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聖女、隣国の部隊に立ち向かう

「……来ましたね」

「あの兵士の言った通りだな」


 先日、ルッセルンを襲ったのは捕虜が喋った通りの先遣部隊だった。

 ルッセルンの東の湿地帯を浮遊して越えてくる一団がいる。

 その数、数百人規模。半数が魔術師で大半が魔力値1000以上。

 これだけでも異常な数値だ。何せ冒険者換算で二級以上が大量にいるわけで。

 残りは非魔術師だけど、浮いてる。すこぶる浮いてる。

 まもなく衝突すると思われる湿地帯の端で私は待ち構えていた。


「魔族はというと……いました」

「なんだ、あのふざけた魔族は」


 ひょうきんそうな人型の兎が空中で回りながら、ふわふわと漂っている。

 その周囲にいるのは人間達だ。泳ぐようにして、湿地帯の上を進んでくる。


「ラヴィトン様! 女がいます!」


 私の存在に気づいた先頭の兵士が大声を上げた。

 浮きながら武器を構えて、妙ちくりんだ。だけどあんなのが攻めてきたら、ルッセルンは一瞬で壊滅する。

 大部隊というのはコレかな。いや、どうも怪しい。


「女がいたとして君達はどぉしたいんだぁい?」

「殺します!」

「潰します!」

「奪います!」

「嫁にします!」

「だったらぁさぁ、そうすりゃいいじゃあん?」


 イライラするような口調で、兎の魔族は空中をくるくると回る。

 あの様子からして、兵隊はまともじゃない。特に嫁にするとか言ってたのは本当に手遅れだ。


「あのお方はさぁ、欲しけりゃ戦って勝ち取れって言ってんじゃあん? ま、僕は命令されたからテキトーに力を貸すだけだよぉん」

「そこまでです。ここは通行止めです」

「ほぇぇ?」


 浮いてる数百人部隊が近くに迫ると、改めて妙な光景だった。

 浮いてるだけじゃない。どこか気持ちよさそうに空中遊泳を楽しんでいる節すらある。


「ソアよ、あの魔族はどの程度だ?」

「今のあなたより遥かに強いですね」

「意外と傷つくから言わんでいい」

「そんな繊細な。まぁ、そうですね……」


名前 :ラヴィトン

攻撃力:1,343

防御力:1,790

速さ :6,881

魔力 :20,429

スキル:『浮遊』   地上からの攻撃を回避しやすくなる

    『空中旋回』 地上からの攻撃を回避する

    『空中遊戯』 飛行中の味方を大幅強化する


「といった感じですね。あの兵隊の浮遊も、突出した魔力によるものでしょう」

「厄介どころではないな。あれほどの魔族が今までどこにいたのだ?」


 その時、ズシンと体が湿地に吸い寄せられた。

 あの兎の魔術かな。たぶん重力を操ったんだと思う。敵を地面に固定させつつ、空中旋回のスキルで無敵か。

 しかもこの足場、どんどん沈む。


「あっらぁぁ? あの重力で立ってるってぇぇ?」

「え? まさか沈めるつもりだったんですか?」

「ウッソでしょぉ?」


 まぁ二万程度じゃしょうがないか。さて、長引かせる気なんてない。


「本物の重力操作というのはこうやるんですよ。地属性超高位魔術(ジバインド)

「んぎぃッ?!」


 兎と兵隊が空中から一斉に湿地帯に叩き落された。

 ズブズブと体が飲み込まれる恐怖を味わった兵隊が叫び狂う。


「で、出られない!」

「ラヴィトン様! どうかお助けを!」


 風属性低位魔術(ホバリング)で湿地帯の上を悠々と歩く私の足元で、兵隊が阿鼻叫喚だった。

 体が半分近く埋まっているラヴィトンの前でしゃがむ。


「レキ団長が率いる大部隊の情報を教えて下さい」

「知らない! 僕、ホントになーにも知らないったらぁぁ!」

「王に口止めされているんですか?」

「お、王! 王は素敵ぃぃ! いかしたたてがみがぁぁ!」


 頭だけ残したラヴィトンが半狂乱で叫ぶ。

 埋まりかけた兵隊の呻き声がそこら中から聴こえる中、この魔族は話にならないと判断した。

 炎属性高位魔術(ブレイズ)で頭を焼き飛ばした後、兵隊の始末を考える。


「あひぃ……沈むのかぁ?」

「戦いをさせろぉ」


 まともなのがいない。全員がこんな状況なのに、どこか気持ちよさそうだ。

 あのラヴィトンに浮かされていた時からすでにおかしかったけど。

 思えばルッセルンに攻めてきた先遣部隊の生き残りはわずかだった。皆、きっちり仕事を果たしたんだ。


「グレースやルイワードと違って、もしかしたら引き返せる人達かもしれない」

「ソア、選択をしろ」

「人につらい役目を押し付けてるんだから、私も選択しないとね」


 騎士団はまだしも、トリニティハートの人達に押し付けるものじゃない。

 人を鍛えて戦力に、なんて考えていたけど敵が人間なのは想定してなかった。マオの言う通り、私も決断すべきだ。


「大丈夫だ、今頃レキ団長が、まずはカドイナを! アハハハハ!」


 敵兵全員が勢いよく湿地帯に沈んだ。最後に重要な情報を得られたのは覚悟を決めた私へのご褒美なのか。

 でも同時に思い違いが発覚したかもしれない。


「これが大部隊じゃないとしたら……」


 カドイナに向かうしかない。

 あの街に今以上の部隊を相手にできるような戦力なんかなかった。

 国境付近という事で総当たりに戦力を派遣したけど、一点集中されるのはまずい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 絵本、いらすとやみたいなウサギが浮かんでるだけならかわいいのに
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