第20話 灰被りの秀才 その4
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第20話 灰被りの秀才 その4
―鬼塚姫子―
朝の登校時間。
朽様を送迎する特定選別業務支援事務所の車に同乗する。
走行中の車両を襲撃するアクション映画のような展開はそうそうないと思うが、学校内の立ち入りはさすがに許可されなかったので、せめて送迎時だけでも朽様の保護に必要な措置である。
普段は車に揺られ、うとうとする彼が肩にもたれかかってきたりするご褒美もあるのだが、今日は窓の外を眺めながら悩まし気な表情をしていた。
「姫子さん」
彼は真剣な面持ちで窓の外を眺めながら話しかけてきた。
「なんでしょうか?」
「少しお願いがあるんだけどいいかな?」
「はい。私にできることでしたら」
「ありがと」
微笑んだ朽様はなぜか横になり、私の膝に頭を預けた。
「ふへ!く、朽様?」
「ごめんね。重いかな?」
「ぜ、ぜ、ぜ、全然!大丈夫です!」
「もしよかったら、頭をなでてくれないかな?」
「ふひょ!よ、よろしいので?」
「うん。お願い」
サラサラな髪に指を通す。
なんの抵抗もなく指が動き、何度か上下するたびに朽様が気持ちよさそうに目を細めていた。
まじきゃわたんなんですけどぉぉぉぉぉ!
「はぁぁ」
「な、なにか!?不手際でも?」
彼の突然の大きなため息に思わず、びくりと反応する。
「ううん。ただ、少し心配事があって」
少しだけ愁いを含んだ彼の瞳がわずかに揺れていた。
そこに浮かんでいたのは涙……。
きっと座ったままだったら流れ落ちていた。
「朽様……どうかその悩みをお聞かせ願えませんか?私も雅様もきっと前にいる二人だってお力になります」
特定選別業務支援事務所の松平さんと片野さんもバックミラー越しに心配そうにこちらをうかがっている。
「朽様を悩ますすべての原因を全身全霊で取り払って見せますから……」
「ありがとう姫子さん。実はね……」
朽様の相談は信じられないものだった。
クラスで隣の女子生徒が酷く冷たい人だという。
暴言や暴力はないがそっけない態度。
男性に対してそういった対応をする女性が世の中に少ないながらもいることは知っている。
そういう人の多くは過去に男性から酷い仕打ちを受けていることがある。
しかし、朽様は一般の男性とは隔絶するほどお優しいかただ。
最近になって少しずつ態度が軟化してきているらしいがそれでも態度は冷たいという。
しかも、風のうわさで彼女が昔男性絡みのトラブルで男性保護団体に取り調べを受けたというものを聞いた。
噂は噂。
しかし、どうにも現実味のある話に心配になってきたという。
「姫子さんって男性保護団体だよね……その、噂が本当か調べられるかな?」
「それは……」
できるかできないかでいえばできるだろう。
しかし、決して褒められたことではない。
過去のデータを掘り出して関係のない第三者に見せるなど、団体の情報管理の観点からも到底許可されないだろう。
「お願い。頼れるのは姫子さんだけなんだ」
潤んだ瞳でじっと見つめられる。
そんな目で見つめられると先ほどから少しまずい下着がもっとまずくなる。
下腹部辺りに熱が集中していく。
「……お願い」
そんなダメ押しの一言に私はつい頷いてしまった。
「ありがとうっ!」
朽様がガバッと体を起こし、勢いそのままに熱い抱擁。
そして彼は僅かに顔を横にずらして私の頬に口づけをした。
私はもちろん意識を手放した。
「……よろしいので?」
朽様を送り届けた帰りの車内でこちらを伺うように、質問をしてくる松平さん。
「よろしくはないですよ。でも、これで彼の心労が少しでも和らぐなら、私は如何様な処分でも受け入れます」
「……愛ですか?」
少しばかりにやけた表情の松平さんを一瞥して私は答える。
「愛ですよ」
―旭野朽―
無事姫子さんを説得することができた。
しかし、純粋な彼女を騙したようで気が引ける。
しかも、朝は苦手だからあくび出まくってたし。
多分、個人情報だのにうるさい組織なのに……まぁもしクビになっても彼女には家に来てもらおう。
旭野朽に永久就職してもらえれば、問題ないだろう……多分。
さて宮本さん攻略作戦が順調に進んでいる中、俺の高校生活は早くも1月経とうとしていた。
国語、数学、化学、物理は前世の記憶があるのでまだついていける。
問題は外国語、地理、歴史などのこの世界独自の物だった。
特に社会科目は難敵でゼロからの覚え直しになるので小中と酷く手こずった。
「れ、歴史が難しい」
「ふふ、意外です。朽君も苦手な物があるんですね」
深山さんが少しからかうような口調でこちらに微笑みかけてくる。
俺は少しだけ拗ねたような表情で彼女に向く。
「そりゃそうだよ。僕だって完璧じゃないんだ」
そんな何事もない日常の一コマ。
しかし、休憩も終わろうかという時に校内放送が教室に響く。
「1年A組宮本明日香さん。至急、職員室まで来てください」
そんな放送にクラスの視線が宮本さんに向かう。
彼女はそんな中でも慌てることなく、教室から出ていった。
小話~本編に書くほどのものではない細かいお話~
鬼塚姫子さんの家族のお話。
彼女の実家は結構古い材木商でかなり裕福でした。
しかしながら火事で財産を失い、無一文に。
これが彼女の祖母の話です。
そこから、彼女の一家は身一つで生きていける軍人という職業になりました。
飯や衣服も支給されるので代々軍人として生きていくことを選んだんですね。
派閥は海軍派閥……つまりは旭野派ですね。
この話は本編で語りますのでここでは割愛しますが
もちろん、旭野本家の息がかかっています。
ちなみに、鬼塚家はみんな高身長です。
一番大きかったのは姫子の祖母で189cmあったそうですよ。
巨人ですね。




