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聖女転生物語  作者: 神崎右京
終章

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エピローグ①

長くなり過ぎたのでエピローグ2つに分けます。②も読み逃しなく。

 抜けるように青い空。冬の入り口とは思えぬほど、温かな陽気が降り注ぐその日、王国中が浮かれていた。

 去年までは、『聖人祭』と呼ばれていたその日は、本来しめやかに行われる午前中の神聖な儀式を全てすっ飛ばし、王都の至る所に豪勢な飾りつけがなされて、街中が熱に浮かされるように騒がしい。

「あぁっ――お美しい、お美しいです、イリッツァ様…!よもやこの老いた瞳が盲いる前に、かような僥倖に見えようとは――!エルム様、エルム様、エルム様――!」

「り、リアナ…落ち着いてください…」

 いつお迎えが来てもおかしくない、というくらいの老婆がいきなり膝をついて聖印を切り、滂沱と涙を流すのをひくつく頬を抑えながらやんわりと制す。何年たっても、どうにも彼女への苦手意識は消えない。

「大袈裟です…」

「いいえ!いいえ!!全く、大げさではございません!!!あぁ――まさに、あの日のフィリア様が現世に舞い戻られたよう――…!リアナは、リアナは、今日この日のために生きてまいりました――!」

「いやだから…大袈裟です…」

 イリッツァは呻くように言いながら周囲を見渡し、近くにいた修道女に合図をしてハンカチをもらうと、そっと差し出す。可哀想だが、手で拭ってやることは、出来なかった。

 ――せっかく着たばかりの、花嫁衣裳を汚してしまう。

 王国と帝国が軍事衝突をして、聖女をめぐって争ったのは二年前。王国に帰って来てからイリッツァはすぐにリアナを訪ね、ランディアにかけられていたであろう闇魔法を解除した。枕元に立つ、フィリアの生き写したるイリッツァを見た瞬間、それまで伏せって心を病んでいたとは何だったのだ、というくらい矍鑠とした仕草でリアナはすぐに立ち上がり、現役時代もかくや、というほどにイリッツァに心酔してそのお世話をすると言って憚らなかった。

「この神の化身たるお姿がっ……これが、あの、悪童の手に渡ると思うとっ…それだけが、リアナの心残りでございますっ…!」

「だから――…カルヴァンは、悪童ではないと、何度も言っています…」

 渡されたハンカチで涙を拭った後鼻までかみだす老婆に呆れながら返す。何年たっても、彼女の中ではカルヴァンは手の付けられない悪童のままらしい。

 帝国との停戦協定を結んだあと、すぐにカルヴァンはイリッツァとの婚約を発表した。戦争の結果を報告する玉座の間で、イリッツァを正式に嫁にすると宣言したのだ。当然、その場は一瞬ざわめいた。王太子のウィリアムが求婚していたのは事実だし、決闘は決着がついていなかった。どうなることかとウィリアムの顔色をその場にいる全員がうかがったが、カルヴァンはその場で冷静に論をつづけた。

 帝国の第五皇子と婚約を発表され、衆目の前で堂々と口づけされた事実は、王国にも広まっていた。聖女を汚されたと怒りの感情をさらに煽ることになったのは、戦争の前は良い方に転がったが、戦後は聖女としての資質を問う方向に世論が向く可能性もある。事実として口づけ程度で聖女の力は衰えないのだが、神の化身である聖女としてふさわしくないと捉える者が出る可能性があった。

 そんなことを淡々と述べたカルヴァンは、そのままあっさりと、だから聖女としての公務は全て免除させて、もう一般人として生きさせてはどうか、と告げて、玉座の間を混乱の渦に巻き込んだ。聖女でなくなるならば、王子がわざわざ求婚する必要はないし、もう誰と結婚してもいいだろう、というのが彼の論らしい。当然その場は蜂の巣をつついたように騒がしくなり、口々に口論が飛び交い――最終的には、「聖女」にしかできない仕事があることは事実なので、最低限の仕事だけはこなしてもらうものの、それ以外の日常に関しては、還俗した少女として扱おう、という話で綺麗にまとまった。

