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深紅と白銀 Ⅶ

ヴェルルのブラックブロッサムは無防備な相手の背に小型小銃を向け、悠々と何度かトリガーを引いた。


 背後を取られ敵を見失ったクリスは「後ろを取った位で!」と反射的に機体を捻りながら急制動し、 何とか直撃だけは回避しようと足掻くも弾丸は左肩を掠め、左腰部のASSAULT(アサルト)ギアに着弾する。


 モニターに被弾箇所を知らせる文字と赤いランプが点灯する。


 「――左!!」クリスは被弾個所から一瞬で相手の位置を割り出すと、その必死さからか意図せず小型小銃を抜き、予測した位置へ素早く構え反撃する。


 その超絶的な反応からトリガーを引くまでの動きは、それこそエースの様な操縦ではあったが取って付けた様な小手先での射撃は当然、当たりはしない。


 しかし頑なに使用していなかった小型小銃を取り出し構えたことで、その挙動がヴェルルには牽制となり、互いが息を付ける程度の距離と時間が生まれ、両機は互いに静止し相手の動きをうかがいながら向かい合った。


「はぁ……はぁ。まさか、あんな技……するなんて」


 余裕の無かったクリスは今更になって逆様になり背後を取ってきたヴェルルの曲芸とも言える操縦に驚く。

 

 そしてメインモニターの正面に映る先程まで接戦していた筈の相手機にどうしてか距離を感じる。それは物理的な距離かそれとも実力か――


 そんなヴェルルのブラックブロッサムは淡々と小型小銃をリロードし右手で構え、左手に実体剣をしっかりと持ち直す。この近、中距離の間、曖昧な距離感に対しどちらにも対応できる態勢だ。


 ヴェルルが使い熟す小型小銃と自分が反射的に使用した同じ武器を見比べる。


 私も、あんな風に戦えたら……今の私にはこのレベルの高速戦闘の中で、器用に射撃を混ぜながら操縦する技量は無い。

 

 訓練生時代、血の滲む特訓の日々で手に入れたのは泥臭い近接戦闘に特化したこの戦闘スタイルのみ。

 ヴェルルの様なあの戦い方を今直ぐに真似したところで、同等に撃ち合える程の自信は無い。


 

 どん底から這い上がってきた あの日々を忘れるな……自分が積み上げてきたものを信じろ。

 


 心の中でそう唱え、乱れた呼吸を整えると小型小銃をそっと無重力空間へ手放す。そして左腰部のASSAULT(アサルト)ギアに格納されたもう一振りの実体剣を逆手で掴む。



 そして常に今の自分の全力で――戦え!!


 

 勢いよく引き抜き、二振りの実体剣を構える。



 数秒睨み合ったブラックブロッサムは同時に動き出した。


 クリスは全身全霊、最大加速で真っ直ぐ突っ込む。


 対してヴェルルは正面から接近してくる白銀の粒子を纏うブラックブロッサムへ牽制射撃をする。

 

 だが、それは意味を成さない。クリスの機体は左手の実体剣を盾に加速を続け、逸れることなく迫り来る。


 ヴェルルも射撃を続けながら、自身も前進し実体剣を正面へ構え、迎え撃つ。


 最大稼働状態のブラックブロッサムはフォトンストリームエンジンによる爆発的な加速力と先程被弾した影響からか接続部からバチリと電流が走り、一瞬にしてASSAULT(アサルト)ギアがオーバーフローするとコックピットへそれらの異常を知らせた。


 クリスはASSAULT(アサルト)ギアをパージし置き去りにしながら直進を続け、盾にしていた実体剣を振る。


 ヴェルルはそれを躱しながら、自身も実体剣を振るう。


 クリスは右手の実体剣で防ぎ、両機は押し合った。


 ASSAULT(アサルト)ギア分の重量と推進力で勝るヴェルルが押し込む。



 押し負けることは百も承知!――喰らいなさい!



 押されることでのけ反った姿勢を活かし、鍔迫り合ったままヴェルルのブラックブロッサムを持ち上げる様に上方向へ振り解くと、そこへ先程パージしたクリスのASSAULT(アサルト)ギアが慣性で移動を続けていた事で勢いよくヴェルルのブラックブロッサムと衝突した。


 ASSAULT(アサルト)ギア同士が押しつぶれ(ひしゃ)げる。そんな荒業に流石のヴェルルも驚き、小さく呟く。


「これは予想外……」

 

 ヴェルルは即座に押し潰れたASSAULT(アサルト)ギアを惜しみなく切り離した。


 



 その後もASSAULT(アサルト)ギアを失った両機は、何度もぶつかり、防ぎ、躱すを繰り返す。


 その攻防は観戦しているアストにはアーシアとクリスが戦っている様に見えた。

 

 ヴェルルの操縦が機械的で無駄の無い操作から一転、あの日(模擬戦)のアーシアの動きのイメージと綺麗に重なる。

 

