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百合色の鍵姫~転生した元魔王の甘々百合生活  作者: 恋する子犬
第三章 尊い姉妹と幸せを得た少女

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第112話 OTHER SIDE―REVIVE―

第三章ラストです!!

 月明かりが差す荒野を走るは、一台の黒き馬車。罪人を乗せたその軍車は、乾燥した気候の中、鍛え上げられた馬の脚力により、失速することなく、目的地へとひた走る。

 ここは、人間界の中心に最も近いとされる領地――〝ロンディア〟。義勇軍軍隊長の勇者エリカ・ロンドが領有し、世界最大規模の都市〝ネオミリム〟を有する、人間界で二番目に広大な領土だ。

 現在、黒馬車は特にトラブルもなく、順調にネオミリムへの道を行く。その道中、今回の一件にどこか引っかかりを覚えていた勇者エリカは、馬を操縦する軍人の部下と、()()()()()()に関しての情報を共有していた。


「リツの報告によれば、グランツェル家に加担していた錬金術師の名は、ファモス…。キロにも吐かせたが、出身がネオミリムということ以外、奴の素性に関する情報は得られなかった」

「ファモスが所有していた研究室を探ったんですが、こちらもこれといった手掛かりは得られなかったですね。自爆したって聞いたので、当然と言えば当然ですが…」

「いや、爆破の規模からして、研究に使っていた薬品や機械ならまだしも、鋼鉄な神霊族の魔力鉱石までもが跡形も無くなっていたのはおかしな話だろう…。薬品特有の匂いは?」

「はっ、そういえばしなかったですね。焦げ臭いくらいで…。可能性があるとすれば、全てが自然魔力に還元された…くらいでしょうか」

「あたしもそれが有力だとは思うんだが…んー、死体はおろか、その痕跡すらも見当たらなかったのが、少し引っかかる……」


 と眉間に皺を寄せ、難しい顔をしながら言うエリカ。部下が纏めた報告書を眺めつつ、棒付きのキャンディーを咥え出す。

 彼女の癖の一つだ。些細な事であろうと、頭を使う時、決まって彼女は飴を舐め、無意識に思考を働かせようとする。


「つまり、ファモスはまだ生きてると…?」

「可能性の話だ。……奴と戦ったノワール家の妹は、こう語っていた。アイツは、ただの人間じゃない。自らを改造した〝ホムンクルス〟だと…。まあ、テレポート特有の魔力の流れも検知できなかったし、逃走した痕跡は見当たらなかったがな」

「狂った生物ほど、怖いものはいないですからね。暫くは、シュヴァリエ様が様子を見てくださるとのことだったので、グラン街の方は問題ないかと」

「ああ。……ん?ちょっと待てよ。もしかして…」

「どうかしましたか?」


 相槌を打つや否や、エリカはふと何かに気づき、目を細めた。どこか深刻な面持ちを見せる隊長の顔を、部下は心配そうに覗き込む。


 時に、錬金が栄える街ネオミリムの軍勇者であるエリカは、錬金術師という言葉に対し、少々敏感になっていた。

 近々目にするようになった、錬金市場の怪しい動き。その発端は、今から約12年前に起こった〝アルケミア〟の大爆発にあると踏み、彼女は数名の部下を連れ、過去へと飛んだ。


 ――最近になって、上層部の連中の怪しい動きが目立つようになってな。錬金術師と結託し、何かを企んでやがる。


 最近というのは、現時から少し時を遡った時期――つまり、エリカが過去に向かう前の時点だ。未来から来訪してきたことは伏せ、幼少期のアィリスにはざっくりとその旨を伝えた。


 ――明日になれば、お前たちはあたしの目の届かない所へ連れ去られちまう。


 ノワール家の姉妹の身に降りかかるであろう危機。そこまでの確固たる裏付けを探れたにも拘らず、二人が拉致されれば、救出は困難を極めてしまう。そんなおかしな話があるだろうか。

 そう上手くはいかないのが、現実という概念。軍の奮闘も虚しく、()()()()()()が重なり、障壁となって、エリカの能力(行動)に制限をかけた。


 この主軸の世界において、既に確定した過去を改変することは不可能。仮に、例の爆破を阻止することができたとしても、現時間軸にその結果を組み込むことなんてできやしない。選択肢など最初(はな)から無いのだ。

 そんな中で、アィリスとユィリスを安全な場所まで送り届けたこと。それが、これからの未来にどれだけの光をもたらすことか。己の功績のでかさを、後にエリカは知ることになるだろう――。


