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百合色の鍵姫~転生した元魔王の甘々百合生活  作者: 恋する子犬
第三章 尊い姉妹と幸せを得た少女

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第65話 道中での一悶着

「カナさん、グラン街に行ったことはあるんですか?」

「いや、ないよ~。今朝ね、エルフの女王様にグランツェル領の地図を貰ったの。途中の道が険しいみたいだけど、領地に入っちゃえばすぐ到着するはず」


 到着予定は、今日のお昼前。闘志を燃やし、全員がアィリスさん奪還のため、気合を入れる。


「最悪、勇者パーティの奴ら+ファモスを相手にしなくちゃいけないのよね…。アリアがいるとはいえ、冷静に考えたら、私たちとんでもないことしようとしてるんじゃ…」

「まあ、勇者パーティに楯突く人間なんて、前代未聞でしょうね~。勇者の魔法は常識外れと言われてますし、アリアさん一人に全てを任せるなんてことはさせません!このメイド、とうとう最近開発した()()をお披露目する時が来たようですね!」

「お~!楽しみなのだ、フラン!!」


 大きな胸を張り、フランは得意げに語る。

 たしかに、この戦いは私一人の力じゃ厳しい。みんなの力が絶対必要になる時がくるだろう。

 でも、無理だけはさせないつもりだ。なるべく負担をかけないよう、アィリスさんを救い出したい。


「そういえば、モナ。勇者パーティは5人なんだよね?思い出すのが嫌だったら、全然大丈夫なんだけど、そいつらの強さとか特徴とか、何でもいいから知ってることがあれば教えて欲しいんだ」


 と敵側の戦力を知るため、私は尋ねる。モナは否定せずに、洗いざらい話してくれた。


「うーんとね~、強さは…あまり見せてもらってなかったかな。モナが見せびらかしてばっかりで、今思えば浮かれすぎてたよ~…。でも、5人とも魔力量は凄かった気がする。……あっ、そういえば!!」

「なになに!?」

「勇者パーティの5人は、それぞれ別の感覚が研ぎ澄まされた〝超人〟だって周りの人から聞いた覚えがあるよ」

「その、感覚って?」

「えっと、たしか…勇者のキロは『触覚』、その奥さんのエマは『嗅覚』、長男のテレスは『味覚』、長女のアーシャは『視覚』、で…末っ子のマオちゃんは『聴覚』だったかなぁ~」

「なるほど」


 嗅覚はまだしも、味覚なんて何の役に立つのだろうか…。でも、視覚と聴覚は割と厄介かもしれない。

 そしてモナは、末女のマオについて言及し始める。


「モナとしては、マオちゃんとは戦いたくないかな…」

「一人だけ『ちゃん』付けよね?仲、良かったの?」

「うん、特にね…。マオちゃんは、他の4人とは何か違ったんだ。モナが捕まる直前、自分の家族がおかしいって真っ先に教えてくれて。あの子だけは、今も友達だと思ってる…」

「そうなんだね」

「マオちゃんの耳は凄いんだよ。遠くにいる人たちの会話とか小声の噂話とかが、全部聞こえるみたい。でも、聴覚のコントロールが難しいから、レアリムに行った時とかはずっと耳を塞いでる状態で、凄く辛そうだったなぁ」

「うーん、モナさんがいた時は純粋無垢な子供だったのかもしれませんね。今は、どうでしょう…」


 こんな酷いことを仕出かす親の元に生まれてきたんだ。今頃洗脳されて、()()()()の人間になってしまっていたら、モナも辛いだろう。

 勇者の子供だし、三人とも相応の実力が備わっていそうだ。低く見積もっても『上位者(スペリオル)』レベルだと警戒しておいた方がいい。


「魔力量が一番少なかったのはエマだったけど、剣術の腕は凄かったよ」

「剣…ですか。それならば、私の出番ですね!足止めくらいなら、任せてください!」

「私は、当然姉ちゃんを奪ったファモスの奴をぶっ飛ばすのだ。それだけは、譲れないぞ」

「わ、私は……そうね、雑魚の相手くらいなら楽勝よ!」

「無理しないでいいよ、ルナちゃん…」


 そんな会話をしていると、カナさんがこちらへ振り返り、私たちに警戒を呼びかけてきた。


「みんな!この先ちょっとガタガタするから、しっかり捕まってて~!」


 出発から一時間後、ティセルが言っていた険しい道のりに差し掛かったようだ。

 ガタガタ…と徐々に揺れ始める荷台。辺り一帯が荒れ地で、高低差のあるデコボコとした地形が続いている。

 車輪が大きめの石を跳ね上げる度、一瞬だけ荷台が傾くから、一方に体重を乗せていると横転しかねない。ようやく荒れ地を乗り越えたと思いきや、終いには長い急斜面を加速しながら駆け下りることになって、車内は更に混乱を招く事態へ発展する。


「捕まってないと、振り落とされるわよ!!」

「あっ、箱から木の実が漏れてるのだ~~!」


 中で散乱してしまう、エルフから頂いた木の実。そして、もう一つの箱からとんでもないもの…いや、人物が飛び出してきた。


「キャ~~~!!もう無理よ~~!」

「うえぇぇ~~!??」


 私はまるでびっくり箱を喰らったかのような悲鳴を上げ、飛び出てきた()()と共に床を転げ回る。がんじがらめの最中、すぐに受け止めた人物が女の子なのだと判断し、どさくさに紛れてもっちりとしたその身体を抱き締めさせてもらう。


