第19話 恋のライバルたちの集結
「今日はこれでホームルームは終わります。さようなら」
「さようなら!」
翌日の月曜日……
怒涛のテスト一週間前が幕を開けた。
学校のクラスメイトの反応は様々で、余裕ぶっている者・焦っている者・冷静な者の三通りだ
そして時は放課後……
家に帰ろうと席から立ち上がったその時、ポケットに入れてあるスマホが小刻みに振動した。
《今日も勉強会するわよ。今からあんたの教室に行くわ。真央も誘ってあるから》
なんと、由佳からのメッセージだった。
嬉しいような恥ずかしいような、そんな気がした。
っていうか、昨日の段階で約束してくれても良かったじゃないか……
「──弓弦、どうしましたか?」
後ろから英理香の声が聞こえてきた。
──まあ、英理香は勉強会に誘わなくてもいいだろう。
彼女は俺に次いで、成績優秀だからだ。
「これから由佳と真央の三人で勉強会をすることになった。だから済まないけど、今日は一人で帰ってくれないか?」
「いえ、それなら私も参加します。人に教えるのも、自分の理解力向上に繋がりますから」
「そうか、ならよろしく頼む」
俺と英理香はここで待つことにした。
ちなみにこの時期は教室が解放されており、生徒が自由に使うことが可能だ。
図書室は私語禁止だし、カフェやファミレスだと金がかかるので、とてもありがたい。
「──弓弦先輩! はあっ……はあっ……」
ふと、教室に俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
入り口の方を見やると、息を切らしている様子の後輩・茉莉也がいた。
「弓弦って誰だっけ?」
「さあ?」
「江戸川くんの下の名前が『弓弦』だった気がする」
「でもあいつが女の子にモテるとは思わないけど……」
「しかもあの子、めちゃくちゃ可愛いじゃん! 絶対江戸川とは関係ないだろ! 頼む、そうであってくれ……!」
クラスメイトたちが好き放題言ってくれているが、まあ事実なので俺は怒らない。
茉莉也が走ってここまで来た理由については疑問だが、俺は彼女に近づく。
見たところ少し汗をかいており、ジャスミンのような甘い香りが強く感じられた。
「こんにちは、茉莉也。どうしたんだ?」
「あ、あのっ……勉強を教えてほしいんです!」
「そうなのか。でもそれならスマホで連絡してくれれば、わざわざ走ってこなくても──あ、そう言えば連絡先交換してなかったな」
茉莉也と出会った日は、色々ありすぎた。
放課後に話し込みすぎて弓道部に遅刻しそうになったり、英理香が乱入してきたり……
友だちになったはいいが、連絡先を交換し忘れていたのだ。
とりあえず俺と茉莉也はQRコードを使う。
これで、メッセージアプリ上の「友達」になれるはずだ。
「こんにちは、茉莉也」
「あっ……こ、こんにちは……」
俺たちが連絡先を交換している間、英理香は笑顔で挨拶する。
が、茉莉也は少し怯えているような気がした。
まあ無理もない。
英理香は校内一の美人だし、男子からの告白を何度も断ってきた《難攻不落》の優等生だ。
それに彼女は茉莉也の上級生である。
萎縮しないほうがおかしい。
「茉莉也は何の科目が得意なのですか?」
「えと、英語です……でも理系が全然で……」
「私も優しく教えますから、わからないところがあれば何でも聞いてくださいね」
「あ、ありがとうございますっ……!」
英理香はとても慈悲深い目をしていた。
てっきり「私から弓弦を取らないでください!」と言うものかと思っていたが……
って、何考えてるんだ、俺……
きっと疲れてるんだな。
「弓弦、来たわよ!」
ふと、教室の外から声が聞こえてきたので見てみる。
するとそこには由佳と真央が二人して立っていた。
弓道部員である茉莉也は真っ先に、先輩である由佳に「こんにちは」と挨拶をする。
すると由佳は「あなたも弓弦に勉強を教えてもらいに来たの? 奇遇ね」と返した。
クラスメイトたちは由佳と真央を見て、「うおっ……すっげえ美人じゃん!」「あの1年もちっちゃくて可愛いな……」「また江戸川くんの女友達? 随分とモテるのね」と色めき立っていた。
「お兄ちゃん──って、あれ!? わ〜、相羽さんだ〜!」
「え、ええっ!? 江戸川さん……だよね!?」
真央は相羽茉莉也の両手を掴み、嬉しそうにはしゃいでいた。
確かに同じ1年だから、面識があるのも不思議ではないが……
茉莉也は突然の出来事に、対応しきれていないようだ。
「えと……江戸川さんはどうしてここにいるの?」
「ここは俺の教室だからな」
「むー……弓弦先輩に言ったんじゃないんです……って、そういえば弓弦先輩の名字も江戸川だよね……あっ、もしかして!?」
「気づいた? 私達、実は兄妹なんだよ。えへへ……」
「え、ええええええっ!?」
茉莉也は真央の言葉に、大声をあげて驚いてみせた。
その声を聞いて、他のクラスメイトたちも「なんだなんだ?」とこっちを見始める。
「うわあ……なんで気づかなかったんだろう……もし気づいてたら、弓弦先輩ともっと早く会えたかもしれないのに……」
「相羽さん、お兄ちゃんが好きなの?」
「う、ううん! そ、そんなこと……」
茉莉也は顔を真っ赤にしていた。
それを見て、真央は妖しげな表情をして茉莉也に迫ってくる。
「ふ〜ん……だったら私と同じだね。友達になろうよ、相羽さん──じゃなかった、茉莉也ちゃん」
「あっ……わたしの名前、覚えててくれてたんだ……うれしい……」
「どうする?」
「よ、よろしくね、江戸川さんっ……!」
「江戸川じゃなくって『真央』って呼んで? お兄ちゃんと紛らわしいし、それに茉莉也ちゃんとは仲良くしたいから」
「うん、真央ちゃん! えへへ……」
真央と茉莉也はとても雰囲気が良さそうだ。
真央は誰にでも人当たりがよく、また茉莉也も遠慮しがちであると同時に礼儀正しい。
二人は全然性格が違うが、上手くやっていけそうな気がする。
「こ、こほん! あんたたち、早速だけど勉強会するわよ!」
「はいっ!」
由佳の掛け声で、2年1組の教室で勉強会が始まった。
俺・英理香・真央・由佳・茉莉也の五人で。




