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青天の霹靂?

コミカライズ開始に伴う、本編と絡めたSSです。

収穫祭が終わった後のとある昼下がり、フェリアス領の中核都市ウォーレンに向かう馬車が一台、近場の町との間に(もう)けられた街道を進んでいく。


(ほろ)(おお)われた荷台へ脱穀後の藁を敷き、座り込んでいる旅装の少女は一見すると駆け出しの冒険者だが、実態はコボルト達が生息するイーステリアの森に近しいヴィエル村の代表、マリル嬢である。


彼女の対面で胡坐(あぐら)を組むのは護衛に駆り出された自警団長のゼノであり、うら若き乙女とは埋められない年齢の差があるため、当然の(ごと)く馬車内の会話は(はず)(がた)い。


されども小さな村の同胞(はらから)なので気心は知れており、()ほど不快ではない沈黙が続く最中(さなか)、御者台の若手団員ことリーバスより声が掛けられる。


「お嬢、もうすぐ街に着くぞ、教会の鐘楼が見えてきた」


「ん~、ご領主の急な呼び出し、良い予感がしないんだけどね」

「同意する、無視できないだけにな」


言葉を濁したゼノが示す通り、お貴族様からの招聘(しょうへい)など(ろく)な噂を聞かない。救いなのは公爵閣下が常識的な御仁であるという市井(しせい)の評判くらいだ。


何かしらの用事で呼び付けたのだろうが… それは相手の都合(つごう)であって、心当たりのないヴィエル村の者達にしたら、厄介ごとに感じるのも致し方ない。


「まぁ、出たとこ勝負ね、夕方までは大都市の散策を楽しみましょう!」

「そう言えば初めてだったか、マリルが領都に行くのは」


「うん、魔導士様に案内してもらうから、街中での警護は()らないわ」


(うなず)いた亜麻色髪の乙女は微笑みながら、中継地点にある小都市の商業組合(ギルド)で伝書鳩の使用権を買い、前以(まえも)って連絡していた事実を強調する。


その一方で村と縁深い赤毛の魔導士達が探索へ出掛けている可能性も捨てきれず、御者台にいるリーバスが突っ込むと彼女は荷物袋を漁り始めた。


「ふふっ、この依頼品がある限り、大丈夫!!」

「…… あの嬢ちゃんも変わり者だからな、あれで婚約者がいるのは謎だ」


どや顔で取り出された某集落に棲む黒曜のエルフ著『コボルト語辞典(初級)』を見遣(みや)り、呆れ顔のゼノが本人に聞いた話を振ると、寝耳に水といった様相(ようそう)でマリルが固まる。


服が汚れるのも(いと)わず昆虫を観察したり、草場で蜥蜴(とかげ)を探し(まわ)ったり、年頃の淑女(レディ)と思えない奇行を重ねていた印象が強いため、色恋沙汰には(うと)いと思っていたらしい。


「うぅ、先を越されるなんて……」


辺境の村は出会いが少ないと(なげ)き、凹んでいるうちに馬車は門を潜って、小さな停車場を持つ “木漏れ日の庭園亭” に辿り着く。


此処(ここ)は人の皮を(かぶ)った銀狼犬も出入りする場所であり、その理由たるミュリエルが一室を借りている宿屋でもあった。


途中の杞憂(きゆう)何処(どこ)へやら、瀟洒(しょうしゃ)なロビーで手続きを済ませていれば、年若い赤毛の娘が階下に降りてくる。


どうやら、二階の窓より村所有の馬車が横付けるのを見ていたらしい。


「中核都市ウォーレンにようこそ、マリルさん!」


などと、嬉しそうに歓迎の言葉を贈るものの、薄紅い瞳は知己(ちき)の少女が持つ荷物袋に釘付けとなっており、興味関心の向く先を如実(にょじつ)に示していた。


「変わらないね、魔導士様は」

「あぁ、まったくだ」


「うぅ~、なんか、酷い言われ様だよぅ」


一応の自覚はあるのか、困り顔になりつつも口を “への字” に曲げ、可愛らしく(いきどお)り始めた同性の友人に向け、亜麻色髪の乙女が目的の “ブツ” を差し出すと破顔一笑、そそくさとミュリエルは手を伸ばすも… 触れる直前で(むな)しく空を切る。