 といった具合に、様々な想起を連ねるも、悩ましい顔で俯く隊長に対し、気晴らしの言葉一つもかけられないでいた。そんな部下の消極的な考えを跳ね除けるように、エリカは突如顔を上げ、けろっとした屈託のない表情を向ける。


「そうだ!ノワールって、十二年前に会った()()()()のことだったのか!!」

「……今更ですか?」

「いや~、なんか忘れてるなぁと思ってな。ははっ」

「ハァ、ほんと紛らわしい人ですね…」


 杞憂に終わったようで、なんとも底抜けな彼女の言動に、毎度の如くうんざりさせられる部下なのであった。

 しかしながら、起こり得る未来というのは、あまりにも予測不能に蠢いていて。今回の一件における〝弊害〟もまた、後に物語られる一大事件として、世界を引っ掻き回すことになる――。




     ◇




 同刻、グラン街近隣の森で、奇々怪々な不快音が鳴り響く。

 真夜中の時間帯。本来であれば、自然の息遣いや魔物たちの寝息が聞こえてくる筈のこの森で、深更の雰囲気を断ち切る耳障りなノイズが、突如として現れた。


 ――ベチョ……グチョ……ニチャ…ニチャ……。


 音の通った道には、べっとりとした黒色の粘液が、〝それ〟の痕跡を包み隠すことなく、一本の直線を引いている。その液体に触れた草木は、生気を失ったように萎れ、数分を持たずして、跡形も無く溶かされていた。

 特に歪な形はしておらず、闇に紛れたシルエットは小さな球体状。スライムにも思えるが、そんな可愛らしいものではなく。一匹の魔物が〝それ〟に手を触れると、忽ち腕が溶け落ちて。

 殺気がまるで無く、攻撃の意思は見られない。殺傷力の高い毒々しい液を散らしながら、どこからともなく顕現した〝それ〟は、ただ只管に前へと這いずっていく。

 鼻の奥まで突き刺さってくるような、薬品の香りを漂わせて…。


 ――グチョ……グチャ………。


 行き先は不明。一つ確かなことは、〝それ〟の向かう方角が、人間界の中心地と重なるということくらいだ。

 目的なんて知れたものではない。欲や思考を持っているかも分からない。

 謎の生命体は、人知れず、ゆっくりとゆっくりと、丑三つ時の森を横断する――。





 ―――――――――――――――





 結局、この日の晩はエルフの森で過ごすことになった。

 和気藹々とした温泉の時間を終え、下宿層(ロッジ)に上った私たち。軽くお喋りした後、はしゃぎ過ぎたのか、布団に入れば、みんなすぐに眠り落ちた。

 エルフも精霊も寝静まった後、なんとなく起きていたかった私は、大樹の枝に腰掛け、独りでに語りだす。


「樹齢1000年か…。私よりも長生きしてるね。人間界の、色んなものを見てきたんだろうなぁ」


 巨木が何かを返してくれるなんて思ってないけど、もし話せるのなら教えて欲しい。私が見ることのできなかった、人間界の歴史とその景色を。

 そして、同じく1000年と聞き、思い出すものがパッと頭に浮かんできた。話し相手が欲しかったのもあり、私は知的な方の聖剣を呼ぶ。


「シェル、いる??」

「はい、マスター」

「お、相変わらず参上が早いね」

「いつ何時であろうと、マッハで駆けつけますので」


 言葉通り、シェルはマッハで私の真横に現れた。彼女からも話したいことがあったのか、真正面に移動して、ずいっと寄ってくる。


「時にマスター。勇者、そして常闇との戦いの一部始終をキュラから聞いておりました。わたくしも含め、この〝虚空の聖剣〟との相性、どのようにお考えでしょうか。ぜひ、詳しく!!」


 根っこの部分は、この子もキュラと大差ない。名を呼んでくれた喜びと、早くマスターの答えが聞きたいという衝動を隠し切れず、寧ろ感情のオーラは剥き出しだ。

 知的な口調ながら、期待に胸を膨らませる賢い聖剣に、思ったままを答えてやる。


「んー、相性が良いかどうかはまだ分からないけど、使ってて凄く楽しい…かな。冷静に相手を分析してくれるシェルのサポートは頼もしいと思うし、豪快な剣捌きで相手を薙ぎ倒してくれるキュラの一声で、気持ちが上がることもあるし。……何よりさ。常に隣にいてくれるから、孤独の戦いにはならないし、安心するんだよね」

