第105話 その笑顔が見たかった
「今宵は満月…なのに、ボクの〝予言〟が外れるなんて」
惨憺たる闇色の外壁に囲まれた大きな市街。人間界は、煌めく星空の元、普段と変わらない姿を見せるものの、光の当たらない陰影の街が一つ存在するだけで、その調和は乱れてしまう。
他所から眺める者にとっては、甚だ異質に思える位相の空間。間違いなくそこに存在しているが、踏み入ったら最後、元の世界の基準では生きていけない。
そんな、闇魔に支配された現在のグラン街を遠目に見つめる小さな影が一つ。
どこにでも居そうな、雪原でよく見られる白兎だ。真っ白な毛並みを風で揺らし、長い耳をぴょこぴょこと動かしながら、変わり果てた街の様子に怪訝な表情を隠せずにいる。
「うぅ、急がなくちゃいけないってのにも~。一体、中で何が起こってんのさ」
こんな夜更けに、急ぎの用事でもあるのだろうか。いや、彼女は常に時間に追われ、己の〝予言〟に従い、行動している。
左目に装着された片眼鏡を隔て、覗かせる深紅の瞳。そこへ映し出されるものは、真実以外の何物でもなかった。かの魔王が死ぬまでは。
「魔王が死んで以来、世界の歯車が少しずつ狂い始めてる。だからこそ、早く見つけなければ…」
そう独り言を呟き、もはや只の小動物とは呼べない白ウサギは、街の様子を探りに向かう。
首にぶら下げたレトロな〝時計〟を、時折確認しながら…。
―――――――――――――――
「あんた、その姿……」
連れ帰ってきた悪魔の容態を確認しつつ、呆然と私の姿を見やるリツ。外見や内に秘められた魔力の質が大きく変わったのだ。別人だと思われても仕方ない。
風に揺らぐ汚れの無い純白な衣裳。派手なものではなく、引き締まったコンパクトな作りで、非常に動きやすいこのドレスは、孤高の強さと高潔の証だ。
リボンとフリルが多彩に伸び、前後の丈が異なるテール状のスカートは、無駄に広がりを見せず。白色のハイソックスが包み込んだ華奢な足を、魅惑的に美しく際立たせている。
二の腕から手先を覆うアームカバーや、足先を守る大きな蝶結びを付けたブーツ、そして首元には光り輝くダイヤのネックレス。ただ洒落てる訳ではなく、最上のアクセントに見せた強固な武装だ。
髪型は左方を少しばかり纏め、サイドテールに。ふわっとした黒髪と共に、ハート型に結わえたリボンが端麗に靡く。
言葉にできない妖しさを放つこの装束は、時に神聖なオーラを周囲に散らし、自然魔力を介して味方を鼓舞する、言わば精神の灯。人間を思う気持ちが強ければ、当然人間の強い力となり得る。
と言っても、今の私にそんな大層な耀きは放てない。
それに、ぺったんこで低身長だから、前世のような妖艶さは欠片も残って無いし。割とセクシーな格好だけど、あんまり見た目は映えない。ちっこいという意味で可愛いのは否定しないけど。
「ふぅ、なんとか力は引き出せたみたい」
人間の魔力が底を尽きても、神の力は使える。そのことに安堵し、リツの方へ体を向けた。
「転生者って、そんなこともできる訳?」
「察し良くない!?」
「そう言ってるようにしか聞こえなかったけど?」
先程の会話で、少し含みを持たせ過ぎたようだ。
魔力を回復せずして、新たなベクトルからのオーラをものにする。転生者とはいえ、勇者でもない人間の何処にそんな得体の知れない力が秘められているのか。いよいよ度を越えた神妙さだと、リツは私の正体を探り始めた。
「ねえ…あんた、いつ転生してきたの?」
「な、なんでそんなこと聞くの…?」
「あんたは相当な大物だった筈。時期さえ分かれば、その少し前に死んだ奴の中から割り出せるから」
ぐぬぬ、中々賢い…。
10歳くらいの年齢であると忘れてしまう程、リツは理路整然とした会話を展開してくる。只の子供ではないのは理解してるけど、未だ彼女に対する違和感は拭えない。
