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月神教過激派への警告

なお、割と苦労人な元傭兵の将軍が頭を悩ませていた同時刻…… 広場に集積してある軍需物資が焼き打ちにされた事により、動揺し始めた共和国の兵士たちを翻弄(ほんろう)するかの(ごと)く、乱れた警戒網を()(くぐ)って筋骨隆々な狼犬人たちが街中を疾走していた。


もし此処(ここ)が遠征先の首都コンスタンティアでは無く、個性的なコボルト達が棲みついた森を領有するリアスティーゼの王都なら、月明かりで銀毛を輝かせる片方の姿に “セルクラムの聖獣” を連想した者が多いのかもしれない。


去年、最大で一万人に迫る臣民を流血病に罹患(りかん)させ、最終的に死者三千名を超える甚大な被害を出した白面の怪人、七つの災禍 “黒雨” のアルヴェスタを討滅した聖獣の信奉者は多いのだ。


当時現場に残した抜け毛が司祭枢機卿に回収されて聖別認定を受け、大聖堂で厳重に保管されている事実に気付けば、自由気侭(きまま)な銀狼犬は非常に嫌そうな顔をするのだろう。


大和(やまと)言葉の知らぬが仏と言うべきか、目的地に近い路地裏まで到着した当人は心地良い夜風を受けながら、幼馴染の悪友と一緒に荘厳な大型建築物を眺めていた。


(遠目に見えた時から気になっていたが、外観部分は(ほとん)ど完成しているな)


ハーディ家の御令嬢(アイシャ)から雑談で建設中と聞かされた大礼拝堂は既に威容を誇示しており、数本の尖塔と大屋根が建築技術の高さを(あらわ)している。


「ウォァ ガォオクァン? (あれが目当ての物か?)」

「…… ウォア (…… そうだ)」


小声で話し掛けてきたバスターに対する反応が遅れた事により、意図していた月神教過激派への()()()()()()()()()()に抵抗があると今更気付いてしまう。


(敬虔とは言えないまでも、前世は無難に月神教徒だったからな、ただ……)


祖国の末期、利害関系にある諸外国の手先を招き入れた上、大飢饉(だいききん)で食い詰めていた民衆を(あお)り、奴らが権勢拡大と引き換えに内乱を誘発させた愚行は許せない。


“殺し殺され” が傭兵稼業の常なれども恨みはあるし、戦争終結に繋がる行為ならば月神の御心に添う筈だと、内心で言い訳をしていたら不意打ち気味に笑われてしまった。


「ガゥ、ワフ ウゥアォオン (はッ、何を躊躇ってやがる)」

「グァアウ、ヴォア ガルヴォオオウゥ (ほっとけ、色々と感慨があるんだよ)」


直情的な腕黒巨躯の人狼犬に羨ましさを抱きつつも、潔く踏ん切りを付けてから、外縁部に植樹された木立(こだち)へと(まぎ)れ込む。


流石に夜遅いだけあって大工職人らの出入りも無く、聖戦旅団所属と思しき民兵たちの気配が少々あるのみで、危惧していた探知系魔法の使い手などは居ないようだ。


大方、大半は過激派の現本拠地を重点的に護っているのだろう。


最悪、存在が露見しても一戦交える覚悟はしていたが、そうならずに一息吐いたところで、何処か気の抜けた会話が風に乗ってケモ耳まで届く。


「なぁ、広場が燃えてるけどさ、俺達は此処(ここ)にいて良いんだろうか?」

「あっちは民兵隊の管轄外だし、持ち場を離れたらクヴァル師に粛清されるぞ」


「あ~、最近は八つ当たりが激しいからなぁ」

「触らぬ月神の代行者様に祟りなしだ……」


漏れ聞こえてきた言葉からも分かるように、内乱による分離独立のどさくさに(まぎ)れて発言力を高めた月神教の過激派勢力、彼らを(まと)める指導者の評判は褒められたものでは無い。


一時期は支配下に置いたアルメディア王国の城塞都市にて、ガザリ師が行った異教徒殺害を追認した事や、定住者である西方出身の若い女性を戦利品として本国に強制連行した事も聞き及んでいる。


幾ら色素の薄い肌を持つ異国人の女奴隷は手に入り難く、付加価値が高いと謂えども軍組織としての節度は(わきま)えておくべきだが…… 内部批判は異教徒に(くみ)する背信行為だと(そし)られ、物理的に誰かの首が飛んでしまう可能性が無きにしも(あら)ず。


(百害あって一利無し、月神教の穏健派には頑張って欲しいものだ)


(くだん)の師が開戦当初の優勢を(くつがえ)された失態により失脚する事など期待した後、雑談している民兵二人を出し抜いて大礼拝堂に付随(ふずい)した尖塔直下の物陰へ隠れた。


近くから改めて見上げれば、過激派の主導で新たな拠点とすべく建設されている施設は権威付けを意識しており、やや華美に過ぎる印象を(ぬぐ)えない。


何とも言えない気分で壁面に右掌を添え、土魔法の応用で尖塔の石材に干渉して、慎重かつ時間を掛けて一部の強度を著しく劣化させていく。


「…… ルォオオン、グルァアオ、ワォオン

(…… こんなものか、バスター、出番だぞ)」


「ウォルォアアオゥ、ガォルワゥオォオン?

(そう言われてもな、どうしたら良いんだ?)」


巨躯を(すく)めておどけた黒毛混じりの狼犬人に頼み込んで、固有能力の “衝撃操作” で尖塔部分を継続して揺らしてもらう事暫(ことしば)し、連鎖的に幾つもの破砕音が鳴り出した。


「グァ、ガオゥアルォオウゥ (おい、大丈夫なんだろうな)」


「ワフ、ウォルアァウ クァウオォン (あぁ、倒れる方向は調整してある)」

「オアォオオォン…… ッ、ウオォ!? (なら構わないが…… ッ、うおぉ!?)」


短い会話を交わしている間に閾値(いきち)を超えたのか、突如として尖塔が俺達の斜め反対側に(かたむ)き、大礼拝堂の屋根目掛けて倒壊する。


轟音と共に大量の砂塵が舞う中、豪快な光景に呵々(かか)大笑するバスターの歓声や、事態に驚愕する民兵たちの叫び声などが(にわ)かに聞こえてきた。

★ 物語の書き手としての御願い ★


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[一言] 大きい建物は基礎や土台が駄目になると崩れるよね 要石みたいな重要な基礎だけ弱くして 建物が大きくなったら重さに耐えられなくて崩れるようにするんだとばかり
[一言] これは月神教過激派と銀狼卿に因縁フラグが立ってしまいそうですね。 神の名の元に引かぬ恐れぬ諦めぬの刺客達が襲ってくる展開を期待しちゃいます。
[一言] 引退後は解体業でもやりますかね銀狼さん
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