護衛と奇襲 Ⅳ´
グリーゼ警戒中域を越え、2隻の護衛艦が方向転換し離れていこうとする最中、違法改造されているであろう7機のDrive Dollが迫りくる。
今まで周囲を守ってくれていた他の護衛機は各母艦の方へ移動してしまっている為、参戦するのに後れを取っているが幸運にもアルキオネに着艦していた第51艦隊ライアン・キャンベル大佐とソフィア・フォン・シェーンベル中尉が出撃し接近する謎の敵部隊に迎撃を開始する。
それでも明らかに戦力不足の状況で何故かアルキオネに搭載されている機体を出撃させない事に疑問を抱いたクリスはパイロット待機室からアストへ問い詰める。
「敵がそこまで来てるんでしょ!? なんで私たちは待機なのよ――じゃなくて、待機なんですか!? しかも機体でもないこんな場所で!」
『それは俺たちがここで消耗する訳にはいかないからだ。
兎に角、新人3人は待機室のモニターから実戦ってのがどういうものかしっかり見ておけ。 ゼノビアさん3人を頼む』
「お任せください」
「ちょっと! せめて全員機体にだけでも――」
クリスが言い終える前にアストが通信を切断する。
「なによ! 私たちは足手纏いってこと?
隊長ですらここで待機だなんて……」
感情的になるクリスをゼノビアが宥める。
「うふふ。 クリスちゃん、アスト艦長は足手纏いだなんて思っていないわ。
それに特訓の成果を試したいのは分かるけれど観て学ぶことも、とっても大事よ」
「……?」
「今回護衛に就いて下さっている第51艦隊所属ライアン・キャンベル大佐は25年前の抗争、反宇宙連合組織が最も勢力をひろげつつあった時期に多大な戦果を上げ暁星銀徽章を叙勲されたトップエース」
「暁星銀徽章……対DD戦のトップエース……!」
「対DD戦において宇宙連合軍全体を見てもキャンベル大佐の右に出るものは片手で数える程しか居ないでしょう。
つまり今回のこの戦闘を観る事は実戦経験の無いあなたたちにとってこれ以上ない経験値になる。ということです」
ゼノビアは既にモニターを注視しているヴェルルに「ですよね?ヴェルルちゃん」とお姉さんスマイルで同意を求める。
ヴェルルは「はい」と返事をしつつも、その赤い瞳はモニターに映るライアン・キャンベルの駆るマイル・ゼロをしっかりと捉え、その動き一つ一つを追い続けた。
「……2対7。数では劣勢ですが、それでもこちらの戦力は過剰と言えるでしょう」
ゼノビアもモニターに映るマイル・ゼロの動きに魅入りそしてどこか嬉しそうに
「何故なら彼も宇宙の騎士と共に戦場を駆けた内の一人なのですから」
そう呟いた。
***
Drive Dollが人の形を成しているのには複雑な理由がある。
故に各軍産複合企業はそれに則り機体と各種ギア製造している。
だが、奴らにとってそんなことはどうでもいい。
背部や脚部から腕が生えていようが、腕部自体が巨大な銃になっていようが、本来1つしか接続できない武装ギアを複数取り付け機体がエラーを吐いても違法改造は数と力を埋める為の当然の処置。
『目標から2機出てきたぞ!』
『作戦通り足止めをする。 残りは戦艦へ突っ込め』
『――おい待て、バカが1人で突っ込んでくるぞ』
『こいつから先に殺っちまえ!』
元となった機体が何だったのかも分からない程に改造を施された異形の機体が先行するマイル・ゼロに向け発砲を開始する。
増設された腕全てにライフルを装備し反動を制御することなく装填されている実包が尽きるまで只管ばら撒く。
「そんなテキトウに撃った弾が、俺に当たるワケねぇだろうが!」
『なんだこいつ!?』
『――なっ!? 速えぇ!』
ライアンへ遠距離攻撃を仕掛ける2機の機影はどうにかその攻撃を直撃させようとその場に留まる。
静止状態で多少精度が上がれど、その機体は一切速度を緩めることなく弾幕を擦り抜ける様に真っ向から迫りくる。
異形の機体2機の旋回性能を振り切りマイル・ゼロはモニターから姿を消す。
