと良い勝負ができるだろう。

 

(空間に…()()が!?)


 強気に出ていた男の方も、逆らってはいけない殺気を目の当たりにし、怖気づく。それでも逃げ出さないだけ、褒めてやるとしよう。心の中でね。

 まあ、今更怯んだところで、慈悲を与えるつもりはない。もう、奴らに油断も隙も与えたくはないのだから。


「三つ数える内に答えなきゃ、どっちも屠る」

「ひっ…!!」

「ば、馬鹿言ってんじゃねぇよ!!俺たちを誰だと思ってやがる!勇者パーティだぞ!世界ランク32位、キロ・グランツェルのなぁ!!今謝れば許してやる!つっても、俺たちを殺したところでお前は――」


 そこで、男の声は完全に途絶えた。

 いや、黙らせたと言うのが適切だろう。私の手元から照射された雷の一閃が、即刻奴の腹を貫いた。

 10メートル以上は離れていたが、秒速500キロメートルを誇る私の放電は、気づかぬ間に男の身体機能を奪う。あまりに煩いから、手加減を忘れてしまった。

 相手の急所をつく異端魔法。これでも、前世の頃より一万倍くらい遅い攻撃なのだけど。

 世の中にはもっと悍ましい生物が存在しているのだから、怖いのなんの(←元世界一の自覚無し)。


「て、テレス……う、嘘…何なの、あの女……」


 口内から煙を出し、無様に倒れる親族を前に、女はガクガク…と足を震えさせながら、その場にへたり込んだ。

 そのまま、私は〝雷速〟で男の元へ移動し、〝魔力吸収(マジックドレイン)〟で奴の持つ闇の魔力を全て宙へと吐き捨てた。

 その際、簡単に闇の魔法を解読。これで、少しは今後の戦いの糧になるだろう。

 

「次は…」

「ま、待って…!!あ、謝るから!謝るから!!だ、だから…やめて~~~!殺さないで~~~!!」


 泣きじゃくり、女は失禁しながら命乞いをする。

 殺しはしない。殺す価値がないのもそうだけど、こいつらには一生を賭けて、己の罪を償ってもらう予定だから。

 けど、うん…流石に()()()()()の女の子を一方的に暴行するのはどうなのだろうか。

 と、内なる私の〝天使〟が脳裏に囁いてくる。

 いやいや、女の子とか関係ないし。こいつはユィリスを傷つけた、人ならざる者だ!

 と、内なる〝悪魔〟も参戦する。

 やっぱり、私は女の子に弱いなぁ…。

 仕方ない。ここは驚かせる程度の魔法を――。


「ぶくぶく……」


 気絶させるような精神魔法で許してやろうと思った矢先、気づけば女は泡を吹いて倒れていた。

 仮にも勇者パーティが聞いて呆れる。まさか、殺気だけで気を失うとは、根性の欠片も無い奴だ。


「お前、相変わらず凄いな。あっけなくて、逆にこいつらに同情するのだ」


 そうユィリスが口にした時、


「あっ、いたわ!ユィリス~!!」

「良かった!無事だったんですね~!」


 後から来たみんなと合流する。

 今回の件で、一番に責任を感じていたルナは、真っ先にユィリスへ抱きついた。


「ユィリス…!ごめんね、私が傍にいなかったから…」

「い、いいのだ…。あの時は、私が騙されただけだったからな。でも、心配してくれてありがとうなのだ」

「そんなお礼なんていいのよ、もう~~!!」


 これで、またみんな無事に揃った。いや、一匹足りないか…。

 後は、力を合わせて残りの馬鹿どもを叩き潰すだけ。ここからは、総力戦だ。

 アィリスさんを助け出すには、やはりあの男――キロを倒さなければならない。

 精々、首を洗って待ってるがいいよ。もう、お前を倒す算段はつけてある。

 と自分の中で覚悟を決め、私はみんなの輪に入っていった。

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