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ヴェルル・デ=グロート Ⅱ´

 ヴェルルが宇宙連合軍から目を付けられずにいられたのは、裏である人物が動いていたからだ。

 確証も無く、憶測や推測の域を出ない。が、"この状況"を意図的に生み出せる人物がいる。

 


 宇宙連合軍 大将 エルキュール・シュバリエ

 

 

 以前フローレンスが名前を挙げていなかったら、辿り着きもしない人物だが、グリーゼにおける内部事情を隅々まで把握し動かせる人物はエルキュール提督以外ないだろう。


 事実、提督はグリーゼ南安全宙域防衛戦の際、訓練生のヴェルルの出撃を条件付きだったとはいえ、どういう理由(ワケ)か許可している。

 条件の内容も訓練生を出撃させるにしては何の関連性もない完全独立部隊の傘下になる様に促しただけ。


 どうして新設のこの部隊へ誘導したか、それは宇宙連合軍内の派閥や勢力に属していないこの完全独立部隊という名目が、ヴェルルの受け皿としてこれ以上都合のいい部隊が他にないからだ。

 

 そしてこの完全独立部隊はエルキュール提督がヴェルル・デ=グロートの新たな隠れ蓑として用意していた部隊だったとすると自然な流れに見える。


 春夏秋冬一花が独立部隊の指揮官となった経緯としては元上官であるガルシア司令官へエルキュール提督からヴェルルの為の部隊を設立したいという話が秘密裏に通っていたとすれば、彼女以上に適切かつ推薦する価値のある者はいないだろう。

 

 そんな感じで、ガルシア司令官は意味不明な新設部隊へ自分の手駒が引き抜かれると言うのに、旨そうに煙草を吸いながら異動の指示を出していた事にも理由がつく。

 

 俺がのうのうと第3艦隊で過ごしている間、お節介爺共は裏で面倒なことを隠して色々動いていたってワケだ。

 知らず知らずにこれらを隠している側へ身を置いてしまっているが、それが正しい側であると願うばかりだ……

 

 まぁ要は俺の上は元々承知の件って事で俺がヘタに動くと、余計に面倒になることは間違いない。

 

 となると気になるのはヴェルルがアルテミス事件の後どういう経緯でサクラメントへ(かくま)われたかだが。


「サクラメントのテストパイロットになる前は何処で過ごしていたんだ?」


「ここへ来る以前は"オルドアムス社"の"アルディーニ"様が私を研究し育てて下さりました」


 おいおい、とんでもない企業と名前が飛び出してきたな。

 

 オルドアムス社、北暦179年にDrive Doll(ドライヴドール)の基礎を設計、開発した超大手企業。そしてヴェルルの言うアルディーニ様とは、会長の"ジョゼフ・アルディーニ"のことだろう。

 

 そういえばフローレンスが|Drive Dummyドライヴダミーの開発中に、とある企業から最新の第9世代ENIM(エニム)生体データを譲り受けたと言っていたな……


 フローレンスという信頼できるフィルターを通して見ていたからか、あまり企業間の事を考えていなかったが、表立って何の成果も無いサクラメントがこの規模の施設と人材を揃えられている理由としてオルドアムス社がバックボーンに居るという理由なら色々辻褄が合う様に思える。

 

「母体から取り出された私は胎児のまま成長しなかったと聞いております。

 30年前アルディーニ様の研究によって専用の成長剤が完成し、この姿まで身体の発育に成功しました。15年前から成長剤の投与は中止され、15、6歳程度の身体で成長は止まっています」


 オルドアムス社のアルディーニ家は代々マッドサイエンティストの家系だって有名だ。ENIM(エニム)の成長、進化なんかを研究、実験したかったってところだろう。


 闇が深いなー。と腕を組み考える様な姿勢をとるとヴェルルが「気味が悪いと、思わないのですか?」と質問をしてきた。


 自分は人間の形をしたENIM(エニム)から生まれ、成長剤無しでは発育すらせず、特殊な能力を持っていた。それらは地球上の生物とは根本的に違う点であり気味悪がった研究者がオルドアムス社にはいたのかもしれない。


 ヴェルルから質問を投げかけられるとは思っていなかったアストは少し驚いたと同時に、少し嬉しかった。

 無表情な所為で感情が読み取り辛いが、その質問から少しだけ気持ちを読み取れた気がしたからだ。

 

 素性を明かしていいという指示があったとはいえ、表情には出なくとも不安を感じている。彼女の根元はENIM(エニム)だろうが、れっきとした一人の少女。

 

 当然、感情があるのだ。


「そんなことはない。ヴェルルのことを少しでも理解できて寧ろ嬉しいよ。気味が悪いのはヴェルルを取り巻いている得体の知れない組織や大人達の方だ。君個人に関しては一人のパイロットとして大いに期待しているし、その力に頼らせてもらう」


「…………」


 無表情のハズの彼女の瞳は少し見開いた様に見えた。


 返事がないし……少し驚いてる、のか?

 もしかして俺、変なことを言ったか?

 普通のことを言っただけのつもりだったが……


「えーっと。だから遠慮しないで俺のことも(すこぶ)る頼ってくれ」


 そう言いながらアストは無言の視線から逃げ、握っていた端末の時刻を見る。


 【17:12】


 もっと会話をしようと思っていたのにほぼ考察だけで30分以上が経過していた。


「おっとすまない、少し時間を取り過ぎた」

 

 なんだかヴェルルの件は掘れば掘るほど面倒な名前やら企業が出てきそうだ。

ここらで一旦切り上げよう。


「この話はまた後日。フローレンスと合流してクリスの訓練のサポートを頼む」


「――了解しました」



「あぁ、そうだ――忘れていた。我らが一花司令から有難い差し入れだ」


 アストはテストパイロット専用待機室の冷蔵庫からコスモコーラを取り出しヴェルルへ差し出す。


「ついでに後でスタッフ全員分が届くとフローレンスへ伝えておいてくれ」


 ヴェルルは差し出されたコスモコーラの缶を不思議そうに見詰めているが――


「……まさか飲んだことがないのか?」


 コクコクと頷くヴェルルの前でプシュっとコスモコーラを開け「ほい」と手渡す。


 手に取ったヴェルルはすぐに口を付けようとはせずに よし と言われるのを待つ犬の様な瞳でアストを見上げ指示を待った。

 

「ん?どうした?飲んでいいぞ」


 ヴェルルは小さな両手で包むように持ったその清涼飲料水を恐る恐る口へ運び、少しだけ含むと体を一度だけビクッと震わせた。そして飲み込むと明らかに瞬きが多くなり自分が飲んだ物が何なのかをジーッと観察する。 


 成分表を上から下まで速読すると目を輝かせ


「これは……凄い発明です」


 と呟くと余程美味しかったのかチビチビとコスモコーラを飲み始めた。


 そんな彼女の表情は無表情なのにも関わらず口角が上がっている様にアストには見えるのだった。

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