強者と強者
「来たか」
隣国からカドイナを繋ぐ大街道、かつては往来が盛んだった。
今や物騒な連中が我が国の国土を踏み、汚そうとしている。隣国の兵隊が見えてくるにつれて、その異様な光景が露わとなった。
何かに飢えているかのように興奮しきった面々、そんな人間達の中に魔族が何匹か紛れている。
ざっと見て二千は超えるか。それなりに頭数を揃えたようだ。
「レーバイン騎士団長、想定よりも魔族の数が多いです」
「私の前ではゼロに等しい」
かつて魔王軍の部隊を一人で屠ったのは誰だと思っている。
英雄、怪物、欲しいがままにしてきた私だ。
これは自惚れではない。確固たる誇りである。成し遂げたのであれば誇ればいい。
謙遜は成してなどいない証拠だ。己を誇れない者は今を全うできておらぬ愚か者でしかない。
「下がっていろ」
迫った大部隊が何の問答すらなく挑んできた。
先頭集団から、あらゆる魔術が放たれる。炎、雷、岩、果てには暴風。
魔術師団のそれは、聖女ソアリス様なき我が国の宮廷魔術師隊を上回るだろう。
が、この程度であればむしろ怒りが沸く。
「そんなもので我が国を攻めるかッ!」
大剣の一振りで先陣を切った烏合の衆を両断。更に真空と化した余波は後続をも仕留める。
すべての魔術を消し去り、尚も止まらない。
盾や魔術で防御を試みた者も末路は変わらない。
真っ二つになった死体群は、後方の者達に激突する。
かろうじて余波が届かなかった者達も、体勢を崩す。
「馬鹿な……」
敵兵の一人が血まみれになりながら呟き、そして倒れる。
陣形や作戦を練りに練ったのかもしれない。特異な力を持った魔族で我らを追い詰める算段があったかもしれない。
私の一振りが大部隊の前衛を大きく削り取り、大街道に死体の絨毯が出来上がった。
「あ、あ、レー、バイン……」
かろうじて生き残った者の一人が、大出血と共にそんなセリフを吐くのが精一杯だった。
人間、魔族が入り乱れた死体の数々。後方で唖然とする大部隊。
下らん。これが何だというのだ。何の脅威か。王国にとって、これが脅威か? 今の王国はその程度か?
次の一振りで大部隊は半壊を免れないだろう。つまらん。下らん。実に下らん。
「大したものだ」
体が硬直した。
次に去来するのは最大限の警戒心だ。
そいつがゆっくりと歩を進めてくる。
「本命かッ!」
なぜ私が叫ばねばならん。
本命だ。叫ぶまでもない。呼吸が乱れつつある。
「その言葉が『一番強い者か』という意味であれば、その通りだ」
全身に漆黒を塗りたくった魔族。
全身鎧と一体化したかのような体躯に黒光りする角。
目を逸らすな。そいつを見極めろ。
こいつは魔族で、姿形は牛に酷似している。
バフォロット? ミノタウロス? 馬鹿か。そんなものとは生物としての次元が違う。
下がるな、目を逸らすな。まだ対峙しただけだ。
「しかし、この部隊を指揮しているのはレキ団長だ。俺は……まぁ、退屈だったものでな」
「隣国の元凶か!」
「元凶? はて……」
「奴らを……隣国を変えたのは貴様だ! 間違いない!」
「知りたいか? ならば、どうしなければいけない?」
なぜ私が歯の根を合わせなければいかん。
なぜ私から好奇を示さねばいかん。
何より、なぜ挑まん。
「レ、レーバイン、騎士団長……」
「逃げろッ!」
後方の部下が倒れる音がした。
目の前にいたそいつはいない。振り向け、レーバイン。
「少しはレキ団長に花を持たせなければな。俺が困るのだ」
「うおぉぉぉぉッ!」
胴体がくりぬかれた様にして倒れた部下。
角から血が滴らせた魔族に私は挑んだ。私の一振りをそいつが受ける。何の防御姿勢もなく胴体で。
「……いい一撃だ」
「ハァー! ハァー! ぬおぉぉ……」
「いい闘志だ。素晴らしい」
大剣の刃がわずかに刺さるが、そいつは平然と立っている。
なんだ、こいつは。なんだ、この魔族。
魔王軍にもこんな奴はいなかった。
「嘆く必要はない。素質は十分、時代がよくない」
「何を……!」
「戦わずして得られる。生きられる。戦いを強要されない時代だからだ。お前はそんな楽園で育ってしまった。まったく不幸だよ、これは……」
「私が楽園育ちだとッ!」
「お前ほどの強者とて、時代に甘やかされてしまえばそうなる。酷ければ英雄などと持ち上げられて甘やかされる」
「……ッ?!」
英雄レーバインは何をしている。
英雄ならば、目の前の魔族を討伐しろ。なぜ出来ない。
「おおぉぉぉッ!」
斬撃に次ぐ斬撃。
肉塊どころか塵も残すな。
「惚れ惚れする力だ。まさか俺に傷をつけられる者と出会えるとはな」
かすり傷を増やすだけか?
レーバイン、もっと振り絞れ!
こいつをこの世から存在という概念ごと消し飛ばせ!
「父上ッ!」
「アルベール! 逃げろッ!」
謹慎処分だというのになぜ出てきた!
お前が剣を構えたところで丸腰と変わらん!
「命令だ! 逃げろ!」
「近親者か」
「このッ!」
脳天に刃が直撃したものの止まる。
魔王軍との戦いの時から付き合っていた大剣の刃こぼれなど。
「あれも活きがいい。お前の近親者であれば尚更だ」
「私は聖騎士レーバイン! 我が剣よ! ここで成す!」
「我が名は……」
その名を聞いて戦慄、などしない。
私が知る限り、いや。誰もが知る限り、最強の相手だからだ。私が持つ情報との齟齬など、この際どうでもいい。
むしろ相まみえた事を幸運と思わねば。
「ここで昂るか! 来てみた甲斐があった! お前もまた理解したようだな……この世の本質を!」
私も待っていた。死の危険を感じさせるような相手を。遥か頂の相手を。
そう、これこそが我々人間の本質。やはり守られるべきではなかったのだ。
聖女ソアリス様、あなたは守るべきではなかった。
ハハハハハッ! なぜ守った! ハハハッ! ハハハハハハッ!
超強いの出てきました
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