表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/75

対になる仕掛けの話。

 一行が辿り着いたのは、とある廃遺跡の中だった。苔生した壁はカビ臭く、天井からは水滴が滴り落ちてくる。

 その一滴が赤髪の少年――魔法剣士の頭に落ち、その冷たさに思わず奴は飛び上がる。


「冷たい!」


 握っていた白髪の青年――リーパーの手を離し、魔法剣士は頭についた水滴を払った。リーパーの頭に乗っていたピンクの魔物フワリン、ロディアが、その様子が面白かったのか何度か跳ね、


「だーりん! わたちみたいでち!」


と魔法剣士の頭へと飛び移った。魔法剣士はそれを受け入れ、それからロディアを頭から肩へと乗せ直す。


「だーりん?」

「また落ちてくるかもしれないしさ。なんだったらここ、入る?」


 自分の懐を示したが、ロディアはそれこそ渋い顔をし「いや、えんりょするでち」と丁重にお断りをする。それを見て豪快に笑うのが、リーパーの肩に手を置いていた屈強な男、一行の頼れる仲間戦士だ。


「ロディア殿は手厳しいな。魔法剣士殿、もう少し身なりに気を使ったほうがよいぞ」

「戦士に言われる僕って一体……」


 リーパーの肩から手を離すと、戦士は「さて」と辺りを見回す。習って褐色の肌の女冒険者、魔法剣士の師匠殿もまた遺跡内を鋭く睨んだ。


「ここは……、“黄の国”の廃遺跡じゃあないか」

「やはりそう思われるか」

「間違いないねぇ」


 頷く二人に、リーパーの頭を乱暴に掴んでいた青髪の少年――舞手が、リーパーの頭を弾くように離す。リーパーが怒りを含んだ目を舞手に向けるが、舞手はお構いなしだ。


「なんだ、その廃遺跡って」


 リーパーの腕を掴んでいた、舞手と同じ青髪を緩く三編みにした女性、聖女が「廃れた遺跡よぉ」と朗らかに笑う。

 ちなみにこの聖女と舞手は姉弟に当たる。二人揃って、目を奪われるほどの美男美女なわけだが、それが舞手にとって自身を憎む要因になっているのは、今回の語りの中で露わになるかもしれないな。


「お姉さんお姉さん。廃遺跡ってそういうことを聞きたいんじゃなくてですね」

「あら? 違うのかしら?」


 小首を傾げる姿に、戦士が「姉上殿、お美しい」と目頭を押さえた。そんな戦士をジト目で見ているのが、魔法剣士と手を繋いだままの黒髪少女だ。

 少女は最近まで感情の一切を失くしていたが、リーパーの力で奴が側にいる間ならば、こうして感情を表に出すことが出来る。そのリーパーが白髪を掻き上げ、心底うんざりしたようにため息をついた。


「キミのお姉さんは、しっかりしているのか抜けているのか、どっちなんだい?」

「おいもやし、お前姉貴を馬鹿にすんのか!」

「誰もそうと言ってないだろう? 全く、これだから知能が足りてない下等な虫と対話を試みるのは疲れるんだ」


 それなりに辛辣な言葉を並べ立て、それからリーパーは「へぇ……」と壁に指先だけ触れた。


「たかだか三百年ほどしか経っていないようだが、キミたちにとっては遺跡と呼ぶくらい古いものなのか。中々面白い」

「君は一体いくつなの……」


 少女を抱き上げた魔法剣士が、苦笑いと共にリーパーへ問う。


「キミは、例えば冬を三百回経験したとして、その先も続くそれを数えようと思うかい?」


 それはいくつなのかと疑問に思ったが、リーパー本人が数えていないのならば仕方がない。魔法剣士は諦めて、皆と同じように遺跡を見渡す。

 自分たちが出てきた場所には何もなく、いや床に怪しい模様が描かれているか。盃にローレルの葉が巻かれたそれは、初めて見る模様だった。いや、顔をしかめたリーパーは違うようだが。


「この遺跡は入り組んでたりする?」

「いや、むしろ“帰らずの遺跡”という通称でな。シンプルな造りの割に入れば最後、二度と出ることは叶わないと言われておるのだ」

「え!? もう入っちゃってるじゃん!」


 慌てる魔法剣士の肩を、戦士が「まぁ落ち着け」と言い叩く。


「この場が妖精王フィーニ、いやリーパー殿の場所と繋がっていたのだとすれば納得出来る。実際どうだったのだ」

「実際も何も、キミたちも見ただろう。無理に通ろうとした結果を。キミたちが無事だったのは、恐らくだけど、その子供のお陰だよ。実際どこぞの虫より役に立っているだろう?」