それで引き下がるほど軟弱な知的探求心は持ち合わせておらず、普段のおっとりした様子から想像できない素早さで『コボルト語辞典(初級)』を奪おうとするが、近頃は鍛えているマリルに身体能力で(おと)るため、良いように翻弄(ほんろう)されてしまう。


「はぅ、何故(なぜ)に!?」

「あ、ごめん、つい悪戯心が(うず)いちゃった」


「覚えておけよ、赤毛の嬢ちゃん、それがこいつの()()だ」

「物珍しさで集まった()ボルトにも、似たような感じで餌付けしていたな」


直近(ちょっきん)で犬人の集落に(おもむ)いた(おり)、わちゃわちゃと(たわむ)れる姿を見たのに言及して、ゼノとリーバスが注意を(うなが)す。


お茶目な性格に加えて、負けん気の強さまで指摘された本人は(わず)かに恥じらい、そっと黒曜のエルフ謹製(きんせい)の本を渡した。


「ん… これでアーチャーが()ない時も、皆と会話ができるよぅ♪」

「基礎の単語しか()ってないけどね」


「あっ、発音とか教えて欲しいかも?」

「いいよ、その代わりに……」


領都の案内を頼みたいとマリルが()じ込み、歳の離れた野郎どもを置き去りにしたまま、旅の荷物など押し付けて二人は市街地へ繰り出す。


先導役が自称生物学者のミュリエル(ゆえ)、連れて行かれた先は魔物素材や小動物の標本とか、薬効のある草本を取扱う専門店だったので、早々に軌道修正されたのは当然の流れだ。


「もうっ、女子力が無さすぎるよ、これなんかどう?」

「えっと… 間に合ってるかな? (言えない、買ってもらったのがあるなんて)」


商業地区の小物屋に立ち寄り、銀細工の髪留めを見せてきた知己(ちき)に対して、曖昧な笑みを浮かべた赤毛の魔導士が取り(つくろ)う。


奥ゆかしい性分もあって、銀毛の人狼犬との恋仲を詮索(せんさく)されないよう、慎重に立ち振る舞うミュリエルとの散策を今(しばら)く楽しみ、初訪問となる大都市の空気を満喫してから… 村長代行を務める亜麻色髪の乙女は領主邸宅での夕食会に(いど)んだ。


そこで公爵に()げられたのはヴォルフ卿なる人物への所有地割譲及び、森林地帯を中心とするイーステリア男爵領の新設、ゼルグラの町とヴィエル村の編入である。


何やら異国で暮らす姪御(めいご)の別荘建設まで命じられた挙句(あげく)、多額の事業資金を(つか)まされた一同は混乱冷めやらぬ間に宿屋へ戻された。

冒頭でお伝えしたようにコボルト無双のコミカライズ版、マンガボックス様やピッコマ様、ニコニコ漫画様で配信されています。


あと、何とか砂漠の国編の章末まで書き上げている本作ですが、書籍化の失敗とエターナル化など色々あったこと、エッセイで書かせて貰っていますので、興味があればそちらも御目こぼしを……

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新してくれてありがとうございます! 懐かしい思いとともに内容忘れたのでもう一回読みますね!
[良い点] 更新してくれたこと [一言] なろうに登録したのが本作に感想送る為 だったのでとても嬉しいです。 コミカライズも拝見させて頂きます!!
[一言] 遅ればせながら更新お疲れ様です(`・ω・´)ゞ久しぶりの更新とても嬉しいです! あまり無理せずに体に気をつけてくださいね(p*・ω・)p
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