111 転生者は異世界で何を見る? -記録-
「おおっ! お前ら無事に帰ってきたか!」
冒険者ギルドに帰ってくるなりカウンターにいたデクストが目ざとくこちらを見つけて大声を上げた。
今は空が赤くなり、太陽も沈んで見えなくなっている時間帯だ。このオッサンは早朝から仕事してたはずだがちゃんと休んでるのかな。
にしてもこの時間帯だからか、人が異様に多い。よく俺たちを見つけられたな。
「当り前じゃないですか」
フィアが心外だとばかりに両手を腰に当てて頬を膨らませている。形のいい胸が強調されて若干名の視線を集めているようだ。
「いや、森にコボルドキングが出たと報告があったばっかりだからな。怪我でもしてねぇか心配してやったんじゃねぇか」
カウンターに頬杖を付いて、目の前の客をさばきながらこちらと会話するデクスト。器用なことをするな……。
必然的にあんたの列に並ばないといけない感じになってんじゃねーか。というかフィアはすでに並んでるし。……ちょっと隣の無表情美人さんのところに行きたいと思ってたのに。
「その様子だと、遭遇はしなかったようだな」
……ん? どういうことだ? いや、むしろ倒したんだが。というかあの冒険者パーティはどんな報告しやがったんだ。
と言っても俺たちが倒したっていう証拠はないんだけどな。討伐の証明に耳を切り落として持ってくるパターンを採用した小説なんてのもあったが。
そういえばデクストからは素材の話はされたが、討伐部位がどうのこうのという話はなかったな。
「コボルドキングなら、私がぶっ飛ばしましたよ」
「……はい?」
カウンターに並んでいる俺たちの順番が回ってきてすぐに、フィアが頬杖をつくデクスト詰め寄っていた。
騒然としていた俺たちの周囲がいくつか静かになる。とは言えそのさらに周囲はまだうるさいままだったので、静かになった集団もまた喧騒に飲まれるようにしていなくなる。
「キングを倒したのは確かにフィアだな」
周囲が元の様子に戻ったことを確認して、フィアが倒したことを俺が念押しすると、デクストのフィアを見る目線が相手の実力を測るようなものに切り替わる。
「確かに嬢ちゃんくらいの娘が一撃でぶっ飛ばしたと報告があったが……」
あっ……。
そうだった。大事なことを忘れれた。
――あの冒険者パーティとお互いに自己紹介してねーわ。名前がわからん。
うむ、あんまりしつこく言わないようにしよう。逆に怪しまれるかもしれん。
「まぁ、証拠はないんで信じるかどうかはご自由にどうぞ……」
内心冷や汗をかきつつなんでもない様子を装う。
「フィアちゃんと言ったか。ギルドカードを見せてみろ」
デクストが珍しく真剣な表情のままギルドカードを渡すように言ってきた。
「ああ、マコトと……ミズキのカードもついでに見せてくれ」
俺はポケットからカードを取り出すとそのままデクストに渡すと、ついでにそのまま冒険者パーティを助けたときにもらったお礼の中から銀貨も三枚取り出してカウンターに置く。
まだもらったお礼の中は改めていないが、銀貨と銅貨と鉄貨がごちゃごちゃと五十枚程度入っていた。
「ついでに入街税も三人分払うからよろしく」
そうデクストに支払処理をするように頼んでおいた。
「あー、やっぱりお前らだったか……」
カードで何を調べるのかはわからないが、無一文だった俺が袋からお金を出したことで証拠になったのだろうか。
最後に俺の後ろから差し出された瑞樹のカードを受け取ったデクストが、こちらから見えないカウンターの下で作業すること数分。
「……確かにコボルドキングの討伐記録だな。……で、こっちはコボルドの……って多いな!? おいおい、ワイルドボアまでいるじゃねーか……」
討伐記録? もしかしてこのギルドカードにはそんなのが記録されるのか? 仕組みはわからんが、便利だな。
――あ、それで討伐部位とかの話をされなかったのか。
カウンターの向こうの一人芝居を眺めていた俺だったが、ハッと何かに気付いたデクストがこちらに向けた視線と合ってしまった。
「おいまさか、せっかく倒したワイルドボア放置してきたんじゃねーだろうな……!」
金がないお前らにあんだけ金になる素材を教えたやっただろ! と視線が語ってきている。
もちろん金欠な俺たちがそんなもったいないことするわけがない。ちゃんとアイテムボックスの中に仕舞って持ってきている。
「そんなもったいないことするわけないだろ。ちゃんと持ってきてるぞ」
「お、おう、そうか。……で? そのワイルドボアはどこだ? あっちの素材カウンターに持ってくれば査定してやるぜ?」
デクストが指し示す方向を見ると、素材を持った冒険者が並ぶカウンターがあった。
そこには巨大な獲物を担いだ者、何かの毛皮や牙といった物を持つ者、大小様々な鞄を持つ者など様々だ。
なのだが――、決して手ぶらで並ぶという者はいなかった。