「マスター…。~~~っったいないお言葉です!!」


 紺青色の水晶をチカチカさせ、〝も〟が口から出てこない程に興奮しているシェル。お堅そうな人が、急に目を輝かせて燥ぎ出すようなギャップを感じて、どんどん可愛がってあげたくなる。

 愛らしい個性に、にんまりと笑みを浮かべつつ、こちらからもずっと引っかかっていたことを尋ねた。


「出会いは唐突だったし、街でもドタバタしてたから、聞けずにいたんだけどさ。二人は、どうして私を選んでくれたの?ただ鍵文字が読めるからってだけじゃないよね。前のマスターの事もあるだろうし、考えもせず決めたって訳じゃないんでしょ?」

「……」

「シェル?」


 何か言いづらいことでもあるのだろうか。一瞬黙りこくってしまうシェルだったが、私の隣に移動すると、すぐに教えてくれた。


「実を言うと……似ていたんです。嘗ての、マスターに…」

「私が?」

「はい…」

「それは、雰囲気がってこと?」

「いえ、()()()…ですかね」

「まさかの見た目!?そうなんだ」

「はい…。マスターが、初めてわたくしたちの前に現れた時、わたくしもキュラも衝撃を受けました。絶対にあり得ないと分かってはいたものの、まるで嘗てのマスターが生き返り、数百年振りに会いに来てくださったかのように思えて、自ずと舞い上がっていたのでしょう…」

「だから、だったんだ…」


 私は今一度、初めてこの子たちと出会った時の場面を思い起こす。

 プライドが無駄に高く、人間味のある謎の剣。それが、虚空の聖剣(キュラ・シェル)に対する第一印象。

 だからこそ、初めて会ったのにも拘わらず、私をマスター(主人)呼ばわりしてきたことに、尚更違和感を覚えていた。今思えば、あれはいつかのマスターが目の前に現れてくれたのではないかという喜び、もしくはアリア()がマスターであると、自分自身に言い聞かせていたことの現れだったのではないだろうか。

 いや、違う。私はどちらとも感じていた。


 ――アタシと釣り合うに値する存在だから、わざわざ話しかけてやったまでだ!光栄に思うんだな!

 ――さあ、マスター!今すぐにわたくしをここから引き抜いてください!


 前者は、純粋に喜びを露わにしていたキュラ。後者は、私がマスターであると信じて疑わなかったシェル。

 強引さの裏に、微々たる強がりもあったと思う。どうにかして、何が何でも私に付いて行こうと、私をマスターだと無理やり思い込もうとしているような、焦りと期待が伝わってきていたから。

 ようやく分かった。二人が、揃って私のことを選んでくれた理由が――。


「別人なのは、重々承知だったのですが…マスターのお気持ちも、内面も、何一つ知りもせず、ただ似ているというだけで勝手に付き纏ってしまって、申し訳ございませんでした……。その、お気に障るようでしたら、見捨ててもらっても構いま――」

「何言ってんのさ。全然、謝ることじゃないよ。気持ちは分かるし。でも、これまた運命的だなぁ。何にせよ、強さなんて全く関係なく私を選んでくれたってことでしょ?前世だと、そんな子いなかったからさ。ちょっと嬉しい!」


 言い難そうにしていた訳を知り、少しだけ安心した私は、シェルの方へ向き、柔らかくはにかんで見せる。


(なんて、お優しい方でしょうか……!)


 この表情が、嘗てのマスターを彷彿とさせたのか、ただ琴線に触れたのかは分からない。

 けど、今までとは違って、麗しく煌びやかな耀きを放ち始めた水晶。それを見れば、人間で言うところの、シェルが今どういう気持ちでどんな顔をしているのかなんて一目瞭然だった。


「マスター…!!勿体なきお言葉…きっと、キュラも喜んでおります!」

「大袈裟だよ。まあ、いきなりマスター呼ばわりされた時は驚いたけどさ…今は二人が傍にいてくれて、本当に良かったと思ってる。お陰で、大切な友達を助けられたしね」

「あ、あの…本当の事を言いますと、封印を解いてくださった後、すぐ我に返りまして…無理やり付いてきてしまったというのもあり、今回だけは仕方なくお手伝いをさせていただこうと思っていました。ですが、マスターの人柄は勿論、お仲間方との接し方や雑じり気の無い考え方、人間的な面をキュラと共有していくうちに、気づいたんです。この方の、力になりたいと…」

「シェル…」

「直感のようなもの、ですけど…」


 口調や水晶の光具合から、照れ臭そうにしているのが容易に伝わってきた。本心を直接聞いたことで、心のどこかで引っかかっていたものが外れ、私の胸億も軽くなったような気がする。

