漆黒の花々 Ⅴ
本来、宇宙公道にスペースデブリなど存在してはならない筈だが、この航路には先の戦闘の影響やそれ以外の物もあるだろうか、いまだに無数のデブリが漂い散乱している。
管轄である第20艦隊が率先してデブリの回収作業を行い航路上の安全を確保する筈だがこの有様では相当放置しているのが見て分かる。
全長10m前後のDrive Dollが身を隠すことのできるサイズのデブリも多く、全方位に警戒が必要な中、意気揚々と目当ての物を探す歪な形状のDrive Dollが12機。
しかし、確実に存在するはずだった輸送艦が存在しないと分かった途端、全機が動きを止め慌てて周囲を警戒し始めた。
ザヴァリィとリュドミラのブラック・ブロッサムはお互い不意を付ける場所へ移動しデブリへ紛れ、敵の様子を探る。 その中で通信中だろうか、リュドミラの数十メートル先に微動だにしない敵機が1機――
「そろそろ動き出しそう……リュドミラいける?」
『見えてる。 ――スタンバイ』
ザヴァリィはゆっくりと その機体の背後へと近づき光子刃の柄を優しく当て「じゃあ、始めようか」と冷たい口調で呟くと光子刃の刃でコックピットのみを器用に貫いた。
「明らかにデカい通信用の鶏冠に上等な武装。 隊長機だと分かり易い」
彼女はゆっくりとその光る刀身を柄へ戻し、動かなくなった敵機の背中を蹴るとその慣性で再びデブリの中へと姿を晦ました。
その数秒後、隊長機と思しき機体と通信が取れなくなったからだろう。
餌に集まっていたFUNGの11機が何が起きたのかを確認しようと隊長機の方向へ次々と振り向く。
視線の集まる先、胸元に風穴が開き微動だにしない機体が漂い巨大なデブリへ軽く衝突した。
呆然と見ていた敵の集団はその衝突を皮切りに各々が散開しようと機体を捻り移動を始める。 が、その寸前で最も餌へと近づいていた1機が 青白い一筋の光に貫かれ爆散する。
「目標に命中。 光子狙撃砲に問題なし。 ガンカメラの補助機能と私の操作に少し誤差がある。 修正……」
リュドミラはブツブツと呟きスコープの調整をしながらも散開する敵を素早く捉え、デブリで視界の悪い中、弾道を測定しつつ続けて3機をいとも簡単に狙撃した。
「修正完了。 狙撃ポイントから合流ポイントへ移動する」
『リュドミラ、こっちに何機が来る』
「了解、移動経路を確保しつつ敵機の移動を阻害する」
肩部腰部、合計4門の光子銃砲から一斉に放たれた光子が射線上の数多のデブリを貫き融解し、それぞれ4機の進行を止めた。
敵機は光子が放たれた方向へメインカメラを向けるとその瞳を光らせ索敵を始めるも浮き留まる彼等の背後にはデブリに紛れていたザヴァリィが待ち構えていた。
「ナイス牽制」
彼女は次々と側面や背後からコックピットを光子刃で貫き切り裂いた。
4機の内、最後の1機がザヴァリィブのラック・ブロッサムの存在に気付き、両腕に増設している巨大な3本の爪を素早く展開すると、まるで威嚇をする昆虫の様に応戦しようとした。 が、近接攻撃は 光子刃によっていなされ、自慢の爪は根本から切断さると真正面から胸部と腹部の間を光の刃であっさりと貫かれる。
ザヴァリィは敵を押しのけ武器を収納すると透かさず移動しながら通信を行う。
「これで9機。 ゼノビア、索敵は?」
『――申し訳ありません。少し手間取りましたが、今しがた ルーナちゃんが索敵ビーコンを設置して下さいましたわ。 ――確認したところ伏兵も居らず、ダミーに集まっていた数は12機で間違いないようです』
「てことは、残るは3機……リュドミラ、見える?」
『うーん、たしかあっちの方へ――あ、見つけた。 バラバラに動いてはいるけど進行方向は同じ』
「それじゃあ、サッサと片付けて――」
『ザヴァリィさん、お待ち下さい。 あの3機は落とさず、泳がせましょう。 母艦の位置が分かるかもしれません』
――アルキオネ ブリッジ――
「Team A戦闘開始から10分が経過しました。既に9機を撃墜、現在TeamBとのコンタクトを行っています」
9機撃墜!? おいおい……流石に凄過ぎやしないか?
アストは驚いたが平静を装う。
「そうか……では敵母艦の位置の特定は?」
「現在ゼノビア機が残存する敵機の動きから敵艦の位置を割り出しているとのことです」
えぇ……今の本職は皆さん一応秘書ですよね?
