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エルフ達の攻城戦

傾いた太陽により西日が強くなる頃、王城内郭の兵舎にある衛兵隊長ジストの執務室のドアが激しく叩かれる。部屋の主である白磁のエルフが書類仕事の手を止めて、入室の許可を出すと若い衛兵が慌ただしく駆け込んできた。


「…… 何があった?」


鋭い視線を飛ばす衛兵隊長に略礼を取った後、焦りながら若い衛兵は報告を行う。


「物見台より報告します! 東地区より王城の南門と北門を目指して武装した黒曜の氏族の一団がッ、改革過激派の連中と思われます!!」


「はぁっ、エリザ殿からその事態もあり得るとは聞いていたが…… やりきれんな」


溜め息を吐きつつ、顔を俯かせてジストは呟く。


「叛徒の数は?」

「各門に対して一個中隊強ほどに見えました」


かつて、エルフたちがフィルランド共和国と戦った際、その過程で確立された基準に於いて小隊は三十名、中隊で百五十名、大隊ならば五百名となる。


つまり、叛徒の総数は凡そではあるが、三百余名と考えられる。


(こちらも衛兵隊を二手に分けざるを得んな。となれば抗議集会の対応に当たらせている衛兵たちも呼び戻したいところだが……)


そんな事をすれば、恐らく戦場となる王城に群衆まで詰めかけて暴動を起こす危険性すらあった。


「城内の戦力だけで対応せざるを得ないか……」


考えを纏めながら執務机の上にあるベルを鳴らすと隣室から伝令兵がやってきて略礼を取り、ジストの言葉を待つ。


「待機中の第一及び第四小隊は南門に、第二と第三小隊は北門の防衛に就くように各小隊長へ連絡を頼む。交戦規定を厳守することも伝えてくれ」


「はッ!」


復唱後に素早く踵を返した伝令兵は隣室へと急ぎ戻り、同僚と手分けして各小隊長の下に走っていく。慌ただしくなる隣の部屋の音を拾いつつ、まだ室内に残る若い衛兵に再びジストが視線を向けて口を開く。


「叛徒の件と配置状況を宰相殿に伝え、その後は元の隊に戻ってくれ」


「はいッ!」


その若い兵も執務室を辞し、衛兵隊長だけがその場に残る。


「南門と北門、共に倍程度の兵力差か…… 城壁があっても厳しいな」


そもそも、エルフの都市防衛は精神に作用する結界である ”迷いの森” による部分が大きく、王城と雖も身内からの攻撃をあまり想定していない。そのため、城壁の造りは簡素でそこまでの強度も無いのだ。


加えて、城壁を崩すための魔法なども存在しており、その効果を過信する事はできない。


(まぁ、叛徒どもも勝ち目があると判断したから事を起こしたのだろうけどな…… 厄介な事だ)


その暫く後に、青銅と白磁の居住区を抜けてきた改革過激派の武装集団が南北の城門付近に集い、ドォオオオォオオンッと轟音が鳴り響く……



南門防衛の指揮を執る第一小隊長がこれ以上近付かないように発した警告に対して、ファイアーボールの連射によって返事が示され、木製の城門が焼け落ちて無骨な鉄骨が姿を現す。


「まぁ、そりゃそうだろうよ。たかが、火属性魔法の連射如きで城門が焼け落ちていれば城としては欠陥品だ」


ただ、もしもと思ったので燃やしたに過ぎず、特に気に留めることなくグレゴルは続く指示を飛ばす。


「アドレ、ブライト、準備はできているか?」


「あぁ、問題ない。術式の構成は皆済んでいる」

「こちらも同じく……」


フードを深く被り、黒曜の氏族の特徴である銀髪と碧い瞳を覗かせる神経質そうな男と軽装鎧を着用した細身の男が頷く。


それを確認したグレゴルは "にぃっ" と笑みを浮かべて言い放つ。


「総員、突撃ッ!! 城門を崩すぞッ!!」

「「「うおぉおおおおおッ!!」」」


彼の号令に応じて、南門に集まった百数十名の武装した黒曜のエルフらが一斉に城壁へと向かって突撃を始める!



