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百合色の鍵姫~転生した元魔王の甘々百合生活  作者: 恋する子犬
第四章 波乱の祭典と目覚める鍵

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第124話 ルナの思い

 カギ村を出発して早半日。澄み切った快晴の空の下、心地良い軽風を受け、馬車は速度を落とさず人間界の中心へ向かっていく。

 手綱を引くのは交代制だ。今は私が馬の操縦を任されている。


「紅葉の山が見えてきたわ。この商秋地帯を抜けたら、ようやく半分といった所ね」


 馬の体力維持の為、こまめに休息を挟みつつ、見知らぬ土地の景色を満喫。隣では、ルナが地図を見ながら行く先々の風土を説明してくれている。


「じゃあ、今日はあの山の麓で野宿しよっか」

「そうね。キュラ・シェルのおかげで、大きめのテントも持ってこれてるし、快適に夜を過ごせそう」


 中継港(ミッドポート)での入国審査の開始日時(PREMIUM PASSPORTの有効開始)は、明後日の早朝から。順調に進んだとして、最低でも二日間の宿泊が必要になる。

 今日の時点で半分の道のりを制覇できたのは大きい。人間界の中心は多くの村や町でありふれてるから、これで明日はシャワー付きの宿で快適に一泊できることだろう。

 そしてその次の日からは、たんまりとネオミリムで遊び尽くす。実に完璧な旅程だ。

 

「ふにゃ~!!また負けた~!なんで…」

「はい、あたしの勝ち~」

「またフラン一抜けかよ!」

「心理戦には自信ありますから~」


 後方の荷台から届いてくるのは、輪になってカードゲームに興じるみんなの声。余程暇なのだろう。移り変わる風景にも飽きてしまったのか、ゴロゴロ寝転がりながら軽い賭け事を楽しんでいるようだ。


「はい、チョコレート一つゲットー」

「もー!まだ何も貰えてないよ~」


 可愛いな、この子たち!!

 (たか)がチョコ一つの奪い合いで真剣に勝負を挑みにいく。こんな微笑ましい光景があるだろうか。


「ネオミリムには巨大なカジノ施設があるからな。そこで一攫千金を狙うのだ!」


《すぐ負けそうだけど》


「何を~!」


 モナの次に分かりやすい反応を示したり、ストレートに物を言ったりするユィリスに、心理戦の伴う賭け事は不向きだろう。と、呆れたシロはやれやれと肩を竦める。


「ユィリスさん、ギャンブルは程々にしないと痛い目を見ますよ」

「そうだな…借金生活になったら、アリアと一緒に返していくしかないのだ……」


 最低か!!

 私を巻き込むなと釘を刺したところで、馬車は砂礫が敷き詰められた悪路へ入り込む。おまけに急勾配で横転の可能性も考えられる為、一応みんなに注意を呼び掛けた。


「みんなしっかり捕まってて!ルナも振り落とされないように、何かにしがみ付いてた方がいいかも」

「え?しがみ付くって言っても――きゃ!?」


 大きめの岩でも乗り上げたか、馬車全体が小さく跳ね上がる。念のため、荷台全体に補強の魔法をかけておいたから、多少の揺れや衝撃ならば問題ない。


「お~!揺れてるぞ~!」

「あはは、凄い!」

「ちょっと誰ですか~、私の胸揉んでるの~」


 真後ろには、きゃっきゃとこの状況を楽しむ興奮状態の少女たち。いつ倒れてもおかしくないのに、頗る悠々としている。

 随分呑気なものだと、もの言いたげな目線を向けていた私は、突として片一方の腕に何かで強く締め付けられるような圧迫感を覚えた。

 隣を見やると、馬車の揺れが収まらない中、ぎゅっと目を瞑り、私の左腕に取り縋るルナの姿が。席から振り落とされまいと、自分の方へ抱き寄せる勢いで揺れに抗っている。


「ルナ!?」

「――っ…!!」

 

 確かにしがみ付けとは言ったけど、まさか私の腕に絡みついてくるとは予想外。目と鼻の先にある美少女の顔と二の腕に押し付けられた豊満な感覚に思考が溶かされ、手綱を握る手に力が入らなくなる。