 キュラとシェル。二人とも、無理して付き合ってくれていた訳ではなかった。それが知れただけで、私は嬉しい。

 だって…。


「そっか。そんな風に思ってくれてたんだね。なら私は、この〝虚空の聖剣〟に相応しいマスターにならなきゃだ。ふふっ、だからさ…これからも、一緒にいてくれる?」

「はっ…も、勿論でござ――」

「勿論だぜ!マスター!!」

「わっ!?急に変わった!」


 性格的に居ても経ってもいられなかったのか、キュラが強引に切り替わってくる。自分の意思で自由に入れ替われるなら、二人に対する接し方を色々と考えなければならないだろう。

 要は、今後が物凄く楽しみ!ということだ。


「キュラ、急に出てこないでください。マスターは今、わたくしとお話しているのですから!」

「十分話したろ!お前はいっつもかたっ苦しいんだよ!こういうのは、もっとストレートにだな」

「あなたのようなガサツな考えでは、すぐ見限られるに決まってるんです!」

「なんだと!?言わせておけばぁ~」


 一本の剣の中で、二つの人格が衝突し合う。赤くなったり青くなったりと、随分忙しそうだ。

 なんとも不思議な光景だから、ずっと見ていたい気もするけど、喧嘩はよろしくない。二人を宥めながら、私はもう一つ、気になっていたことを問う。


「まあまあ…でさ、もし良かったらだけど、前のマスターのこと、色々教えて欲しいんだ。凄い人だったんでしょ?」

「はい。薄らとした記憶でしかありませんが、それはそれは、マスターに負けず劣らず、強くてカッコいいお方でした……」

「凄かったんだぜ!多分…」

「多分は余計ですよ、キュラ」


 遠くを見つめるように、キュラ・シェルは言葉を詰まらせながらも語り始める。

 この晩、私は眠くなるまで、二人から嘗てのマスターについて、断片的に聞かせてもらった。




     ◇




 翌日、準備を整え、私たちはカギ村に向かう馬車へ乗り込む。その際、ティセルは一人一人にハグをして、別れの言葉を告げた。


「アリア、本当に楽しかったわ。絶対、また遊びに来てね」

「勿論だよ、ティセル。こちらこそ、色々とありがとう」


 最後に抱き合った私は、エルフの王女の温もりを感じ、照れつつも、感謝の言葉を伝える。

 馬車が大樹を背にして走り出すと、ティセルは必死に涙を堪え、こちらに大きく手を振ってくれた。

 お別れじゃない。また、会えるもんね。

 そう言い聞かせるように、私は笑顔で、彼女の見送りに手を振り返す。その愛らしい姿が、見えなくなるまで…。


 