 カルヴァンの意図を正確に把握していたであろうウィリアムは、これ以上ない苦笑をその面に刻んでいたが、カルヴァンはニヤリ、と片頬を歪めて笑っただけだった。

 結果、イリッツァは、国中に結界を張ったり、催事に顔を出したりと聖女としての仕事を遂行しながら、カルヴァンの屋敷に身を寄せて、市井に混じって生きることとなった。最初はとにかく緊張して平伏しかねなかった人々も、イリッツァの人柄に触れることで徐々に歩み寄っていき、この二年でだいぶその距離は縮まった。神々しさを感じさせる母譲りの笑みではなく、親しみやすさを感じさせるナイードで培った笑みを振りまいたせいもあるだろう。やっと最近になって、少しずつ、王都でも「聖女様」という呼び名にかしこまった響きが無くなって来たところだ。

「ツィー。準備は出来たか?」

 コツコツ、と扉が叩かれる音がして声が響く。近くにいた修道女が返事をして、扉をそっと開けた。

 開けられた扉から入ってきたのは、カルヴァンだった。いつもの騎士の服ではなく、めったに見ることのない礼服を着ている。ぱちぱち、とイリッツァは薄青の瞳を瞬かせ――ふっ、と吐息だけでおかしそうに笑った。

「ははっ…珍しい恰好ですね」

「堅苦しくて仕方ない。今すぐ脱ぎたい」

 首元のあたりを鬱陶しそうに触りながら、カルヴァンが鼻の頭にしわを寄せる。隣でリアナの眉がキリキリと吊り上がった。

「カルヴァン・タイター!貴方は、貴方は、神の化身たるイリッツァ様を人の身でありながら貰い受けるという僥倖を理解して――」

「あー、うるさいうるさい。ツィー、なんとかしろ」

「はは…リアナ、皆さん、ちょっと席を外してもらえますか。カルヴァンと話をさせてください」

 老婆のかすれた声でギャーギャー喚き始めたリアナを、修道女たちは訳知り顔で引っ張るようにして退室していく。ぱたん…と扉が閉まって、支度部屋にはイリッツァとカルヴァンだけが残された。

「聖女様はさすがだな。修道女たちが文句も言わない」

「一応、もう、一般人なんだけどな。今も頻繁に教会に出入りして仕事手伝ってるせいか、さすがに聖職者からはまだ気安い呼び方はしてもらえない。リアナは――まぁ、リアナだしな」

 苦笑を刻んで呻く。屋敷に押しかけてお世話を焼くと言って憚らなかったリアナを説得するのは大変だった。今は一般人になったのだから、というのも聞いてもらえず、ほとほと困り果て、聖職者に混じって聖女の仕事をする時だけは、お世話係として傍についていてもらい、プライベートは放っておいてくれと懇願して何とかなった。最後は枢機卿団代表でありリアナの上司でもあるアランに助けを求め、アランからきつく言ってもらったことで何とか了承させた形となった。一連の騒動が終わるまで、終始カルヴァンが不機嫌だったのは言うまでもない。