 なんという破壊力。いつからこんな甘ったれた子になってしまったのか。普段の大人な雰囲気とのギャップがあり過ぎて、可愛い以外の表現が見つからない。

 願わくば、ずっとこうしていて欲しいなぁ…なんて。というか、この状況で我を忘れず、しっかりと馬の操縦を全うしている私を褒めたたえて頂きたいものだ。


《あっ!河原が見えてきたよ》


 悪路を抜けると、目の前に広がっていたのは、色鮮やかな紅葉に囲まれた小さな河原だった。河川や空気は綺麗で澄んでおり、開けた川沿いは小石で敷き詰められているものの、特にデコボコしている訳でもない。キャンプや野宿をするには最適なスポットだろう。

 夕日が目立ち始めた頃合いだし、今日はここで寝泊まりだ。到着したからと、未だに私の腕から手を離す様子のないルナへ、恐る恐る声を掛ける。


「ええと、ルナ…着いた、よ?」


 閉じていた目をスッと開け、美麗な瞳を露わにした彼女は、至近距離で語り掛ける私に気づくや否や、瞬時にその場から離れた。


「ご、ごめんなさい、アリア!で、でも…きゅ、急にしがみ付けって言うから、咄嗟に…つ、掴んでただけなんだからね!」

「は、はぁ…。なんか、ごめん…」

「さあ、行きましょ!」

「……」


 怒っ…てる?

 謝っていたにも拘わらず、なぜかつんけんした態度に豹変する。そんな彼女らしからぬ言動に驚かされ、先程まで感じていた胸の鼓動がいつの間にか収まっていた。

 そしてルナはというと、


(待って待って…!どうしちゃったのよ、私!アリアに対して、あんな突き放すようなこと言って……。うぅぅ…絶対変な子だって思われたわよね…。もう~、何してんのよ!!///)


 なんて内なる自分と格闘しながら、私に背を向けて馬車から降りる。赤面を隠すよう大袈裟に首を振り、テキパキと野宿の準備をし始めた。


「河原でキャンプなんて、贅沢ですね~」

「スペアリブ焼くぞ~。シロ、炎だしてくれなのだ」

「魚釣れたよ~!」

「いいわね!塩焼きにしましょ」


 キャンプと言えばBBQ。テントだけでなく、焼き肉用の調理器具も(虚空界に)詰め込んでおいて正解だったようだ。

 ネオミリムでは三日間過ごすことになっているけど、全体としては、移動時間を含め一週間以上の旅となる。初日から、自然豊かな森で豪勢な食を味わえるなんて、私たちは幸せ者だ。


 その後、みんなでキャンプファイヤーを取り囲み、他愛ない話に花を咲かせる。主にユィリスのマシンガントークに付き合わされただけだけど。

 明日も朝早いし、今日はここらで就寝だ。馬のお世話も欠かさず行い、夜が更け始めた頃には、全員眠りに就いていた――筈だった。




    ◇




 深夜、少女たちの寝息が心地良く聞こえてくる中、ルナは一人テントの外へ。あまり寝付けなかったのか、川の畔に腰掛け、目を擦りながらも冴えた頭で物思いに耽る。


「ハァ…私、どうしちゃったんだろう」


 膝を抱え、虚ろな目で遠くを見つめる。

 自分の中で芽生え始めた未知なる感情。そして、その想いが常に向けられている人物。そんな()()に対してのみ引き起こされる、不安定な情緒や行動。

 しかし、心の奥底では()()分かっていたのかもしれない。この気持ちがどういうものなのかを――。

 彼女への思いを言葉にしようと、ルナは口を開く。


「そういう…ことよね。やっぱり、私……」


 両頬に手を置き、絶え間なく流れる河川を前にして、切ないまでの思いを寄せた。ちょうどその時、背後から砂利を踏み歩くゆったりとした足音が、ルナの耳に届く。

 振り返ると、そこには純白のネグリジェを身に纏った目見麗しき少女が、手を前に組んで立っていた。


「眠れないんですか?ルナさん」


 編み込まれていない赤毛のショートヘアに、長いまつ毛で囲われた端麗な裸眼。そんな少女を目にした途端、ルナはポカンとしたまま一瞬だけ思考を停止させた後、あっけらかんと言い放つ。


