デイビット、酔いしれる
「デイビット様、よかったですわぁ」
「フフフ……。君は最高だよ、リデア」
深夜、僕の寝室にてリデアをかわいがっていた。
フォンデスタント家の次女リデア。彼女もまた天才だ。
姉より遅れて11歳で魔術学院に入学後、わずか2年でトップの成績を収めて卒業。
卒業後はすぐに宮廷魔術師の席が用意されており、出世コースのあらゆる段階をすっ飛ばした。
それからまもなく姉であるソアリスを陥れたのだから恐ろしい女だ。
「リデア。こんな世界だからこそ、君のような女性が輝くべきだ」
「ウフフ……嬉しいお言葉ですが、デイビット様。どんなに美しい花や宝石もそれ単体では寂しくありませんこと?」
「どういう意味だい?」
「美しい花や宝石が引き立たせるのはいつだって素敵な男性という事ですわ」
愛おしくなり、彼女の髪を撫でる。
愚民どもはソアリスばかりを持て囃すが、僕はリデアを評価していた。
彼女とて、14歳で宮廷魔術師に就任した怪物だ。
しかし姉のソアリスのせいで、いつも二番手のイメージがつきまとっていた。
あの女のせいで、リデアは不憫な思いをしていたのだ。
「僕をそう評価できるのは君だけだよ。父上も母上も兄上も、皆が僕を評価しない。
乗馬、学問、剣術、魔術……。すべてにおいて僕も二番手……いや、三番手扱いされたんだ」
「心中、お察ししますわ。正しい評価とは何なのか、彼らはわかっておりませんの」
「ソアリスのような生意気な女もプライドばかりが先行して、僕を見下す。だからプロポーズさえ断ったんだ」
「デイビット様、そのソアリスは無様に封印されましたわ。わたくしの手によって……」
「そうだね。君は結果を出した」
王族との結婚の話を断るなど、許されるものではない。
罪に問われてもおかしくないのだが、国は許した。
聖女と褒め称えてつけあがらせている国が、だ。
すべては腐敗したこの国が悪い。正しい評価もわからない国だ。
だから僕はリデアを選んだ。
彼女に手を貸してあらゆる情報統制、懐柔、何でもやった。
僕達と同じく聖女信仰に反感を持っている者は少なくなかったようだ。
おかげで誰にもばれずに封印魔術の下準備を行えた。
「苦労して超魔水を手に入れた甲斐があったよ。今でもあの時のソアリスの顔を思い出す」
「ウフフフ、わたくしもですわ。それに苦労したのは冥球だって」
「夜分、失礼します! 魔物の襲撃です!」
寝室のドアが激しく叩かれる。
魔物の襲撃だと? この王都に? まさかリデアが言ってた炎の魔人か?
「そんなもの騎士団だけで対処しろ! 僕は眠いのだ!」
「すでにアドルフ王が前線に立たれて指揮をとられております! デイビット様にもご参戦いただかなければ持ちません!」
「兄上が? チッ、出たがりめ……。敵は炎の魔人か?!」
「いえ! ただし数が多いので王都への侵入を許しかねません! どうかご参戦を!」
リデアは先の討伐のせいで消耗している。
そもそも兄上、アドルフが出るならば問題ないはずだ。
武力も魔力も僕より桁外れの実力がある。
たった一人で魔物の巣の魔物どもを片付けるほどだ。
「具合いが悪い! お前達だけで何とかしろ!」
「そんな!」
「命令だ!」
「くっ……!」
行ったか。下っ端風情が何を偉そうに。
大体、なぜ僕が戦わねばいかんのだ。
それもこれも騎士団が不甲斐ないからだろう。
年寄りのくせにいつまでも騎士団長の座にしがみつくジジイにリデアの足元にも及ばない宮廷魔術師団。
こんな頼りない者達のせいで、我が国は追いつめられているのだ。
「フン、アドルフ兄さんが戦っているって? 国王が体を張るのは当然だろう」
「デイビット様はお疲れですの。無駄な戦いをする必要なんかありませんわ」
「その通りさ。君だって先の討伐戦で頑張った。ここからはアドルフ兄さん達がやればいい」
「守られてるくせに文句ばかり言う連中ですもの。愚民どもはいい気味ですわ」
自分達の不始末を棚に上げて王国軍の怠慢だの弱体化だの、言いたい放題の連中だ。
僕の耳に入り次第、そいつは粛清したが切りがない。
文句を言う前に魔物の一匹でも殺してこいという話だ。
「さぁ、リデア。もう一回だ」
「きゃっ……デイビット様ったら」
リデアを抱き寄せて、再び奮起した。
僕をわかってくれるのは彼女だけだ。僕も彼女を理解している。
恵まれた能力がありながら、正当な評価がされない。
これほど不条理な事があるか。
「デイビット様ぁ……」
「大丈夫だ。最後に笑うのは僕達さ」
どいつもこいつもせいぜい泥臭く戦えばいい。
いつだって笑うのはこの僕だ。
「面白そう」「続きが気になる」と思っていただけたなら
ブックマーク登録及び下にある☆☆☆☆☆のクリック、もしくはタップをお願いします!
モチベーションになります!





