ヴェルル・デ=グロート Ⅱ
その眼……マジだな。
アストはヴェルルの瞳から異様な雰囲気を感じ取り、彼女の言った事が事実だと察すると、念の為。と上着の内側へ手を伸ばす。
相手はENIMだ。
何人もの同僚、仲間を奴らに殺されている。
さて……俺以外の軍人がヴェルルの正体を聞いた場合どんな反応、対応をするだろうか。
模範的な行動としては彼女を拘束、上へ報告し、指示を仰ぐ、そして行動するんだろうが……怒りに身を任せ彼女に暴力を振るったり、銃を向ける奴がいても軍人としては失格だが、致し方ない気もする。
「少し、確認させてくれ」
若い頃の俺なら後者だったかもしれない。
けれど今は色々と厄介を起こしたくはないし、何よりも変に目立ちたくない気持ちが勝つので前者でもない。(ただ面倒臭いだけ)
だから、面倒なことを知ってしまった時は――
胸元からおもむろに端末を取り出すと過去の宇宙連合軍の隊員名簿一覧へアクセスした。
慌てず騒がず、とりあえず調べるのが吉。俺の閲覧履歴は残るが仕方がない。
ラストネーム検索……グロート。
――――おぉ、本当にいた。
ヴェルル・デ・グロート中佐
旧姓 アインホルン
誕生日 北暦174年 11月4日
血液型 AB型
出身地 ケプラー1649番地
身長/体重 164cm/53kg
階級 中佐
没年 北暦201年 KIA
丁度90年前の戦死者……
アストは下に続く詳細に目を通す。
そこには彼女が残した数多くの功績とその詳細が並び、受勲した勲章の画像も貼られている。
凄いな……暁星銀徽章か。
その徽章に施された中央の明星は太陽にも見え、そこから下部を囲う月桂冠まで一筋の光芒が伸びている。そんな装飾の形状からこの徽章はモーニングスターとも呼ばれている。
暁星銀徽章は、戦闘において突出した戦績と勇敢さを示し、宇宙連合軍総司令部または地球連防委員会に認められた将兵にのみ授与される徽章で、その保有者一人の戦力は約3小隊分(9~12機)に匹敵する戦力であると言われ特にENIMとの戦闘の際は、ある程度の行動の自由と権限を有する。
なので艦隊の中に1人でも受章者がいるかいないかでその艦隊の格が大きく変わってくる程の影響力がある。
俺の知っている中では同期のライアン・キャンベルがこれを受章している。
それ以外で言えば超精鋭部隊の第7艦隊にはその受章者のみで構成されている とんでも部隊があるとかないとか。
ヴェルル・デ・グロートは北暦174年生まれ、つまり晩年は26、27歳になる。
その若さで暁星銀徽章として認められたトップエリートであり、そしてトップエースでもあったということ。
アストは更に情報を下へスクロールする。
アルテミス事件に……関与。殉職に伴い大尉から二階級特進――
※アルテミス事件
北暦201年ENIMとの交戦中に乱入した反宇宙連合組織により乗っ取られたアルテミスを敵艦と断定し止む無く撃沈させた事件――
あの事件に関わりのある人物……
ENIM及び反宇宙連合組織との戦闘後、パイロットの遺体、及び搭乗していたDrive Dollが発見できず。 か……
よって死因は……不明。
北暦201~274年まで行方不明者と記載 生後から100年が経過した為、システムにより北暦275年から自動的に戦死者と記載を変更、更新しています。
これ以上特に記載は無し。
擬態するENIM等の経緯が本来記載されていなければならないタイミングとしては、このアルテミス事件で間違い無いハズだが……
北暦の中でも悲劇としてかなり有名な事件というのもあって、まさか情報操作されてるとは微塵も思ってなかった。
アストは隊員名簿一覧のページを閉じ、いくつか思い当たるアルテミス事件に関連しそうなワードを調べようとしたが、手を止めた。
こんな表面的な情報を幾ら調べたところで意味はないか。
お偉方の計画やら野望やらが絡み合った過去は俺が思っているよりも遥かに複雑で根が深いだろう。
アストはどうしたものかと天井を見上げ、少し悩んだ。
決して軽い気持ちで聞いたわけではなかったが、俺だけで抱え込める話だろう。と高を括っていた。
とりあえず一花へ報告かな。
まとめると
彼女は前例の無い意思疎通のできる人型のENIMで?
どうやってかグリーゼの士官学校へ入校。
厳しい様々な検査、訓練、試験、審査を難なく突破し、卒業。
普通は血液検査とかで何か引っかかるだろ……
そんな、いつENIMと気付かれても可笑しくない状況が2年もあったのにグリーゼの士官学校を管理していた奴らは何故かスルーして?
晴れて宇宙連合軍に認められ、今は宇宙連合軍 少尉だ。
簡潔で素晴らしい報告だな(愚痴)
何故フローレンスは俺になら素性を明かしていいなんて指示をしていたんだ?
この部隊が完全独立部隊っていう特殊な部隊だったから良かったものの、もし別の部隊、艦隊へヴェルルが配属されていたら――――あ。
「そうか……」
突然アストはある事に気づきそう呟くと、そこから自身の憶測や推測が綺麗に繋がり小さく笑う。
その様子をヴェルルは小さく首を傾げ不思議そうに見詰めていた。