とにかく、下手な誤魔化しは通用しないだろう。私は前世の正体を悟られないよう、出来るだけ気丈に振舞おうとした。
「そ、それは大人の事情で教えられないなぁ…」
が、分かりやすく冷や汗を垂らし、目を泳がせる。
だって、こんな健気な女の子を本気で騙すような事なんてしたくないもん!(←言い訳)
「だから、子ども扱いしないで。それとも、前世を知られると何か不都合なことでもあるの?」
「い、いや…別にないけどさ。知ったところでどうするの?それに転生っていうのは、死んですぐに成されるものとは限らないじゃん?」
「まあ、たしかに…」
「私が何年も前に死んだとしたら、君が知らない可能性の方が高いよ」
なんて得意げに宣えば、
「としたら…?」
と鋭く返される。ほんと、油断も隙もあったもんじゃない。
少しばかり狼狽えつつも、わざとらしく咳払いして話を逸らす。
「ご、ごほん!とにかく、今はこんな話をしてる場合じゃないよ。この街がアイツに呑まれる前に、決着をつけないと」
「……」
「そんな睨んでも何も出てこないよ…」
「ふん。なら、さっさと決着つけてきて。話はそれから」
相も変わらず、リツは不愛想に言い捨てる。でも、先程とは違って、もう私の実力を疑うような言動はなく、さも当たり前のように委ねてくれた。
そもそも話をしようにも、こんな薄汚い空間じゃ、会話に花の一つも咲かせられない。ツンツンしてそっぽを向くリツに、「任せて」と一言告げ、もう一度闇の本域へと向かう。
「アリアちゃん…一体、どうしたのさ??」
「綺麗…」
「まるで、神ですね」
今でこそ収まったが、神聖な光は、嫌でも街中の人々の目に届いていた。絶望と化した暗がりに差す、突発的な一筋の光を見過ごすことなどできないだろう。
当然、このフォルムを目の当たりにし、私の聞いてない所で静かに驚倒する仲間たち。そんな彼女たちに、シャトラは最低限、私の変化について解説する。
「あれは、ご主人様の〝神域能力〟の一つ…アルテミスだ。我でも、一度しか目にしたことがない。理屈はよく分からぬが、加護の影響を受け、魔力ではなく、我らには決して計り知れぬ神の力を得て、更なる進化を遂げる…」
「アリア、ほんとに神様だったのか!??」
「いや、違うぞおチビ」
「誰がおチビだ~~~!!私、一応覚醒者だぞ!!」
おチビ呼びはまだ定着してないよう。ギャグ調で怒りを露わにするユィリスを横目に、シャトラはニヤリと笑みを浮かべ、続けてこう言った。
「ご主人様は、神以上の存在だ」
◇
猛々しさの中に溢れる可憐な風格。今にも散って消えてしまいそうな小さく儚い心身には、際限のない潜在能力が詰まっている。
「〝盤上の改変〟」
天に向けて右手を掲げた私は、そこから高質量の光エネルギーを放射した。
拡散する光束の粒子は、まるで夜空を彩る星々のよう。盤上、言わばこの戦場域における闇の自由圏を根底から解析し、世界の法則を上書きしていく。
とは言え、一定の間、闇を絶対とした基準を消し、次元空間内の法則をフラットにした(お互いにハンデの無い領域に戻した)まで。軸世界から切り離されてる事実は変わらない。
それでも、闇にとってはかなり堪える魔法だろう。事実、奴の中から余裕綽々とした態度は消え失せ、心の動揺を露わにしている。
「まさか、これホドまでとはな…。ウヌのナカにマリョクはカンじられんが……そのチカラをドコからエている。リカイフノウだ」
「教えて何になるの?知らない方が身のためだと思うけど。特に、お前のような知性の塊はね」
「ナンだと…?」
ちょっとばかし煽りを交えつつ、私は背中にぴったりとくっついていたキュラへ視線を向ける。急に無口になったから、〝虚空空間〟とやらに戻ったのかと思えば、ずっと傍に付いてくれていたようだ。
「キュラ、大丈夫??」
「お、おう、びびってなんかないぜ」
「いや、そうじゃなくて…。もしかして、怖い?」