「もうそれで完成か?」

「え?――あぁ、うん。化粧って本当に慣れないな…この服も動きにくいし。俺もさっさと脱ぎたい」

「そうだな。俺もさっさと脱がせたい」

「――――――――」

 一瞬、半眼になる。そのまま、胡乱なまなざしでカルヴァンを見上げた。

「お前は本当にブレないな…」

「お前な。俺がこの二年、どれだけこの日を待ち望んでたかわからないのか?」

「わからないな、わかりたくない」

 頬を引きつらせたあと、少し不機嫌に嘆息する。

「一応、人生で一番着飾ってるんだけど?」

「?」

「――――なんか、ないのかよ。感想」

 自分から言うのが少し恥ずかしくて、頬の端が少しだけ桃色に染まる。カルヴァンは、あぁ、と声をあげてから近づき、軽くイリッツァの頬に触れた。

「最高に綺麗だ。――今すぐ抱きたい」

「――――――なんでだろう、全く嬉しくないぞ」

「『抱きたい』っていうのは女に向けての一番の褒め言葉だろう、何が不満だ」

「んなわけあるか!!!?」

 下半身でしか物事を考えない男は、三十二歳になるというのに、未だにこんな発言を繰り返す。イリッツァは噛みつくようにツッコミを入れて、怪しく肌を辿ろうとするカルヴァンの手を軽く払った。

 カルヴァンの求婚を受け入れ、王国に帰って来て、カルヴァンの屋敷に身を寄せることになった日。取り急ぎの荷物を運び終え、あとは寝るだけ――となったタイミングで、イリッツァは、当たり前のように、婚約者に告げたのだ。

『…あ。わかってると思うけど。――成人するまで、"そういうこと"はなしだからな』

 ――それから一晩中、全力の口喧嘩が繰り広げられたのは言うまでもない。

「一つ屋根の下にいて、寝室も一緒で――丸二年間一切手を出すなって、何の拷問だ!?」

「普通だ!!!」

 十七歳で成人を迎えるクルサールにおいて、正式な結婚は十七歳を迎えないと叶わない。十七よりも前に婚約者を決めることはよくあることだが、聖職者たるイリッツァにとって、婚前交渉などもってのほかだった。結果、一晩中、カルヴァンの優秀な頭脳でどれだけ言いくるめようと様々な論を展開しても、それだけは絶対に譲らなかったのだ。

 イリッツァにしてみれば、可能であれば人生において性愛に触れるような行為は忌避したい。成人するとかしないとかに限らず、そういう行為はしたくないというのが本音なのだ。しかし、下半身暴れ馬の婚約者にそれは通用しないと知っているにも関わらず、浮気は許さないと宣言してしまった手前、譲歩が必要だろうと覚悟を持って「成人したら」という条件を付けてやったのに、何を意味不明なことを言っているのか、という気持ちだった。すでに最大限以上の譲歩をしているつもりのイリッツァを切り崩すことは、カルヴァンの頭脳をもってしても、最後の最後まで出来なかった。

「…まぁ、今日のお前がとんでもなく綺麗なのは事実だ。普段からそうやって着飾っていろ。最高に可愛い」

「っ…ぁ…ありがとう…」

 急にまっすぐに褒められて、さっと首元から肌を赤く染め上げる。昔は女顔がコンプレックスで、可愛いなどと言われれば不機嫌になったものだったが、今は賞賛の言葉として受け止められるようになるのだから、人間、慣れというのは怖いものだ。

 赤く染まって言葉少なになったイリッツァに、にやり、とカルヴァンが意地悪く笑う。

「そのドレスは持って帰れるんだろう?――今日は帰ったらすぐに脱がすから、今度、ゆっくりと着て楽しませてくれ」

「はっ!?」

「美人過ぎて、どれだけ眺めてても飽きない。最近、大人びてぐっと色気が出てきたしな。――それに、着たままってのもいいだろう。花嫁衣装で、とか、背徳感で最高に興奮しそうだ」

「ふざけんなっ!お前の頭の中そればっかりか!!!」

 最後は必ずそちらに話を向けるカルヴァンに、真っ赤になって言い返す。くっとカルヴァンはおかしそうに喉の奥で笑っていた。

「そればっかりだ。――だから、今日にしたんだろう」

「っ―――」

 かぁ、と頬が染まる。

 孤児だったイリッツァに、正確な誕生日というものはない。だから、拾われた日を誕生日の代わりとしていたのだが――それが、今日。世の中で言うところの、『聖人祭』だった。