「誰…!?」

「フランですが!!?メイドの!」


 ショックを受けたように突っ込む完全オフモードのフラン。愛嬌たっぷりなその姿に、ルナは思わず笑みを零した。


「もう、酷いです…。同じ屋根の下で暮らし始めてから、結構な日数が立ってるというのに……」

「あはは、ごめんなさい。フランったら、いつも私たちが起きる頃にはきちっとした格好で台所立ってるし、パジャマ姿なんて滅多に見れないもの。それに、眼鏡かけてないと印象が全然違うから」

「そんなに変わるものですか?」

「ええ。美しさが格段にアップするって感じね。目に直接被せるだけで視力を補正してくれるレンズもあるし、その方が良いわよ」

「そう…でしょうか。……しかし、これを外すことはできません」

「どうして??」


 ルナの隣に腰掛けたフランは、懐からいつもの眼鏡を取り出し、両手で添えるようにして掛ける。そして純粋な問いかけに対し、少しばかり頬を染め上げながら、

 

「それは…私の眼鏡姿が、可愛いと……そう言ってくれた方がいるので…」


 と恥じらいの色を見せ、ぽつりと答えた。普段見ることのないメイドの表情に意外性を感じ、ほっこりしたルナは柔らかく微笑み返す。


「へぇ~。それって、私たちの中の誰か?」

「……いえ、遠い場所にいる友人です。私に様々な知識や経験、そして()を与えてくれた素晴らしい方です。とある事情で、今は会えないですが…」

「そうなんだ。まさか、フランにそんな子がいたなんてね~。もしかして、男の子だったりするのかしら?」

「い、いえ、女の子ですよ!活発で、思い遣りのある子で、すっごく可愛いんですから!」

「な~んだ、残念。フランの恋愛について色々聞けると思ったのに」

「私は、そういったものに興味はありませんから。百合は別ですけど…」


 僅かに頬を膨らませ、拗ねたように反論するフラン。お返しだと言わんばかりに、今度は彼女からルナの粋筋について触れていく。


「その、ルナさんこそどうなんですか?」

「え??」

「一人で黄昏ていた時、恋する乙女の顔をしていました。まあ、大方アリアさんのことを考えていたんでしょうけど」

「なっ!?な、なんでアリアが出てくるのよ!」


 先程のおひゃらかしていた態度から一変。頭から、心から離れない相手の名を直接突きつけられ、ルナは分かりやすく困惑した様子を見せる。


「隠さなくてもいいですよ~。もうバレバレですからぁ」

「べ、別に私は…そ、そもそもアリアは女の子で――」

「女の子同士で何が悪いんですか?種族を越えた恋愛も稀ではないですし、性別の隔たりなんて微々たるものだと思いますけど」

「……」

「ルナさんってば、アリアさんへの態度が他の方とは目に見えて違いますから」

「うっ、それは…」


 膝を抱えていた両腕に力を入れ、赤くなった顔を隠すように俯きだすルナ。そんな自分の反応を客観視して、抱きだした謎の感情の正体に確信を得てしまったのか、胸の鼓動が五割増しで早くなる。


「アリアさん、可愛いしかっこいいですもんね〜。強く気高く、そして聡明でありながら、子供のように無邪気な一面もあって。恋愛とは違いますけど、私もアリアさんのそういう部分には惚れています」

「何より…優しいのよ、アリアは。そう…誰よりもね」

「なるほど、優しい所が好きなんですね」

「す、好きというか…尊敬してるというか……」

「好きなんですよね?」

「うっ…」

「大丈夫です。誰にも言いませんから」


 中々正直な思いを吐き出してくれないからか、にっこりと悪魔的な笑みを向け、詰め寄るフラン。彼女の圧に押され、ルナは数秒の沈黙の後、


「――好き…///」


 そう顔を真っ赤にしながら、目を逸らしつつ答えた。


「やっと本音を言ってくれましたね」

「でも、アリアはみんなから好かれてるし…特に女の子から。私が入る余地なんて……」

「まあ本人は自覚ないみたいですけど、かなりモテてますよね~」

「アリアは、私には勿体ない子よ。誰よりも傍にいるつもりでいて、誰よりも遠い存在に感じてる」


 それは、アリアの秘密を唯一知っているルナならではの悩みであろう。

 見た目はどこにでも居そうな普通の人間の女の子でも、数か月ほど前まで、この世界を掌握していた最強の魔王。転生し、その地位は剥奪されたものの、ある程度の強さや威厳は引き継がれ、敵を前に嘗ての面影を見せることだってある。