「な、な訳あるか!マスターが無茶して突っ込むから、めちゃくちゃ心配してたんだぜ!せっかく気の許せるマスターに出会ったのに、初陣で失うなんて考えたら、茫然としちまって…。もう、お別れは嫌だからな」
「キュラ…」
最後の一言に、この上ない重みを感じた。うろ覚えではあるだろうけど、昔のマスターを思い出したのかもしれない。
聞くことも憚られる。そんな経験を経たからこそ、キュラ・シェルは次のマスター候補を慎重に見定めていたのだろう。
「けど、マスターにまだこんな力があったなんてな。アタシらの解析にも及ばない領域とは、恐れ入ったぜ。そういうのは先に言っといてくれ」
「うん、そうだよね。ごめん」
「まあでも、これは流石に驚いたぜ。やっぱ、スゲェ奴だったんだな、マスターは」
「少しは尊敬した?」
「ああ、冗談も言えない程にな」
「なら、頑張らなきゃね」
そう真剣な顔で言うも、内心は大喜び。古代の聖剣様に少しでも認めて貰えたという感じがして、私の気分は戦力と共に向上する。
「ツけアがるでないぞ、ニンゲン。リョウイキをシュウフクしたとて、ウヌのマホウはワレにはトドかぬ」
「まあ、そうだろうね。だから――」
収束した光を体内から放散し、再び悪夜を照らしだす。
こんな形ではあるけど、余裕をかませる程、今の私の体は頑丈じゃない。魔力は尽きてるし、体力の消耗は激しさを増す。
加速する血の流れ。熱を帯び始める身体。外界の力を得て、なんとか体裁を保っているものの、これが終わった後、限界を迎え、意識が残っていない可能性も十分考えられる。
でも、それこそ〝生物〟であるが故の天則。前世では味わえなかった、人間の感覚だ。
もっと、味わっていたい。この〝生〟を。
まだまだ、人間である喜びを感じていたいんだ。こんな奴に邪魔される程、私の物語は安くないから。
キュラを強く握り締め、精強な眼差しで闇竜を睨む。そして、言い放った。
「この不愉快な次元空間ごと、お前を跡形もなく消し去ってあげる…」
お遊びはいらない。一撃で終わらせてやろう。
神々しい集光を纏った刀身。両手で握り締めたキュラを天高くに掲げ、魔力では決して表現できない神気を高めていく。
「ウヌのナカからは、アイもカわらずナニもカンじぬぞ。ムダなテイコウはよせ。たとえワレをタオせたとて、このクウカンがキえることはないのだからな。このマチのニンゲンは、ここでイヌジにとなるの――」
「ばーか。言ったでしょ?その空間ごとって」
闇の御託を一蹴し、私は追い討ちをかけるように続ける。
「井の中の蛙…ずっと宿主の中に閉じこもってたお前には分からないだろうね。私たちの居るこの〝世界〟は、そんな単純なものじゃない。果てしなく広大で、尊いものなの。ぽっと出の魔力一つに脅かされるくらい柔だったら、どっかの馬鹿げた魔王が、既にぶっ壊してるでしょ」
「ウヌが、そのマオウだと…?」
「さあ、どうだろうね」
嘗ての魔王を彷彿とさせる不敵な笑みが、自然と溢れ出る(←隠す気なし!)。完全に悪役モードだ。
まあでも、この世界を、そしてみんなを守れるなら、悪者にでも何でもなってやる。それが、魔王アリエのポリシーであり、今も変わらず、私の中で生きている。
「――っ!?ワレのリョウイキが、クズれている…だと?」
べらべらと駄弁っている暇など無い。周囲の異変を察知し、闇竜はようやく己の危機を悟る。
だが、それももう後の祭り。無数の光粒は、気づけば次元の間を内側から破壊し、かつ闇から光へと魔力の変質を促していた。
街を覆う不純な壁から、厭悪なオーラが剥離され、神の光となって天へと浮上。その全てを我がものとし、闇を断ち切らんとする一縷の刃に凝縮させる。
「マスター、準備完了だ!思いっきり振ってくれ!!」
「うん!」
次元の間が一気に晴れゆき、夜に輝く風光明媚な〝満月〟を露わにした。そして同時に、キュラの刀身を引き延ばすようにして、神秘的な光が伸びていく。