 ――いつ振りだろうか。ここまで活気のある森の姿を拝むのは…。


 人間界の東端を覆い隠す程の大森林――精霊の森。

 その奥深くに聳え立つは、美しき亜人エルフが住まう、樹齢1000年の巨大樹である。

 魔物の仕業か、はたまた小さき者たちの悪戯か。

 普段は霧に包まれ、踏み入るのが少しばかり難しい。

 故に、その楽園(パラダイス)を拝めるのは、人間界でも極々一部の者たちのみ。

 しかし今後は、その警戒網(セキュリティ)も僅かながら緩まることだろう。

 妖精たちの歌声や踊りに合わせ、共鳴し、高らかに天へと上る自然の魔力。

 美しいという表現では事足りず。

 一本、また一本と、巨木の枝が分かれる度、見目好い風格と奥ゆかしい情景が、人々の目に映る。

 その花鳥風月を共にして、実に1000年。

 何を見て、何を感じてきたのか。

 偽の聖剣が立つ台座や、新緑を友とする動物、そして、家族同然の精霊たちも然り。

 歴史は未だ、霧のベールが包み込み、時が満ちるまで、目にしてきた史記(クロニクル)が開くことはない。

 ずっと、ずっと、待ち続ける。

 その扉を開ける〝カギ〟が現れるまで。

 美しき世界は、今日も今日とて、自然の笑みを絶えず零してゆく――。




「ねぇ、アリアちゃん。サキちゃんとも一緒に暮らせたりできないかなぁ…」

「勿論だよ!まだ空き部屋あったよね?フラン」

「はい。これは、また楽しくなりそうですね~」

「モナお姉ちゃんたちと一緒に暮らせるの!?やったねー」

「当然シロもな!姉ちゃんの家には、カナが居てくれるみたいだから、問題ないのだ」


 そんな会話を経て、荷台の窓から景色を眺める。ちょうどルナも同じ考えだったようで、二人して遠ざかる精霊の森に目を向けた。


「なんか、凄いことやってのけちゃったわね、私たち。勇者パーティをとっちめるなんて。まあ、殆どアリアのおかげだったけど」

「そんなことないよ。誰かのためを思うから、私は力を出せる。ルナたちみんなが居てくれたから…私を最後まで信じてくれたから、あの時…最後まで頑張れたんだよ」

「もう、ほんとに口が上手いんだから、アリアは」


 ルナは嬉しそうに言って、こちらへ一歩寄り、私の肩に自分の肩を合わせてくる。手先が自ずと触れ合うことでさえ、心臓を鷲掴みにされているような、淑女らしからぬ妄想が脳裏に過ぎってしまう。


「ねぇ、ルナ。ちょーっとだけ近いような気がしない…?」

「そんなことないわよ。いや、だった?」

「そ、そうじゃないんだけど…その……えっと」


 頬を赤らめ、情けなく言い淀んでいると、ルナは再び遠くを見つめだす。


「不思議なのよ、アリアは」

「え…?」

「なんでか、誰よりも強いのに、誰よりも守ってあげたくなる可愛さがあるの。だから、常に気を張ってる必要なんかないわ。少しでも辛いと感じたり、逃げ出したいと思ったら、すぐ私に言って頂戴。絶対に、力になるから」

「ルナ…」


 緊張しているのが、気を張っているように映ったのだろうか。彼女から見た自分の意外な印象に、軽く驚きつつ、私からも伝える。


「私もだよ。絶対に、ルナを守るから!」

「あら、嬉しい。抱きしめたくなっちゃうわ。もう抱き締めてるけど!」

「りゅ、りゅな!??」


 豊かな二つの柔らかみに包まれ、滑舌がおかしくなる。そんな私を見て、更に可愛がってくるルナ。

 その様子を目の当たりにしたみんなからも、可愛らしい野次が飛んでくる。

 甘く蕩けるような帰路を抜け、鼻孔を掠めるは、ほんのりと漂う百合の香り。久々に帰ってきたカギ村の景色は、いつもと変わらず穏やかだ。

 今回の一件で、また一つ、世界のどこかで何かが動いてしまうのだろう。

 先のことは分からない。考えたくもない。

 私はただ望む。ここにいるかけがえのない少女たちとの、平和で甘々な日々が、ずっと続きますようにと――。





 ―――――――――――――――





 魔界某所――。

 人間界とは相反するこの世界の一角で、何者かが転生を遂げた。自らではなく、とある魔王の手によって。


「もう、死んだって聞いた時はびっくりしたんだから」

「ああ…。まさか、たかが人間と魔族のハーフにしてやられるとは思ってもみなかったぜ…。だが、やはり俺は()()()()

「ちょっと、レヴィアが魔王様に必死に頼み込んだこと、もう忘れたの?運だけじゃないのよ」

「いや、ああ…そうだな。すまねぇ、姉貴」

 

 霊魂蔓延る魔族の墓地。決して穏やかではない静けさを放つ、薄気味悪い魔王の邸宅――その中庭にて、悪魔族の姉弟が談話する。

 これは何かの間違いではなかろうか。そう思いたくとも、事実は事実。

 数多の思惑が渦巻く中、この魔族もまた、遠い彼方の魔界から、悪魔の囁きを飛ばしてくる。


「さーて…。次は確実に殺してやるぞ。待ってろよ、ルナ・メイヤード……」






 第三章 尊い姉妹と幸せを得た少女 完

最後の最後まで謎に満ちた三章が、ようやく幕を下ろしました!作者自身、ここまで長くなるとは思っておらず、章末まで付き合ってくださった読者様には、本当に感謝しかありません。


さて、続く第四章の舞台は、勇者の祭典です。キーパーソンは、敢えていないと言わせてください…。


娯楽溢れる都会を楽しむアリアたち。

そんな中、フランが…ルナが……!

人間界の勇者が一堂に会するネオミリムで、アリアたちに待ち受けるのは――。

キャラ、展開共に、作中で最も重要な章になること間違いなしです!かなり気合を入れて、構成しております。

もし良ければ、次章もたまにでいいので見に来ていただけると幸いです。


それでは、第三章、これにて終幕とさせていただきます!

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[一言]  ベルフェニキまだ懲りんのか……。
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