『なんだあの動き! 当たんねぇ……!』
『くそッ どこに行きやがった!?』
「4本腕か、すげぇ弾幕だな。 けどよ、そうやって止まってちゃあ折角の違法改造も意味ないぜ」
刹那、マイル・ゼロが2機の間を駆け抜ける。
いつ抜刀したかも分からない二振りの光子刃が全ての腕と武装を切り落としていた。
「撃て、シェーンベルグ中尉」
『――ん』
命令を受けたソフィアは即座にトリガーを引く。
ゼヴサ アセンブルが両肩に担いだ新武装、光子小型銃砲が光子武装特有の発射までのタイムラグを発生させる事無く放たれる。
一瞬にして2本の光が容赦なく敵機の中心を貫く。
『まえのより つかいやすい』
ソフィアが受領した新機体、UseveH-M015 FM ゼヴサ アセンブルはメンフィス社製の最新鋭機だ。
他社のDrive Dollよりもマッシブな外観。それは以前まで追加装甲だった複合多重装甲を元に作られた新装甲の影響だ。
複合多重装甲を機体と一体化させることにより大幅に総重量を減らすことに成功し移動速度と機動性を向上させている。
しかし複合多重装甲特有の第3装甲だった巨大なマニュピレータの機構や装甲を展開し内部を露出する排熱機構は廃止された。
が、その分防御性能は強固になり新たな廃熱と冷却の機構と機能を搭載し、より光子武装へ対応できる機体となっている。
今まで乗っていた機体、イヴサ アセンド も同じくメンフィス社製だった為か非常に彼女の手には馴染みやすく、その操作性も相まって元々高い彼女の実力を更に底上げする。
「へぇ、その距離で2機同時にコックピットを撃ち抜くのか。 なかなかやるじゃねぇか」
『とまってるあいてになら だれでもできる』
相手は当初、発艦してくる機体数に応じて少数での足止めを想定し、残りの機体で戦艦を襲うという作戦で動いていたのであろう。
だが一瞬にして足止めを担当する2機が落とされたことで、その敵を討とうと迂回していた5機がライアンへ向かい始めた。
『奥のデカブツも脅威だが後回しだ! 全員であいつを潰すぞ!』
『よくもやってくれたなぁ?!』
『軍のイヌ共がぁ!』
「こいつらENIMみてぇに突っ込んできやがる。 久々の対DD戦なんだもう少し頭を使った戦い方をして欲しいもんだ」
『5たい1だけど だいじょうぶ?』
「全く問題は無いが少し鎌をかけたい。 中尉、敵戦艦へ威嚇射撃を頼む」
『――わかった。 れんけつ つばいもーど』
ゼヴサ アセンブルが両肩に担いでいた光子小型固定砲を前後で連結させ光子銃砲Ⅱとすると胸部から腹部に掛けて固定し真正面へ構える。
従来の光子銃砲に比べ収束効率が3倍以上あるⅡは一瞬にして高い収束値まで上昇していく。
光子収束率――89%
「しーるど まずるぶれーきばれる てんかい」
銃のマズルカバーがX状に展開し、その背後にDEFENSEギア 光子境界が展開される。
これは発射時の反動及び機体の後座距離の減少を目的するための射撃処置、体勢で正面から見るとまるで開いた傘を前に構えている様にも見える。
普段閉じられているバレル内部には廃熱と冷却機構によって圧縮されたガスが貯蓄され内部の銃身を再度冷却し、光子小型固定砲連結時は熱せられたガスが反動相殺のために展開されたバレルから噴出される仕組みになっている。
そして光子銃砲Ⅱから照射される膨大な光子とマズルブレーキから噴出される高熱のガスから自機を保護するために光子境界を展開する必要がある。
光子銃砲を使用する際、以前までは巨大なマニュピレーターで機体を固定するか、反動を相殺するだけのスラスターを吹かさなければならなかったが、これらを搭載したことにより場所を選ばずに使用できる他、発射後の武器自体の冷却を行わず戦闘を継続できる様になった。
光子収束率――99%
「――つばい はっしゃ」
高収束された光子は貫通力と速度、射程が伸び、極細のレーザービームとなり敵戦艦を掠めないギリギリの距離へ一直線に走った。




