バルベラの森から流れてくる魔物
獣(銀狼) VS 獣(猛獣)に挑戦してみました。
「ガゥルゥウウゥウッ」
低い唸り声を上げて威嚇してくるのは体高1.15m、尻尾を除く体長が2mほどの二本の突き出た長く鋭い牙を持つ猛獣型の魔物で、背後にはそれよりもやや小柄な同系下位種が涎を垂らして続く。
「ッ、サヴェージファング!!」
「うぅ、レッサーファングもいるのですぅ」
雪解け以降、危険種が潜む “バルベラの森” から這い出てくる魔物が多いとはブレイザーから聞いていたが…… これは春先からツキが無いな。
(いや、逆に運が良いのか?)
幼馴染みたちを除く群れの連中がこいつらに森中で遭遇したら命の保証は無いため、俺と妹に加えて侍従騎士のレネイドが同行している時に出遭えたのは僥倖かもしれない。
問題は自衛手段の無いミラが巨狼姿の俺に跨ったまま小刻みに震えている事と、堂々と姿を現した二匹を囮に姿を隠し、密かに回り込んでくるもう一匹の気配くらいだ。
「ウ~、ガファウゥ ウォルアゥ (う~、逃げるのは難しそう)」
「ヴィア、オルゥ クアゥヴォオゥ… (ミラ、降りてレネイドの傍に…)」
「ッ、こっちに来てくださいッ」
「わ、分かったのです!」
魔獣たちが潜んだ仲間と襲撃の機を合わせる暫しの間に、ミラはそそくさと背中から飛び降りてレネイドの下に歩み寄り、巨木を背にして庇われる形に収まる。
その直後、此方の不意を突いたつもりのレッサーファング一匹が妹に飛び掛かり、僅差で正面のサヴェージファングたちも牙を剥いて俺やエルフたちに襲い掛かってきた。
「ガァルァァアァッ!」
「「グガァアァァアァッ!!」」
「グァルォアァン!! (バレバレだよぅ!!)」
「ワゥッ! (だなッ!)」
左斜め後方から躍り出た魔獣の対処は妹に任せ、俺は強靭な巨狼の四肢で垂直に飛び上がり、弧を描いて横殴りに繰り出された獰猛な魔獣の爪撃を躱す。
さらに宙空で身体を捻りながら、遠心力を上乗せした右前足を厳つい横面に叩き込み、衝撃で頭部が揺れて露となったサヴェージファングの首筋へ着地の瞬間に餓狼の牙を突き立てる。
「ガルォアッ!! (もらったッ!!)」
「グッ!? ウガアァッアァァアァッ!」
口腔に熱い血潮の味が広がって唾液が溢れ出す中、銀狼の巨躯で組み伏せて仕留めようとするも、相手は四肢に力を籠めて勢いよく上体を振り上げ、喰らい付いた俺を跳ね退けた。
「ガゥッ (ちッ) 」
乱れた体勢を整えて斜め後方へ着地した瞬間、首筋から血を流して怒りを滾らせた獰猛な魔獣が大きく右前足を振りかぶり、雄叫びと共に魔力を籠めた一撃で大地を穿つ。
「グルォオオォオオォオッ!!」
「ッ、ウォアァァアァ――ン!!」
反射的に “音撃の咆哮” を放ち、指向性を以って爆ぜる土砂や石散弾を衝撃波で打ち落とすが、既に遮られた視野の中でサヴェージファングは斜め前方へ跳躍しており、太い木の幹を足場に軌道修正して頭上から襲い掛かってきた。
「グゥウッ! (ぐぅうッ!)」
僅かに反応が遅れて左肩を獣爪で浅く裂かれつつも血飛沫と共に飛び退けば、視界の端に障壁魔法 “盾無” と細剣連撃を駆使して、レッサーファングの猛攻を捌くレネイドの姿が映り込んだ。
(向こうは大丈夫そうだな……)
ただ、斜め後ろでもう一匹の魔獣を相手取る妹の様子まで窺う余裕はなく、対峙するサヴェージファングへ牙を剥き出し、互いに唸り声を上げて威嚇し合う。
一方、兄の心配とは裏腹に奇襲したつもりの迂闊な魔獣の機先を制して、巨大な狐火を叩き込んだダガーは優位に狩りを進めていた。
「クォッ、ガゥッ、アォン!! (よッ、ほッ、はっと!!)」
彼女は初撃で顔を焼かれて怯んだレッサーファングを翻弄するように左側に回り込み続け、機械式短剣で身体を切りつけ、隙を見ては刺突短剣を突き刺していく。
間断なく繰り出される短剣での連撃は着実に損傷を与えるものの、分厚い筋肉に阻まれて致命傷には至らず、身体の数ヶ所から血を流して苛立った魔獣が自棄的な反撃に転じる。
「グゥウゥッ、ガァアァァアァッ!!」
「クァオフ、ァウッ!? (当たらな、いッ!?)」
低い姿勢から掬い上げるように放たれた頭突きを躱した標的を追い掛け、レッサーファングは持ち上げた身体を斜めに倒しながら長い牙を打ち下ろした。
「クウッ! (くうッ!)」
間一髪で後方へ回避したダガーは半回転させて放り投げた刺突短剣の柄を左逆手に掴み、再び噛みつこうと頭をもたげたレッサーファングの脳天目掛け、鋭い刃を力任せに突き刺す。
「ヴゥゥウゥウ! ァアアッ!! ァアァウ……グウゥッ………」
黒い一角獣の角を加工した短剣で頭蓋を貫かれた魔獣は最後の足掻きを見せ、眼前の太腿を引っ掻きながら身体を地へ横たわらせた。
「ウ~ッ、グゥオワファアァン! (う~ッ、地味に痛いんだけど!)」
死に至る傷を受けて起き上がる事も侭ならず、命を尽きさせていく魔獣の肩を踏みつけて、愚痴を零したダガーは深く刺さった得物を引き抜く。
そうして仲間の現状を窺えば獰猛な魔獣の爪牙を躱した銀毛の巨狼が距離を取り、属性魔力を籠めた打撃で地面が砕かれて生じた石散弾を風魔法で防ぎながら、果敢に吶喊するところだった。
読んでくださる皆様の応援で日々更新できております、本当に感謝です!
ブクマや評価などで応援してもらえると嬉しいです!