 まさか他人の戦闘データから操作を真似するシステムがあるとか?いや、そんな無駄なシステム、フローレンスは積まないだろうし開発自体しないだろう……


 現にASSAULT(アサルト)ギア同士が衝突したあの場面、アーシアの戦闘データが積んであるとして本気のアーシアの動きであれば簡単に回避していたであろう。


 つまり、あれは模擬戦時のある程度手を抜いて戦っていたアーシアをヴェルルが見様見真似でほぼ完璧に再現している超絶技巧だろう――

 と、何となく解釈してみるが……それにしても本当に操縦者が突然入れ替わった様だ。


 そんな錯覚、感覚を対面しているクリスは誰よりも感じているだろう。


 アーシア特有の多彩で緩急のある動作は確実に相手の隙を生み出し、そこを突く。


 そんな攻撃にクリスは直ぐには対応できていない様子だが……粘り強く二振りの実体剣で応戦する。


 あの時のアーシアと同様にヴェルルは相手の隙をついて小型小銃の銃口を何度も向けようとするが、徐々にその速度を最大稼働のブラックブロッサムとクリスの成長速度が上回り始める。


 その様子はまるでクリスが「私に隙なんてない!」と声高に訴えている様だ。


 あの日の模擬戦でアーシアとクリスが実際に戦っていたとしたら、今回の様にアーシアの動きに食らい付いていけていただろうか……?


 

 いや、アーシアが一蹴して終わっていただろう。

 

 

 あの日、結果的にマッカートニーが彼女の枠を奪ってくれていて良かった。

 お陰でクリスはこの模擬戦を経て大きく成長できる。

 


 互いに感情をぶつけ合う様な接近戦は土壇場にも拘らず最も激しく白熱した攻防を繰り広げ続ける。


 そんな中、クリスが再びヴェルルの持つ実体剣を弾き飛ばした。


 疑似的にとは言え、クリスはあの日のアーシアに(まさ)った瞬間だった。


 右手に持つ実体剣が相手の実体剣を弾き飛ばした後、逆手で握った左手の実体剣をガラ空きの胸部のややコックピットへ目掛け振り切る。



 その一振りは勝敗を決定付けたと言っていい、急所を完全に捉えた一振りだった。




 ――――しかし、その刃は空を切った。




 Time Left ――0’00”00


 


 アラームが鳴り響き制限時間の終わりを告げる。そして気付くと無防備なクリスのコックピットへ銃口が突き付けられていた。


 切り付けられる直前、ヴェルルの駆るブラックブロッサムもクリスの機体同様、白銀の粒子を纏い最大稼働状態へと至っていた。

 

 クリスが実力差を埋められていた最大稼働状態というアドバンテージは、ヴェルルもその状態に至った瞬間に無いものとなり、ヴェルルは単に攻撃を躱し、タイミング的には試合終了のアラームが鳴ったのとほぼ同時かそれより少し遅れて銃口を突き付けていた。


 

 15分間戦い続けた2人の決着は付かなかった。しかし引き分けと言うには余りにもかけ離れた実力と結果がそこにはあった。



 激闘を繰り広げた2機は最後の姿勢を保ったまま無重力空間を漂う。


 

「…………負けた」


 感傷に浸る間も無く、演習場の通信室から通信が入る。


『お疲れさまでした。模擬戦を終了します。クリスティアナ・ジゼル・タチバナ機、格納庫への移動を願います』


「……了解」




 2機の格納が完了した後、サクラメント・エレクトロニクス 専用軍事演習場ではブラックブロッサムの開発に携わった数名の技術者達による詳細な性能の説明が機体映像と共に行われ、約1時間半程で全てのプログラムが終了した。

ご無沙汰しております!


月を跨いでの投稿になってしまいました……


皆様は新生活、新学期はどのようにお過ごしでしょうか?


私は、ようやく多忙だった4月を乗り越え多少時間ができたと思った矢先、GWという新たな敵と交戦しております。(普通は味方だろ!)


私の仕事は大型連休前などが特に忙しく、今年のGWは半分に分かれているお陰で例年以上に忙しいです……(;´д`)トホホ


そして連休明けも有難いことに忙しくなります(ふざけんな!)


3月前から書いていたこのヴェルルvsクリスなんですが、書き始めたときはノリノリで頭に浮かんだ戦闘シーンを書き殴り気付いた時には大体17000文字ほど書いていました。


ですが、仕事の疲れの所為なのか制作意欲が著しく低下すると、折角書いた戦闘シーンがどうしてかダサく感じてしまったんですよね。自分でカッコいいと思いながら書いていたのに不思議……


そこから削りに削って今回の話にまとまりました。


テンション下がりまくった状態で編集してしまっているので変な文章になっていたら申し訳ありません(;´Д`)

もしかしたら加筆修正などを行うかもです


先の話も少しずつですが書き溜まってはいます。が、ひたすら調整中という感じです。


スムーズな投稿ペースに戻れる日はまだまだ先になると思いますがご容赦くださいませ。でわでわ(^^)//

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