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百合色の鍵姫~転生した元魔王の甘々百合生活  作者: 恋する子犬
第三章 尊い姉妹と幸せを得た少女

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第78話 殺意に蝕まれた悪魔

 空を裂く凄絶な一振り。リツが居座っていた広場の立ち木を、軽々と真っ二つに斬り落とした。


「何!!?」


 近くを歩いていた人たちの目には、木が何の前触れもなく急に切り倒されるという奇妙な光景が映ったことだろう。なぜなら、彼らには木を薙ぎ倒した本人の姿が見えていないのだから。


「あっぶな……何なの?急に」


 私の内なる〝防衛機構〟が、禍々しい殺気をいち早く感知。間一髪、巻き添えになりそうだったリツを抱え、何者かの暗殺を躱した。

 そして、私の首を跳ねようと襲い掛かってきたそいつを視界に捉える。

 

「こいつは…」


 全身が暗黒の魔力に包まれた、何らかの精神体。ローブで隠しているように見えるけど、恐らく肉体がない。

 巨大な鎌を持ち、霊の如く浮遊している姿は、まるで死神だ。

 背丈は、おおよそ2メートル弱。視覚は存在しているようで、異常な殺気を纏い、こちらを見据えている。

 通常、肉体のない霊的な生物を〝精神体〟と呼ぶが、先程木を薙ぎ倒したとこを見るに、こいつは物事に対して直接的な干渉が可能なタイプだろう。なんとも厄介な化け物を呼び起こしてしまった。


「お嬢ちゃんたち、大丈夫か~い?」

 

 と、近くにいた男性が真顔で声を掛けてくる。

 もしかして、この化け物が見えてない…?

 ただ自然と木が倒れたとでも思っているのだろうか。そこまで騒ぎになっていない周囲の空気感からも、私はそう判断した。


「……」

 

 奴は言葉を発さず、或いは話すことができないのか、無言で鎌を強く握り締めている。

 手荒いご挨拶をどうも…と言いたいところだけど、あれは完全に殺しにきていた者の動きだった。その殺気が全てこちらに向いていることから、こいつの殺戮対象は、どうやら私だけのようだ。


「あんた、よく避けれたな…アイツの攻撃」


 私の腕に抱えられたまま、リツが冷や汗をかきながら呟く。


「なんとかね。まあ、あれくらい何度も経験してるから」

「……」


 相手を見ることに集中し過ぎて、さらっと暗殺され慣れてるような発言をしてしまった。まあ、本当のことだけど…。


(こいつ、私が防御するよりも早く…。それに、何なの…?この怖い程の冷静さは。殺されかけたっていうのに、全く心を乱してる様子がない…)


 リツが攻撃を防ごうと判断した時には、既に彼女は私の腕の中に収まっていた。

 あまりにも素早い状況判断能力、そして異常なまでの冷静さ、精神力。急に現れた化け物よりも、リツは私に心を持ってかれていた。

 そんなことなど露知らず。化け物に向かって、私は強気に出る。


「その殺気、しまってくれない?誰だか知らないけど、痛い目を見たくなかったらね」

「知り合いじゃないの?…じゃあ、どういうつもり?この人は私の敵じゃないよ。それくらい、判断できるよね?なんでいきなり襲いかかったの?」


 と、リツも立て続けに疑問をぶつけた。

 彼女の発言から察するに、両者は見知った関係なのだろう。だとすると、この化け物の正体が、なんとなく見えてくる。


「リツ、もしかしてこいつが?」

「そう…私とずっと一緒にいる悪魔だよ。普段は絶対に人間を襲わない…。私が敵と認めた奴以外はね。でもあの子、役場を出てからどうも様子がおかしかった…」

「おかしかった?」

「うん。今まで私の元を離れたことなんてなかったのに、急に何かを探すように消えちゃって…。こんなこと、初めてだよ」

 

 片時も離れたことがないなんて、余程の信頼関係でなければありえない。

 

 ――あの子、私の元を一度も離れたことがなかったんだよ…。なのに、急にさ…。


 リツがぬいぐるみに語っていた〝あの子〟というのは、この悪魔のことを指していたのかも。素で嘘は言わないだろうし、リツが寂しがっていたのは、自分の傍から急に悪魔がいなくなってしまったからと考えるのが無難だ。

 常に警戒を怠らないような彼女が、一番に信頼を置いているのなら、本当にこいつは人間に対して友好的な悪魔なのだろう。

 なら、なんで私に襲い掛かったの…?