 自分のかつての命日が誕生日とは、なかなか皮肉なものだな、と昔は思っていたが、まさか結婚記念日にもなるとは。

 イリッツァの『待て』を受けざるを得なかったカルヴァンが、苦し紛れに取り付けた約束は一つ。

 ――十七になった瞬間に抱かせろ、というものだった。

 日付が変わると同時に襲い掛かりかねないカルヴァンを、結婚式を執り行ってからでないと「結婚」とみなされないと必死になだめ、最終的にこの日が結婚式の日付となった。

 この二年、首を長く長く長く長くして待ち続けていたカルヴァンにしてみれば、そもそも神への誓いの儀式などどうでもいいことも相まって、今朝から結婚式のことなど殆ど頭にないといっても過言ではない。早く、早く、一秒でも早く家に帰りたい。

「まぁいい。二年、干からびるかと思ったが、それでも待てたんだ。あと数刻ぐらい、待ってやるさ」

「ぅ――…なぁ、やっぱり無しってことにはならないのか?」

「ならない。なるわけない。さすがに怒るぞ、それは」

「ぅぅ…」

 あけすけに宣言されて、イリッツァは羞恥に顔を赤らめながらうつむく。二年間、似たようなやり取りを繰り返し続けていたので、さすがにだいぶ覚悟は決まっていたが、それでもやはり、恥ずかしいものは恥ずかしい。

「ツィー」

 呼ばれて、ふと目を上げると、雪国の空がすぐ目の前にあった。

 ドキン、と胸が鳴る。

「っ、ちょ、待――!」

「キスはいいんだろ」

「いや、そ、そうだけど、け、化粧してるし――」

「直してもらえ」

 有無を言わせぬ口調で告げられたと思った途端、次の反論はその唇に寄って奪われていた。

「っ――――」

「ツィー。綺麗だ」

 唇を少し離して、至近距離から覗き込まれる。

「これが俺の嫁になるのかと思うと、最高に独占欲が満たされる。たまらない」

「っ、待っ――」

 にやりと意地悪く笑んだ瞳に嫌な予感を感じて制止しようとするが、そんなことを聞いてくれるような男ではない。

 いつかの馬車の中のように、抵抗する暇もなく何度も何度も繰り返される口づけに翻弄されながら、イリッツァはぎゅっと瞳を閉じるしかなかった。



 ――すべて終わった後、口紅だけが不自然に取れた化粧を修道女たちに直してもらう羽目になり、部屋の中で何をしていたのか丸わかりすぎるだろうに何も言われず粛々と化粧直しをされて、イリッツァの羞恥がなお極まったのは言うまでもない――



 わぁぁぁぁぁ――

 天からはらはらと、色とりどりの紙吹雪が舞っている。建物の上層階から舞い降りて来るそれは、時折市井の民の風属性の魔法使いの善意によって綺麗に巻き上げられ、塊になることなく惜しみなく進みゆく馬車に降り注がれた。

「――鬱陶しいな」

「コラコラ」

 舞い落ちてくる紙吹雪にしかめっ面で不機嫌に呻く隣の英雄に、聖女の笑みを張り付けたまま小さくツッコミを入れる。完璧な笑顔を作ったまま、馬車の行く街道にこれでもかと押し寄せた国民たちに軽く手を振ってこたえていた。

「さすが聖女様はサービス精神が豊富だな」

「お前は英雄の癖にもう少し愛想を振りまくとかないのかよ」

「ないな。あるわけない。さっさと帰りたい」

「まだ言うか…」

 呆れたように言いながら、沿道に微笑み小さく手を振る。沿道の民は、花吹雪担当だ。こちらも、風の魔法使いが至る所で力を発揮しており、外から見れば、それはそれは美しく絵になるパレードだろう。時折建物のベランダで必死に何かをスケッチしている男たちが見られるので、おそらく数日後にはこの様子がベランダで必死の形相をしている数多くの画家によって絵画として描かれ、商人によって国中に運ばれ、飛ぶように各地で売れるのだろう。

