戦い、傷つき、立ち上がる
団長二人の奥、あの上空にいたはずの人影が揺らいでいる。
目を逸らしたところで、エーミーがクスクスと笑っていた。
兄貴のほうも攻撃してくる様子がなくて、腕を組んでどっしりと立っている。
こいつら、まさか――
「ギュリオンの魔術に気づいたのはさすがねぇ。これだけで全滅を狙えると思ったのにねぇ」
「だから言っただろう、エーミー。敵を侮るな」
「そうは言っても兄さん、まともに戦ったらすぐ終わっちゃうわよ? せっかくの遠征なんだし、少しは楽しみたいわ」
「やれやれ……まったく」
やっぱりまたしても舐められている。
こうしている間も人影はオレの視界に入り込もうとしていた。目を逸らすたびに視界の端、真ん中とせわしなく現れる。
まともに視界を確保できない中、こいつらを相手にしなきゃいけないのか?
あの人影ことギュリオンに至っては魔術の正体すらわからない。こんな時、ソアなら見抜いていたんだろうか。
「……ぐっ」
近くで警備隊の一人が鈍い声を上げて倒れた。
血も出ていない。目立った外傷もない。ただ武器を手放して倒れている。
オレ達の動揺を見抜いていたかのように、エーミーはより楽しそうに笑った。
「一本、消えそうね?」
「一本だと?」
「上のロウソクよ」
「あのロウソク、まさか……」
確認したいが、こいつらに隙を与えるわけにはいかない。
あの上空にある大量のロウソクはもしかして、オレ達と何か関係があるのか? 火が消えたら倒れる?
待て、そんな無敵の魔術ならとっくにすべての火を消しているはずだ。つまり火が消えるには何か条件がある。
「う……」
「ぐぁッ……」
一人、二人と倒れる。
こうなるとさすがに他の仲間にも影響が出てきた。
不可解な現象に怖気づいた仲間達が敵に隙を見せてしまう。
敵の猛攻で一気に押され始めて、雲行きが怪しくなってきた。
「防衛ラインを維持しろッ! 我々の背後にはたくさんの命がある!」
「諸君がもっとも大切にしている命もあるだろう!」
騎士隊の隊長や警備隊の隊長が檄を飛ばして、何とか士気を保っている。
オレ達も迷ってる暇はない。刀身に炎を纏わせると同時に一気に斬り込んだ。対象はドドルマンだ。
「雷属性中位魔術!」
「氷属性中位魔術ッ!」
サリアの雷属性中位魔術があの二人を逃がさず、更にハリベルの氷属性中位魔術で場を支配した。
いきなり高威力の魔術を放たずに様子見しつつ牽制。それでいて、氷の壁だらけになった場だけどオレ達なら慣れている。
いきなり動きを制限された二人に雷魔術が直撃。更にブレイズエッジをドドルマンの頭上に振り下ろす。
「ド・ドォルッ! 二万ッ!」
ドドルマンの頭上からブレイズエッジが動かなくなる。
恐ろしく固く、そして燃えない。
「二万で足りたか」
「あらぁ、兄さん。二万も使っちゃったわけぇ?」
「なかなか手痛い」
エーミーのほうも体が液体に変化して、雷の直撃を凌いでいた。ただの水じゃないな。
わかっちゃいたが化け物だ。まずまともにダメージを与えるところから始めなきゃいけないのか。
「思ったよりやるわねぇ。団長クラスじゃなければ成す術もなく死んでたわ」
「エーミー、オレ達も魔術真解を見せるか?」
「その必要はないでしょ。何の為の戦力よ」
「そうだ、今回は様子見だったな」
エーミーとドドルマンがちらりと後方を見ると、新たな軍勢がやってくる。
またしてもオレの動揺を見抜いたエーミーが赤い唇を舐めて嘲笑のポーズを取った。
「ボウヤ、あれを退けてもまだまだいるのよ」
「やり切ってみせるさ」
「私達の他に魔術師団最強のレキ団長も控えている。それ以前に疲弊して終わりだけど……クスクス」
遠くにいる聖騎士団も新たな軍勢に手を取られている。
こいつら、オレ達を消耗させる気か。ジワジワといたぶって、楽しんでやがる。
「さ、撤退しましょう」
「そうだな」
エーミーの体がどろりと溶けて地面に浸透して、ドドルマンが猛烈な勢いで跳んでいく。
入れ替わるように新しい敵の大軍が押し寄せてくる。
一人当たり十、いや二十か。ギリギリだな。負傷者も出始めただけじゃなく、相変わらず相次いで倒れる味方。
少しだけ上空を見上げると、いくつものロウソクの火が消えていた。
* * *
私が到着した時には敵側の死体だらけだった。
一見すると優勢な戦いかもしれないけど、こっちの負傷者はかなり多い。
そればかりか、外傷がないのに昏睡状態に陥っている人達もいる。
話を聞くと第一波は凌いだみたいで、今は見張りと交代して体を休めていた。
「キキリ、無事だったか」
「すみませぇん! こんな、こーんな大変な時にぃ!」
「大変なのはお互い様だ。今更、責めるわけないだろ」
「ふぁぁい……」
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにするほどだ。
ここもキキリちゃんにも、いろいろな事がありすぎた。
デュークさんもサリアさんもハリベルさんも。強く見せようとしているけど、心が疲弊している。
宿の一室にて、沈黙が続いた。
「……ソア、あのさ。その、何とかしてくれないか?」
「はい。そのつもりです」
デュークさんが私を頼ってきた。
サリアさんとハリベルさんも言葉こそ口にしないけど、目で私に訴えかけている。
お前に戦ってほしい。救ってほしい。察してほしい。
察して助けてあげたかった。だけど以前から懸念していた事が起こっている。
トリニティハートやキキリちゃんだけじゃない。戦っている皆の心が折れかけていた。
私が助けてあげたら皆は助かる。戦わなくてもいい。
だけどそれじゃ本当の意味で皆を救った事にはならない。真の意味で笑顔にするには根本から変えないといけなかった。
「皆さん。あの上空にある蝋燭は皆さんの心が弱ると消えます。そして意識を失い、静かに死に向かいます」
「何だって! それじゃ今すぐあれを」
「今は私の魔術で遮断していますのでご安心を」
「そうか、じゃあ次に魔術師を」
「デュークさん」
デュークさんだけじゃなく、全員が怯む。
国の防衛は私一人じゃ手に負えないから、皆を鍛えた。そして、それだけじゃない。
「皆さん、戦いましょう」
「……そうしたいけどさ。なんかもう」
「ソアビンタ!」
「ぐはぁッ!」
思ったより強すぎてデュークさんが宿の壁に激突した。
「いってぇよ! 何するんだ!」
「すみません」
「マジでいてぇ……首がぶっ飛ぶかと思った……」
「本当にすみません」
何を言ってるのかわかってもらえてない様子だ。
ここが正念場だと思う。この国を守る為に戦う人達がどうあるべきか。どう強くなればいいのか。
「この時代を生き抜く戦いをしましょう」
私も覚悟を決めなきゃいけない。
ビンタする必要はなかったと思うけど、これはこれで目を覚ましてもらえたと思う。
もうすぐ二章が終わりかもしれません
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