 知り合いでもないし、恨みを買った覚えもない。

 もしかして、執拗にリツに絡んだから?にしても、よく分からないけど…。


「……っ!!」


 どうやら、交渉する気もゆっくり話をする気もないみたい。悪魔は、リツがいることなど気にも留めない様子で、再び私に鎌を振り下ろしてくる。

 このままだと、街が余計な被害を受けかねない。そう思った私は、リツを抱えたまま、薄暗い路地裏に逃げ込む。


「というか、いい加減下ろして!!」


 人に擁護されるのは気に食わないのか、リツは手足をバタバタさせる。ちょっと可愛い。


「そういう訳には…あの悪魔、リツがその場にいようが関係なく攻撃してきたんだよ?このまま下ろしたらどうなるか…」

「私を誰だと思ってるの!アイツは私が食い止めるから、あんたはさっさと……なっ!?」


 不意にリツの身体は、力が抜けたように脱力する。同時に、私は背後からまたしても不快な魔力(オーラ)を感じ取った。

 振り返ると、これまた随分と嫌な予感が脳裏をよぎる。悪魔が胸の前で暗黒色の魔力を溜め込み、こちらへ光線のようなものを打ち放ってきた。

 街や周囲の状況などお構いなし。避けたら、確実に街が半壊する程の破壊力を有したものが、襲い掛かってくる。

 片腕でリツを支えつつ応戦。魔力で無色透明の〝シールド〟を生成し、光線を受け止めた。


「くっ、なんて威力…!」


 突き出した手が押し戻されそうになる。中々の殺傷能力だ。

 防ぎ切ったとしても、魔力が爆発して両サイドの建物が巻き込まれかねない。そう判断し、私はシールドを上手く使って、光線を真上に弾き飛ばした。

 雲を突き抜け、やがて空中で大爆発を起こす。

 真昼間から綺麗な花火だこと。なんて眺めてる余裕はない。


「あ、アイツには、一切の魔法が通用しない…。た、戦うなら物理で…うぅ」

「魔法が効かない!?……って、そんなだらけちゃってどうしたの?」

「悪魔は私の魔力を使って行動する…。相当な殺意に蝕まれているのか、アイツに魔力を殆ど持ってかれちゃった…」

「嘘!?」


 急に脱力し始めたのはそういうことだったのか…。でも、勇者レベルの膨大な魔力を一気に持ってくなんて、普通はあり得ない。

 奴は本当に、リツの事など頭にないくらい、私を殺すことに集中しているのだろうか。


「わ、私を下ろして…。これじゃ、あんたの足かせになっちゃう…」

「でも…」

「いいから…!アイツは私に攻撃しない。キロ・グランツェルを倒すんでしょ?勇者よりも弱い悪魔を倒すくらいしてもらわないと、奴らの脅威には勝てない!」

「倒すって…あの悪魔は君の――」

「いいよ、倒しちゃって。むやみやたらに人間に手を上げる奴には、制裁が必要だから。それがたとえ、〝家族〟だとしても……」


 強い意思をもって、リツは言い放った。

 ほんと、色々割り切ってるなぁ…。

 こうなったら、迎え撃つ他ないだろう。こっちだって、横槍入れられてあまりいい気分ではない。

 完全に倒しはしないけど、遠慮なくいかせてもらおう。

 

「分かったよ」

 