滑らかな光柱を作り出す聖剣を両手に構え、巨大な満月をバックに、私は口遊んだ。
「この剣影は、月の満ち欠けに顕現する、常世の魔王の如し…」
「そうはさせぬ!絶、〝デッド・レイ〟!!」
もはや、闇が自由に扱える魔力なんて何処を探しても存在しない。
自由領域が消え去ったのだ。この世界の法則に従って、闇塊は次元を生み出す前の状態に戻り、無力と化している。
光線を打ち放つも、精々曇り空を晴らすのがやっとのレベル。今の私に通用する筈もなく、こちらへ届く前に儚く散っていった。
「バカな…こんな、ことが……」
先程までの毅然たる態度を保つ余裕など、消えゆく知性には残されていない。竜の姿すら見る影もなく、ただの塊と化した闇は、キロ・グランツェルと全く同じセリフを吐き、情けなく逃走を図ろうとした。
その瞬間、周囲に散漫していた光の粒子が、目も眩むような光彩を発し、奴の動きを封じ込める。
光と闇は対の関係。当たり前の結果だろう。思考を投げ出してしまう程の光量を浴びた闇の背後から、私の奥義が迫りくる。
――このワレが……こんな、こんなニンゲンのワッパにマけるのか…?
無駄に知性が発達したせいで、存在することへの強烈な執着心に駆られる常闇。知ったこっちゃないし、同情はしないけど、こいつも魔界に居座っている〝帝王〟の駒の一つだと考えると、憤りを隠せない。
誰かの犠牲の上で成り立っている悪性の連鎖は、いち早く断ち切らねばならないのだ。
感情の残滓一つ余すことなく、安らかに眠らせてあげよう。そう心の片隅に置きながら、相手に全力の魔剣を振り下ろした。
「神光、〝覇王魔壊斬〟…!!」
荘厳で重々しい魔光が、一点目掛けて降り注ぐ。
常闇が絶対とした自由圏。小規模ながら、その一つの世界を生成・維持した魔力を全て集約し、解放されたエネルギーは、質・量共に闇竜が放っていた光線の比ではない。
概念を攻撃したのだ。音もなく、ただ光の魔力となって天に散る常闇が目に映るのみ。
――ワレは…キえるのか……こんな、ところで……っ!!
消滅する直前、闇魔は残留思念をもって、最後に言い捨てた。
「「【バーツ】サマァァァ!!!!」」
不気味な声色。その断末魔が響き渡ったのは一瞬で、意思も精神も、或いは魂のような存在証明さえも消えゆく中、短命に静まっていった。
跡形もなく闇が寂滅し、行き場を失った光の魔力はその場で爆散する。と言っても、火の粉を散らすように、瞬刻の間、上空を照りつけただけだ。
明媚な満月と相まって、キラキラと輝く自然魔力が清らかな夜空を映し出す。そんな光景が数秒続いた後、いつもと何ら変わらない静寂な夜が、グラン街全域に訪れた。星月を背にふわりと浮かぶ、虚脱状態の私を添えて。
全身全霊をかけて剣を振るったのだ。体力の限界を迎え、今までにない疲労感が体中を巡る。
神の力を使い、無理やり体を動かしていたから、反動がえげつない。勝利の余韻に浸る間もなく、元の姿に戻った私は、周囲の光に身を任せる。
「やったか…!?」
「キュラ……それ、フラグってやつ………」
ボソッと突っ込みながら、真っ逆さまに、ゆっくりと地上へ落下する。
元最強魔王が情けないったらありゃしない。意識はあるけど、指の一本も動かせず、活気を取り戻した街の夜景が視界から遠のいていく。
全く、動けないや……。
「マスター!」
キュラが周囲の自然魔力を用い、私を包み込んだ。触れた空気が薄い層を成し、落下速度が緩やかになる。
「ありがとう…」
「ったく、無茶し過ぎだぜ。あんなに精神消耗しなくても、余裕で倒せたんじゃねぇか?」
「念には念をだよ。闇の魔力が少しも残らないように、ね…」
「そっか。でも、やっぱマスターは最強だな!」
「そういうこと……」
なんて、眠りに入る前の子供のような顔で答える。ウトウトして、意識がぼんやりとする中、私の名を呼ぶ女の子の声が、薄れゆく意識をギリギリのところで留めてくれた。
