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ぐるぁう くぅあ くるぁあーん♪

槍使いのコボルトがバスターに治癒魔法を施しているのを眺めながら、俺は身体に漲らせていた魔力を霧散させる。


「フゥウウ…………、ッゥ」


盛り上がった筋肉が元の状態に戻ると共に筋肉痛が俺を襲う!


(慣れれば、この筋肉痛も無くなるというが…… 結構、負担があるな金剛体の魔法は)


筋肉の痛みを堪えて表面上は勝者の余裕を装い、俺がバスターに声を掛けようとすると……


「クォンッ、クルァアン♪ (兄ちゃん、さすがだね♪)」

「グァ、ガルッ!『ちょッ、おまッ!?』」


ぴょんと、その優れた跳躍力を以って妹がダイブしてきたので体を躱す。


「ワフィ? キュアゥッ!! (あれぇ? えいッ!!)」

「ヴァンッ!『なんのッ!』」


再度、ダガーの抱き付きを回避すると、その視線が獲物を狙うように細められ、何故か手指を怪しくわきわきと蠢かせる。


「ウ~ッ、クルオアゥ ウォアウァアァンッ!!

(う~ッ、避けられると意地になっちゃうんだよぅッ!!)」


「ガ、ガオゥッ、ウォフッ!『ま、待て、妹よッ!』」

「ガオァンッ、キャン!? (待たなッ、きゃん!?)」


飛び掛かろうとする妹のモフモフしっぽがランサーの先端部だけ白い毛並みの手に掴まれ、素っ頓狂な声が上がる。


「ガルォウゥ (そこまでよ)」

「ワォオン、クォルァアン (そうだよぅ、やめときなよぅ)」


「ウ~ (え~)」


ランサーとアックスの二匹に止められた妹がしょんぼりと離れていく。その背中は少し寂しげだ…… 後でかまってやろう、一緒に釣りにでもいくか。


代わりにランサーが近寄り、その肉球を俺の胸元に押し当てて話し掛けてくる。


「グルァ ガルォウゥア、キュオァアン……

(ボスも強がってないで、治療するわよ……)」


「ガゥオオアン……『気づいていたか……』」


「グルゥ ガルグォル クルァアオゥ…… グォルァオオゥ、ウォル?

(私も魔力の流れを感じ取れるからね…… 負担があるんでしょ、アレ?)」


彼女の掌から暖かい聖光が溢れ出し、多少無理をさせてしまった筋肉を癒していく。


「ワォアン、ルォゥ ヴァアルオゥ

『ありがとう、いつも世話になる』」


軽く彼女に礼を言いながら、視線をバスターに移す。


「ヴォルァアァン、グルァアオ『腕を上げたな、バスター』」


別にお世辞というわけではない。


ちょっと前のバスターなら一撃重視の大振りな攻撃が目立っていたし、その分だけ隙も大きかった。だが、今回はストレート&ジャブの連撃を初手として、こちらのフェイントを混ぜた中段から上段へと跳ねあがる突き返し蹴りにも初見で対応した。


「………… ウォグルゥアオンッ、ガルォウゥウ、グルァ

(………… 次は俺が勝つッ、それまで負けるなよ、大将)」


「ワゥッ (あぁ)」


にやりとお互いに牙を覗かせて笑い合う。


その様子に “やれやれだぜ” と不意討万歳の長身痩躯のコボルトが肩を竦めた。


因みに奴は積極的に群れの中での序列争いをしないし、俺たち六匹に挑んでくる雄は早々いないが…… 一度だけ、意中の雌に良いところを見せようとした雄がブレイザーに挑んだことがあった。


恐らく、筋骨隆々のアックスやバスター、次の長になることがほぼ決まっていた俺を避けたんだろう。


消去法で長身痩躯のコボルトを相手にしたんだが…… ビビって怯える振りをしたブレイザーに不用心に近づき、奴が握り込んだ砂礫の目潰しを喰らって殴り倒されていた。


まぁ、その後に惚れた雌とは上手くいったようだがな……


「ガルゥオアゥ グゥアン、グルァ ガルゥアアン?

(ところでそっちの耳長は、大将の新しい雌か?)」


暫し、春先の回想に耽っていたところにバスターがジト目を向けてくる。どうやら奴の中では、俺は変態扱いらしい……


「わぅ、ぐるぁう くぅあ くるぁあーん♪

(えぇ、彼の“つがい”にされてしまいました♪)」


「ガオゥッ、ヴルァ!『待てや、こらッ!』」


いやん、という感じで頬に手を当てて顔を隠し、笹穂耳をピコピコさせるエルフ娘。そして、彼女のコボ語に一瞬だけ面食らいながらも、それ以上の衝撃を受ける腕黒巨躯のコボルトが……


「ッ、ワォン、グルァ ウァオオォンッ……

(ッ、そうか、大将のことをよろしく頼む……)」


「ワォアンッ!? ウォオオンッ!

(そうなのッ!? めでたいよぅ!)」


「…… ッ、キュオゥ!? (…… ッ、姉ちゃん!?)」


本気で喜び出したアックスを諫め、混乱するダガーを落ち着かせ、バスターの誤解を解いた頃にはどっと疲労感が押し寄せてきた。


くッ、奴め、狼狽える俺を眺めながらくつくつと笑いやがって…… ジト目で色素の薄い肌をしたエルフ娘を睨む。


「ほんの冗談ですよ、アーチャー、気分を害されたのなら謝ります」


そう言いながら、スティアは改まって此方(こちら)を向いて軽く頭を下げる。


コボルトたちは与り知らない事であるが、日々の女王として重圧や、捕らわれの日々から解放された彼女は少々浮かれていたのかもしれない。


「…… ワゥ、オォン(…… まぁ、いい)」


早く群れに戻って休もう…… 心身ともに疲れてしまった俺は重い体を引き摺って、少し先にある洞窟へと向う。


なお、集落でもナックルの同族の垂れ耳コボルトが数匹ほど加わっていたり、群れの仲間たちが王都の話を聞きたがったので、(ねぐら)で休めたのは数時間が経ってからだった……

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