王都の長い一日
「アドレッ、くそッ、何なんだコイツらは! 俺たちに怨みでもあるのかッ!!」
砂塵の直撃を避けたものの、やはり目潰しを喰らっていたグレゴルが薄目を開けながら怒鳴り声を上げるが、それを掻き消すように白磁のエルフたちの雄叫びが響く。
「よく分からんが、これぞ天祐ッ、総員突撃ぃ!!」
「「「おぉおおおおッ!!」」」
衛兵隊長ジストの号令一下で、衛兵隊の十二名が叛徒たちにサーベル突撃を仕掛ける。
「ッ、彼らだけに征かせるわけにいきませんッ、私たちも続きますッ!」
「「「はいッ!」」」
加えて、侍従騎士たちも抜剣して彼らの後へと続いた。
「ッ、グレゴルッ!!」
「焦るなッ、数はまだ俺たちが上だ! 態勢を立てなッ!?」
既に敗色濃厚となっている事実を理解しながらも、味方を鼓舞する改革過激派の指導者が自身に迫る影に気付く。最初に姿を現したエルダー種のコボルトが混乱に乗じて、いつのまにか半包囲の斜め後方へと回り込んでいたのだ。
「うぐッ、あぁ…ッ」
「グアゥッ『退けッ』」
敵指揮官を護る黒曜のエルフが閃かせた斬撃を半身で躱し、抜剣による抜き打ちで切り捨て、倒れ伏す前に蹴り飛ばす。
「いったい、何なんだッ、貴様ッ!!」
「ヴォオッ『遅いッ』」
さらにもう一人いた黒曜のエルフが火弾の魔法を撃とうとするが、左足を踏み込み、風属性の魔力を纏わせた拳を叩き込む!
「がぁッ!?」
直撃と同時に纏わせた風の魔力が弾け、生じた暴風が意識を失ったそいつを吹き飛ばし、標的と定めた目つきの鋭い黒曜のエルフへの道が開ける。
「お前のせいでッ!!」
「グゥッ!『ぐぅッ!』」
その男が叫びながら繰り出したロングソードの一撃を曲刀で受け止めるが、両手持ちの相手に対して片手持ちでは分が悪い。
相手の左側面に体を躱し、ロングソードの峰側に刃を滑らせながら太刀筋を逸らせ、剣先を地面へと押し付け、右拳で顔面を打ち抜く。
「ぐはッ!」
咄嗟の動作なので、拳に魔力を仕込むことはできなかったが、口端から血を流して、目つきの鋭い黒曜のエルフがたたらを踏む。
「キュウッ! (もらったよ!)」
「なッ!?」
体勢を崩したその男の背後の茂みから場違いな子狐が飛び出し、その背中に飛びついて肩によじ登ると、変化を解いて姿を一変させる!
「何だッ!? ぐぅうッ!」
言わずと知れたうちの妹だが、黒曜のエルフを先導する男に肩車のような形で乗っかり、両脚でその首をきつく締め付けていた。
「キュウアァン、ガルヴォルァァアァンッ
(兄ちゃん直伝、アイアン・シュタイナーッ!!)」
(考案者は奴だがなッ)
両脚で首を絞めつけたまま後ろへと倒れ込み、後方宙返りの要領で地面に両手を突くと、遠心力を以って相手を投げ飛ばす!
「うぉおおおッ!? ッ、がぁああッ!」
綺麗な弧を描いて投げ飛ばされたそいつは顔面から地面に突っ込んで動かなくなった……
「そんなッ、グレゴルッ」
「畜生ッ!」
「ガォルァッ、グルオオァアアァンッ!!
『敵将ッ、討ち取ったぞッ!!』」
その場の戦闘を手早く鎮めるため魔力で起こした風に乗せて勝鬨を響かせると、改革過激派の者たちの動きが一時的に止まり、動揺が走る。
“鎮まりなさい、皆の者ッ、王城に攻め入った者たちの首魁は倒れました”
そこに庭園の至る所から、護衛のレネイドと共に世界樹の傍に残してきたアリスティアの声が響く。機を窺っていたようだが…… これは世界樹を通じて木々の枝葉を振動させて、声を届けているのか?
“…… 私は皆が自由と平等を希求する気持ちに寄り添いたいと願っていますが、暴力を以って事を成すのは決して認めません”
元々、今上の女王は改革派寄りの思想を持つことで広く知られているため、改革過激派の黒曜のエルフたちもその言葉に傾注していく。姿を隠した女王が保守過激派に幽閉されているという噂も黒曜のエルフたちの王政に対する不信感を煽っていたため、彼らはその所在に関心を持っていた。
その意味では不可抗力な部分もあるが、彼女の不在が今の混乱を招いたとも言える。
“私の愚かさに端を発するとは言え、既に多くの死傷者が出てしまった以上、事に及んだ者たちを無罪とすることは不可能です。でも、これ以上の罪を重ねなければ恩赦による減刑もあり得るでしょう”
「ッ、ここまでなのかッ」
「退き際か……」
先導者を失い、女王に諭された改革過激派のエルフたちの一部が武器を投げ捨てるが、まだ切先を降ろさない者たちも残っており、さらにアリスティアの言葉が綴られていく。
“それに…… 本音を言えば、これ以上に臣民の血が流れるのは見たくないのです。私に皆を助けさせてください、どうかッ、どうかお願い致しますッ”
(…… やはり、ハイエルフの血を最も濃く受け継ぐ女王というのはエルフたちにとって特別な意味があるんだろうな)
もし、ここが人間たちの国であれば、なお揉め事を起こしそうであるが…… この場にいる多くの者は徐々に武器を納めていく。
なお、同様の言葉は王都エルファスト全域に街中の樹木を通して伝えられているため、南北の各門での衛兵たちと改革過激派の戦いも今や中断されており、双方が既に武器を降ろし始めている。
又、改革過激派の扇動により暴動を起こしかけていた西門周辺の黒曜の氏族を中心とした民衆も落ち着きを徐々に取り戻す。
ここにきての鎮静化には、水面下で白磁と黒曜の両氏族に働きかけてきた改革と保守、双方の穏健派連合による活動の影響も少なくない。それを画策していた宰相令嬢も退避先の西門にて安堵のため息を吐いた。
「くッ、女王陛下が黒曜の氏族に頭を下げるなどッ!」
「お父様…… ならばこのまま国が乱れた方が良いと?」
「ッ、うぅ、それは…… 許せ、失言だった」
相変わらずの父親に対して、エリザが今度は呆れの溜め息を吐く…… まだまだ、白磁と黒曜のエルフ達の溝は深そうだが、とにかくこれ以上の流血の事態は避けられそうだ。
「後始末は大変そうですけれど、取りあえずは友人の顔を見に行くとしましょう」
誰に言うでもなく、独り言を零した彼女が王城へと踵を返す。
その後、夜の帳が訪れた王都エルファストの関係各所で慌ただしく事後処理が行われ、王都の長い一日は終わりを迎えた……
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