くッ、俺達よりも良い暮らしじゃないか!
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銀色の弓兵が河原で古代の森に棲む同族たちと出会っていた頃、疎林の中でハムハムと草を食べているカモシカの親子を見つめる鋭い視線があった……
そのカモシカ親子より約10m先の木立に隠れるのは巨躯で大剣を持ち、頭髪の隙間から二本の角を覗かせたゴブリンだ。つい先日、白黒混毛のコボルトたちを襲撃した際、群れを率いる長を倒して進化を遂げたブレイブである。
その姿はイーステリアの森で暴れていた頃よりもやや文明的となり、冒険者から奪った衣服の上に黒のレザーアーマーを纏っていた。
未だこちらに気付かないカモシカ親子の様子を窺いながら、ブレイブは相棒である長身痩躯で薄青肌の相棒に素早くハンドサインを送る。
ソード・オヤハ・オレガシトメル
モチロンダ・チカラヲ・タメスンダロ
応じるソードも同様に奪った服装の上に変則的なレザーアーマーを着込んだ姿となっており、腰には愛用の双剣をぶら下げていた。彼も進化の影響があったのか頭髪が生え、その隙間から二本の角が伸びる。
人に近しくなった姿形もあり、二匹ともゴブリン族というよりは極東の島国の山中に棲む鬼人族のような風貌となっていた。
オマエラハ・サユウヲ・オサエロ
ソードのハンドサインを受けたゴブリン族の戦士たちが気配と音を殺して、カモシカ親子を大回りに避けながら左右の木々に紛れ込んだのを確認し、ブレイブは丹田に力を籠めてその口を開く。
「コォオオォオオオッ!」
その口腔に小さな光の点が浮かびあがり、そこから一条の光の帯が迸った!
「ギゥウッ!?ッ、ゥ…ッ」
ドサッ
ブレイブの口から放たれた光のブレスが親カモシカの胴体を貫く。カモシカは何とか踏ん張りを利かせようとするが、力なく地に伏してしまう。
「ギァウ、ギゥ!」
状況が理解できない子カモシカは親に身体を摺り寄せて鳴き声を上げ続ける。ただ、それは賢い選択とは言えない。
「ギゥルッ、ラルト (貫けッ、紫電よ)」
「ギッ!?」
ソードが突き出した掌から、水平に迸る雷光が放たれて子カモシカを打ち据えて気絶させる。
直後、左右に潜んでいた4匹のゴブリンがカモシカ親子に群がり、死後硬直が始まる前に親カモシカの動脈に短刀を刺して血抜きを行っていく。子カモシカの方はソードが雷撃を調整したのか気絶しているだけであり、今この場での処置は必要が無いため四肢を麻縄で縛って無造作に転がす。
その様子を眺めつつ、ブレイブは自身の獲得した能力について黙考する。初めてブレスを放った感覚は嘔吐に近く、腹の中のモノが逆流するような不快感があった。
「…… ギゥルエギル ガルス アギウス、イルグレギス
(…… 遠距離攻撃ができるのは有難いが、妙な感覚だな)」
通称:ブレイブ(♂)
種族:ゴブリン
階級:ハイ・ブレイブ
技能:バトルクライ(小鬼族強化) 初級魔法(聖 / 回復系のみ)
輝光剣 勇者の復活 ブレス(光)
称号:光輝の勇者
武器:クレイモア
武装:レザーアーマー
「ギィ、ギフィレ ガルヴァ
(まぁ、慣れるしかねぇだろ)」
そう言いつつも、未だ魔法を使う感覚に慣れずに手を開閉させるソードへ仲間のゴブリン・ファイターが近寄り、自身に注意が向くのを見計らって声を掛ける。
「イラ ティグス、マギレ エドル
(もうちょっとで、処理が終わりますよ)」
「カウル ギェルアッ! ハルト ギルス ギルメデス
(今日はご馳走っすね! 持って帰るのしんどいっすけど)」
確かにこの辺りのカモシカはそこまで大きくないが50㎏程度の重さはある。ただ、体重に占める血液の割合を考えれば、血抜きの後は少し軽くなるだろう。それでも重ければ、食べられる部位もあるので少々勿体ないが内臓を抜いてしまえば30㎏ぐらいだ。
獲物を運ぶための背負子と麻袋も念のため二組持ってきており、連れてきた仲間は運搬を考えて通常より大柄で力のあるファイター種の4匹である。子カモシカも含め交代で背負えばヴァリの村までの3㎞ほどの距離など問題にならない。
「ギァ、ギルスヴァリギォ ギグ デムギーレ エルガドァッ!
(さぁ、帰ってヴァリ殿と肉を摘まみながら一杯飲むぜッ!)」
「エル グレゼア、ギード…… ギァウ ドラウ ギーギル
(酒はやめておけ、ソード…… お前の酔い方は迷惑だ)」
酒癖の悪いソードを窘めつつ、ブレイブは血の匂いに引き寄せられる魔物や天敵であるコボルトたちが居ないか周囲に注意を向け、特に何の気配も無いことを確認すると仲間達を促してヴァリの村へと帰還していくのだった。
……………
………
…
樹上に身を隠し、瞳に魔力を宿らせて視力強化した俺の視界に少し先のゴブリン族の村が映る。
シルヴァたちからエルダー種としての力を貸してほしいと頼まれた俺は返事を保留し、教えてもらったゴブリン族の村とやらを偵察に来ていたのだが……
(何だとッ!? うちの集落より栄えてやがるッ!)
どうやら古代の森はイーステリアよりも歴史的な積み重ねがあるのか、ゴブリン共の暮らしが洗練されている。
まぁ、一部のゴブリンたちが着用している衣類は他種族から奪ったものだとは思うが…… 縫製可能な麻布を作るには最低でも原始的な織機とスキルが必要なため、奴らに可能とは思えない。
ざっと見渡せば、一辺が130mほどの木柵で四方を覆われた土地の中央に大きな家が建ち、その周囲に大小40ほどの家が建っている。恐らく中央の家が捕らえた人間やエルフなどの雌を入れる牢屋付きの族長宅だろう。
村の北西側には例のイノシシ型の魔獣や二足歩行のトカゲ型の魔物ランドリザードが飼われている牧場がある。食うに困った時はイノシシ型の魔物などは非常食になるのだろうか?
(それはさておき…… 建屋と敷地面積からして騎兵の数は精々十数騎か)
視線をその東側に向けると川からの水を引き込んだ小規模な耕作地が見え、付近には崩した後のレン炉の残骸もあるので、製鉄ができるようだ…… また、矢場のような訓練設備から弓兵の存在も考慮せねばならない。
(うちの集落でやりたかった事を全て満たしている……)
もうそれだけでイラっときて俺の気持ちはシルヴァたちへの協力にやや傾くが、それ以外にもちゃんと理由はある。
そもそもGどもは俺たちコボルトと生存領域が重なるため天敵なのだ。その敵対種の文明化が進んでいることを見過ごすなどできない。下手をすれば、こいつらが北上してイーステリアの森に来る危険性もある。
(よしッ、ここを焼き払って根絶やしにしよう!)
時間を掛けて村の様子や戦力を確認した俺は10㎞ほど離れた場所に潜む同族たちの下へ向かうため、その場を後にした。
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