 その虫とやらが誰かとは言わないが、魔法剣士に「まぁまぁ」と宥められ、リーパーは鼻を鳴らして顔を背けた。

 戦士も苦笑いすると「こっちだ」と先頭を歩いていく。どうやらここは、人間や、そうでなくとも魔物ですら近づくことはないらしく、道中危険な目に合うことなく、一行は日の入る出口へと辿り着いた。


「お、外だ外! ここが“黄の国”かぁ。あんまり“緑の国”と変わんないね!」


 日光を浴びる魔法剣士が笑う。抱かれた少女が、眩しいのか魔法剣士の肩に顔を埋める。

 師匠殿が「さて」と自身の肩を叩きながら魔法剣士を振り返った。


「こっからなら港も近いはずだからね、アタシはこの辺で別れるとするよ」

「もう?」

「あぁ。アタシのような怪我人は早く帰って治さなきゃならんからね」


 目尻を下げた魔法剣士の頭を撫で、師匠殿は「そんな顔するんじゃないよ」と優しく微笑んだ。少女もまた師匠殿に手を伸ばす。行かないでと言うように。


「ごめんねぇ。ご両親からアタシが託されたってのに、こんな別れ方しちまって」

「……!」


 少女は必死で首を横に振るが、師匠殿の決意は固い。魔法剣士の次に少女を撫でてやると、次に舞手を見る。


「おい、アンタ」

「……んだよ」

「いつまでもお姉さんのケツを追いかけてんじゃないよ」

「あ?」


 睨む舞手を気にせず、むしろ少し乱暴にその頭を撫でる。


「何しやがる、ばばあ!」

「アンタは舞えるさ。だから自信を持ちな。自分に自信のない舞いなんて、見ててもつまらないからねぇ」

「……チッ」


 師匠殿の手を払うようにどけると、舞手はそのまま背中を向けてしまった。その素直ではない態度に、師匠殿は腕を組んで呆れるが、まぁ、奴に少しばかりは伝わっただろう。


「まいちゃんが本当にごめんなさい。お姉ちゃん、育て方間違えちゃったかしら」


 それは本音なのか建て前なのか。そう眉尻を下げた聖女に「そんなことないさ」と師匠殿は笑う。


「よくやってるよ、アンタは。だからこそ、もう少し頼ってもいいとアタシは思うのさ。それこそ、無駄に年だけ取った奴がいるんだから、こき使ってやんな」

「そう、ですねえ……。では私も港までご一緒させて頂きますね。やはり心配ですし」

「では俺もご一緒させて頂くとしよう。女性二人では色々大変なこともあるだろうしな」


 戦士の申し出に聖女が手を小さく叩き「まぁ!」と微笑む。それからリーパーに向き直ると、


「リッちゃん、そっちはお願いね」

「リッ……!?」

「それは良い! リーパー殿ならば任せてもなんら問題なかろうて」


と勝手に話をまとめられ、リーパーが反論する間もなく、師匠殿と戦士が歩き出す。もちろん黙っていないのはリーパーだけではない。


「姉貴、待てよ! オレも姉貴と一緒に……」

「まいちゃん」


 そう真剣に呼ばれれば、舞手は静かに見つめることしか出来ず。


「お姉ちゃんね、今回のことでよくわかったの。まいちゃんはお姉ちゃん離れしなきゃいけないのよ」

「そうだぞ、まいちゃん。僕がお兄ちゃんになるからさ。へぶしっ」


 間髪入れずに魔法剣士の顔面に舞手の拳が入る。魔法剣士は変な声を上げながら倒れるが、少女に怪我を負わずに倒れる辺りが器用な奴だ。


「お姉ちゃん、まいちゃんが立派な“男の子”になれるの、楽しみにしてるからねぇ」

「姉上殿!」

「はぁい、今行きますよぉ! じゃあまたね、まいちゃん」

「姉貴! 姉貴!」


 聖女は身軽に戦士たちの元へ駆けていく。その姿が木々の間に見えなくなった頃、意識を取り戻した魔法剣士が「怪我してない?」と能天気に少女に笑いかける。

 次にどこへ向かえばいいのかすらも、よくわからずに。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