《なんで飛び出たんでやがりますか!?》


 気のせいだろうか。なんか聞き覚えのある声もするんだけど…。

 更に、


《ごめんなさ~~い!!》


 と声を荒げた誰かが、ユィリスの顔面にへばり付く。


「うぐっ!!?ちょ、何なのだ~!」


 軽いドンちゃん騒ぎに見舞われた私たちを乗せた馬車は、坂を下り終え、再びゆっくりと前進し始めた。

 心配して後ろを振り返ったカナさんが、不憫に感じる程の惨状。全員ぐで~っとしながら、事態の把握に努める。


「い、一旦整理しましょう!!」

 

 馬車は止まらず走り続ける中、みんなが円になって座り込んだ。色々突っ込みたいところだけど、先ずは落ち着こう。


「で、だけど…。いつの間にか、この荷台にいる筈のない人が乗ってるわよね?」


 ルナの質問に、全員が沈黙を返す。

 食料が入っている筈の箱から飛び出てきた女の子は、どこからどう見てもティセルだ。俯いて、自分は関係ないを貫いているようだけど。

 そして、その隣にぷかぷか浮遊しているのが、すまし顔を保つ赤い精霊とおどおどした白い精霊だ。


《いる筈のない…》

《そいつは誰でやがりますか?》


「そりゃ、【レッド】、シロ…あなたたちしかいないでしょ?」

「いや、お前もなのだ!!」


 天然過ぎるティセルのボケに、ユィリスが突っ込みをかます。

 どうやら、赤い精霊―ティセルのバディは、レッドという名前らしい。赤色が特徴的だし、白色をしたシロといい、精霊というのは凄く覚えやすい名前を持っている。

 実を言うと、箱の中身が怪しいとは、少し前から気づいていた。敢えて触れなかったけど、まさか精霊も含めて3人も潜んでいたとは…。


「まあ、誰かがいるとは思ってたよ。ちょっと前から、身に覚えのある気配を感じてたし」

「え!?嘘…。完璧な潜入だったのに」


《途中まで寝てたのに、よく言うでやがりますね…》

 

「それは…アリアたちが早朝から出て行っちゃうって聞いたから、箱の中でずっと待機してた結果よ…」

「付いてくる気満々だったんですね、ティセルさん…」

「勝手に乗り込んじゃってたのは、その…ごめんなさい。外の様子をあまりよく知らない私たちエルフに、色々楽しい話をしてくれたのがアィリスさんなの。エルフの代表として、私も助けに行きたい!」


 そう、私たちは昨日の就寝前、ティセルに旅の目的を全て話していた。

 定期的にエルフの森へ訪れている行商人。当然、ティセルはアィリスさんとも面識がある。

 事情を知って、ティセルは心底怒っていたけど、その時は連れて行って欲しいと懇願するような素振りはなかった。


「なら、言ってくれればよかったのに」

「ママには内緒にしたかったの。こっそり乗り込んでた方が、バレないかなって思って…。王女の私が森の外に出たら、大変なことになりそうじゃない?」

「なりそうって、随分他人ごとね…」


 ティセルの事情はなんとなく分かった。次は、精霊二人からの言い分を聞かせてもらうことに。


《ウチはティセルのバディだから、行動を共にする義務があるでやがります。シロに関しては、その人間を執拗に気にかけていたから、仕方な~く連れ出してきたでやがりますよ》


 レッドが指を差しながら言った〝その人間〟とは、どうやらユィリスのことらしい。特に接点はなさそうだけど…と思ったら、案の定、ユィリスは首を傾げながらシロを見やる。


「そういえばお前、私の後をずっとつけてたな…」


《えっ…!?》


「私の防衛本能を甘く見ないで欲しいのだ。ずっと感じていたぞ。お前の視線をな」


 にっと笑い、意地悪そうに告げるユィリス。少しばかり心の余裕が見て取れる表情に、私は微笑を浮かべた。


《そ、それは…少しでも、あなたの力になりたいと思ったから…》


 恥ずかしながらも、シロはあっさりと答えた。何かを含んだ物言いにも受け取れるけど、ユィリスはそんなシロの言葉を真摯に受け止める。


「そっか。お前は、最初から私たちを信じてたみたいだし、良い奴なのは間違いないのだ。相手は勇者…味方は多い方が心強い!」


 ここまで来ちゃったし、誰もティセルたちがついてくることには否定しなかった。

 しかしこの戦いは、生半可な覚悟で挑んではいけない。そんなことは重々分かってると思うけど、一応警告しておこう。


「ティセル、分かってると思うけど、この先の戦いはかなり危険なものになるかもしれないんだ。だから――」

「分かってるわ。勝手についてきたんだもの。自分のことは自分で守る。レッドがいれば、私は無敵よ」


 腰に両手を当て、ドヤ顔で言うティセル。レッドも鼻を高くして、同じポーズを取った。

 二人は仲良しだなぁ。

 まあ、精霊と契約したら強くなるって言ってたし、ここはティセルの防衛能力を信じよう。なるべくみんなを守りたいけど、それが叶わない状況も想定しなくてはならないのだから。




     ◇




 出発から何時間経っただろう。険しい道は序盤の荒れ地くらいで、その後は緩やかな平原の道が続き、心地良い馬車の揺れにウトウトし始めていた。

 そんな中、カナさんの元気な声が耳に届いてくる。


「さあ、見えてきたよ!グラン街!!」


 いつの間にグランツェル領へ入ったのだろうか。ようやく辿り着いたと、私は気を引き締め直す。

 特に変わった街並みには見えない、勇者が居座るグラン街。ここで私たちは、更なる出会いに驚きの再会、許せない真実、一波乱起こる戦いの渦に巻き込まれることになるのだが、そんなことは知る由も無く、ただユィリスの大切なお姉さんを救い出すために、全力で勇者に挑むと全員が意気込んだ。

 

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