生きるための闘争? はッ、当り前じゃねえか By バスター
「ヴルォオオォッ!! (うおぉおおぉッ!!)」
「ギイィイィッ!?」
尾撃に伴い少々旋回していた巨大サソリの頭部目掛け、気迫と共に叩き落とされた無骨な大剣が硬化外殻を砕き、身を切り裂いて毀れた刃の破片を撒き散らした。
「ギッ、ギギイィィイァアッ!!」
「ガゥッ!! (ちッ!!)」
悲鳴を響かせた巨大サソリが左鋏に土属性の魔力を纏わせて、力強く大地へ突き刺す姿に悪寒が走り、バスターは舌打ちしつつも真横に飛び退く。
僅かに遅れて地面が弾け、土塊の散弾が周囲の木々諸共にその脇腹を抉った。
「グゥ!? ッゥ、ヴァルアゥ! (ぐぅ!? ッぅ、魔法かよッ!)」
痛みを噛み殺して悪態を吐きながら大剣を斜めに構えるバスターの向こう側、ランサーが斬撃槍の柄から負傷した左手を離し、聖なる燐光を纏わせて突き出す!
「クルォアァンッ、ヴォルファウ!! (喰らいなさいッ、聖焔散華!!)」
「ギシャアァアアッ!」
撃ち出された小さな光弾が爆散して聖なる焔を迸らせるも、魔力の高まりに呼応していた巨大サソリが尾針を地中に突き立て、“地雷” の魔法で巻き上げた土砂を盾代わりに凌いだ。
だが、個体として相手よりもやや優れるとは言え、同等程度の実力を持つ犬人族の上位種二匹に対して、いつまでも数的不利を繕うことはできない。
「ガゥッ、ヴォアオン! (はッ、隙ありだぜ!)」
尻尾を地面に刺しながら左鋏を引き戻そうとする巨大サソリを狙い、腰だめに構えた大剣を突き出したまま腕黒巨躯の猟犬が四肢に力を漲らせ、捨て身の体当たりを仕掛ける!
「ウルァアアァッ!! (うらぁああぁッ!!)」
「ギギッ!!」
強引に無理な体勢から素早く体躯を捻り、寸前で翳された巨大サソリの左鋏に闘気を放つ大剣の切っ先が衝突した直後、罅割れていた硬化外殻は大きく砕け散り、貫通したバスターの大剣がその集眼を穿つ。
さらに留まる事無く、黒毛混じりの両腕に刹那の剛力を宿らせて踏ん張りながら、ゾブリと白刃を頭蓋深くまで埋め込んだ。
「ギィイイィイァアァアァアッ!?」
「ウオォッ! (うおぉッ!?)」
絶叫を上げて、死にもの狂いで暴れ出した巨大サソリに振り回されつつも、バスターは視界を掠めた尾針を警戒し、得物の柄から手を離して距離を取るが…… 撃ち出された太い毒針が右腕に刺さってしまう。
「ウグッ、ウゥ……ッ (うぐッ、うぅ……ッ)」
即効性を持つ麻痺毒の影響で片膝を突き、鋭い視線を投げた先では致命傷を負った巨大サソリが地に頽れて命を尽きさせていく。
「ギ、ギィ……ァ……アァ…ッ…………………」
「ガ、ガゥフ、ア……ゥ、ウ…… (し、締まら、ね……ぇ、な……)」
「ヴァアルクァ…… クルァン? (最期の一矢ね…… 大丈夫?)」
小刻みに痙攣する幼馴染を気遣い、ランサーは愛槍の穂先でコツコツとアルマ・スコルピウスを小突いて反応が無いのを確認した後、傍に歩み寄って先端部だけ白毛の左掌を彼の頭に乗せた。
「グォアルグォ クァルオゥ、ウアォンッ
(全ての穢れを禊ぎなさい、浄化の光ッ)」
収束した聖属性の魔力が光に転じて巨躯を余すことなく照らし、細胞が賦活して体内の毒素を中和する最中、それに合わせてバスターの意識も白銀の光に飲み込まれていった。
……………
………
…
そして、永劫たる生命の歴史が紡いだ白銀の螺旋階段が眼前に現れる。