 何度も自分たちのピンチを救ってくれた。しかし、その度にルナは思う。

 どれだけ手を伸ばそうとも、絶対に届かない別次元の存在だと――。


 そんな彼女が、いつも傍について守ってくれている。それだけでも、ルナにとっては奇跡のような、ふとしたきっかけですぐにでも離れてしまいそうな、儚い一筋の繋がり。

 それはそうだ。シャトラのように、人間界での暮らしを受け入れてくれる魔物や魔族がどれだけいることか。人間に転生したとはいえ、魔王アリエの意思が途切れていなかったことが世界中に知れ渡れば、敵味方関係なく黙ってはいられないだろう。再び世界が震撼することになる。

 アリアは、それだけの影響力を持っているということだ。

 彼女が人間界での暮らしに憧れていなかったら、とうの昔に終わっていたであろうこの関係。絶対に手放したくないと思う反面、いつかその時が訪れてしまうのではないかと恐れを抱き、一歩を踏み出せずにいる。

 現状のままでも十分幸せだ。下手に思いを伝え、今の関係値すらも壊れてしまうくらいならと、ルナは本当の思いを隠していた――いや、自分自身で気づかせないように抑え込んでいたのだ。


 葛藤の末、行き着いた答えを吐き出し、悲観的な思考を加速させるルナ。そんな眉尻の下がった彼女を見兼ねて、フランは励ましの言葉をかける。


「ルナさんは、私たちの中で一番女の子っぽい…と言ったら語弊があるかもしれませんけど、物凄くバランスの良い人間性を持っているなぁって思ってました」

「バランスが良い…?」

「物事の線引きを理解していて、押すところは押す、引くところは引く!みたいな感じですかね。いつもふざけて暴走している私たちに突っ込んでくれたり、喝を入れたり…まあ、しっかり者と言った方が分かりやすいかもしれません。そんな立ち位置だからこそ、無意識に自分をセーブしてしまっているんじゃないですか?」

「そう、なのかしら…」

「遠い存在だなんて、決してそんなことはないです。ルナさんだって、物凄く可愛いんですから、もっと自信を持っていいと思いますよ。アリアさんの事ですし、今以上に積極的になったら、案外ころっと落ちちゃうかもしれません」


 当たらずと雖も遠からず。本心を知り得ないフランなりの鼓舞激励に、ルナは少し元気づけられ、口元を綻ばせた。


「あ、すみません…メイドの分際で偉そうに言って……」

「ううん、ありがとう。でも、積極的ってどうすればいいのかしら…」

「そこはやはり、色仕掛けじゃないですかぁ?寝込みを襲うとか、ちょっと露出した服装で抱きついてみたりとか――」

「そ、そんなことできる訳ないでしょ!!そういうのは、その……恋人同士になってからするもので…………」


 アリアに対し、()()()()()誘惑をしている自分が脳裏に浮かび上がり、ルナの頭頂部から蒸気が吹き出す。顎に人差し指を当て、揶揄うような素振りを見せるフランは、更にとんでもないことを提案してきた。


「では、思い切って()()しちゃいましょう!」

「は!?」

「ネオミリムにはロマンチックな告白スポットが沢山あるみたいですし、まさにアタックのチャンスですよ」

「こ、ここ告白って…本気!?」

「勿論ですよ~。それにルナさん、色仕掛けを躊躇ってる割には、時々アリアさんを可愛がるように抱き締めてるじゃないですかぁ。まあ、最近は見ませんけど」

「それは…友達同士のスキンシップ的な意味合いで触れ合ってただけよ…。でも今は…とてもじゃないけど無理だわ。恥ずかしすぎる…面と向かって思いを打ち明けるなんて、以ての外よ」