 真剣な眼差しと共に、そう答える。

 迫りくる悪魔の猛威。大きく振り下ろされた鎌を避け、私は空中へ飛び上がった。

 悪魔も追いつけぬ飛翔速度で、先程リツと話をしていた広場へと戻る。


「頼んだよ…」

「うん」


 広場の木陰でリツを下ろし、私は更に別の場所へ。悪魔は脇目も振らず、一直線に追ってきている。どうやら、私の魔力を頼りに追尾しているようだ。

 大使館(エンバシー)の上を通り過ぎ、待たせていたルナたちの元に向かう。


「アリア!遅かったじゃない!」

「何かあったの~?」


 本当は一緒に突入したかったけど、状況が状況だ。ここはみんなに頑張ってもらうしかない。


「みんなは先に転送装置に向かって!中の魔族が厄介だけど、フランとモナ中心に攻め込めばいける筈だよ!」

「え…!?アリアさんは!?」

「私は、今立て込んでるから…すぐに追いつく!!」


 要件を手短に伝え、私は更に上空へと舞い上がる。

 一人で天へと飛び立ち、何がしたいのか。みんなの目には、そう映っていることだろう。

 恐らく、彼女たちにも悪魔の姿は見えていないから。


「アリアちゃん、また何かトラブル…??」

「さあ…そうは見えないけど」

「何か、作戦があるんじゃないですかね。知らないですけど…」


 モナ、ティセル、フランの三人は、不思議そうに私を見上げる中、ルナだけは違った反応を見せる。


「え…?あなたたち、あの化け物が見えないの?」

「化け物??」

「うん。アリアを追いかけてる、真っ黒い人間じゃない何か…」

「見えないわよ、全然…」

「嘘…見間違いじゃないわよ。アリアは多分、その化け物と戦ってるんだわ」

「だとすれば、なんでルナさんにだけ見えるんでしょう…」

「それは…分からないわ」


 未知の暗黒体を目で追い続けるルナ。不思議なこともあるもんだと、他の三人はきょとんとして顔を見合わせる。


「と、とりあえず…アリアちゃんの言う通り、先に向かう?」

「そうですね。ユィリスさんもお姉さんも心配ですし…」




     ◇




 まさか、勇者パーティと交戦する前に、空中で得体の知れない悪魔と戦うことになるなんて…。

 奴の狙いは私だけなんだろうけど、周りが見えていないせいで、街全体が犠牲になりかねない。その前に、誰も寄りつくことのない空中戦へと持ち込んだ。

 どうして私を殺したいのか、じっくり話を聞きたいところだけど、そうも言ってられない。というか、こいつ喋れないから無理だろうし…。

 さてと、先ずは試したいことがある。奴に魔法は通用しないのかどうか、検証してやろう。


「来なよ、悪魔…」


 軽く挑発し、手のひらに魔力を溜め込む。

 私目掛けて鎌を振り翳してくるのを見計らい、奴の背後へ瞬間移動。そのまま、素早く火属性の魔法を打ち込んだ。


「〝火力光線(フレア・レイ)〟!!」


 先程悪魔が放ってきた光線よりも高い威力を誇る、炎の一閃。見事に奴の背中へヒットしたものの、すぐに魔法は散り散りになって消滅した。

 なるほど…単純な魔法攻撃は通らないか。

 魔法が通用しないのは、魔力を使用したあらゆる干渉を、奴の身体が妨げているということなのだろう。理屈は分からないけど、肉体が存在しないことと何か関係がありそうだ。

 というか、そもそも肉体がないのに物理攻撃が通用するのかも曖昧なんだよね…。もしかしたら、奴の懐に入り込めれば、何かヒントが得られるのかも。

 

「〝コンバート〟…!」


 も、無理か…。こりゃ、参ったなぁ。

 常識破りの魔法なら精神体を貫通できるかも。それこそ、神の力を借りた規格外の能力。

 でも、()()は魔力をかなり食うし、キロとの戦いにとっておきたい。やっぱり、ここは物理で倒す他ないかな…。

 絶え間なく振り下ろされる鎌を華麗に避けながら、思考する。危機察知能力が高く、私が背後から迫るたび、一挙に鎌を大振りしてくるもんだから、近距離戦は難しい。

 最初に放った魔法のように、遠距離から素早く不意を突けば、奴にダメージを与えられる。だけど、魔法が使えない以上、物理攻撃を遠距離で放つなんて武器でもなければ不可能だ。

 というか、何かしら武器があれば、鎌を弾いて奴の間合いに入ることができる。それなら、距離なんて関係ない。


「おっと!危ない危ない…」


 放たれる巨大光線を宙返りで避ける。

 単純な攻撃に思えるけど、今ので街の一つや二つは余裕で破滅させられる程の威力だろう。曇りかけていた空を、奴の光線が一気に晴らしていく。

 なんとも恐ろしい悪魔。流石は勇者の相棒だ。と、相手を褒める余裕だけはある。


 せめて、頑丈な木刀一本でも持ち合わせてれば、戦況も変わるんだろうけど…って、ん?

 そこまで考え、私はとある剣の存在を思い出す。

 まさか、本当に必要になる時がくるとは…。いやでも、来てくれるかなぁ。

 初手からいきなりハードな戦況だけど、召喚に応じてくれることを祈るしかない。

 私は瞬間移動で悪魔と距離を取り、天に利き手をかざす。

 お願い!私に応えて!!




「「シェル!!!」」

アリア目線だと、悪魔の攻撃が軽く思えるかもしれませんが、初手の一振りで大抵の人間は(ある程度強くても)天国行きです。

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