トリニティハート、屈しない
鷲騎士アルンス。聖騎士団でもトップクラスの実力者で、魔術師を含めても国内最速を誇る。
オレが知ってるのはその程度の情報だけど、こうして会ってみると想像以上に高圧的だ。
やや長く伸びた鼻に細く鋭い目と、顔の造形が全体的に鷲に見える。
「危ないところだったな。我ら聖騎士団が駆けつけたからには安心していただきたい」
「あなたは……?」
「これは申し遅れました。私は聖騎士団のアルンスです」
「あなたがあの……」
国境警備隊でもある警備隊の隊長がアルンスを訝しむ。
オレ達と同じで歓迎しているわけでもなさそうだ。それもそのはず、聖騎士団の概要と噂はよく知っている。
国を捨てた元正規軍という情報だけでも、いい印象はない。
「今回の隣国による侵略をいち早く感知した我々はこうして国境付近の警備に当たっておりました」
「それはご苦労ですな……」
「見る限り、このルッセルンにも援軍が派遣されたようですね。しかしこの辺りは意外と急所です。湿地帯など、隣国の魔術師団なら容易に越えます」
「となると、我々だけでは不足だと仰るのですか?」
「そう悲観なさらず。彼らを甘く見てはいけないと言ってるのです」
要するにこいつらは非正規軍のくせに国防の真似事をしたいわけだ。
ソアが言っていたように、ここでオレ達以上に活躍すれば聖騎士団の名が国内に轟く。
そうなると必然的に批判の矛先が王国軍に向けられる。この鷲野郎、今回はいらない助けで恩を売るつもりだ。
「しかし、仮にも非正規軍のあなた方と行動を共にするわけにはいきません。援護には感謝しますが、ここはどうかお引き取り下さい」
「そのような事を言ってる場合ではありません。国の危機なのですよ。先程も言いましたが、隣国の魔術師団は全盛期の我が国の宮廷魔術師団と張り合います」
「それは認識しておりますが、問題とは別です。それに今回は頼もしい方々がいます」
「あちらの騎士団と若者ですか」
鷲野郎の鋭い目がオレ達を捕らえる。刹那、身が引き締まった。
さっきの毛むくじゃらの化け物相手でも感じた事がなかったこの感覚。
あいつにとって、オレ達は獲物同然だ。つまり、オレ達よりも強い。
「素晴らしい才を持つようですが、彼らではまだ未熟です。あなたも街を守るべき者の立場として、お考え下さい。何を選択すべきか、おわかりになるはずだ」
「お言葉ですが国王の命により、あなた達の街への立ち入りは許されておりません。今回は仕方ありませんが、お引き取り下さい」
「わかりました。ところでこちらに来る前、敵兵を何名か捕まえましてね」
「敵兵を?」
「情報源として活用できればと考えたのですが、無用でしたらこちらで処分します」
アルンスが言い終えると同時に、聖騎士団の騎士達が拘束した敵兵を連れてきた。
力ない歩き方で、フラフラしている。
「どうでしょう? あちらの捕虜をお渡しする代わりに我々との共闘を認めていただくというのは?」
「断れば、あちらの捕虜はどうしますか」
「もちろん侵略者ですからね。処分します」
「正規軍でもないあなた方が?」
「襲ってきたのです。殺しても問題はないでしょう」
アルンスがわざとらしく剣を捕虜に向ける。怯えたその表情でわかった。
あいつらはまだ正気だ。それをわかっていて、アルンスはオレ達を揺さぶってきやがる。
まともな人間なら、オレ達が助けない理由がないからだ。
「交渉決裂のようですね。それでは仕方ありません」
アルンスが捕虜の首に剣を当てようとしている。
「や、やめてくれ! 殺さないでくれぇ!」
駆け出していた。アルンスの剣を弾いていた。
「……おや、これはどういうつもりかな?」
「お前ら、いい加減にしろよ。それでも騎士か」
「守るべきものを守る。それが騎士だ。ところで、あの距離から私の剣を弾くとはな」
全身が貫かれた。剣を手放して倒れ――
「ハァ、ハァ……!」
「いい才だ。アルベール以外にも、これほどの若者がいたとはな。まだまだこの国も捨てたものではないという事か」
オレの体は何ともなってない。
アルンスに貫かれるイメージ、あれはあいつの殺気だ。
やろうと思えば、殺れていた。何も見えずにオレは死んでいた。
「そちらの二人とのパーティプレイが君達の本領のようだが、やめておけ」
「サリア、ハリベル……」
傍らに二人が立っていた。だけどオレと同じように、すでにイメージさせられていたみたいだ。
顔面蒼白で、戦意がほぼ失われかけている。
元王国騎士の精鋭とはいっても、ここまでの実力差があるってのか!
魔力感知もクソもない! 速すぎてそんな次元じゃねぇ!
「一瞬で理解したようで何より。君達が強者である証拠だ、誇っていい」
「こいつ……!」
仮にも一級として名を馳せた実績があるってのに、これじゃ何の恰好もつかねぇ。
これだけの力があるくせに、なんだって王国を裏切ったんだ!
「それにしても君達は甘いな。我が国を脅かす敵を助けるなど……」
「敵兵でも殺す必要がなけりゃそれでいいだろ!」
「くどいようだが、それが騎士だ。こいつが我々の寝首をかこうと狙っていない保証など、どこにある? それで味方の命が失われたら君に責任が取れるのか?」
「そ、それは」
「怖いのだな」
唐突にハリベルが口を開いた。オレより前に出て、アルンスに挑戦でもするかのようだ。
「敵が怖いから殺す。いつ襲ってくるかわからない。正規軍のように捕虜として生かす力もないから、そうするしかないのだろう」
「貴様、我々を侮辱する気か」
「侮辱されて怒るだけの誇りがあるのか。オレは自分の目で見たものしか信じないがたった今、ハッキリとわかった。聖騎士団とは名ばかりの蛮族とな」
「我々を蛮族呼ばわりだと……!」
クチバシみたいな鼻をひくつかせて、アルンスは怒りを露わにした。
ハリベルがここまで相手を挑発するところを見るのは初めてだ。
「そうだ。言葉だけはかろうじて綺麗だが、思い通りにいかないとすぐに本性を表す。デューク、こんな連中など相手にする価値はない」
「だ、だけどあの敵兵は……」
「殺したところで奴ら自身の品位を下げるだけだ。もちろん、蛮行は俺達がしっかりと触れ回ってやろうじゃないか」
「そ、そうだな……」
オレが頭に血が上っている間にハリベルはしっかりと考えて発言した。
あの鷲野郎に言葉だけでも一矢報いたんだ。ありがとな、ハリベル。
「この下賤なゴミクズどもが……! 貴様らのような何の大志もない連中が、あのお方を追いつめたのだ! 蛮行などと、よく言えたものだな!」
「ア、アルンス殿! ここはどうか落ち着いて下さい!」
「我々の大義への冒涜はあのお方への冒涜に他ならん! 聖騎士団の名において、貴様らをここで粛清するッ! 聖女ソアリス様の名の下に!」
「正気ですか!」
「よいしょっと……」
空間が割れて、こじ開けるようにしてそいつは出てきた。呑気に大きく息を吸って、自然の空気を満喫している。
「この空間魔術は素晴らしいな。こんなものを習得するとは……」
「便利でしょう?」
膝の力が抜けそうになる。闇に差し込んだ光みたいな安心感がそいつにはあった。それであの子どもは?
治癒師ソア登場
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