コボルトは無作法ではありません
知識的に不足している部分は調べながら書いているので、微妙な部分があったら温かい目で見てやってくださいn(>_<)n
王城内に入ると特に変哲もない待合室に通される。といっても部屋の内装からテーブルや椅子のひとつまで高級感がある。
因みに、魔導騎士たちとは王城の内郭と外郭を隔てる門の前で別れた。城とそれ以外の街区を隔てる惣構えの内側には騎士屋敷が立ち並ぶ一帯もあるので、遠出から戻った彼らは屋敷に帰って暫しの休息でも取るのだろう。
「じゃあ、暫くここで待っていてね。後で呼びにくるから」
「ガゥ『あぁ』」
肩に使い魔の白鳩をのせたまま、エルネスタが忙しなく退室する。それを確認した後、俺は意識を集中した。
(…… 揺蕩う風よ、誘え)
自身を中心として緩やかな魔法の風を渦巻くように吹かせ、その流れを読むことで室内の天井や壁面に覗き穴などが無いか調べておく。一時的に諸外国の使者などを待たせる部屋にはその者を観察する仕掛けがあることも多いし、暗殺用の殺し穴が設けられていることもある。
「ウォルフ、ルァウ『どうやら、シロか』」
「ガルゥオァ ウォアウォン…… (ちょっとは落ち着けそうだな……)」
こちらと同じく、目視や壁を軽く叩くなどの方法で室内の確認を終えたブレイザーも、特に問題はないと判断したようだ。奴は部屋の出入り口を正面に据えて、対面の壁に背を預けてもたれかかる。
俺も純ミスリル製らしいハーフマスクを外して、少し気を緩める。
「キュアン、ワファ? (兄ちゃん、これ何?)」
その言葉に反応して視線を向けると、妹が先端部だけ白い毛並みの両手で椅子の両足を掴み、頭上に高く掲げていた。
「グルゥウ、クァオウ クルゥグルァン (そういや、集落に椅子はなかったな)」
通常の鎧は可動域を確保するためと、座することを想定して腰当の背面側は丈がほとんどなく、そこから革布が垂れているだけの構造をしている。
だから、あまりしっぽを意識せずに装着できるし、そのまま座ることも可能なのだが…… 背もたれのある椅子はしっぽの位置取りが微妙に気になる。仕方が無いので、しっぽを自分の尻に敷いてしまわないように横に寝かせて座った。
「グゥ~、ガゥルオゥ クゥアルオンッ(ん~、岩の代わりにして腰掛けるんだねッ)」
用途を理解した妹も頭上に掲げていた椅子を降ろし、その上にちょこんと座る。
「ウ~、ワファ ガルゥオオゥ (う~、何か違和感があるよぅ)」
仲間内では最大級のモフモフさを誇る狐しっぽのポジションがしっくりとこないらしく、座ったままでパタパタと揺らす。
「クルグァン…… ウ~ッ、ガゥルァウ クゥアルォウ
(物は試しね…… う~ん、岩の方が座りやすいかも)」
「グルゥ クゥアルグ ガルォオァン? (僕も座っても大丈夫かなぁ?)」
ダガーに続いてランサーも椅子に腰を降ろし、筋骨隆々な巨躯を持つアックスは先に座った彼女に問いかけつつ、その性格を表すようにおっかなびっくりと腰を下ろしていく。
その様子をブレイザーが横目で見ているが、きっと “座っていたら、何かあったときに初動が遅れるじゃねぇかッ” などと思っているのだろう。椅子や精巧な燭台なども一瞥しただけで興味を示していない。
ともあれ、暫く俺たちがその部屋で身体を休めていると銀髪の魔導士が戻ってきたので、再び念話を可能とするミスリル色の仮面を装着した。
「待たせたかな?」
「クルァォン『構わないさ』」
「義父に確認したらね、何故かアレクシウス王へ謁見する段取りになっていたのだけど…… それは君だけだから、他の皆にはここで待っていてもらうよ」
「グルォ、クォウァ ウォルファオン『皆、少しだけ待っていてくれ』」
「…… ガゥ、ウォア ガルアォン (…… あぁ、ここは任せてくれ)」
「ウォオン、グルァ (分かったよぅ、ボス)」
気性は大きく異なるものの割と仲が良い長身痩躯と蒼色巨躯の二匹のコボルトに送り出されて、エルネスタの背中を追う。
「…… 一応、拝謁の作法とか必要なら教えるよ? 今回は王国側の事情できてもらったわけだから、無作法を責められる事もないけどね」
「グォルフ『必要ない』」
そもそも、コボルトに作法を求めてどうするのだろうか……
西方諸国の拝謁の作法などは知らないが、かつての記憶の中に傭兵を重用する砂漠の国アトスで一度だけ、団長殿と一緒に王族に拝謁したことがある。その時に散々、失礼が無いようにと副長殿に仕込まれたのを覚えていた。
まぁ、自ら犬人族の印象を悪くすることもないか…… ここはそちらの流儀に合わせてやろう。
本城の中を進み最上階の謁見の間の扉の前にまで辿り着くと、言われる前に背負った機械弓と腰のシミターを外し、扉の両脇に立つ近衛兵の一人に差し出す。
「…… 預からせていただきます」
謁見の間に武器を持ち込めない事情を人類種ではなく魔物に分類されるコボルトが理解していたためか、その近衛兵は少々面食らった表情を浮かべて俺の武器を受け取った。
「確かに、教える必要性はなさそうね……」
エルネスタがそう呟く中、華美な装飾を施された扉を二人の衛兵たちが押し開く。
余談だが、重要な場所の扉は大抵が内開きだ。基本的に人は扉を引く力よりも押す力の方が強いため、内側から扉を押さえることで外敵の侵入を防げる。
そんな事はさておいて、謁見の間は縦に長い間取りをしていた。その最奥は数段高く造られており、玉座が設えられている。
その下側の両翼に初老の宮廷魔術師と近衛兵の数名が直立していた。まぁ、連続した複数人との謁見を予定していない限り、王は全ての人物や準備が整ってから姿を現すものである。
俺はエルネスタの先導に従って彼らの視線の中を進み、彼女が立ち止まった位置の少し後方にて脚を止め、同じように片膝を赤絨毯に突いて軽く頭を下げた。
読んでくださる皆様には本当に感謝です!!
ブクマとかで支援して頂けると小躍りして喜びます!!




