護衛と奇襲 Ⅱ
――アルキオネ出航から1時間後――
北暦291年
ケプラー日時 1月7日 23:00
第2艦隊管轄グリーゼ防衛圏内 宇宙公道 第3コロニー建設宙域 方面
「アスト艦長。予定通りランデブーポイントにて第51艦隊の護衛艦2隻と合流。
前方にアテナ級 29番艦 アレイア(防護巡洋艦)。後方にヘルメス級 21番艦 ミュルティロス(通報艦)です」
「よし、相対速度合わせ。安定航行に入り次第オートパイロットへ切り替え」
「Copy――」
「前方のアレイアよりDD4機の発艦を確認。本艦の両舷への移動を開始しました。
編成はマイル・ゼロ。マイル・Xが2。もう一機は……照合データ更新中。新型機の様です」
マイル・ゼロ……隊長自ら護衛とは中々気前がいいじゃないか。
「マイル・ゼロ及び新型機より着艦要請有り」
「許可する。それとサラ副長、マイル・ゼロの方は簡易着艦システムだけで十分だ。アイツにそれ以上は必要ない」
「Copy――着艦の承認完了。
整備班、DD着艦に伴い退避願います。繰り返す。整備班、退避願います。
――第2、第4気密シャッター閉鎖。両舷ハッチ解放。
左舷、簡易着艦システムのみ起動します。
右舷カタパルト収容、ガイドライン照射。各 着陸装置 起動。着艦ポイント情報伝達――」
「それじゃ挨拶に行ってくる。メアリー、パイロット待機室で待っていると着艦した2人に伝えてくれ」
「了解しました!」
***
左舷ハッチが解放され、ガイドやサポート、それらを何一つ受けずにマイル・ゼロが卓越した動作で完璧に着艦をする。
その様子を一時退避室で見ていた整備班全員がその無駄の無い華麗な操縦に
「おぉ……!!」と唸り沸いた。
その中でもDrive Dollオタクのマイケル・ワッツは大興奮していた。
「凄い!マイル・ゼロですよ!!ビクトリア社製の傑作機!
今でもあの機体に乗り続けているなんて……!それに機体に負荷を掛けない優しい着艦……相当凄腕の方ですね!!」
驚喜するマイケルの様子を見た整備班の班長 ダナン特務大尉 は腕を組み、その機体をまるで触ったことがある様な口振りで説明をする。
「あれは第51艦隊のDD部隊 隊長、ライアン・キャンベル大佐のマイル・ゼロだ。相当使い込まれちゃいるが、隅々まで専用のカスタマイズが施してある実質専用機だ。左肩にはパーソナルマークの獅子を入れてある」
マイケルは左肩に視線を移す。右向きの獅子とその背景に暁星銀徽章のシルエットが描かれ、そして下には第51艦隊を示す51の数字が見える。
「本当だ……。エースパイロット、ライアン・キャンベル大佐のパーソナルマーク、 暁星の獅子!大佐の操縦を間近で見れたなんて……
それもこのアルキオネの艦内で!僕は幸運だ……」
「おいおい……流石に泣くなよ?」
右舷でも、ガイドラインに沿ってオートパイロット操作で難なく真新しい機体が着艦した。その機体は通常のDrive Dollより2回り程大きく見え、灰色の外装は複合多重装甲を彷彿させた。
「分かっていたけど、訓練と大差ないわね」
「わ、私にも同じ様にできるかなぁ……」
「……」
訓練以外での着艦経験がないクリスとルーナ、そしてヴェルルの3人は、その着艦の様子をパイロット専用待機室のモニター越しで見学していた。
右舷カタパルトから格納されハンガーへ機体が固定されると、3重構造コックピットのハッチが開き、中から小柄な少女が乗降装置を伝って無重力の中アルキオネのハンガーへ降り立つ。
「うわぁ……な、なんだか凄い機体だけど、パイロットの人は私達と変わらない位の女の子だね」
ルーナは大きく堅牢な機体に比べ出てきたパイロットが自分と同じ様な体格な事に驚き、そして少し安堵した。
そのパイロットがヘルメットを外す。
体形も然ることながらその容姿は士官学校を出たばかりの彼女達3人以上に幼く見える。
「ソフィア・フォン・シェーンベルグ中尉」とヴェルルが名前を呟くと「知ってるの?」とクリスが質問した。
「一度だけ会って握手した。元アルキオネのクルー」
「つまり、先輩ってワケね……強いの?」
「模擬戦ではマイケル・ワッツが相手をした。手も足も出なかった」
「へぇ……」
同期の中で最も射撃センスのあったアイツが当てられなかったってことか……あんなに可愛い見た目でも化け物みたいな腕前ってことね。
「――戦ってみたいかも」
「だ、ダメだよクリスちゃん……!せ、先輩相手に……!」
「嘘よ。ウ、ソ。言ってみただけじゃない。ルーナは心配性ね」
「だ、だって……」
「それじゃ私は護衛が到着したから、自分の用事をしに行くわ」
「え?用事って?」
「出撃までに課された訓練があるの。また後でねー」
そういえば出港ギリギリまでサクラメントで訓練させてるって艦長が言ってたっけ……。
それでもまだやることがあるんだ……。
「ヴェルルちゃんはクリスちゃんが何をしているのか知ってる?」
「知っている。クリスはストレ――」
ヴェルルが訓練の内容を話そうとしたその時、アストがパイロット待機室へ入ってきた。
「あれ?お前達、どうしたんだ?
出撃待機命令は出していないから、護衛に任せて自室で休んでてもいいんだぞ?」
「は、はい!ご、ごめんなさいです!」
ルーナは謝りながらヴェルルの腕を引き、慌ててその場から立ち去って行った。
「あ、いや。基本的には自由時間だからここに居ては駄目ってワケでもないんだが」
アストがそれを言い終える前に2人の姿は見えなくなっていた。
「えっと……なんかゴメンな」
パイロット待機室で一人寂しくポツリと謝るアストであった。