この場所では認識が実存に優先されるため、自身の状態は己が定める訳だが…… 実際は現実の肉体に引きずられてしまうのが普通だ。
「グッ、ヴゥ ガルォアァアゥ (ぐッ、まだ痺れてやがるのか)」
抜けきらない違和感に思わず愚痴りつつも、バスターは終極に至る階段をゆっくりとした足取りで昇り始める。
その姿が示すように生物は恒常的な変化の中にあり、留まるところを知らない。
環境に付随する収容力が生物の繁殖力よりも低い時点で、互いに資源を奪い合う闘争は避けられず、種の保存を成すために現状への最適化を常に求められてしまう。
その過程で生きるために闘争を重ね、環境へ適応を果たした者だけが子孫を残し、かつての祖先がしたように連綿と受け継がれる命の螺旋を紡いできた。
行きつく涯を知らずとも……
(まぁ、何であろうと構わねぇ、前にさえ進めればなッ)
不意に脳裏を掠めた本来は知り得ない知識など、腕黒巨躯の猟犬にとってはどうでも良い事だ。
銀毛の狼犬人は常に生存競争を強いられる生命の在り方について “造物主が不完全なのか、若しくは性悪だ” と評したが、彼はそう思わない。
「グォルファウルア? ガルッ、ヴォアルワォオンッ
(生きるための闘争? はッ、当たり前じゃねえかよ)」
そう嘯くバスターの脚が階段を昇った先の比較的広い踊り場で止まり、隣接する螺旋階段へと繋がった渡り廊下に視線が吸い寄せられる。
普段の彼であれば己の歩んできた道を違える事などないのだが…… 最近は思うところもあった。
(これまでの延長で、本当にいつかは大将に打ち勝てるのか?)
逡巡の後、新たな可能性を模索して渡り廊下へと歩を進め、永劫雪白の空間を渡り切って新たな終極の螺旋階段に辿り着いた途端、体が鉛のように重くなり、逆に意識は軽くなって現実へと浮揚していく……
通称:バスター(雄)
種族:ヴォルフィッシュ・コボルト
階級:黒毛混じりのウェアヴォルフ
技能:腕力強化(大 / 効果は一瞬) 直感回避 麻痺爪
金剛刃 (闘気による切断特化) 輻射衝撃
獣化 人化(感覚鈍化) 知能向上(小 / 常時)
称号:先陣を切る狼犬
武器:刃毀れの激しい大剣
武装:レザーアーマー
「…… ヴォ、ガルゥオアゥ オォウァアン
(…… また、ちょっとだけ変わったわね)」
「ワゥッ、ルァオゥ ルファ ウォルアァアン
(あぁ、良い感じに身体が引き締まっている)」
“浄化” の魔法で麻痺毒が解けて立ち上がったバスターは発達した牙を覗かせ、不敵な笑みを浮かべながら巨大サソリの遺骸に近づいて刺さった大剣を抜き、軽く振り回して血を飛ばした後に背負った鞘へ納めた。
さらに掌を握ったり開いたりして、発達した筋線維の感覚を確認する黒毛混じりの狼犬人にランサーがやや呆れ気味な表情を向けた。
「ヴルァ、キュオウ ヴァルゥオアァン
(取り敢えず、治療して帰りましょうか)」
血に染まった左腕をプラプラさせて主張しつつも、右掌に “ヒーリングライト” の聖なる魔力光を灯して、先に自身の擦過傷を癒す。
次に石散弾で抉られたバスターの脇腹へ肉球を押し当て、暖かみのある聖光で傷の治療を済ませてから、二匹のコボルトは踵を返して木々の合間に消えていった。
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