漆黒の花々 Ⅲ
北暦291年
ケプラー日時 1月13日 13:24
太陽系全宙域防衛戦線 第20艦隊管轄近郊宙域
反宇宙連合組織 MARE主力戦艦 ブリッジ
『ヴェスヴィオ様。レーダーにデブリへ紛れた輸送艦と思われる艦影及び複数の護衛艦を捕捉しました』
髭面の恰幅のある大男がその通信を聞くと艦長席から立ち上がり、無重力空間へと浮かぶとレーダーへ近づいた。
「情報通りだなぁ。内通者が居るというのは実に滑稽だ。艦の種類はなんだ?」
『照合取れません。 全て新造艦かと思われます』
新造艦のみでの輸送……
昨年末のグリーゼの安全宙域に出現したENIMに影響されて新設している第3コロニーの戦力増強を急ぎで行っていると見た。
「余程の物を運んでいるというのは情報通り本当の様だな。 FUNGの諸君。 今回は第3艦隊から輸送された物だ。確実にCypherが奪った物以上の価値がある。失敗は許されんぞ!必ず奪い取れ!」
ヴェスヴィオの声に通信を行っていたFUNGのリーダー格である男が反応する。
『分かっています。 ですが想定以上の護衛機が出てきた時は、我々も損害はなるべく抑えたい……その時はそちら側も、お願いしますよ?』
「当然だ。今後、俺達と宇宙連合との確執は更に深まる。その為の戦力は今の内に整えねばならん。貴様達がしくじりそうな時は例のニューヘイブン社製のDDを全機投入させる。安心しろ」
『…………それでは、後程』
ヴェスヴィオは通信を切り別の通信を繋ぐと「――お前ら、準備をしておけ」と指示を出す。 彼の配下である16名のパイロットたちが各々『『――了解』』と返事をした。
「新造艦とはいえ護衛艦はたった3隻、FUNG共の物量と新型のバイネッケ16機が出れば造作もない」
「ヴェスヴィオ様、ドレークから通信です」
「あぁ? 一々奴らの事を報告するな。 気が散る」
チッ、イライラするぜぇ……お零れに群がるハイエナ共がMAREの幹部である俺やラビアータと対等かの様に接してきやがる。
俺たちが与えた情報ありきで何度か大きな手柄を持ち帰っただけで調子に乗りやがって――
「ヴェスヴィオ様」
「なんだ!? 何度も言わせるな! 奴らとの通信は――」
「FUNGより通達です」
「何? 仕事が早いな」
ヴェスヴィオは先程までの怒りが無かったかの様にニタリと笑う。
あのデブリの中、早々に獲物を見つけるとは……流石巨大組織の主力なだけはある。これで妙にCypherへ肩入れするラビアータも気を改めるだろう。
だが折角準備したバイネッケを出撃させずに終わるのはも勿体ない……
そうだ……!
ヴェスヴィオは更に深い笑みを浮かべ見上げる。
ククク……俺の艦の頭上で静観を決め込んでいる雑魚共をバイネッケで壊滅させてしまうのも一興――
やはり自分が前に出ると全てがうまく行く。 故にヴェスヴィオは思った。
ラビアータの言う万が一などありはしない。 寧ろ気に入らないCypherを消せるオマケ付きだ。 ここが戦艦ではなくいつもの幹部室であれば地球産の酒や煙草を手に、一人舞い踊っていたことだろう……と。
だが、部下からの声量のある報告が彼の愉悦を撃ち砕いた。
「これは……ヴェスヴィオ様! 罠です!」
「あ?」ヴェスヴィオは気の抜けた声を出し振返るも自分の妄想に耽っていた所為か反応が遅れる。
「――なんだと!?」
「緊急音声通信繋いでます!」
『――ヴェスヴィオ!どうなっている!? 輸送艦と護衛艦の1隻すら見当たらない! いくら探してもデブリ以外何もないぞ!』
「そんな……バカな……!」
今更改心したところで元の居場所などない程に奴等は情報を開示している……今更俺たちを罠に掛けて何のメリットがあると言うんだ?!
「この件はラビアータ経由の……情報は……確かな筈だ! 奴ら が噓の情報を渡してくる筈がない!」
『だが事実だ! クソッ! ハメられた! 全機一度この場から――』
FUNGのリーダー格である男の声が突然ノイズと共に消える。
ヴェスヴィオは一瞬沈黙した後、我に返りレーダーの横を思い切り殴る。
「なっ!? ふざけるな! さっさと状況を整理しろ!!」
どうにか自身が一刻も落ち着ける様にと、命令を怒鳴り散らかしレーダーへ向け腕を振り下す。
万が一などあって堪るか!
しかし、暴れながらもヴェスヴィオは内心分かっていた。
ノイズと共に消えた男の最後の言葉が全てだと……




