第24話 灰被りの秀才 その8
胸糞回です。
第24話 灰被りの秀才 その8
―宮本明日香―
そうして、景色は暗転する。
いつもの夢の流れだ。
私と母さんの尊厳を奪われた日。
「おい1号。飯」
「はい。ただいま」
その日の奴は朝から機嫌が悪かった。
そういった日は奴の行動も過激になる傾向があった。
警戒をしても無意味だけど、いつも以上に気を張らなくちゃいけなかった。
「あ、そうそう。これ付けろ」
そういって奴が取り出したのは、首輪だった。
多分、犬とか猫とかそういう動物用の物だったと思う。
「奴隷は奴隷らしくってね」
携帯に目を落として何事もなく呟く奴を心底殴りたいと思った。
でも我慢だ。
二人で首をおとなしくつけ終わって、朝食の準備を進める。
そんな時だった。
昨日の夜、背中が痛くて寝付けなかったためか。
朝やや寝坊気味に起きた私は軽食を取るのを忘れていた。
お味噌汁やお米が炊けた匂いに反応して
ぐぅ~
私のおなかは間抜けな音を立てていた。
「なに?2号おなかすいたの?」
その時の奴の顔は今でも忘れられない。
ニタリとかニヤリとかそんなかわいいものじゃなかった。
三日月型に裂けんばかりの気色悪い形だった。
「い、いえ」
「そうだよねぇ~。食べ盛りだもんねぇ~」
そういって奴は配膳された食事を手に取って次々に床にぶちまけた。
お母さんの作った、白米も味噌汁も焼き魚もサラダも卵焼きも、私の大好きな物ばかりだ。
それを床に落として
ぐしゃぐしゃに踏みつけた。
「ほら、お食べ2号」
「は、は?」
「だから食えよ。腹減ったんだろ?」
私は強引に髪を掴まれて強く引っ張られる。
突然の事に一切反応できずに、されるがまま床にたたきつけられた。
頬や頭にぐちゃぐちゃになったご飯がべっとりと付く。
「ほらほら~たーんとお食べよ2号~」
「生きてさえいれば勝ちなんだよなぁ?」
「どんなに踏みつけられても奪われても負けないんだよなぁ?」
「金さえあればいいんだよなぁっ!?」
語尾がどんどん強くなる。
しかし、そんなときふと手が緩められる。
「あぁそうか。2号はお腹いっぱいだったんだな」
「あの音は……1号のだったかぁー」
「1号……ちょいちょい」
奴はあの恐ろしい笑顔でお母さんに手招きする。
ぐちゃぐちゃになった朝食の前で正座をするお母さん。
ゆったりとゆったりと顔をご飯に近づけていくお母さん。
そして、最後の最後。
ごはんに口をつける寸前でお母さんはためらった。
ためらってしまった。
グシャッ
奴は再び踏みつけた。
母の頭ごと
グシャッ
グシャッ
グシャッ
何度も何度も
そして、その力はどんどん強くなっていく。
地面に落ちたぐちゃぐちゃのご飯を咀嚼するお母さんの頭を
その時私の頭の中は真っ白だった。
ゴッン
一際、強く踏みつける音が響く。
お母さんの額が切れて、ご飯に血が混じりはじめた。
やめて……やめてよ!
やめてっ!!!!
声を出していたかわからない。
でも体は動いていた。
奴は私に強く突き飛ばされて床に頭を打ち付けると気絶した。
動転した私はひどく泣きじゃくっていたが母の呼んだ救急車の中で手当てをされているうちに気を失った。
その後の処理は淡々としていた。
男性保護団体に調書を取られ、何日か後に親戚の家に逃げ込むように帰った。
男性保護団体からの通達で奴が軽度の心的障害を負ったと聞いた。
ただ事情も鑑みて今回の件を公表しないし、罪にも問わないと
約束のお金は支払われなかった。
私とお母さんは抱き合って大声で泣いた。
私たちの努力は、我慢は、苦痛は、なんだったのかと。
それでも解放された安心感の方が強かった。
最初から逃げて居ればよかったのだ。
あんなイカれた奴に勝負だの道理だのが通用するはずがなかった。
しかし、事件から数日後。
家に一通の封筒が届いた。
謝罪状と書かれたそこそこの厚みのある封筒には奴の名前があった。
見たくもなかった。
でも、改心してもしかしたらお金を払う気になったのかもしれない。
そんな淡い期待を抱いて封筒を開いたとき私は激しく後悔した。
中にはこれまで散々私たちを甚振ってきた写真と共に一言。
『お前の負け』
そう、書かれていたのだ。
糞男「俺も心的障害負ったしこれで痛み分けでしょ?」
糞男「金?払わないよ?だって1年満期で働いてないじゃん?」
糞男「あ、なんか勝負とか言ってたじゃん?俺の勝ちぃ~」
いや、僕の作ったキャラですけどね……。
僕の作ったキャラなんですけどね!
こいつマジで死なねぇかなぁ~




