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交渉の行方

仮面を付けなおしたところで、風に紛れる微かな匂いから妹とランサー、ナックルの存在を感知する。砂鉄を取りにいったスティーレ川から帰ってきたのだろう。騎士たちの包囲の外側に身を伏せているようだ。


それを踏まえてなお、現状を覆すのは難しいことに変わりない。包囲の一点を突破して森に姿を眩ますことも俺たちだけならできるが……


「キューンッ」

「キュウッ!」


生後半年に満たない幼体が数匹いる状況でその選択は在り得ないな。

気を取り直して、俺は銀髪の魔導士に語り掛ける。


「…… クルガァウア ガルォウッ、グルルゥ ガゥオ ウォアルォオ

『…… アルヴェスタは知っている、それなりに人とも関わりがあるからな』」


(傭兵時代に七つの災禍の話はよく聞いた覚えがある。有名どころだしな)


「…… 本当に興味深いね、君は」


エルネスタが繁々とこちらを眺めてくるが、無視して続ける。


「グゥ、グルァオア ウォ ガゥオァアァン?

『何故、俺たちコボルトが奴を討伐できると考えた?』」


王都からこのフェリアス領イーステリアの森中部まで相応の距離があるはずだ…… 黒雨のアルヴェスタの性質を考えれば移動の間も流血病患者は増えていく。その状況下で時間を費やして集落まできた以上、何かしらの勝算はあるのだろう。


「ん~、まともな交戦記録がないから、断言できないけど…… 多分、黒雨のアルヴェスタはそんなに強くない可能性が高いの。あまりにも私たちと相性が悪すぎて勝負にならないだけで……」


「グアルォフ、クォオアゥオン ウォアアァオ?

『流血病にさえ、罹患しなければやりようはあると?』」


「あくまでも可能性だけどね、アレは病を振りまくことそのものが最大の脅威だから。過去に返り討ちにされて病死した聖堂騎士たちも、対峙したアルヴェスタの威圧感や魔力圧は精々が脅威度C程度だったと証言しているの」


そうなれば、本当に人外が流血病に罹患しないかが焦点になるな……


「…… ウォンア クゥア、グゥウル ガォウォン

『…… 引き受けるとしても、いくつか条件がある』」


「大体、想像はできるよ。“誓約書” の効果は王個人に依存するから恒久性が無いってことと、今後の君たちの安全の保障ね」


通常は王が諸侯に褒賞を与える場合、いちいち “誓約書” なんて使わずに下賜して終わりだ。そう考えれば自国民のために己の声を差し出せるあたり、まだまともな王には思えるが……


「当面の安全保障に関しては “誓約書” に追記してもらえればいいよ。ただ、現状で “誓約書” 以上の実効性を確保できる手段なんてないからね、案があれば聞くけど?」


「ガルグオル グルァアン

『聖堂教会を巻き込んでくれ』」


「教会?」


元々、黒雨のアルヴェスタの討伐は聖堂教会の悲願だ。


真先に狙われて、しかも治癒魔法が流血病に効かないため、面目を潰されて人々の信仰も離れていく始末だからな。


アルヴェスタの出現に合わせて毎回の討伐隊を組織するほどだが、悉く返り討ちにあって、全員病死しているらしい……


「ガゥオァアン、グアゥグルォ ウォアル ”クァルォ” ウァアオ

『討伐の成功時、適当な理由でこの森を “聖域” に認定させる』」


聖堂教会が指定する“聖域”は人にとって不可侵領域で原則的に立ち入ることができない。その指定には国王や皇帝、さらにはその土地を治める領主の承認が必要だ。


「あぁ、なるほど。教会が()()して、国王と領主が()()した“聖域”は()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり、君たちの森はより強く独立性が保証されるね……」


訝しげに目を細めたエルネスタが俺を見つめる。


「…… 君、本当にコボルトなの? そのモフモフの中に誰か入っているとか」


暫くじっとこちらを見つめた後、彼女はため息を吐く。


「わかったよ、王都の枢機卿に討伐協力の報酬として打診してみる。彼らは私たち以上に躍起になっているから、多少の無茶でもいけるはず……」


…… さすがに聖域認定されれば、騎士たちを送り込んで教皇の顔を潰すこともできないから、今回のような事は起こりにくくなるだろう。


「ガァ、グゥオ ウォルア

『後は武器を新調したい』」


集落の中央広場を包囲する魔導騎士とやらの装備は明らかに俺たちの物よりも良さそうだ。まぁ、今使っているのは所詮、盗賊由来の武装だからな……


「そうね、討伐を頼む以上、必要なモノはこちらで用意する。うちの中隊が保有する装備品になるけどね」


「クルォアォン

『それで構わない』」


後は交易などの件も押し込みたいが、それはルクア村の猫人たちを通しておこなう話を村長と詰めている。


こちらの炭や薪、他には薬草の類と動物の毛皮、偶に見つかる琥珀や翡翠の原石などを売って財貨を得るという寸法だ。そして、必要なモノがあれば行商人が立ち寄った時に一緒に頼んでもらう。


それを踏まえれば、下手に行商人などの人間と関わるよりも、猫人たちを介したほうが問題はなさそうだ。しかし、最初の取引がそろそろ行われる予定だったんだが…… 少し遅れることになるか。


「…… 他にも何か条件があれば言ってもらっても良いよ?」


交易を始めようとしているので資金は欲しいが、勘繰られても嫌だな……


「クァ グオァアン

『今はこんなものだ』」


「じゃあ、よろしくね」


どこかほっとした笑顔のエルネスタが手を差し出す。

そして、俺はその手を取るのだった。

読んでくださる皆様には本当に感謝です!!

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