デブリで視界不良かつ奇襲でこちらに多少なり分があるとは言えこうも一方的に……
訓練で何となく実力は把握しているつもりだったが……機体性能も相まってか全員が思っている以上に腕が立つな……
「……よし。 敵は宙賊とはいえ、中でも巨大な組織だ。 増援も有り得る。改めて警戒させろ」
「Copy――」
……そういえば
「メアリー、第20艦隊からの返答は?」
「未だありません!」
だんまりとは……こりゃ、黒だな――――
しかし、何故第20艦隊はFUNGやらCypherに情報を提供したのだろう……? 宙賊程度に情報を渡したところで宇宙連合を敵に回すだけの見返りがある筈がない。 乗っ取られているという節もあるが、それなら管理している上層部が前々から何かしらの異変に気付いている筈だ。
裏に何か別の組織が絡んでいる……それも宇宙連合を敵に回しても良いと思えるほど巨大な組織――
アストの脳裏に過去の記憶が蘇る。それは20年前の反宇宙連合組織との紛争の記憶。
だが奴らは俺たちが既に壊滅させた。残党も残らず――
「――アスト艦長、ゼノビア機がFUNGの母艦の位置を割り出しました。 作戦通りTeamCが予測ポイントへ移動を開始。 TeamAがその援護へ向かっています」
「あぁ……!」
いかんいかん、作戦中だ。感傷に浸っている場合ではない。
そんなことを思っていると通信が入る。サブモニターにはジョセフィーヌの姿が見えた。
『アスト艦長』
「どうした?」
『ゼノビアさんの予想位置通り、敵艦を捕捉いたしました』
その報告にジョセフィーヌの位置を確認しようとアストはレーダーに目をやる。
レーダーに映るジョセフィーヌのブラック・ブロッサムは多量のデブリの中、一切速度を落とすことなく寧ろ加速を続け、途轍も無い速度でデブリを抜け出すと捕捉したらしい敵艦の方向へ迫っていた。 その軌跡はまるで稲妻の様――
『このまま強襲します』
「なっ……!? 待て援護が――」
同スペックの機体だというのに他の追随を許さず置き去りにする程、ジョセフィーヌの移動速度が速い。
敵戦艦周辺の戦力を完全に把握できてない状況下だぞ……元第7艦隊とはいえブランクで判断が鈍ったか? それとも気が逸ったか?
そう思うアストだが、サブモニターに映る彼女を見るに声色や表情に焦りや興奮している様子は微塵も無く正に冷静沈着であった。
本当に大丈夫なのか……?!
俺の采配次第ではこの状況から形勢が不利になる可能性もある。 ここはいつも以上に慎重に――
「ジョセフィーヌ機、交戦を開始」
「無茶だ……! 敵の戦力は?」
彼女は何をそんなに割いている?!
「現在確認できる機影は6です」
こちらが敵を追い込んでいるのにもかかわらず、彼女達の作戦遂行速度が早いお陰かアストは急迫染みた感覚に追われる。
「アスト艦長! 直線上に新たな敵の艦影を2隻捕捉! 距離は5000、急速旋回及びDDの出撃を開始しました!」
コソコソ動いている俺が言えた義理じゃないが、こんな場所に潜んでいたとは……それに、よくも嫌な間合いで動いてくれる。
「Cypherか?」
アストの問いにメアリーが困惑した表情で答える。
「Cypherの可能性もあります……!」
「可能性?」
「はい、 出撃したDDがCypherに奪取された機体、バイネッケです! 数は16!」
まさか奪取した機体を早々に全て投入してくるとは……だが、このタイミングで手持ちの戦力を最大限向かわせるのは当然の一手。
「ですが、敵艦は……第20艦隊ガイア級12番艦ヒュペリオン。同じくガイア級13番艦クレイオスです……!」
本来味方である艦から奪取された機体……面倒だが、もはや慎重になっている場合では無い……彼女たちを信じて全勢力を持って確実に敵艦を捕らえなくては――
アストは手元のモニター弄り艦全体へ自身の声を届ける。
「全員へ通達、早計かもしれないが第20艦隊の保有艦艇を敵艦と断定。 これより本艦は春夏秋冬司令の命により奪取されたバイネッケ16機を撃墜。現在確認できている全ての敵艦を可能な限り無力化、捕獲する」
通達を終えたアストはCICへ指示を出す。
「サラ副長、TeamAに援護を急がせてくれ。敵母艦に合流しようとしている3機も居る。背後から挟まれればジョセフィーヌさんといえど単機でやり合うには流石に厳しいだろう」
アストは宙域を模したホログラムへポイントを示す。
「TeamCにはこの地点へ向かう様に通達。 デブリが少なくこちらからの射線が通りやすい上、TeamAから逃れようとした敵に対しクロスファイアを狙える位置だ」
「Copy――早急に対応させます」
「メアリー、バイネッケは全て"TEAMD"に対処させる。敵艦及び敵機がTEAMDを捕らえ次第アルキオネは最大戦速の後、対艦戦闘に入る」
「了解です! TEAMD、イグニッション開始! 各システムの最終確認をお願いします!」
アストは浅く艦長帽を浅く被り直す。
さて、ヴェルルは問題ないとして、もう1人……彼女とあの機体の初陣はどうなることやら……特訓の成果、存分に見せて貰おうじゃないか。




