聖女、聖騎士団に我慢ならず
ルッセルンという街路樹が並ぶ閑静な住宅街に似つかわしくない人達が一斉に私を見る。
トリニティハート、騎士団、警備隊。なんか倒れている大きな毛むくじゃらの魔物。
そこら辺に倒れているのは隣国の兵士かな。大体、状況はわかった。
あんなものに侵入されたのに、街への被害がほとんどないところからしていい仕事をしてくれたと思う。
特にトリニティハートは本当に強くなった。以前の三人なら、あの毛むくじゃらの怪物は厳しかったんじゃないかな。
今は死んでるけど、魔力の残滓で何となくわかる。あれはタウロスより強い。
「ソア! 来てくれたのか!」
「えぇ、聖騎士団が現れそうなポイントを絞っていました。どうやら正解のようですね」
「そ、そうだ。あのアルンスの奴が……」
とてつもない形相で睨むのは、デュークさんが指したアルンスだ。
その他、聖騎士団の方々と共に招かれざる客なのは言うまでもない。
「治癒師ソア……こんなところにまで現れたか」
「こっちのセリフですよ、アルンスさん。あなた達のルッセルンへの立ち入りは許可されてません」
「そういう貴様は何なのだ? 国王にどんな権限を与えられている?」
「あなた達に話す必要はありません。少なくとも、この場においてはあなた達よりも信用されていると思います」
会話しながら、私は状況把握に務めた。
あの毛むくじゃらは隣国の元人間だ。たぶん魔力の残滓からして、魔術師団の団長クラスだと思う。
団長となると、リデアクラスの実力者もちらほらいたはず。改めてトリニティハートや皆の成長を実感した。
「治癒師ソア……得体の知れない奴め。それほどの魔力を持ちながら、何を企んでいる。この国の支配か?」
「人の話を聞いてなかったんですか? あなた達は裁かれるべき立場です」
「違うな! 裁かれるべきは王族だ! それでも聖女ソアリス様は慈愛の精神をもってこんな国を守っていた! 貴様のような下賤な女と違ってな! 我々はあの方を誰よりも理解している!」
「相変わらずあなたは思い込みが強い……。虫唾が走りますね」
ふわりと漏らした魔力は敵味方に影響を与えた。
屈強な騎士団が逃げ腰になり、トリニティハートの三人の表情が強張る。
だけどアルンスだけはさすがだ。歯を食いしばって、私の前から動かない。
「こ、この、化け物め……! だが退かんぞ!」
「聖女ソアリスはあなた達の免罪符ではありません」
「め、免罪符だと……」
「聖騎士団、今まで見逃していましたがもう容赦しません。街への不法侵入を犯したあなた達は討伐対象です」
「ほざけッ!」
アルンスが消える。建物の壁、石畳、街路樹。縦横無尽に蹴って高速移動を始めちゃった。
「は、速すぎる! ソア、どうするんだよ!」
「デュークさん、確かに彼は今のあなた達より強いです。だからといって追いつけない相手ではありません」
「そう、なのか?」
「あの人は速すぎたのです。思考も行動も先走れば時として災いを招きます。皆さんは正しい心を持って、ゆっくりと歩みを進めていますよ」
騎士団一の速度を誇るアルンスは確かに強い。
だけどこの人がこれ以上、成長するのは難しいと思う。
思考が凝り固まれば、成長も止まる。今も少ない魔力をだだ漏らしで、派手に動き回っているだけだ。
怒りでそんな事すらも忘れているんだから。
「今から私はあなた達に教えた範囲であの人を倒します。そう、魔力感知です」
「でも速すぎる……」
「では応用編としましょうか。人も魔物も魔力には個性があります。特に今のアルンスさんなんか、怒り狂ってわかりやすいです」
「それを感知したところで防御できるのか?」
「神経を研ぎ澄ませましょう。自分の狭いテリトリーを決めて、その範囲にあるものの魔力を感知するんです」
説明を終えると同時にアルンスが私に突撃してきた。外した途端、また跳ねて消える。
「か、かわしたのか?」
「しかも最小限の動作です。私が決めたテリトリーにアルンスさんの毛先でも侵入すればわかります」
「毛先?!」
「あとはタイミングですよ」
次に上からの攻撃だ。あの人の最高威力のスキルが来る。
「イーグルストラァァイクッ!」
「ソアッパー!」
剣先をかわした上でのアッパーがアルンスの顔面にめり込む。
アルンスが上空に返されて、弧を描くようにして飛んでいった。
「ぶふっ……」
「あー、街路樹に引っかかっちゃいましたね。かわいそうに、後で治してあげましょう」
もちろん街路樹をね。それと散々蹴ったせいで建物にも被害が出てる。費用はきっちり聖騎士団に支払ってもらいたい。
だけど太い枝からぶら下がったアルンスが完全に意識を失っていた。長い鼻が折れて歯も砕けて、散々な顔になってる。
「と、こんな風に迎撃する事も可能です」
「……できねぇよ」
かろうじてコメントしてくれたのはデュークさんだけだ。
味方の騎士団も警備隊も、アルンスの部下の騎士達も。だらしなく気絶してるアルンスを眺めるだけだった。まずい、フォローしないと。
「あ、ソアッパーが当たったのは偶然ですよ」
「ソアよ、魔力強化の分を忘れていないか?」
「ゲッ……確かに。動体視力も強化されるからねぇ」
「どこが基本だ、まったく……。それにしてもあの男、なぜ戦う前に実力差がわからんのだ」
マオのナイスフォローのせいで台無しだ。
その時、アルンスの重さに耐えかねて枝が折れた。
「あー、落ちた! 見てないで早く回収して下さい!」
「死んでないよな……?」
「ギリギリ生きてます!」
「ギリかよ」
いや殺すつもりはないからね。あんなのでも、ひとまず捕らえよう。ごめんね、街路樹。
ふと見ると聖騎士団の騎士達が武器を捨てていた。
新技ソアッパー
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