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うぅ、揶揄われた By セリカ

「グァウゥ ヴゥオ クァオルウゥ?

『具体的にどこを直せばいいんだ?』」


「あれはもう諦めて作り直す方が早い、今回は俺が引き受けよう」

「私たちも暫く集落に棲むので、必要なのです」


ぴとっと旦那に寄り添いハーブティを啜る小柄な青肌エルフが言う “暫く” は長命種族の基準なので平均的なコボルトの一生に匹敵する。


それを考えれば彼らとて往復20分足らずの水源まで毎回往復するのは面倒だろう。


何せ彼らの暮らしていた王都エルファストには馬鹿でかい揚水車が三基もあって、上下水道と共に税金投入により維持されていたため、いつでも奇麗な水が手に入ったわけだからな。


同じ生活環境を求める気持ちも理解できるが、只より高い物はない。


「グゥウ グルゥ ガルァアオォ、ガルゥ ワフオァ

『具材はこちらで用意するとして、報酬はどうする』」


「そうだな、食べ物はセリカさんが狩ってきてくれるしなぁ」

「ん、私の仕事…… 頑張る」


派遣組のエルフたちは食糧を調達する狩人セリカと侍従騎士レネイド、生活に必要な諸々を作り出す鍛冶師アスタ、植生に詳しく果実等の採取ができる薬師ミラ、癒し手である巫女リスティの構成になっていた。


(互いを補って自活できる構成か……)


少々、森人らのことを推察していると、考えを纏めたらしいアスタと視線が合う。


「アーチャーさん、報酬は俺たちの家を作る際の協力でどうだろう?」

「うぅ、いつまでもテント暮らしだとプライベートがないのですぅ」


「ガルワォン…… ワゥウ 『それでいい…… アックス』」

「ワォン、ウァウォ クルァア~ン (うん、スミスたちに言っとくよ~)」


協力の件はともかく、職人気質な垂れ耳コボルトたちが手掛けていた水車製作をアスタに任せろと伝えるのは難しい。そこは彼らを群れに引き入れた経緯と、相手を気遣う繊細さで慕われている “アックスの兄者” に期待しよう。


ずずっとハーブティを飲み干して、焚火の傍から立ち上がる。


「…… ひと狩り行く?」

「ガォウァ…… (そうだな……)」


いつの間にか外套を羽織っていた小麦肌のエルフに軽く頷き、遅れてテントから出てきた寝起き姿のリスティたちに会釈をした後、狩りの準備を整えるために巣穴へと引き返す。


昨日の時点で収穫した赤芋を群れの皆に見せてもらったが、あれは冬の保存食として取っておくために手を付けられないし、燻製にする肉を確保する必要もある。


(焼き芋は冬の楽しみにして、今は狩りに精を出すかッ)


密かに気合を入れた俺は機械弓を片手にセリカと肩を並べ、久方振りのイーステリアの森へと繰り出したが、獲物をどちらが狩るかという勝負にまたしても負けてしまう。


「ふふっ、私の…… 勝ち」


えっへんと無い胸を張りながら、仕留めたフォレストボアを指差して、彼女は上機嫌で笹穂耳をぴこぴこさせる。


元々、その長い耳で音を拾い、優れた視覚で獲物を見つけるのがエルフたちの狩りだとしても、彼女が持つ数キロ先を把握する十里眼は規格外だ。


「ガルヴォア グルファウ 『その魔眼は反則だな』」

「………… 負け惜しみ?」


「ガルゥ、ガルウォオァ クルァオォウ?『ふむ、そんな事を言って良いのか?』」


都合二本の矢で腹と頭を射貫いて仕留めた大物は彼女の細腕には重すぎる。今ここで血抜きなどの処理をしてもかなりの重量だろう。


俺の視線から言わんとしている事を察したセリカがそそっと近寄り、腕を抱きしめて胸を押し付けてきたが、革の胸当をゴツゴツと当てられてもな……


「…… ワフィオルゥ 『…… 何の真似だ』」

「ミラがアスタに頼む時にやってた…… 運ぶのを手伝ってほしい」


「ガルゥ、ガァフ グルォ ウォルアゥウッ『勿論だ、どうせ皆で喰うからなッ』」

「うぅ、揶揄(からか)われた……」


ぱっと離れた彼女は腰のベルトに吊るした鞘から、ブレイザーが欲しがりそうな透明な水晶の刃を持つ短剣を引き抜き、サクッと獲物の動脈数か所を切り裂いて放血させた。


手持ち無沙汰な俺も狩猟用ナイフを取り出して作業に加わり、その場でフォレストボアから不要部位を取り除いていき、セリカが持つ麻の網袋へと獲物を入れて肩に担ぐ。


「ガゥ、ヴァルァアン『さて、帰るとするか』」

「…… 早く戻る」


手頃な獲物を探して森を彷徨っていたのでもう朝食の時間とはいえない。


途中ですれ違った群れの仲間との挨拶も程々に集落へと戻ると、広場の隅では垂れ耳コボルトズの輪に混じって、妹がモフモフしっぽを揺らしている。


「ウ、クォン、クァアン~♪ (あ、兄ちゃん、お帰り~♪)」

「グルァ、クァアオォン (ボス、お帰りなさい)」


「ワフ 『あぁ』」


軽く言葉を交わしながら様子を窺うと、数匹が革フイゴで空気を粘土製の炉に送り込み、アスタが(はさみ)で掴んだ錬鉄を中に入れて熱していた。


「がうっ、うぉふるうぉるぅ!(よし、しっかり見ておけよ!)」


言われるまでも無く息を飲んで凝視するスミスにひと声かけて、彼は金床にしている平らな石へと赤くなった錬鉄を乗せ、一気に槌で叩き込んで板状に引き延ばす。


再度、炉に突っ込んで熱した後に(はさみ)での固定をスミスに任せ、自身は薄い鉄板へと(たがね)を当て、勢いよく槌を振り下ろして細い棒状に切断していくが……


「ウ~、グァアオファウ? (う~、歪んじゃってるよ?)」

「がるわぉおん (それで良いんだよ)」


そうやってできた歪な細長い鉄の棒の一本を(はさみ)で掴み、炉の中で程よく熱してから何度も槌で叩き込んで真直ぐにし、先端を鋭く尖らせたうえで反対側をL字に “くいっ” と曲げた。


「ガゥォ、クォルヴァ…… (凄い、鉄の棘……)」

「………… わぅ、くぉるうぁ (………… そう、鉄の棘だ)」


明らかに “釘” であるが…… 木材の固定を麻縄や蔦でしていた俺たちには馴染みが無い。だが、“鉄の棘” と先に作られていた大(のこぎり)は便利な道具として直ぐに定着するだろう。


その製作が一段落したところで、俺はアスタに見えるように獲物を掲げて遅めの朝飯に誘った。

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