「ッ、近づけるな、射撃開始ッ!!」


当然の如く、防衛を担う第一小隊長から攻撃の指示が飛び、数十名の衛兵たちが城壁の上から弓矢を射かけるが…… 途端にゴウッと吹き荒れた暴風がほとんどの矢の勢いを殺し、夕焼け空に巻き上げていく。


「隊長ッ、ウィンドプロテクションの魔法です!」


「見ればわかるッ、次射用意、斉射せずに分隊単位で釣瓶撃ちだ! 奴らの風防壁を一枚ずつ剥いでやれッ!!」


即座に次の指示を飛ばし、適度に無視できない数の矢を間断なく撃ち込んで、風防壁の術式展開が追いつかなくなる瞬間を狙う。


たとえ世界樹の恩恵が濃い王城周辺であっても、体内に取り込んだその生命力を魔力と転じる際に規模に応じた負担が生じるため、戦術魔法を連発できるはずもない。



「グレゴルッ、そんなに長くは持たないぞッ!!」


そう叫びながら、最初のウィンドプロテクションを発動したアドレが次の術式の構築に取り掛かり、彼の隊に属するエルフたちは自身が組み上げた風防壁の発動に備えて城壁の上へと注意を向ける。


「そんなに待たせはしないッ! ブライトッ!!」


「応よッ!!」


白磁の衛兵たちが陣取る高さ5 ~ 6m程の城壁付近へと辿り着いた土属性魔法を扱う部隊が大地に手を突き、城壁直下の地中の土を “土流” の魔法でその裏側へと勢いよく噴出させていく。


「なにッ!?」

「うおあぁッ!!」


結果的に彼らが取りついた城壁の地下に空洞が生じて、自重により一部が崩落した。


「うわあぁああッ、やめッ、ぐうぅッ!!」

「ぐ……ッ、あぅ、畜生ッ……」


その際に脚を滑らせて落下した衛兵二人が過激派たちに囲まれ、落ちた衝撃で動けないところをサーベルで切り刻まれて絶命する。



「ちぃッ、第二射、直下に撃てーッ!!」


なお、城壁手前で土流の魔法を行使し、城壁直下の空洞を広げようとする過激派の土魔法使いたちに向けて、近距離から十数本の矢が放たれる。


「汝らに風の護りをッ!!」


呼応して再び過激派の風使いたちがウィンドプロテクションの魔法を展開するも……


「ぐうぅッ!」

「くおッ!?」

「うぁあああッ!」


矢の勢いを殺すに十分な距離が無く、城壁崩しを敢行していた過激派たちの四肢や胴体へと幾分か威力を減じられた矢が突き刺さる。


さらに、別の衛兵十数名が番えていた矢の先を城壁の下へと向けて間断なく攻撃を行い、それにより過激派たちの負傷者も増えていく。



「くそッ、させるなッ、射撃用意ッ!」


グレゴルの指揮の下、過激派の弓隊も応射して城壁の上の衛兵たちを狙う。


「皆ッ、伏せろッ!!」


衛兵たちはその度に盾を頭上に翳し、城壁の上でしゃがみ込んで攻撃を凌ぐが…… 全くの無傷というわけにもいかず、そうこうしている内に南城壁の一部がついに崩れ落ちて穴が開く。


「ッ、しゃあっ!」

「突っ込むぞッ! 俺に続けッ!!」


そこをグレゴルが指揮する数十名の部隊が突破して王城を目指す。


彼としても抗議行進を抑えている衛兵隊や北門の動向は気掛かりであるし、できれば事後を考えて改革過激派の損耗を抑えたい。故に南門に配置された兵数から、城内の兵がほとんどいないと判断した彼は中枢を押さえることを優先したのだ。



「くッ、これ以上、行かせるかよッ!」


「ぐああッ!!」

「痛ッ……ッあぁッ!」


崩れた城壁の一角から先行したグレゴルの後に続こうとする過激派たちへと火弾や風刃の魔法が浴びせられ、先頭の数名が頽れる。


結果的にグレゴルたちが抜けた事により南門での戦いは膠着を迎え、主力をこちらに回したために陽動の色合いが濃かった北門も同様の戦局を迎えるのだった。


そして、過激派の一部が城門を突破する少し前、青銅のエルフたちが暮らす居住区の屋根上から戦闘を眺める怪しい仮面を付けたコボルトの姿が……

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