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灼熱の魔法剣士

まずは衛兵隊とグレイス隊の迎撃戦からです!


「ッ、総員、抜剣! 来るぞッ!!」


弓兵を兼ねる第一小隊の衛兵たちが素早く弓を腰元のボウクイーバーに戻し、剣帯で吊るされた鞘から金属の擦れる音を鳴らして扱いやすいショートソードを引き抜く。


「「「うおぉおおおおッ!!」」」

「「「ギッシャアァァアァッ!!」」」


気勢と共に振り抜かれた斬撃が巨大蟻の硬い牙と打ち合うも、先制射撃で勢いを殺したとは謂え、突撃を受け止めた衛兵隊が徐々に押し込まれてしまう。


「ギギ、ギッ!!」

「なぁッ!?」


さらには腹を切り裂こうと伸ばされた顎を鉄剣で押さえている衛兵に向かって、仲間の背を踏み越えてきた後列の巨大蟻が圧し掛かる!


「ちッ、蟻風情がッ!」

「ギィイィイ!?ァ、アァ……ッ……」


騎士エルドリックが小隊指揮の合間に援護をするため、斜に構えていた弓を素早く連射し、巨大蟻の頭を射抜いて部下の窮地を救う。


同様に仲間の背を乗り越えてくる巨大蟻に対し、衛兵隊の前列に割り込んだ後列の者達が牽制して、中には鉄剣で頭部を平突きして仕留めた猛者もいるが……


「がふッ、ひッ、あぁ……ッぅ」

「い、痛ぇ……ッ、うぅ」


低めの位置から腹部を狙う巨大蟻の噛みつきを鉄剣で凌いだまま、背部を足場に襲ってきた別個体の顎に喉を咥え込まれて致命傷を負ったり、触角の槍を躱しきれずに四肢を貫かれたりする衛兵の姿も垣間見えた。


「ッ、無理に踏ん張るな、引き込みながら数を減らすぞッ!!」

「「「了解ッ!!」」」


何とか相手方の初撃を受けて止めて、突撃の勢いを殺した第一小隊が巨大蟻を牽制しながら、徐々に後退(あとずさ)り始める。そもそも、弓とショートソードで武装した弓兵を兼ねる衛兵隊では近接戦闘力に欠ける部分が出てしまう。


机上の想定では、射撃で出端を挫いた後に第一小隊が敵先鋒を受け止めつつもやや後退し、両側の各隊が前進することで包囲するはずだったが…… そう上手くはいかない。


「ちッ、直前で散開しやがったな!」

「隊長、両隊ともに上がれていません!!」


生物としての本能によるものか、巨大蟻たちは接敵の間際に遊兵の多い縦列から扇形にばらけており、面による攻撃を仕掛けて来ている。


このまま第一小隊だけが退けば分断され兼ねないため、連動して第二、第三小隊も戦いながら徐々に下がり始めていた。その現状で比較的自由に動けるのは、両端に位置していた冒険者隊である。


赤いリボンで纏めたサイドポニーを揺らし、魔法の焔を宿した純度20%のミスリル錬金製の魔法剣を手にグレイス嬢が眼前の巨大蟻へと斬り込む。


「やぁああッ!!」

「ギッ!?ギィイイッ……ィイ…」


焔を纏う斬撃が兵隊種の頭部を斬り飛ばして、仲間の死骸を乗り越えて飛び掛かろうとする一般種の複眼を迅雷の如き刺突で穿ち、その内側から焼き殺す。


「ギィイィイ……ッィ、ギ……」


手早く二匹の巨大蟻を仕留めて飛び退いたグレイスを追い、複数の巨大蟻たちが這い寄るものの、今度は “銀” 等級の冒険者たちが彼女と交代するように斬り込んでいく。


「だらぁあああッ!!」

「キシャアァアッ!!」


半歩踏み出した剣闘士の切り払いが自身を狙う触角槍を纏めて斬り飛ばし、なお噛みつこうとする巨大蟻の頭を蹴り上げ、頭部と胸部の接合部に黒鉄の剣を差し込んで仕留める。


また、触角槍を太刀打ちで叩いて逸らしながら半身で躱した槍術士も、反撃の刺突で兵隊種の頭蓋を貫いて息の根を止めていた。


先達たちが果敢に戦う姿に鼓舞された “黒鉄” の冒険者らも後衛と連携しながら奮戦し、襲いくる巨大蟻たちを食い止めていたが…… 一般種の後ろから迫ってきた近衛(インペリアル)種の大型ヴァリアントが均衡を崩す。


「ッ、うぎゃああぁあッ、熱いィイィイッ!!」

「ひッ、う、うあぁあああ!?」


恐らく高濃度の蟻酸なのだろう、勢いよく吐き出された液体を頭から被った冒険者の肉体が煙と異臭を上げて溶け落ち、傍にいた彼の仲間が甲高い悲鳴を上げる。


「た、助けて……く…れッ……」


立つ事もままならずに倒れ込んだ蟻酸の犠牲者は骨が見えた腕を必死に伸ばすが…… すぐに事切れてしまう。その光景に唖然とする暇などあるはずもなく、冒険者たちは押し寄せる巨大蟻の対処に迫られているため、近衛(インペリアル)種による蟻酸攻撃を止める事が出来ない。


「うああぁあああッ、お、俺の腕がッ、腕がッ!!」


「グレイスさんッ!!」

「くそッ、削られちまう!!」


焦りを浮かべた冒険者たちが思わず一瞥した先では、一時的に後退したグレイスが多少の距離を隔てた近衛(インペリアル)種の大型ヴァリアントを睨み付けながら左掌を突き出していた。


「…… やってくれたわね、確実に葬ってあげる」


そう呟いた彼女の左腕には煌々と灯る無数の紅玉が螺旋状に絡みついており、装備の至る所に取り付けられた魔装具が淡く輝いている。


「穿ち、削れッ、多連装焔弾(マルチプルファイア)!!」


炸裂音を連鎖的に響かせて小さな焔弾が途切れることなく射出され、標的の頭部や腹部を間断なく削り飛ばしていく。


「ギィィイィイッ、ギィアァァアァッ!!」

「ギギィギィイ!?」


自身を苛む苦痛を堪える事ができず、近衛(インペリアル)種の大型ヴァリアントは苦し紛れに振り回した鎌脚で周囲の巨大蟻を切り裂き、出鱈目に吹き零した蟻酸で自らの同族を溶かしながら倒れ伏した。


「ギ、ギ……ァ……ッ……………」


やがてその複眼から全ての光を失い、動かぬ骸となる。


「「「おぉおおッ!!」」」

「ッ、負傷者は下がりなさい、戦える者で蟻どもを駆逐します!」


歓声を上げる仲間たちに灼熱の異名を持つ魔法剣士の指示が飛び、指揮官である近衛(インペリアル)種を失い統率を乱した巨大蟻どもへとグレイス隊は攻勢を強めていった。

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