「「アリア~~~~!!!」」
地に付くや否や後ろへ倒れそうになった私を、その小さな体で支えながら、心配そうに覗き込んでくる。
「アリア、大丈夫か!?どこか痛むか?苦しくないか?」
「ううん、ただ眠くなってるだけだか――」
「死んだらダメなのだ~~~!!!」
両肩を掴まれ、思いっきり前後に揺さぶられる。抵抗すらできないから、危うく首がおかしな方向に曲がる所だった。
でも、意識が健在かどうかは分からない。いや、そう考えてる時点で健在してるか…。
覚醒した後の力の上がりようが凄まじい。以前にも増して、私に対する容赦がなくなった気がする。
「うわ~!アリアの意識が遠のいていくのだ~~!!」
「誰のせいだと思ってんのさ……」
「私なのだ」
「だったらやめてよ!!?」
こんなやり取りにさえ、懐かしさを覚える。
軽く意地悪したり、誘惑してからかったり、理不尽な目に巻き込んだり。年相応のやんちゃさに振り回されることが殆どだけど、女の子、ましてや友達との接し方も知らなかった私に対して、不安に思う隙すら与えず、いつも楽しませてくれた。そんないつも通りのユィリスとの会話が、今の疲弊しきった心身に安らぎをもたらしてくれる。
そして、何より――。
「カッコよかったぞ、アリア。お前には、一生の恩ができたのだ」
「そんな…大したことじゃないよ」
「本当にありがとう、アリア。………へへっ、やっとお礼が言えたのだ」
若干照れくささを残しつつ、純粋無垢にはにかむユィリス。彼女と出会ってから、沢山の喜怒哀楽を見てきたつもりだったけど、この表情だけは、今の喜びの感情が最大限に表れた、またとない最高の笑顔だった。
恐らくは、この瞬間なのだろう。私が、この戦いの勝利を実感したのは。
だから、今度は私が純粋に思ったことを口にする。
「それが、見たかった…」
「え??」
「その笑顔が見たかった」
「――っ!!」
特に変なことは口にしてないのに、なぜかユィリスの頬が紅潮する。また可笑しなことを言ったなと、笑われてしまうだろうか。
それでもいいよ。この子が、ずっと笑ってくれていたらね。
すると、ユィリスは何やら戸惑うような素振りを見せ、ボソッと呟く。
「こ、今夜は…満月が綺麗だな……」
「ん?そうだね」
「……」
「ユィリス??」
「な、なな何でもないのだ!全く、これだからアリアはいつまで経っても女と恋愛できないんだぞ!」
「それ、今言うこと!??」
今の会話のどこに、デリケートの無さが出ていたのだろう。なんて考えてる間に、再び強烈な眠気が襲いかかってくる。
「ごめんね、ユィリス。眠くてもう動けそうにないや。後は、お願いしてもいい?」
「勿論なのだ。ゆっくり休んでくれ」
「うん、そうさせてもらうよ……」
その言葉を最後に、完全に安心しきった私は眠りにつく――。
命を賭して戦い、得られたのは、月下に咲く満面の笑顔。
純粋に可愛くて、撫でてあげたくなる程可愛くて、抱きしめたくなる程可愛くて…って、何回言うんだ!!事実だからしょうがないけど!
と、自分でも訳の分からない戯言を思考する時は、決まって夢の中にいる。目覚めたら、また普段通りの日常に戻ることだろう。
第二の人生を捧げて大事にしたい、みんなとの大切な日々へ…。
「お疲れ様なのだ。大好きだぞ、アリア…」
綺麗なまん丸を描いたお月様の下で、幸せを得た少女たちの笑顔が、静かに零れ落ちた――。
長くなりましたが、ようやく決着しました!アルテミスの詳細は、後のお話に出てきますので、今はそういうものだと思っていただけたらと思います。
そして、いよいよ三章終幕に入ります。四章以降に関わる細かい情報がいくつか出てきますので、まだまだピークは続くかと…。
勿論、戦いが長かった分、てぇてぇ要素も盛り沢山に用意しております。ぜひ、最後までよろしくお願いします!