 イリッツァが手を振ると、振られた先の市井の民からはわぁっと歓声が上がる。神の御利益があるとでも言いたげなその様子に、苦笑いしそうになるのを必死にこらえた。

(そろそろ腕が疲れてきた…)

 王城の中で割り当てられた支度部屋にて支度をした後、王立教会での誓いの儀式に向かうまでの道のりを、こうして馬車に乗り、王国民にお披露目するのだ。ことさらゆっくりと進む馬車と、普段よりも遠回りしてなるべく多くの国民の目に触れるように配慮されたルートのせいで、いつまでたっても腕が下げられない。馬車の周囲は騎士団と近衛兵がしっかりと護衛しているが、沿道は今にもその列をはみ出さんばかりの人出だった。

 ふぅ、と少し息を吐こうと瞳を伏せた時――

「聖女様!!!!」

 ひときわ大きな声が響いた。

 ばさっ

(――――――え)

 視界一杯に見覚えのある花が舞い踊る。華やかな周囲の花弁とは異なり、あまり花吹雪には適さない、小さな小さな可憐な花。

 薄青色の――ミオソティス。

 思わず声がした方を振り返ると、真新しい兵士の装束を着た少し背の高い少年とその少年の脇にいる少女、寄り添うように立つもう一人の少年は聡明そうな顔立ちをしていた。

 面差しに見覚えのある三人。――記憶の中から、だいぶ成長しているけれど、あれは、確かに。

「「「おめでとーーーー!!!!」」」

「っ――――」

 やっと固さが取れてきた、という程度の王都民とは明らかに異なる、郷里で聞き馴染んだ親し気な呼びかけに、思わず胸が詰まった。今、隣にいる王国騎士団長に憧れ、いつかは騎士にと言っていた少年は、その装束を見るに、無事に兵士の入団試験に合格したようだ。ミオソティスの花言葉を教えてくれた賢い少年は、今もその友人と仲睦まじく交流しているらしい。聖女様みたいになりたい、と無邪気に語った少女は、今、どんな夢を語るのだろうか。

「…知り合いでもいたか」

 イリッツァの微かな息遣いで察し、カルヴァンの灰褐色の瞳が振り向く。

「うん。…はは…嬉しい」

 公には、本人も気づいていなかったということになっているとはいえ、イリッツァの中ではやはり、ナイードの領民を騙していたという後ろめたさが心の奥底から拭えず、二年間、ナイードには帰らなかった。ダニエルにカルヴァンとの結婚の許可をもらうときも、彼に王都まで赴いてもらったくらいだった。

 だが――どうやら、全て、イリッツァの杞憂だったらしい。国の宝たる子供たちが、逞しく成長し、昔と変わらず親し気に「聖女様」と呼んでくれるのが、これほど嬉しいとは。

「あー…やっぱ結婚とかするんじゃなかった。ずっと聖職者やってたい」

「オイ」

 なにやら嬉しさを噛みしめながら、結婚式当日にとんでもないことを言い出した嫁に、思わずカルヴァンが剣呑な声を上げる。

「聖女様の結婚だ、って言って、錚々たるメンバーが教会で待っているんだろう。今逃げたらさすがに大騒ぎだぞ」

「ははっ…わかってるって、冗談だ」

 聖女という国家の最重要人物の結婚式は、むやみやたらに招待客を呼ぶことはできない。国家の中枢を担う人物のなかでも選りすぐりの人材だけが選ばれ、少人数に見守られる形で行われる。その分、こうしてパレードで国民に広くお披露目しているのだ。

「うん。大丈夫。――腹括る」

「…結婚式に向かう花嫁とは思えない発言をするな」

 渋面を作って呻くカルヴァンに、吐息を漏らすように微かに笑って、イリッツァは再び沿道の人々に手を振り返していった。

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