 恋い慕う相手に自分の思いを打ち明ける一世一代の大勝負。それが告白というものである。

 少々大袈裟な説明だろうか。しかし、少なくともルナはそう思っている。

 今まで人を好きになったことのない彼女が、初めて抱く恋心。初恋の相手、それも同性の女の子とくれば、一歩を踏み出すのに並み以上の勇気や覚悟が必要になってくる。


「そうでしょうか。私たちの中で最もアリアさんと関係が深いのは………」


 そこまで口にし、フランは一度言葉を詰まらせた。が、それはほんの一瞬で、ルナが引っかかりを感じる間も置かず、すぐさま二の句を続ける。


「…ルナさんですし、何よりうかうかしてると他の方に取られてしまいますよ」

「うっ…それは…。でも、もし振られちゃって、そのあと変な空気になったらって思うと…怖いのよ。初めてのことだし、どうしたらいいのか分からないわ」


 自分の中で何よりも先ず不安が過ぎり、ルナは再び項垂れる。仮に告白が成功したとしても、その後のみんなとの関係に亀裂が生じてしまわないかなど、懸念ごとを考え出したらキリがない。

 心底悩み果てている彼女の様子を見て、フランはとある考えに及んだ。


「では、思いを伝えるだけ、というのはどうでしょう」

「思いを伝えるだけ??」

「はい。いきなり告白されて返事を求められたら、アリアさんもどうしたらいいのか戸惑ってしまうと思うんです。なので、先ずはルナさんがアリアさんのことをどう思っているのか、それを伝えることから始めましょう」

「つまり、その場では告白の返事を求めない…ってこと?」

「ええ。あのアリアさんの事ですし、ルナさんに告白されて即答するなんてことはほぼないと思います。好意を持っていると伝えた上で、相手に考える猶予を与える…それによって、相手は四六時中、その人の事ばかり意識するようになるんですよ。そして、気づけばその人を目で追い、ふとした瞬間に思わずドキッ!としてしまう…いや、させられるんです!!」

「……」


 祈るように両手を握り締め、仮想のラブロマンスに思いを馳せる。そんな若干暴走気味のフランに呆れつつ、どこか腑に落ちる部分があると、ルナの気持ちは少しずつ傾き始めていた。


「一度思いを打ち明けるだけでいいんです。そうすれば、向こうが勝手に意識してくれるようになりますから。後は、相手からの前向きな返事を待つのみ。これこそ真の放置プレイだと思いませんか!?」

「何を言ってるの……?」


 最後の一言で台無しになったと、ジト目を向けるルナの表情に決まりが悪くなったフランは、一度咳払いして腰を上げる。


「こほん……ルナさんが本気で思いを伝えたいとおっしゃるなら、私は全力でお手伝いさせていただきます。祭典中、なんとかしてお二人の時間を作りますし」

「いや、でも…」

「嘗て、私の友人はこんなことを言ってました。――当たって砕けるか、それとも当たらずして砕けるか…後悔しない方を選べと」

「……」

「後悔先に立たず…何事も、選択肢がある内に決めるのが一番ですよ、ルナさん。まあ、決めないというのも一つの選択かもしれませんが」


 夜風に撫でられながら、包容な眼差しを送るフラン。単純に思えて妙な説得力がある彼女の助言を聞き入れた上で、ルナは一つの疑問をぶつける。


「どうして、そこまで私に構ってくれるの…?」

「とても悩ましい顔をしていたので、少しでも緊張が解れればと声を掛けただけです。さあ、明日も早いですし、二度寝といきましょうか」

「……ええ」

「ふふっ、告白…上手くいくといいですね」

「いや、まだすると決めた訳じゃ…!」


 恋する乙女の可愛らしい反論など、耳から耳へと通り過ぎるだけだ。軽く微笑みかけた後、フランは先にテントへ戻っていってしまった。

 またも、一人川辺で膝を抱えることになり、火照った顔を元に戻そうと全力で頭を振る。


「後悔しない方を選べ…か。でも…そうよね。何もせずに後悔するくらいなら、私は――」


 一晩中、アリアの事で頭を埋め尽くしていたせいか、ルナはその後一睡もできず、次の日の朝を迎えることとなったのだった――。

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